【記者の目】128位でプレーオフを逃した“神の子”ガルシア。キャロウェイ移籍は正解だったのか?
【記者の目】128位でプレーオフを逃した“神の子”ガルシア。キャロウェイ移籍は正解だったのか?
配信日時:2018年8月22日 09時33分
昨季涙の初メジャー制覇を成し遂げた「マスターズ」覇者、“神の子”の古い愛称を持つセルヒオ・ガルシアがプレーオフシリーズに進めなかった。フェデックスカップポイントランク125位までが駒を進められたが、まさかの128位…。
去年のマスターズ制覇後、夏にはアンジェラ夫人と結婚。今年3月には待望の第一子・アザレアちゃんが生まれるなど、幸せを絵に描いたような一年を過ごしたはず。いったい、実力者のガルシアに何があったのか? マスターズ制覇で燃え尽きたのか? スタッツや使用ギアからその要因を振り返ってみたいと思う。
■まずはガルシアの“原点”を整理する■
キャリア当初はタイトリスト契約だった。1999年の「マスターズ」ローアマを獲って5月にプロ転向、PGAツアーに数多く出場しだしたガルシア。当時は同じタイトリスト契約のタイガー・ウッズの全盛期。ガルシアも当然『975D』を愛用していたし、『DG』の入った重く、短く操作性のいいシビアなクラブで球筋を操るのがその時代の“当たり前”だった。そんなクラシカルなクラブがガルシアの原点にある。
転機は2002年の10月。9月のライダーカップを終え、シーズン終了間際にテーラーメイドに移籍したガルシアが選んだドライバーは、R500シリーズでは最大の『R580』(400cc)だった。260ccだった『975D』からすれば、いきなりの大型化。だが、ガルシアはスチールシャフトを短く入れたままこのドライバーを使う。当初は「シャフトが同じなら問題ない」と思ったのかもしれない。
しかし、明けた2003年は苦しみが待っていた。『975D』でPGAツアーで3勝、欧州ツアーで4勝と、1999年からわずか3年で順調に勝利を積み重ねていたものの、2003年は両ツアーで未勝利に終わる。それだけではなく、PGAツアーでは大きな挫折とも呼べる、8回もの予選落ちを喫してしまった。
2003年のはじめは、330ccの『R510』にスチールシャフトを装着して使っていたが、夏にはキャリア初のカーボンシャフトへと移行した。そして、タイトリスト時代よりも10ヤード飛距離を伸ばしたにもかかわらず、成績自体は噛み合わない“移行期間”となったのが2003年だった。
■15年慣れ親しんだテーラーからキャロウェイへ■
そして、その【2003年に極めて近い出来事が再び2018年に起きた】のだと、筆者は勝手な解釈をしている。
15年もの長きに渡り慣れ親しんだテーラーメイドから、今年1月にキャロウェイに移籍したガルシア。操作性のいいクラシカルなクラブ育ちで、クラブに敏感なフィーリング派のプレーヤーにとって、契約メーカーが変わると慣れるのは大変。これは当然のことだと思う。
「自分との契約を選んでくれたキャロウェイに報いたい」、ガルシアはそう思っていたに違いない。1月からガラリと14本をキャロウェイ製に替えていきなり「SMBCシンガポールオープン」で勝った。ただし、それはPGAツアーの舞台ではない。
今季はPGAツアーで2003年以来、実に8回もの予選落ちを喫した。(8回はワーストタイで、昨季は2試合だけ)しかし、苦戦が続くものの、最後まで一度も古巣のクラブに戻ることはなかった。ガルシア、苦しかっただろうに、本当に男気のあるプロだと思う。
ガルシアと同タイミングでテーラーメイドからキャロウェイに移籍したザンダー・シャウフェレは、今季も慣れ親しんだ古巣のクラブを手放せなかったことや、他社の1Wを堂々と使うプロと比べれば、ガルシアのプロ根性と契約メーカー想いの姿勢は素晴らしい。ただし、マスターズ制覇で5年シードを持つガルシアとシャウフェレでは、置かれた立場が違うのも事実だが…。
■基本スタッツに変化はないが、1Wシャフトが…■
本当にキャロウェイへのアジャストに苦しんだのか? PGAツアーの基本スタッツを昨季と比べたが、意外なことにさしたる違いは確認できなかった。平均飛距離、FWキープ率、パーオン率、サンドセーブ率、平均バーディ率などのデータに昨季との違いは見当たらない。
ただし、今季のガルシアは既報のように途中ドライバーのスピン量が3300rpmを越えるなど、筆者の目には特にドライバーに悩んでいるように見えた。シーズン当初は昨季と変わらず三菱ケミカル『クロカゲXD』を使用していたが、ヘッドを替えてスピン量が増えたためか、5月の「プレーヤーズ選手権」から『テンセイCK Proオレンジ』へと移行。
マキロイやタイガーには合っていた?同シャフトだが、ガルシアのスピン量は減ったものの、振り心地はフィットしなかったのか。同シャフトに替えてから実に5試合連続、一度も予選通過はなかった…。そこで、8月の「ブリヂストン招待」で元の『クロカゲXD』に戻してやっと予選を通過。
しかし、再び「全米プロ」で予選落ちを喫し、シーズン最終戦の「ウィンダム選手権」では『テンセイCK Pro ブルー』に…。5月から8月までの間に実に3度もドライバーのシャフトを替えるなど、これまでには見られなかったシーンだ。ただし、その状況下でも平均飛距離もFWキープ率も落ちてはいない。
そう、テーラー『M2』からキャロウェイ『ローグサブゼロ』になって振り心地は変わったとしても、結果は変わっていないのだ。言い換えれば、何度もシャフトを交換するほど気持ちが悪いのに、昨季と飛距離も方向性も変わらなかった。つまり、気持ちいいスペックさえ見つかれば、データは昨季よりもっと引き上がったはずだとも言える。
■1Wが原因じゃないなら、2打目以降は?■
では、なぜ平均スコアを昨季の「69.596」から「70.64」と、1ストローク近くも落とすことになったのだろう。一番影響が大きそうなパッティングアベレージを見ると、確かに昨季の「29.37」から「29.67」へ【0.3ストローク悪化】していた。ただし、1ストロークの内訳にはまだ足りない。その他のスタッツの関連性も細かく見てみる。
【セカンドショット以降が悪くなっていないか?】まず、そう疑うのが当然だが、画像を見ていただきたい。イエローで色付けしたのが昨季と変化がなく、オレンジが昨季より良くなった部分。ブルーが悪化した部分だが、明らかにブルーは少なく、オレンジが多い。そう、2打目以降の中身は引き上がり、昨季よりも明らかに【ラフからピンに寄る精度が高まっている】のだ。
特に、【ウェッジで打つ距離は軒並みピンに寄る精度が高まっており】、キャロウェイ『MD4ウェッジ』は、ガルシアに恩恵しかもたらしていないことが分かる。アイアンの『APEX MB』もウェッジほどではないものの、同様にガルシアに合っていると言っていい。
■ガルシア不振の原因は、データではっきり!■
パーオン率自体は変わらない。そして、キャロウェイのアイアンやウェッジが合っていて、昨季よりピンに寄る円を縮めているのに、なぜスコアが悪くなるのか? 答えは当たり前だが、パッティングしかない。平均パット数に現れない“内訳”に真実があるとしか思えない。
そこで、FWから2打目を打った後に【よく残るパッティングの距離】に注目してみると、50〜125ヤードでは平均で17.3フィート(約6m)、125〜150ヤードは平均23.1フィート(約8m)だった。そこで、15〜20フィート(約5.2〜7m)を入れる精度を昨季と比べると、このデータが23.53%から15.25%へと落ち込んでいた。
2打目でよく残る距離、しかもバーディを獲りたいシーンで8.3%も入る確率が下がれば、影響はいかほどだろうか。しかも、10〜15フィート(約3.5〜5.2メートル)を入れる精度も昨季より4.5%も落ちている。
また、際どいパーセービングパットやベタピンのバーディパットが残りそうな距離も見てみる。すると、5フィート(1.74m)が5.6%ダウン、6フィート(2.08m)が9.5%ダウン、7フィート(2.44m)は13%も入る確率が下がっていた。
■ガルシアの来季は明るいはず!■
話を元に戻すと、タイトリストからテーラーメイドに移籍した2003年は未勝利に終わる移行期間だった。そして、テーラーメイドのクラブに慣れた2004年、ガルシアはPGAツアーで2勝、欧州ツアーでも1勝している。
ドライバーも完全にアジャストできるシャフトが見つかれば、さらなる飛距離と精度が上がることは目に見えている。そして、アイアンやウェッジは既に手に馴染んで武器になっており、課題がパッティングにあることは明白。やることはシンプルだ。
プレーオフシリーズに進めなかった“屈辱”をバネに、必ず神の子が来季復活すると思う。
Text/Mikiro Nagaoka
去年のマスターズ制覇後、夏にはアンジェラ夫人と結婚。今年3月には待望の第一子・アザレアちゃんが生まれるなど、幸せを絵に描いたような一年を過ごしたはず。いったい、実力者のガルシアに何があったのか? マスターズ制覇で燃え尽きたのか? スタッツや使用ギアからその要因を振り返ってみたいと思う。
■まずはガルシアの“原点”を整理する■
キャリア当初はタイトリスト契約だった。1999年の「マスターズ」ローアマを獲って5月にプロ転向、PGAツアーに数多く出場しだしたガルシア。当時は同じタイトリスト契約のタイガー・ウッズの全盛期。ガルシアも当然『975D』を愛用していたし、『DG』の入った重く、短く操作性のいいシビアなクラブで球筋を操るのがその時代の“当たり前”だった。そんなクラシカルなクラブがガルシアの原点にある。
転機は2002年の10月。9月のライダーカップを終え、シーズン終了間際にテーラーメイドに移籍したガルシアが選んだドライバーは、R500シリーズでは最大の『R580』(400cc)だった。260ccだった『975D』からすれば、いきなりの大型化。だが、ガルシアはスチールシャフトを短く入れたままこのドライバーを使う。当初は「シャフトが同じなら問題ない」と思ったのかもしれない。
しかし、明けた2003年は苦しみが待っていた。『975D』でPGAツアーで3勝、欧州ツアーで4勝と、1999年からわずか3年で順調に勝利を積み重ねていたものの、2003年は両ツアーで未勝利に終わる。それだけではなく、PGAツアーでは大きな挫折とも呼べる、8回もの予選落ちを喫してしまった。
2003年のはじめは、330ccの『R510』にスチールシャフトを装着して使っていたが、夏にはキャリア初のカーボンシャフトへと移行した。そして、タイトリスト時代よりも10ヤード飛距離を伸ばしたにもかかわらず、成績自体は噛み合わない“移行期間”となったのが2003年だった。
■15年慣れ親しんだテーラーからキャロウェイへ■
そして、その【2003年に極めて近い出来事が再び2018年に起きた】のだと、筆者は勝手な解釈をしている。
15年もの長きに渡り慣れ親しんだテーラーメイドから、今年1月にキャロウェイに移籍したガルシア。操作性のいいクラシカルなクラブ育ちで、クラブに敏感なフィーリング派のプレーヤーにとって、契約メーカーが変わると慣れるのは大変。これは当然のことだと思う。
「自分との契約を選んでくれたキャロウェイに報いたい」、ガルシアはそう思っていたに違いない。1月からガラリと14本をキャロウェイ製に替えていきなり「SMBCシンガポールオープン」で勝った。ただし、それはPGAツアーの舞台ではない。
今季はPGAツアーで2003年以来、実に8回もの予選落ちを喫した。(8回はワーストタイで、昨季は2試合だけ)しかし、苦戦が続くものの、最後まで一度も古巣のクラブに戻ることはなかった。ガルシア、苦しかっただろうに、本当に男気のあるプロだと思う。
ガルシアと同タイミングでテーラーメイドからキャロウェイに移籍したザンダー・シャウフェレは、今季も慣れ親しんだ古巣のクラブを手放せなかったことや、他社の1Wを堂々と使うプロと比べれば、ガルシアのプロ根性と契約メーカー想いの姿勢は素晴らしい。ただし、マスターズ制覇で5年シードを持つガルシアとシャウフェレでは、置かれた立場が違うのも事実だが…。
■基本スタッツに変化はないが、1Wシャフトが…■
本当にキャロウェイへのアジャストに苦しんだのか? PGAツアーの基本スタッツを昨季と比べたが、意外なことにさしたる違いは確認できなかった。平均飛距離、FWキープ率、パーオン率、サンドセーブ率、平均バーディ率などのデータに昨季との違いは見当たらない。
ただし、今季のガルシアは既報のように途中ドライバーのスピン量が3300rpmを越えるなど、筆者の目には特にドライバーに悩んでいるように見えた。シーズン当初は昨季と変わらず三菱ケミカル『クロカゲXD』を使用していたが、ヘッドを替えてスピン量が増えたためか、5月の「プレーヤーズ選手権」から『テンセイCK Proオレンジ』へと移行。
マキロイやタイガーには合っていた?同シャフトだが、ガルシアのスピン量は減ったものの、振り心地はフィットしなかったのか。同シャフトに替えてから実に5試合連続、一度も予選通過はなかった…。そこで、8月の「ブリヂストン招待」で元の『クロカゲXD』に戻してやっと予選を通過。
しかし、再び「全米プロ」で予選落ちを喫し、シーズン最終戦の「ウィンダム選手権」では『テンセイCK Pro ブルー』に…。5月から8月までの間に実に3度もドライバーのシャフトを替えるなど、これまでには見られなかったシーンだ。ただし、その状況下でも平均飛距離もFWキープ率も落ちてはいない。
そう、テーラー『M2』からキャロウェイ『ローグサブゼロ』になって振り心地は変わったとしても、結果は変わっていないのだ。言い換えれば、何度もシャフトを交換するほど気持ちが悪いのに、昨季と飛距離も方向性も変わらなかった。つまり、気持ちいいスペックさえ見つかれば、データは昨季よりもっと引き上がったはずだとも言える。
■1Wが原因じゃないなら、2打目以降は?■
では、なぜ平均スコアを昨季の「69.596」から「70.64」と、1ストローク近くも落とすことになったのだろう。一番影響が大きそうなパッティングアベレージを見ると、確かに昨季の「29.37」から「29.67」へ【0.3ストローク悪化】していた。ただし、1ストロークの内訳にはまだ足りない。その他のスタッツの関連性も細かく見てみる。
【セカンドショット以降が悪くなっていないか?】まず、そう疑うのが当然だが、画像を見ていただきたい。イエローで色付けしたのが昨季と変化がなく、オレンジが昨季より良くなった部分。ブルーが悪化した部分だが、明らかにブルーは少なく、オレンジが多い。そう、2打目以降の中身は引き上がり、昨季よりも明らかに【ラフからピンに寄る精度が高まっている】のだ。
特に、【ウェッジで打つ距離は軒並みピンに寄る精度が高まっており】、キャロウェイ『MD4ウェッジ』は、ガルシアに恩恵しかもたらしていないことが分かる。アイアンの『APEX MB』もウェッジほどではないものの、同様にガルシアに合っていると言っていい。
■ガルシア不振の原因は、データではっきり!■
パーオン率自体は変わらない。そして、キャロウェイのアイアンやウェッジが合っていて、昨季よりピンに寄る円を縮めているのに、なぜスコアが悪くなるのか? 答えは当たり前だが、パッティングしかない。平均パット数に現れない“内訳”に真実があるとしか思えない。
そこで、FWから2打目を打った後に【よく残るパッティングの距離】に注目してみると、50〜125ヤードでは平均で17.3フィート(約6m)、125〜150ヤードは平均23.1フィート(約8m)だった。そこで、15〜20フィート(約5.2〜7m)を入れる精度を昨季と比べると、このデータが23.53%から15.25%へと落ち込んでいた。
2打目でよく残る距離、しかもバーディを獲りたいシーンで8.3%も入る確率が下がれば、影響はいかほどだろうか。しかも、10〜15フィート(約3.5〜5.2メートル)を入れる精度も昨季より4.5%も落ちている。
また、際どいパーセービングパットやベタピンのバーディパットが残りそうな距離も見てみる。すると、5フィート(1.74m)が5.6%ダウン、6フィート(2.08m)が9.5%ダウン、7フィート(2.44m)は13%も入る確率が下がっていた。
■ガルシアの来季は明るいはず!■
話を元に戻すと、タイトリストからテーラーメイドに移籍した2003年は未勝利に終わる移行期間だった。そして、テーラーメイドのクラブに慣れた2004年、ガルシアはPGAツアーで2勝、欧州ツアーでも1勝している。
ドライバーも完全にアジャストできるシャフトが見つかれば、さらなる飛距離と精度が上がることは目に見えている。そして、アイアンやウェッジは既に手に馴染んで武器になっており、課題がパッティングにあることは明白。やることはシンプルだ。
プレーオフシリーズに進めなかった“屈辱”をバネに、必ず神の子が来季復活すると思う。
Text/Mikiro Nagaoka