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    スポンサー企業と選手との密接な関係 〜BPカストロールの小石孝之会長に聞く

    レギュラーツアーへの出場資格を持たない選手や新人選手らに、試合経験の場をつくることなどを目的に1991年に設立された「ステップ・アップ・ツアー」。年々そのツアーの価値は高まりを見せている。(取材/構成・間宮輝憲)

    配信日時:2022年10月3日 10時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    カストロールレディースを協賛するBPカストロール社の小石孝之会長に話を聞いた
    カストロールレディースを協賛するBPカストロール社の小石孝之会長に話を聞いた
    • 小石会長が契約選手への思いを語った
    • キャディとして今年は吉田弓美子のバッグを担ぐ
    • 山村彩恵に送ったアドバイスとは…
    • 毎年1番ティにはスタートコールをする小石会長の姿がある
    • ホステスプロたちの楽しそうな姿も印象的な大会だ
    • 今年の優勝者・平井亜実と。来季はレギュラーで活躍することを小石会長は願っている
    この記事の写真 8 枚を見る

    “登竜門”ではない…“飛躍の舞台”へ―

    今年7月末に13回目となる大会を終えたステップ・アップ・ツアーの「カストロールレディース」は、同ツアーが現在のような盛り上がりを見せる前の2010年から『選手が戦う場所』を提供し続けている。その大会で常に先頭に立ち、旗振り役を続けるのがBPカストロールの小石孝之会長だ。

    同社は吉田弓美子、金田久美子ら多くの女子プロゴルファーとスポンサー契約を結ぶ。今年は2020年度プロテストトップ合格を果たした佐久間朱莉や、29歳の森井あやめが加入。“カストロール・ファミリー”がツアーで活躍を続けている。

    話を聞くと、企業とホステスプロの関係性は実にユニーク。そして一つの企業のトップに長年立っている人物の言葉には、選手との接し方という部分はもちろん、それを飛び越え部下との向き合い方などビジネスのヒントにもなりそうな大きなヒントも隠されていた。

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    スポンサー企業と選手の“ユニーク”な関係性

    小石会長が契約選手への思いを語った

    小石会長が契約選手への思いを語った

    小石会長の選手との向き合い方が“ユニーク”と言ったが、それは何も『突拍子もないことをしている』という意味ではない。今の時代ではすっかり珍しくなったような気もする“本気でぶつかり合う”という表現が的確なのかもしれない。

    例えば10月7日に開幕するレギュラーツアーの「スタンレーレディスホンダゴルフトーナメント」では、プレーする吉田の隣にも注目してもらいたい。その時にキャディとしてバッグを担いでいるのが、小石会長だ。上場企業のトップが、キャディとしてコースを歩く、というのがそもそも珍しい話。その理由を聞くと「彼女たちからすれば、僕が担げば経費が浮くでしょ(笑)」という冗談を交えつつ、真意を明かしてくれた。

    「キャディは選手サポートの一環にもなるし、メンタル面のサポートもできる。自分自身もキャディをやって考えることがありますしね。自分でプレーする時は、そんなことは一切ないんだけど、プロのトーナメントでは、キャディだからこその戦略も浮かんでくる。一打が後々響いてくるのがプロ。それが勉強になることもある」

    キャディとして意識するポイントは?

    キャディとして今年は吉田弓美子のバッグを担ぐ

    キャディとして今年は吉田弓美子のバッグを担ぐ

    これまでもプロトーナメントで、小石会長がキャディを務めたのは1度や2度ではない。その時ばかりはスポンサー企業の社長と選手という枠を飛び越え、相棒になる。ここですごいのは、プロゴルファーがいかに関係が深いとはいえ、言ってしまえば“アマチュアゴルファー”の意見に素直に耳を貸すこと。もちろん小石会長自身が、大のゴルフ好きという説得力はあるが、そのアドバイスは「性格も考慮しながら」とはいえマネジメント面にも及ぶ。

    「吉田の場合は、ツアー7勝の実力者。(これまで担いだ)井上(りこ)、城間(絵梨)とは力も違うし、コースで話す内容も変わるでしょうね。アドバイスはそんなにいらない。歩いてリラックスさせる話さえしてれば(笑)。井上、城間の場合、『18ホールすべてでバーディを獲りたい』という考え方だから、なだめながら(笑)」

    以前、小石会長は「プロになった選手だから、そこまで大きな実力差があるとは思っていない。その違いはマネジメントだと思っている」と話してくれたことがあった。スコアメイクの肝になる部分についてもコースで助言を送る。それをプロが受け入れる理由は、日頃からの密なコミュニケーションがベースにある。

    あえて“厳しい言葉”も

    山村彩恵に送ったアドバイスとは…

    山村彩恵に送ったアドバイスとは…

    大会では、小石会長が目尻を下げながら契約プロたちと談笑する姿が印象的。ただ時には厳しい言葉も選手たちに送る。例えば、ここ数年ショット不振に苦しんできた山村彩恵とは、昨年末こんな話をしたという。

    「山村は今季のQTランクが291位。今年から地元の福岡県に練習拠点を移し、本人からの『“試合”という考えから少し離れてみたい』という意見は賛成しました。その時に、『来年は(QTランクで)下に数人しかいない。自分が“へたくそ”という意識を持て』と言いました。レギュラーツアーに出場していた頃のことは関係ない。現状を見て、試合に出たいとか、推薦をもらってどうこうとか、そういう考えを一度外してみてはどうだって」

    日頃の信頼関係がなくては決して言えない言葉。小石会長は言いづらい考えでもしっかりと伝え、選手もそれを飲み込む。この時小石会長は山村に、日頃のラウンドなどであえてパーオンをせずに、アプローチでパーを拾う練習法も提案。山村は「最初はグリーンを狙いたくて気持ち悪かったけど、今では“外しても大丈夫”と思えるようになりました」と、その練習に愚直に取り組み、成長を実感している。

    今年、山村は下部のステップ・アップ・ツアーで3試合に出場するのみ(22年10月3日現在)だが、そのすべてで予選を通過している。ホステスプロとして臨んだカストロールレディースでも、“自身初”となる決勝ラウンドに進出。さらに予選会を勝ち抜き、9月に行われた『日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯』の出場権も手にした。「ショットの不安も解消されつつある」と語る時の笑顔は、今後の自分への期待感をうかがわせる。

    恒例のスタートコールは会長からの“訓示”

    毎年1番ティにはスタートコールをする小石会長の姿がある

    毎年1番ティにはスタートコールをする小石会長の姿がある

    大会事務局長を務める同社の檜垣峰男氏は、“小石流人心掌握術”について「すごくマメな性格で、選手とコミュニケーションをとり、試合前後のアドバイスもしてきている」と、明かす。

    小石会長は、大会期間中に1番からコースに出ていく選手へのスタートコールをティの脇に設置されるテントのなかで自ら行い、これが大会の恒例行事の一つにもなっている。特に契約選手の時には、思わずクスッと笑ってしまう“プチ情報”も織り交ぜ、選手の背中を後押しする。

    「自分の会社が行う大会なので、ホステスプロたちは当然、映像に映る機会も多くなる。なんとかいい成績を残せるように、こちらも頑張らないと。普段の様子も見て、それをコールに含める。訓示を与えているんです」

    『怒らない、焦らない、ガッツかないの“3ない”を今年は守ります』、『これまでは攻めることし考えてませんでしたが、今年からは守ってスコアを伸ばします』、『大会期間中はずっと焼肉…焼肉パワーをきょうはスコアに変えます』。そんなコールを聞いた選手たちは、さきほどまでの緊張した表情を思わず緩ませる。この光景も“ファミリー”の親密感をうかがわせるのに十分だ。

    モチベーターとして…選手と社員の扱いに違いは?

    ホステスプロたちの楽しそうな姿も印象的な大会だ

    ホステスプロたちの楽しそうな姿も印象的な大会だ

    繰り返しになるが、小石会長は昨年まで社長を務めあげるなど、長年企業のトップに立つビジネスマンである。当然ながら会社でも士気を高める役割が求められてきたはず。ではモチベーターとして振る舞う時、相手が『プロゴルファー』と『社員』で違いが出てくるものなのか? 聞いてみると「相通ずる部分はあるけど、それは別」という回答が即座に返ってきた。

    「スポンサードしている選手は、個々の目標や夢がある。一方で社員はビジネス上の目的達成を一緒に目指していく存在。モチベーションをあげるという意味では共通する部分はあるけど、やはり意識することは変わってきますね」

    現代は、“お説教”と“パワハラ”の境界線すら難しくなっている時代。ビジネスの場で小石会長が昔から大切にしていることは、「その部下の親だと思ってやってきている」という部分だ。

    「僕が上司の間に、“こいつはダメになるかもしれない”と思った場合、『俺の人生じゃないし、関係ないや』と放っておくことだってできる。でも組織がそれでいいのかというのは、僕は非常に疑問を感じる部分なんです。部下として預かった以上は、一人前に育てないといけない」

    一方、選手に対してはこう考える。「例えば、井上(りこ)には、いつも『怒らない、焦らない、ガッツかない』の“3ない”を意識しなさいと言っている。でも、それができなかったからといって“コノヤロー”とは言わない(笑)。社員ではないですからね」。実にごもっとも、という話だった。

    とはいえ熱を持って相手と接する部分は、共通項といえる。その姿は実にパワフルで、そして情熱的だ。

    「2度と戻ってこないように」…その言葉の意味

    今年の優勝者・平井亜実と。来季はレギュラーで活躍することを小石会長は願っている

    今年の優勝者・平井亜実と。来季はレギュラーで活躍することを小石会長は願っている

    何より“親心”という部分も、相通ずるもののように感じた。小石会長は、毎年のように大会の表彰式で、「もうここには戻ってこないように」という内容の話を選手にする。これはもちろん、翌年のレギュラーツアーでの活躍に期待を込める言葉だ。

    「今のルールは、ステップの大会で優勝すれば(来季の出場優先順位を決める)QTがファイナルからの出場になる。そこで40位くらいに入れば、レギュラーに出られるわけだから、当然目指さないといけない。ステップには若手だけではなく、レギュラーから落ちたベテラン選手も出ている。ステップ・アップというと“登竜門”のようにも聞こえるけど、決してそうではない。飛躍の場であって欲しい」

    またカストロールレディースは、アマチュア選手を出場させないことも特徴の一つ。ここにも「プロが賞金を稼ぐ場所を提供したい」という確固たる意思が込められている。アマチュア選手に割く枠を無くし、1人でも多くのプロに出場してもらいたいという思い。これも親心と言えるのではないだろうか?

    大会冠スポンサーとしての思い

    契約プロの一人の井上りこ 2019年には“ホステス優勝”も果たし小石会長をよろこばせた

    契約プロの一人の井上りこ 2019年には“ホステス優勝”も果たし小石会長をよろこばせた

    「この大会の協賛は我々一社。だからある程度は自由にやりたいことができる。もちろんトーナメントのスポンサーにとっての最大のビジネスメリットはプロアマです。そこでホスピタリティを発揮しないといけない。ただコロナがまん延した時期(2020年)も、私たちは開催時期を11月にずらしたりして、選手に戦う場を提供したいと思ってきた。もし来年も開催するならば、“通常”の状態で試合ができることを願うばかりですね」

    2020年はコロナの影響で11月に、昨年は東京五輪の兼ね合いで9月に大会を開催した。ようやく今年、小石会長がこだわる“灼熱の時期”に戻ることができた。コロナの影響はまだ色濃く、現在も主催社、協賛社への制限が完全に解除されたわけではない。コロナ前よりも運営費だってかかる。それでもずっと変わらない思いを込め、この冠大会を守り続けてきた。

    カストロールレディースは、今ではステップ・アップ・ツアーの老舗大会の一つになっている。そのトップの話を聞く時間は、女子プロゴルフ界への熱い思い、そして選手との強い絆をひしひしと感じるものだった。

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