だが、蓋を開けてみれば、驚きの展開になった。大会3週間前に、元テニス界のスター、クリス・エバートと結婚したばかりだった当時53歳のグレッグ・ノーマンが初日4位、2日目2位、3日目はついに単独首位へ浮上。ノーマンは過去に2度、全英オープンで優勝を飾っていたが、メジャーでは8度も惜敗しており、現役バリバリ時代のノーマンといえば、メジャーで勝ち急いでは崩れて負けるイメージのほうが強かった。
だが、あのときのノーマンは「バークデールのゴルフは母国オーストラリアのゴルフとそっくりだ」と郷愁さえ漂わせながら、ずっと穏やかな表情だった。首位で最終日を迎えることになった3日目の夕暮れも「(優勝への)期待値は低い」と言いながら、静かに微笑んでいた。
それなのに、最終日の1番ティに立ったとき、ノーマンはそれまでの3日間とは別人のようになっていた。小さな物音にも目くじらを立て、ひどくイライラしている様子。ああ、これは良くないサインだなと秘かに思ったら、案の定、彼は3連続ボギー発進となり、崩れ落ちていった。
入れ替わって首位に立ったのは、ノーマンとともに最終組を回っていたハリントンだった。開幕前から右手首の痛みがひどく、「出ても勝てない。欠場しようか?」と嘆いていたが、スポーツ心理学者のボブ・ロッテラに「手首が痛くても、4日間を戦うことはできるだろう?」と言われ、ハリントンはハッとしたそうだ。
勝つことより、まず4日間をしっかり戦い通すことを考えよう――。「そう思うことで手首のことが気にならなくなり、プレーに集中できた」。
勝利は追いかけすぎると逃げていく。少し気を楽にして、穏やかな心で、「4日間」に意識を向ける。そう仕向けたロッテラ博士、それを受け入れたハリントン。だからこそ彼らは、全英2連覇という偉業に辿り着けたのではないか。あのとき私はそう感じた。
だが、あのときのノーマンは「バークデールのゴルフは母国オーストラリアのゴルフとそっくりだ」と郷愁さえ漂わせながら、ずっと穏やかな表情だった。首位で最終日を迎えることになった3日目の夕暮れも「(優勝への)期待値は低い」と言いながら、静かに微笑んでいた。
それなのに、最終日の1番ティに立ったとき、ノーマンはそれまでの3日間とは別人のようになっていた。小さな物音にも目くじらを立て、ひどくイライラしている様子。ああ、これは良くないサインだなと秘かに思ったら、案の定、彼は3連続ボギー発進となり、崩れ落ちていった。
入れ替わって首位に立ったのは、ノーマンとともに最終組を回っていたハリントンだった。開幕前から右手首の痛みがひどく、「出ても勝てない。欠場しようか?」と嘆いていたが、スポーツ心理学者のボブ・ロッテラに「手首が痛くても、4日間を戦うことはできるだろう?」と言われ、ハリントンはハッとしたそうだ。
勝つことより、まず4日間をしっかり戦い通すことを考えよう――。「そう思うことで手首のことが気にならなくなり、プレーに集中できた」。
勝利は追いかけすぎると逃げていく。少し気を楽にして、穏やかな心で、「4日間」に意識を向ける。そう仕向けたロッテラ博士、それを受け入れたハリントン。だからこそ彼らは、全英2連覇という偉業に辿り着けたのではないか。あのとき私はそう感じた。