高MOIヘッドの使い手が増えると、シャフトトレンドは変わる?【記者の目】
高MOIヘッドの使い手が増えると、シャフトトレンドは変わる?【記者の目】
配信日時:2019年6月17日 06時28分
今季飛距離を伸ばした女子プロが使うドライバーの代表格は、キャロウェイ『エピックフラッシュSZ』と三菱ケミカル『テンセイCK Proオレンジ』の組み合わせ。既報のとおり、穴井詩、成田美寿々らクラブ契約フリー選手が愛用中だ。
『テンセイCK Proオレンジ』は、同社の中でも特殊なシャフトだと言える。はっきりと切り返しで粘るフィーリングを持ち、剛性分布も手元側の緩やかな元調子なのだが、手元が重いカウンターバランス。そのため、従来の粘り系元調子とは違い、ある程度インパクトで一気に振り抜けるオートマチックさも併せ持っている。
このシャフト、PINGは早くから最新作『G410』シリーズに採用を決めていた。キャロウェイやPINGといった海外ブランドと相性がいいのは当然で、実はこの『テンセイ』シリーズ自体、約3年以上前からPGAツアープロ向けに開発されたシャフトで、【高MOIヘッド時代】を見据えて作られたと言って過言ではないだろう。(米国では2015年8月に最初の『テンセイCKブルー』が登場。『CK Pro』シリーズは16年9月から)
■ PGAツアー向けなのに、なぜ国内女子プロに流行る!?
今季、『テンセイCK Proオレンジ』は成田や穴井だけでなく、原英莉花など他にも国内女子プロに一気に使用者が増えた。直近で投入された『ディアマナZF』が入ってくる前は、何度もモデル別使用率1位を獲っている。なぜ、パワフルなPGAツアープロ向けに開発されたのに、国内女子プロにも流行るのか。
単純な答えとしては、逆輸入するに辺って米国に無かった50グラム台を日本で追加したこと。もう一つ見逃せないのが、【高MOIヘッド】を振り抜きやすくする点、契約フリー選手の多い国内女子ツアーでは、キャロウェイを中心に海外ブランドのヘッドを選ぶ選手が増える点があるだろう。
【高MOI】=ヘッドが動きづらい、ということになるが、周辺重量配分以外に手っ取り早くMOIを上げる方法がある。それは、ヘッドを重くすること。海外ブランドは元々国内ブランドのアベレージモデルよりも重く、いい意味で動きの鈍重なヘッドが多かった。(日本企画のアベレージモデルではなく、海外企画のグローバルモデルは特に)
国内女子ツアーでも、海外企画のグローバルモデルを選ぶ選手が増える中、冒頭に書いた『エピックフラッシュSZ』&『テンセイCK Proオレンジ』という、飛距離爆伸びコンビの認知が進み、『テンセイ』使用者増に拍車をかけたのかもしれない。
■ 三菱から【元系ばかり】が続く理由は?
ところで、【高MOIヘッド】に向くのは『テンセイCK Proオレンジ』だけではない。元々重く・動きづらいヘッド挙動を活かすには、ある程度先端剛性のしっかりしたシャフトが有利となる。「先が動かない」ということは、必然的に中から元系のフィーリングを持つシャフトとの相性がいいと言える。
ここで筆者が注目したいのは、三菱ケミカルの新作がここ数年、「元系ばかりが続く」ことだ。海外で『テンセイ』が展開され始めたここ3、4年で同社の新製品サイクルは明らかに変わった。先(赤マナ)・中(青マナ)・元(白マナ)と新製品を毎年交互に出す慣例が完全崩壊した。
2017年の『ディアマナRF』は赤マナ系の系譜だったはずだが、これまでの印象とは違い、先端剛性が高かった。18年1月の『クロカゲXD』も『同XT』の後継で元系。そして18年7月の『ディアマナDF』も元系のフィーリングだし、19年1月の『テンセイCK Proオレンジ』は前述の通り。なぜ、元系ばかりを出すのか? 単純に走るフィーリングの先系に強い【フジクラとの差別化】だけを意識したわけではないはずだ。
何度も既報のとおり、三菱ケミカルとアルディラを併せた“三菱連合”は、PGAツアーや欧州男子ツアーで圧倒的な使用率を誇る。それ故、時代の最先端を行くPGAツアープロのスイング潮流や使用ヘッドの傾向にアジャストすることが求められる。ここに“元系の嵐”の理由があるとしか思えない。
つまり、「PING、キャロウェイ、テーラーメイド、タイトリストといった大手海外ブランドの【高MOIヘッド】に、正しく合うものを作った結果、元系ばかりになっているだけ」と考えるのが自然ではないだろうか。
■ アマチュアに関係はあるのか?
筆者の仮説がどうあれ、一般ゴルファーからすれば「ツアープロのシャフトの話なんて、自分たちには無関係だ!技術もパワーも違いすぎる!」と考えるのが自然である。だが、そうとも言い切れない経験が最近あった。タイトリスト『TS1』の事例だ。
【高MOIヘッド】は動きが鈍重であるため、「もっと走りがほしい」「つかまりが欲しい」と思うゴルファーが過去から多数いるものだ。先端剛性の高いシャフトとは逆に、「シャフト先端の動きをつけたい」と考えるゴルファー、フィッターも多い。
ところが、タイトリスト『TS1』の純正シャフト『Titleist Diamana』は、この従来の考え方にまったく異なる答えをくれた。軽量だが暴れない。先端はある程度しっかりさせながら、全体の軽さで十分な加速自体を生み出す。『TS1』を研究するうち、「“先端だけの”走りなど、【高MOIヘッド】には要らない」と筆者は感じてしまった。
理由は「先端だけの走り=曲がりにつながる」過去の経験則もある。そして【高MOIヘッド】最大のメリットとは、動きが鈍重であるが故の曲がりづらさ。その動きを「活かすように求める加速」は正解だが、先だけ走らせると、本来の鈍重の良さが消えがちになる。
タイトリストが提示してくれた、「先だけを走らせなくとも、軽量なら【高MOIヘッド】を曲げずに振り切れて飛ぶ」との答え。プロよりも遥かに曲がる我々アマチュアだからこそ、【高MOIヘッド】の恩恵をしっかり受けたい。そのためには、『TS1』を例に、シャフトに対する従来の考え方をアップデートする必要が出てくる。
【高MOIヘッド】の極みである、PING契約プロの鈴木愛が、歴代【高MOIヘッド】に最適な「PINGの純正シャフトを使い続けて勝ち続ける」事実もある。カスタムシャフトの話だとしても、女子プロの成功事例はアマチュアゴルファーのパフォーマンスアップに決して無関係ではないはずだ。
Text/Mikiro Nagaoka
『テンセイCK Proオレンジ』は、同社の中でも特殊なシャフトだと言える。はっきりと切り返しで粘るフィーリングを持ち、剛性分布も手元側の緩やかな元調子なのだが、手元が重いカウンターバランス。そのため、従来の粘り系元調子とは違い、ある程度インパクトで一気に振り抜けるオートマチックさも併せ持っている。
このシャフト、PINGは早くから最新作『G410』シリーズに採用を決めていた。キャロウェイやPINGといった海外ブランドと相性がいいのは当然で、実はこの『テンセイ』シリーズ自体、約3年以上前からPGAツアープロ向けに開発されたシャフトで、【高MOIヘッド時代】を見据えて作られたと言って過言ではないだろう。(米国では2015年8月に最初の『テンセイCKブルー』が登場。『CK Pro』シリーズは16年9月から)
■ PGAツアー向けなのに、なぜ国内女子プロに流行る!?
今季、『テンセイCK Proオレンジ』は成田や穴井だけでなく、原英莉花など他にも国内女子プロに一気に使用者が増えた。直近で投入された『ディアマナZF』が入ってくる前は、何度もモデル別使用率1位を獲っている。なぜ、パワフルなPGAツアープロ向けに開発されたのに、国内女子プロにも流行るのか。
単純な答えとしては、逆輸入するに辺って米国に無かった50グラム台を日本で追加したこと。もう一つ見逃せないのが、【高MOIヘッド】を振り抜きやすくする点、契約フリー選手の多い国内女子ツアーでは、キャロウェイを中心に海外ブランドのヘッドを選ぶ選手が増える点があるだろう。
【高MOI】=ヘッドが動きづらい、ということになるが、周辺重量配分以外に手っ取り早くMOIを上げる方法がある。それは、ヘッドを重くすること。海外ブランドは元々国内ブランドのアベレージモデルよりも重く、いい意味で動きの鈍重なヘッドが多かった。(日本企画のアベレージモデルではなく、海外企画のグローバルモデルは特に)
国内女子ツアーでも、海外企画のグローバルモデルを選ぶ選手が増える中、冒頭に書いた『エピックフラッシュSZ』&『テンセイCK Proオレンジ』という、飛距離爆伸びコンビの認知が進み、『テンセイ』使用者増に拍車をかけたのかもしれない。
■ 三菱から【元系ばかり】が続く理由は?
ところで、【高MOIヘッド】に向くのは『テンセイCK Proオレンジ』だけではない。元々重く・動きづらいヘッド挙動を活かすには、ある程度先端剛性のしっかりしたシャフトが有利となる。「先が動かない」ということは、必然的に中から元系のフィーリングを持つシャフトとの相性がいいと言える。
ここで筆者が注目したいのは、三菱ケミカルの新作がここ数年、「元系ばかりが続く」ことだ。海外で『テンセイ』が展開され始めたここ3、4年で同社の新製品サイクルは明らかに変わった。先(赤マナ)・中(青マナ)・元(白マナ)と新製品を毎年交互に出す慣例が完全崩壊した。
2017年の『ディアマナRF』は赤マナ系の系譜だったはずだが、これまでの印象とは違い、先端剛性が高かった。18年1月の『クロカゲXD』も『同XT』の後継で元系。そして18年7月の『ディアマナDF』も元系のフィーリングだし、19年1月の『テンセイCK Proオレンジ』は前述の通り。なぜ、元系ばかりを出すのか? 単純に走るフィーリングの先系に強い【フジクラとの差別化】だけを意識したわけではないはずだ。
何度も既報のとおり、三菱ケミカルとアルディラを併せた“三菱連合”は、PGAツアーや欧州男子ツアーで圧倒的な使用率を誇る。それ故、時代の最先端を行くPGAツアープロのスイング潮流や使用ヘッドの傾向にアジャストすることが求められる。ここに“元系の嵐”の理由があるとしか思えない。
つまり、「PING、キャロウェイ、テーラーメイド、タイトリストといった大手海外ブランドの【高MOIヘッド】に、正しく合うものを作った結果、元系ばかりになっているだけ」と考えるのが自然ではないだろうか。
■ アマチュアに関係はあるのか?
筆者の仮説がどうあれ、一般ゴルファーからすれば「ツアープロのシャフトの話なんて、自分たちには無関係だ!技術もパワーも違いすぎる!」と考えるのが自然である。だが、そうとも言い切れない経験が最近あった。タイトリスト『TS1』の事例だ。
【高MOIヘッド】は動きが鈍重であるため、「もっと走りがほしい」「つかまりが欲しい」と思うゴルファーが過去から多数いるものだ。先端剛性の高いシャフトとは逆に、「シャフト先端の動きをつけたい」と考えるゴルファー、フィッターも多い。
ところが、タイトリスト『TS1』の純正シャフト『Titleist Diamana』は、この従来の考え方にまったく異なる答えをくれた。軽量だが暴れない。先端はある程度しっかりさせながら、全体の軽さで十分な加速自体を生み出す。『TS1』を研究するうち、「“先端だけの”走りなど、【高MOIヘッド】には要らない」と筆者は感じてしまった。
理由は「先端だけの走り=曲がりにつながる」過去の経験則もある。そして【高MOIヘッド】最大のメリットとは、動きが鈍重であるが故の曲がりづらさ。その動きを「活かすように求める加速」は正解だが、先だけ走らせると、本来の鈍重の良さが消えがちになる。
タイトリストが提示してくれた、「先だけを走らせなくとも、軽量なら【高MOIヘッド】を曲げずに振り切れて飛ぶ」との答え。プロよりも遥かに曲がる我々アマチュアだからこそ、【高MOIヘッド】の恩恵をしっかり受けたい。そのためには、『TS1』を例に、シャフトに対する従来の考え方をアップデートする必要が出てくる。
【高MOIヘッド】の極みである、PING契約プロの鈴木愛が、歴代【高MOIヘッド】に最適な「PINGの純正シャフトを使い続けて勝ち続ける」事実もある。カスタムシャフトの話だとしても、女子プロの成功事例はアマチュアゴルファーのパフォーマンスアップに決して無関係ではないはずだ。
Text/Mikiro Nagaoka