もちろん資金的な負担も大きい。「飛行機代も高いですし、食べ物も無駄に大きくて高い。もともと現地のものを食べたいと思ってましたけど、どんどんレトルト食品が増えていって。カップラーメンとか、レンジで調理するご飯でおにぎりを作って過ごしています」。キャディのシステムも、国によってまちまちだといい、“経費節減”のためケニアでは同行してもらった母親にカートを押してもらい、エプソンツアーでは「高校生以来」となるセルフプレーも経験した。それに加え「好きだけど、全然得意ではない。意思疎通がなんとかできるレベル。少しは勉強してたんですけど、英語でメールが来たら少し気分が憂鬱になる(笑)」という言葉の壁も受け入れつつ、ここからもタフな転戦生活を覚悟している。
高校時代に見た光景や、周囲のアドバイスも海外進出へ背中を押した重要な要素だが、それ以上に識西の考え方に大きな変化をもたらしたできごとがあったという。それが、昨年、日本で予選会を勝ち抜き出場した6月の「全米女子オープン」だった。
「それまでも海外でやりたいなって、ぼんやりは考えていたんですけど、プロテストも受かってないしなーとか思っていて。世間的にも、勝みなみちゃんとか西村優菜ちゃんみたいに、日本ツアーで活躍してから(米国へ)みたいな流れがあるじゃないですか。私も、そうなるまではチャレンジできないのかなとか考えていて。でも全米に出て、『別にいいかな。やっぱりチャレンジしたいな』って思えた。それですぐに(米国の)Qスクールにエントリーしました。日本で活躍してからだと、何年後になるか分からない。テストうんぬんは置いておいて、『先に行っちゃお』って思えたんです」
価値観が大きく変わった。世界一のゴルファーを決める大会は、識西にとっては道を切り開くのにも重要な時間になった。さらに自分がひとつのモデルケースになりたい、という思いもそこにはある。
「また違うルートもありますよ、ということを伝えたい。プロテストを受ける若い選手を見ると、みんな本当に上手だなって毎回思うんです。でも、そういう子たちも合格できないと、また来年ってなる。もちろん自分も悔しいけど、こんなに上手なのに、また1年待つのはもったいないなって。(合格すれば)活躍できる可能性もあるはずなのに。みんなに“こっち(海外)でもいいんじゃないっ”て思ってもらえるようになればいいですね」
今、識西は5月11日に開幕する欧州ツアー「ジャブラ女子オープン」出場のためフランスにいる。当面の目標として「欧州でシードを獲る」という主戦場での活躍を掲げるが、その先は「模索中」だ。「心惹かれるのは米国ツアーだし、でも日本ツアーもいいなって思うので、プロテスト受験も予定に入ってます。とにかく欧州で頑張って、来年、大きな試合に出られたらというイメージですね」。今年同様、選択肢を狭める発想はない。
「いろんなことが起こるでしょうね(笑)。少しは観光とかもしたいんですけど、私は心の余裕がもてないタイプ。その辺りの景色を見るだけで精いっぱいかもしれない。でもそれだけでもいいのかな。貴重な経験をしてるなと思えているので」。ここからはひとりでの転戦も続く。「リシャッフルとかの情報も探り探りで。試合に出ながら『こうなんだな』って理解していくことになります」。その生活には希望だけでなく、不安も抱えている。それでも、始まったばかりの“挑戦”について語る識西の声は、最後まで明るかった。(文・間宮輝憲)
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ケニアではキリンが横切るコースでプレーも 識西諭里が挑む“独自のツアー生活”「違うルートもあることを伝えたい」【ゆり’s ROAD】
独自の道を切り開き、プロゴルフの世界で戦っているひとりの選手がいる。26歳の女子プロゴルファー・識西諭里(おにし・ゆり)がその人だ。
所属 ALBA Net編集部
間宮 輝憲 / Terunori Mamiya
配信日時:2023年5月11日 03時02分
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