AIでフェース開発すると何がいい? 『EPIC FLASH』が飛ぶ理由を考える【記者の目】
AIでフェース開発すると何がいい? 『EPIC FLASH』が飛ぶ理由を考える【記者の目】
配信日時:2019年1月10日 06時54分
8日(火)、ついにキャロウェイ『EPIC FLASH』が都内にて発表された。製品の概要説明に加えて、トークセッションが行われ、上田桃子、石川遼、キャロウェイゴルフ開発者のジム・セルーガ氏、サイエンス作家の竹内薫氏が登壇した。
⇒AIはフェース開発だった!キャロウェイ『EPIC FLASH』シリーズ、2月1日発売
■ゴルフクラブ界初のAIによるフェース開発
トークセッションの話題は、もちろんAI(人工知能)。上田桃子も石川遼もその発想にまず驚いていた。キャロウェイ開発陣はボール初速を最大化するため、フェースをあえて波型にした根拠は、ゴルフクラブとしては初めてAI(人工知能)とスーパーコンピュータを導入して開発され、通常なら34年かかる計算をおよそ4週間で実現したことなどが解説された。
竹内氏は「さっきジムと話したのですが、スーパーコンピュータを自前で持っていると聞いて驚きましたね。日本ではいろんな研究所でも持っているケースが少ないですから、相当本気ですよ」と、時代の先をいく同社の規模感に驚きを示す。
ジム・セルーガ氏は、AIと機械学習を採り入れた理由に「さらにボールスピードを高めるために、さまざまな他業種のテクノロジーに可能性を求めた」と明かす。「ボールスピードを高め、それでいて耐久性があり、R&AとUSGAのSLEルール内にCT値を収める。この3つの命題をAIに与えた」と語る。そして、ゴルフクラブのAI開発のパイオニアとして、今後もその知見を活かしていく考え。
竹内氏は、「人工知能に感情や意図はないんです。通常、ソフトウェアに実装されるのがこれまでのAIの常識ですが、形あるもの、スポーツ用品の開発にもAIが使われるとは…」と驚きを隠せない。そして、「AIとは人間の脳神経を真似し、たくさんつなげて機械化し、試行錯誤の計算スピードを速くする機械。これを使いこなすには、使う人間のクリエイティビティが問われます」と、キャロウェイ開発陣を称える。
■フラッシュフェースは“ダブルトランポリン”だから飛ぶ
そして、AIが15,000とおりのプロトタイプフェースを考え、最終的に出した答えが【フラッシュフェース】。不均衡な凹凸があり、複数の波形が組み合わさった不均衡な肉厚の見たことのないフェース裏側の構造だ。
石川遼は「初めて見た時は失敗なのかなと思ったけど、驚いたしパフォーマンスが高い」と振り返る。「今までは耐久性と反発ルールを守るために、真ん中が分厚くて周りが薄いというのが常識でしたから」と語る。上田桃子も「今までフェースは薄ければ薄いほど飛ぶイメージ。凹凸があって厚いというのは本当に飛ぶのかな?と思ったんですが、実際打ったら本当に衝撃でした」と応じる。
竹内氏は、「物理学から見れば、究極を突き詰めた“機能美”という印象です。今にも動き出しそうな、反発している途中のようにも見えます。こんな形状は物理学の教科書には載っていない。AIだから出来たと感じます」と、印象を語る。そして、AIが出したこの独特な波形フェースの利点を、ジム・セルーガ氏はこう解説する。
「例えるならば、トランポリンです。足が不安定なトランポリン(キャロウェイの技術がないヘッドの例)では高く翔べません。支柱が強固なトランポリンだともっと高く翔べます。これが『ジェイルブレイク』の付いたものだと考えてください。
そして、その強固な足のトランポリンの上に、硬いコンクリートの支柱を持つもう一つのトランポリン(フラッシュフェース)を重ね、ダブルトランポリンにする。そうすればその跳ね上がりは1つのトランポリンよりも遥かに大きくなる。イメージとしてそう理解するのがわかりやすいかもしれません。
重要なのは、AI開発されたフラッシュフェースは、ジェイルブレイク構造を持つヘッドと組み合わせて初めて大きな反発を生むということ。ジェイルブレイクではないヘッドにAIフェースを組み合わせても、飛ばないのです」
この説明に、上田桃子を筆頭に、登壇者たちは大きく頷いていた。
■超フィーリング派の石川遼は“AIフェース”を歓迎
AIフェースのキーワードだけではぼやけていたが、【ダブルトランポリン】と捉えると、確かになんとなく飛ぶ理由がイメージしやすい。構造だけではなく、実際にクラブとして打った感想はどうなのか?『EPIC FLASH』のパフォーマンスをまず上田桃子が語る。
「バーンと弾く感じで、ハイランチでロースピン。めっちゃいいです。イメージでいうと、男子プロの球って感じの男前な弾道ですね。今の時代は女子ツアーもパワーゲームになってきていて、キャリーが出ないと戦えませんが、それがクラブで補える気がします。トレーニングで1ヤード伸ばすのにも苦労してきたので、キャロウェイの開発の方にクラブで頑張ってもらった方が早いなって(笑)」
そして、2世代以上前の2016年モデル『XR 16』を直近まで使っていた石川遼の驚きは上田桃子以上だった。
「初めて打って、球が強いなって。飛んでいって落ちるときまで球の勢いが強い。前に使っていたドライバーは打ち出し角が低めで、適性よりも400回転ほどスピン量が多くてキャリー287yとか。(『EPIC FLASHサブゼロ』は)初速も1.5m/sほど上がって、キャリーが8ヤードくらい伸びて295yが出ます。打ち出しが高くて、低スピンの飛ぶ球ですね」
石川は、耐久性面でもフラッシュフェースに好感触を示す。「フェースが割れる心配もなく長く使えるし、厚いフェースなのに当たりが強い。それでいて打球音も今までで一番迫力があります」と話す。この話しと上田桃子の感想は何となくつながっていると感じる。
【フェースが薄い=反発係数が高い。分厚い=反発係数が低い】がこれまでの常識だが、AIが出した波型の最適肉厚で、全体に厚い箇所が多い中でも、真ん中部分やその他の場所はこれまで以上に薄くなって反発が上がっている。そして、フェースが多少重くなっている。筆者は軽いフェースより、重くなったフェースの方が飛距離アップに貢献するのではないか?と想像した。
しかし、あくまでキャロウェイからの説明としてはこうだ。「例えると、今までは、1本のばねでフェースを反発させていたのを、2本のばねを使い、しなり戻りなどのタイミングをAIで上手く計算させて、よりフェースを反発させる仕組みにしたのが今回の大きなポイントです。ジェイルブレイク+フラッシュフェースの2重構造に加え、この不均衡な肉厚フェースの形自体、フェースの中にもう一つフェースがあるイメージと言えばいいでしょうか」(同社広報)
昨季他社のドライバーを使い続けてきたザンダー・シャウフェレは、先週の「セントリー・オブ・チャンピオンズ」で『EPIC FLASHサブゼロ』投入初週に優勝。年末のタイの試合では、世界ランク1位で、ドライバーを滅多に使わないクラブ契約フリーのアリヤ・ジュタヌガーンも『EPIC FLASHサブゼロ』ドライバーを投入。ドライバーに対して極めてシビアな強者2人があっさり替えた。
そして、石川遼も5年以上ドライバーに悩んできて、滅多にドライバーを替えないシビアな選手。その石川が「ボールが落ちるまで最後まで勢いが持続するし、データがいい」と語り、あっさり替えた。もしや、ダブルトランポリンの反発による“初速”だけでなく、フェース・イン・フェースの相乗効果が加わる結果にみな無意識で気づいているのか。
意志や感情を持たないAIは、我々のこれまでの常識外の答えを出した気がしてならない。
Text/Mikiro Nagaoka
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■ゴルフクラブ界初のAIによるフェース開発
トークセッションの話題は、もちろんAI(人工知能)。上田桃子も石川遼もその発想にまず驚いていた。キャロウェイ開発陣はボール初速を最大化するため、フェースをあえて波型にした根拠は、ゴルフクラブとしては初めてAI(人工知能)とスーパーコンピュータを導入して開発され、通常なら34年かかる計算をおよそ4週間で実現したことなどが解説された。
竹内氏は「さっきジムと話したのですが、スーパーコンピュータを自前で持っていると聞いて驚きましたね。日本ではいろんな研究所でも持っているケースが少ないですから、相当本気ですよ」と、時代の先をいく同社の規模感に驚きを示す。
ジム・セルーガ氏は、AIと機械学習を採り入れた理由に「さらにボールスピードを高めるために、さまざまな他業種のテクノロジーに可能性を求めた」と明かす。「ボールスピードを高め、それでいて耐久性があり、R&AとUSGAのSLEルール内にCT値を収める。この3つの命題をAIに与えた」と語る。そして、ゴルフクラブのAI開発のパイオニアとして、今後もその知見を活かしていく考え。
竹内氏は、「人工知能に感情や意図はないんです。通常、ソフトウェアに実装されるのがこれまでのAIの常識ですが、形あるもの、スポーツ用品の開発にもAIが使われるとは…」と驚きを隠せない。そして、「AIとは人間の脳神経を真似し、たくさんつなげて機械化し、試行錯誤の計算スピードを速くする機械。これを使いこなすには、使う人間のクリエイティビティが問われます」と、キャロウェイ開発陣を称える。
■フラッシュフェースは“ダブルトランポリン”だから飛ぶ
そして、AIが15,000とおりのプロトタイプフェースを考え、最終的に出した答えが【フラッシュフェース】。不均衡な凹凸があり、複数の波形が組み合わさった不均衡な肉厚の見たことのないフェース裏側の構造だ。
石川遼は「初めて見た時は失敗なのかなと思ったけど、驚いたしパフォーマンスが高い」と振り返る。「今までは耐久性と反発ルールを守るために、真ん中が分厚くて周りが薄いというのが常識でしたから」と語る。上田桃子も「今までフェースは薄ければ薄いほど飛ぶイメージ。凹凸があって厚いというのは本当に飛ぶのかな?と思ったんですが、実際打ったら本当に衝撃でした」と応じる。
竹内氏は、「物理学から見れば、究極を突き詰めた“機能美”という印象です。今にも動き出しそうな、反発している途中のようにも見えます。こんな形状は物理学の教科書には載っていない。AIだから出来たと感じます」と、印象を語る。そして、AIが出したこの独特な波形フェースの利点を、ジム・セルーガ氏はこう解説する。
「例えるならば、トランポリンです。足が不安定なトランポリン(キャロウェイの技術がないヘッドの例)では高く翔べません。支柱が強固なトランポリンだともっと高く翔べます。これが『ジェイルブレイク』の付いたものだと考えてください。
そして、その強固な足のトランポリンの上に、硬いコンクリートの支柱を持つもう一つのトランポリン(フラッシュフェース)を重ね、ダブルトランポリンにする。そうすればその跳ね上がりは1つのトランポリンよりも遥かに大きくなる。イメージとしてそう理解するのがわかりやすいかもしれません。
重要なのは、AI開発されたフラッシュフェースは、ジェイルブレイク構造を持つヘッドと組み合わせて初めて大きな反発を生むということ。ジェイルブレイクではないヘッドにAIフェースを組み合わせても、飛ばないのです」
この説明に、上田桃子を筆頭に、登壇者たちは大きく頷いていた。
■超フィーリング派の石川遼は“AIフェース”を歓迎
AIフェースのキーワードだけではぼやけていたが、【ダブルトランポリン】と捉えると、確かになんとなく飛ぶ理由がイメージしやすい。構造だけではなく、実際にクラブとして打った感想はどうなのか?『EPIC FLASH』のパフォーマンスをまず上田桃子が語る。
「バーンと弾く感じで、ハイランチでロースピン。めっちゃいいです。イメージでいうと、男子プロの球って感じの男前な弾道ですね。今の時代は女子ツアーもパワーゲームになってきていて、キャリーが出ないと戦えませんが、それがクラブで補える気がします。トレーニングで1ヤード伸ばすのにも苦労してきたので、キャロウェイの開発の方にクラブで頑張ってもらった方が早いなって(笑)」
そして、2世代以上前の2016年モデル『XR 16』を直近まで使っていた石川遼の驚きは上田桃子以上だった。
「初めて打って、球が強いなって。飛んでいって落ちるときまで球の勢いが強い。前に使っていたドライバーは打ち出し角が低めで、適性よりも400回転ほどスピン量が多くてキャリー287yとか。(『EPIC FLASHサブゼロ』は)初速も1.5m/sほど上がって、キャリーが8ヤードくらい伸びて295yが出ます。打ち出しが高くて、低スピンの飛ぶ球ですね」
石川は、耐久性面でもフラッシュフェースに好感触を示す。「フェースが割れる心配もなく長く使えるし、厚いフェースなのに当たりが強い。それでいて打球音も今までで一番迫力があります」と話す。この話しと上田桃子の感想は何となくつながっていると感じる。
【フェースが薄い=反発係数が高い。分厚い=反発係数が低い】がこれまでの常識だが、AIが出した波型の最適肉厚で、全体に厚い箇所が多い中でも、真ん中部分やその他の場所はこれまで以上に薄くなって反発が上がっている。そして、フェースが多少重くなっている。筆者は軽いフェースより、重くなったフェースの方が飛距離アップに貢献するのではないか?と想像した。
しかし、あくまでキャロウェイからの説明としてはこうだ。「例えると、今までは、1本のばねでフェースを反発させていたのを、2本のばねを使い、しなり戻りなどのタイミングをAIで上手く計算させて、よりフェースを反発させる仕組みにしたのが今回の大きなポイントです。ジェイルブレイク+フラッシュフェースの2重構造に加え、この不均衡な肉厚フェースの形自体、フェースの中にもう一つフェースがあるイメージと言えばいいでしょうか」(同社広報)
昨季他社のドライバーを使い続けてきたザンダー・シャウフェレは、先週の「セントリー・オブ・チャンピオンズ」で『EPIC FLASHサブゼロ』投入初週に優勝。年末のタイの試合では、世界ランク1位で、ドライバーを滅多に使わないクラブ契約フリーのアリヤ・ジュタヌガーンも『EPIC FLASHサブゼロ』ドライバーを投入。ドライバーに対して極めてシビアな強者2人があっさり替えた。
そして、石川遼も5年以上ドライバーに悩んできて、滅多にドライバーを替えないシビアな選手。その石川が「ボールが落ちるまで最後まで勢いが持続するし、データがいい」と語り、あっさり替えた。もしや、ダブルトランポリンの反発による“初速”だけでなく、フェース・イン・フェースの相乗効果が加わる結果にみな無意識で気づいているのか。
意志や感情を持たないAIは、我々のこれまでの常識外の答えを出した気がしてならない。
Text/Mikiro Nagaoka