B・ケプカ、“全米”と名の付くメジャーで勝率が高まる必然【記者の目】
B・ケプカ、“全米”と名の付くメジャーで勝率が高まる必然【記者の目】
配信日時:2019年5月20日 02時18分
<全米プロゴルフ選手権 最終日◇19日◇ベスページ・ブラックコース(米国ニューヨーク州)◇7459ヤード・パー70>
ブルックス・ケプカ(米国、28歳)が、初日からのリードを保ち、完全優勝で「全米プロ」連覇を成し遂げた。これで、「全米プロ」「全米オープン」連覇。初となる、同時期に2つのメジャーの連覇達成者となった。
風の強まった3日目、さらに強くなった最終日は、さすがのケプカといえどもFWキープ率が下がり、ベスページ・ブラックの猛ラフの餌食となった。しかし、初日・2日目に作った7打のリードは大きく、一時1打差まで迫ったダスティン・ジョンソンの追撃も一歩届かなかった。
■全米オープン&全米プロ連覇が意味するもの
ツアー6勝のうち、「全米オープン」が2勝、「全米プロ」が2勝。勝利のほとんどが、厳しいメジャーという、さらに稀有な選手となった。筆者は大会前からケプカを「メジャーになるほど飛んで曲がらずショットが切れる」“特殊能力”と表現したくらい。また、単なるメジャー4勝と見ることなど出来ない。何しろ「全米オープン」は、USGA(全米ゴルフ協会)の威信をかけた最も厳しいセッティングで有名だ。
しかも、「全米プロ」は例年「全米オープン」ほど厳しいセッティングではなかったが、PGAオブAmerica(全米プロゴルフ協会)が今回は粘っこい猛ラフを用意。ティショットのミスに極めて厳しいペナルティを強いた上、ベスページ・ブラックはパー70で全長が7432ヤードと距離が長く、フェアウェイも狭めてきた。“曲がる飛ばし屋には思うようにさせない”と言えるセッティングである。
しかし、結果的には、キャリーでティショットをピンポイントで狙えないと“全選手殺し”の極めて厳しい舞台となってしまった。ここ数年ならラフに入っても打てるため、飛ばし屋が有利なセッティングと言えたが、今大会は誰であろうとPWや9Iで出すのが限界の、スポッと沈み込む粘っこい猛ラフ。これが、飛ばし屋のみならず、そこまで曲がるわけでもない普通の選手にも深いダメージを与えてしまった。
そして、ケプカやDJといった飛ばし屋のドライバーの調子が良ければ、やはり有利に働いた。さすがに、ティショットが乱れた最終日の後半はケプカと言えども簡単にスコアを落としたが、調子が良く、風の穏やかな初日・2日目には気持ちいいプレーが許された。(他の選手が苦しむのを尻目に)
つまり、USGAやPGAオブAmericaが、“曲がる飛ばし屋殺し”の厳しいコースセッティングを強いれば強いるほど、調子がよく、ラクに振ってくる飛ばし屋(ケプカ)がラクになる可能性はないだろうか。ケプカの“全米”と名の付くメジャー勝率を見るにつけ、そんな気がしてならない。
■今回のような“猛ラフ”は今後採用されるか?
今大会が始まる前から、FWキープ率の勝負になることは見えていた。だが、風が吹くと、曲がらないトッププレイヤーでもそう簡単にFWキープできない。そして、実際風が強まった午後、DJなどの飛ばし屋以外が追いすがることすら難しい状況が露呈されてしまった。
PGAオブAmericaやUSGAは今大会の結果をどう捉え、今後のセッティングをどう考えるだろうか。ティショットを少しでも曲げると厳しいペナルティがある舞台は、さらに飛ばし屋を有利にしかねない、と、ケプカとDJのパフォーマンスからある程度証明されてしまったのだ。
もう一つ、証明されたのは、ただの飛べば良いわけではなく、飛ばし屋の“弾道の質”にも有利不利が明らかになった。例えば、ただ飛ばすだけならケプカよりもキャメロン・チャンプの方が上である。ただし、チャンプのランディング角は低いが、ケプカのランディング角は非常に大きい。
キャリー300ヤードに迫る距離と、ランディング角が大きい弾道の質。これを持つケプカは転がってラフに入る確率を抑えることが出来ていた。USGAやPGAオブAmericaがラフを伸ばし、フェアウェイを絞り、距離を長くすればするほど、この弾道の質を持つケプカの優位性と勝率が高まってしまう皮肉を感じる。
また、ケプカ、DJともに“筋トレ仲間”であることはあまりにも有名。そして、2人ともドライバーを簡単に、シンプルに打つ(ように見える)。これだけの猛ラフが厳しい舞台なら、緻密に繊細に神経質になりそうなものだが、構えてすぐサッとシンプルに打ってくる。このある種の“アバウトさ”は、ティショットを打つ前から削られている普通の選手とでは、4日間で大変な心労の差になるかもしれない。
そして、2人とも【ツイストフェース】付きのロフト大きめのドライバー(DJは『M6』の10.5°、ケプカは『M5』の10.5°)と、高打ち出し&ランディング角の大きなキャリーを打てるギアを選ぶことも共通していた。大会前に筒康博が「現代のPGAツアーは、ドライバー・イズ・マネーになっている」と指摘し、テーラーメイドのドライバー使用者の有利を唱えていた。
今回、ケプカとDJの2人が飛び抜けたのはたまたまなのか。そして、今後、メジャーで続く【ケプカ時代】に待ったをかけられる選手は誰なのか。次回のメジャーは一ヶ月後にペブルビーチGLで行われる「全米オープン」。ケプカの持つ“特殊能力”を備える選手が急に増えるとは決して思えない。となると、気になるのはそのコースセッティングだけだが、さて…。
Text/Mikiro Nagaoka
ブルックス・ケプカ(米国、28歳)が、初日からのリードを保ち、完全優勝で「全米プロ」連覇を成し遂げた。これで、「全米プロ」「全米オープン」連覇。初となる、同時期に2つのメジャーの連覇達成者となった。
風の強まった3日目、さらに強くなった最終日は、さすがのケプカといえどもFWキープ率が下がり、ベスページ・ブラックの猛ラフの餌食となった。しかし、初日・2日目に作った7打のリードは大きく、一時1打差まで迫ったダスティン・ジョンソンの追撃も一歩届かなかった。
■全米オープン&全米プロ連覇が意味するもの
ツアー6勝のうち、「全米オープン」が2勝、「全米プロ」が2勝。勝利のほとんどが、厳しいメジャーという、さらに稀有な選手となった。筆者は大会前からケプカを「メジャーになるほど飛んで曲がらずショットが切れる」“特殊能力”と表現したくらい。また、単なるメジャー4勝と見ることなど出来ない。何しろ「全米オープン」は、USGA(全米ゴルフ協会)の威信をかけた最も厳しいセッティングで有名だ。
しかも、「全米プロ」は例年「全米オープン」ほど厳しいセッティングではなかったが、PGAオブAmerica(全米プロゴルフ協会)が今回は粘っこい猛ラフを用意。ティショットのミスに極めて厳しいペナルティを強いた上、ベスページ・ブラックはパー70で全長が7432ヤードと距離が長く、フェアウェイも狭めてきた。“曲がる飛ばし屋には思うようにさせない”と言えるセッティングである。
しかし、結果的には、キャリーでティショットをピンポイントで狙えないと“全選手殺し”の極めて厳しい舞台となってしまった。ここ数年ならラフに入っても打てるため、飛ばし屋が有利なセッティングと言えたが、今大会は誰であろうとPWや9Iで出すのが限界の、スポッと沈み込む粘っこい猛ラフ。これが、飛ばし屋のみならず、そこまで曲がるわけでもない普通の選手にも深いダメージを与えてしまった。
そして、ケプカやDJといった飛ばし屋のドライバーの調子が良ければ、やはり有利に働いた。さすがに、ティショットが乱れた最終日の後半はケプカと言えども簡単にスコアを落としたが、調子が良く、風の穏やかな初日・2日目には気持ちいいプレーが許された。(他の選手が苦しむのを尻目に)
つまり、USGAやPGAオブAmericaが、“曲がる飛ばし屋殺し”の厳しいコースセッティングを強いれば強いるほど、調子がよく、ラクに振ってくる飛ばし屋(ケプカ)がラクになる可能性はないだろうか。ケプカの“全米”と名の付くメジャー勝率を見るにつけ、そんな気がしてならない。
■今回のような“猛ラフ”は今後採用されるか?
今大会が始まる前から、FWキープ率の勝負になることは見えていた。だが、風が吹くと、曲がらないトッププレイヤーでもそう簡単にFWキープできない。そして、実際風が強まった午後、DJなどの飛ばし屋以外が追いすがることすら難しい状況が露呈されてしまった。
PGAオブAmericaやUSGAは今大会の結果をどう捉え、今後のセッティングをどう考えるだろうか。ティショットを少しでも曲げると厳しいペナルティがある舞台は、さらに飛ばし屋を有利にしかねない、と、ケプカとDJのパフォーマンスからある程度証明されてしまったのだ。
もう一つ、証明されたのは、ただの飛べば良いわけではなく、飛ばし屋の“弾道の質”にも有利不利が明らかになった。例えば、ただ飛ばすだけならケプカよりもキャメロン・チャンプの方が上である。ただし、チャンプのランディング角は低いが、ケプカのランディング角は非常に大きい。
キャリー300ヤードに迫る距離と、ランディング角が大きい弾道の質。これを持つケプカは転がってラフに入る確率を抑えることが出来ていた。USGAやPGAオブAmericaがラフを伸ばし、フェアウェイを絞り、距離を長くすればするほど、この弾道の質を持つケプカの優位性と勝率が高まってしまう皮肉を感じる。
また、ケプカ、DJともに“筋トレ仲間”であることはあまりにも有名。そして、2人ともドライバーを簡単に、シンプルに打つ(ように見える)。これだけの猛ラフが厳しい舞台なら、緻密に繊細に神経質になりそうなものだが、構えてすぐサッとシンプルに打ってくる。このある種の“アバウトさ”は、ティショットを打つ前から削られている普通の選手とでは、4日間で大変な心労の差になるかもしれない。
そして、2人とも【ツイストフェース】付きのロフト大きめのドライバー(DJは『M6』の10.5°、ケプカは『M5』の10.5°)と、高打ち出し&ランディング角の大きなキャリーを打てるギアを選ぶことも共通していた。大会前に筒康博が「現代のPGAツアーは、ドライバー・イズ・マネーになっている」と指摘し、テーラーメイドのドライバー使用者の有利を唱えていた。
今回、ケプカとDJの2人が飛び抜けたのはたまたまなのか。そして、今後、メジャーで続く【ケプカ時代】に待ったをかけられる選手は誰なのか。次回のメジャーは一ヶ月後にペブルビーチGLで行われる「全米オープン」。ケプカの持つ“特殊能力”を備える選手が急に増えるとは決して思えない。となると、気になるのはそのコースセッティングだけだが、さて…。
Text/Mikiro Nagaoka