今年の2月に集中して発売される、2025年モデルの各社の新作ドライバー。ALBA本誌910号(2月6日発売号)の連載『銀のALBA』で最新ドライバー特集を実施したが、中でも石井良介がプロダクト担当に食い入るように質問攻めにしていたのが、テーラーメイドの新作ドライバー『Qi35』シリーズだ。
Why 35? 3つの「F」と5つの「ヘッド」が名の由来
テーラーメイドの新ドライバー『Qi35(サーティーファイブ)』。【3】と【5】に込められた意味こそ、テーラーメイドが目指す〝最高のクラブを全てのゴルファーに届ける〞ためのコンセプトになっている。
【3】はドライバーを最高レベルに到達させるための、3つの柱である「FORM」と「FUNCTION」と「FIT」の意味。前作を超える飛びとやさしさを実現するテクノロジーに加え、機能美を追求したデザインや、テーラーメイドが新たに力を入れていくフィッティングの要素が盛り込まれている。
【5】は、全てのゴルファーにベストな1本を提供するためのモデル数の意味だ。通常販売するのは前作と同じ4モデルだが、今回はさらに非販売品のフィッティング専用ヘッドが加わった、テーラーメイドが自信をもって送り出す『Qi35』。手に取っても、実際に打ってもワクワク感と満足感が得られる高性能ドライバーだ。
「どうやって前作より“飛んで曲がらない”を作った?」
多くのゴルファーに人気だった前作『Qi10』から、『Qi35』はどんな進化を遂げているのか。開発コンセプトである3つの『F』の1つ「FUNCTION」について、石井良介がテーラーメイドのプロダクト担当・柴崎高賜氏に直接聞いた。そのやり取りが以下のようになる。
石井 ドライバーの性能は、設計面でも素材面でもこれ以上の進化は難しいと言われています。そんな中、『Qi35』はどうやって〝前作よりも飛んで曲がらない〞を実現したのですか?
柴崎 今回私たちが注目したのが〝フェース面上の重心位置〞です。
石井 ボールが当たるフェース面上の重心が低いほど、低スピンになって飛距離が出ますよね。
柴崎 しかし、打点がズレても曲がらないように重心の位置を深くすると、フェース面上の重心が高くなりスピン量が増えてしまいます。この相反する性能をどう両立するか。これを可能にしたのが、テーラーメイドが取り組んできた、カーボンを主体としたマルチマテリアル構造です。
石井 具体的には何が変わったのですか?
柴崎 まず、クラウンにこれまでよりも軽量で強度が高いクロミウムカーボンを使用。その余剰重量で、地面に近い最も深い位置に前作よりも4グラム重いウェイトを置くことができました。また、カーボンだけでなくチタンやアルミなどの重さや配置を徹底的に研究。その結果、『Qi35』と前作の『Qi10』を比べると、慣性モーメントは8.4Kから9 Kにアップしているのに、フェース面上の重心位置は、センターからの距離が2.3ミリから1.6ミリと低くなっていて、有効打点範囲と言われる低スピンに打てて飛ばせるエリアが広がっています。
石井 クラブ開発での1グラム、1ミリのこだわりが、ゴルファーに大きな恩恵をもたしてくれるのですね。その意味では、やはりフェースをカーボンにするメリットも大きいですか?
柴崎 ええ、設計自由度が圧倒的に上がりますから。カーボンフェースはチタンフェースの約半分の重さなので、前方の余剰重量を低くて深い最適な位置に置くことができます。また、インパクトの衝突パワーはヘッドの後方が重いほど大きくなるので、前が軽くて後ろが重いカーボンフェースのヘッドはエネルギー伝達効率が高くなります。それにカーボンはチタンよりも硬く変形しづらいため、インパクトのエネルギーを逃がすことなくボールに伝えられるのも特長です。
石井 カーボンの方が、飛んで曲がらなくなるということですか?
柴崎 ええ。慣性モーメントを上げるには、重心を深くする必要がありますが、重心の高さを変えずに後ろに下げると、フェース面上の重心位置が高くなって、フェースセンターで打ってもスピンが増えてしまいます。でも、『Qi35』シリーズはチタンよりも軽いカーボンフェースで、クラウンには軽量かつ高強度のクロミウムカーボンを使用しています。また、最も低くて深い位置に大容量のウェイトを置くことで、かつてない低くて深い重心位置を実現できています。
石井 でも、重心を下げるとスピンが減ってドロップしませんか?
柴崎 重心が深いので、打ち出しが高くなってドロップする心配はないんです。今までは低重心にするために重心を浅くすると、ヘッドが上から入り低弾道・低スピンの球で人によってはドロップすることがありました。しかし、『Qi35』は重心が深いので、インパクトロフトが増えて打ち出し角をキープ。適正なスピンもかかりドロップする心配がありません。また、重心がフェースの中心に近いため初速も出やすく、やさしく飛ばせるヘッドになっています。
石井 重心を低く深くする以外にもやさしく飛ばせる理由はありますか?
柴崎 フェース面上の重心位置を下げると、効率よく飛ばせる有効打点エリアが広がります。また、打点が大きくトゥ・ヒールにズレたときは「60層カーボンツイストフェース」が左右への曲がりを抑え、フェースの下側にズレたときは「貫通型スピードポケット」がスピンの増加を抑えて、飛びと方向性をサポーターしてくれますね。
石井 なるほど、勉強になりました。
新旧比較でわかった!『Qi35』は方向と平均飛距離がアップ!
『Qi35』シリーズが前作からどう進化したのか新旧モデルを試打したところ、全てのモデルでやさしさや平均飛距離がアップ。石井によれば、中でも『Qi35』は見た目も含めて、大幅に打ちやすくなっており「スタンダードモデルの『Qi35』が一番進化している」と実感したそう。
「HS43m/sで試打しましたが、スタンダードモデルの『Qi35』は前作の『Qi10』よりも方向安定性がアップ。つかまりが良く球も上がりやすいので、アベレージゴルファーにもやさしく打てます。また、初速が速く距離のバラつきが少ない分、平均飛距離も伸びました。そして、『Qi35』は見た目の面でもやさしくなっていますね。
前作の『Qi10』はシャープに見える洋ナシ形状だったのに対して、『Qi35』は投影面積が大きくなったのに、引き締まった見た目でバランスの取れた形状に見えますね。また、ヘッドのヨコ幅は『Qi35 MAX』と同じサイズに伸びていますね」(石井)
「次はLSモデルの新旧比較で、HS46m/sで試打しましたが、スタンダードモデルの『Qi35』と同じく球のバラつきが少なく、方向安定性とつかまりの良さが明らかにアップしたと感じます。また、前作の『Qi10 LS』よりも適正なスピンがかかるので安定して弾道をコントロールできるのも特長だと言えますね」(石井)
「次は10Kモデルの新旧比較で、HS42m/sで試打しましたが、10Kの方向安定性に低スピンの飛びがプラスされた形で、思いの外、差が付きました。『Qi35 MAX』は前作よりもスピン量が減って、飛距離が約6ヤードもアップ。どちらも10Kモデルで安定感はほぼ同じでしたが、『Qi10 MAX』よりもややつかまりが抑えられて、ストレートボールが打てるのは嬉しいですね」(石井)
「最後は、軽量モデルのMAX LITEの新旧比較で、HS40m/sで試打比較しました。『Qi35 MAX LITE』の方がスピン量が少なく、飛距離が約5ヤードアップしました。球筋や安定感はほぼ同じでしたが、『Qi10 MAX LITE』がややフックフェースなのに対し、スクエアフェースで構えやすくなっていたのもポイントです」(石井)
そして、4機種の試打をこう総括してくれた。
「まとめると、『Qi35』シリーズ4機種を前作と打ち比べると、『Qi35』と『Qi35LS』は、明らかに方向安定性とつかまりの良さが増して、平均飛距離アップ。前作よりも『Qi35』と『Qi35LS』は、かなり打ちやすくなっていて、前作を買ったけど球が上がらなかったり、つかまらなかったという人も十分打ちこなせます。また、適正なスピンが入ることで前後左右のバラつきが減少し、平均飛距離を伸ばすことができます。
『Qi35MAX』と、軽量タイプの『Qi35MAX LITE』は、やさしさや安定感は前作とほぼ同じでしたが、どちらもスピン量が200回転近く減って、飛距離が5〜6ヤードアップしたのが嬉しいポイントです。『Qi10MAX』や『Qi10MAX LITE』を使っていて、やさしく簡単にとにかく真っすぐ飛ばしたい人は試してみる価値ありですね」(石井)
これは絶対やるべき!ウェイト可変でさらに10yd増!
使うべきモデルが決まれば、さらなる調整ができるのも魅力。『Qi35』はヘッドの前後に、『Qi35 LS』はヘッドのトゥ・ヒールと後方に、それぞれ3g、13gのウェイトがついている。このウェイトの位置を入れ替えるだけで、さらなる飛距離や理想の弾道を手に入れることができるが、試した石井も「絶対にやるべき!」と唸る。
「ノーマルポジションで打ったとき、『Qi35』と『Qi35LS』は前作の『Qi10』と『Qi10LS』よりもスピンが入って、やさしさがアップしていました。しかし、前後のウェイトの位置を入れ替えると、どちらも前作より低スピンになって大幅に飛距離が伸びています。また、自分の持ち球やヘッドの入射角に合わせてウェイトやロフトスリーブの位置を変えることで、飛距離や方向性を改善できるので、ぜひ活用してほしいですね」(石井)
また、第5のヘッドである『FITTING HEAD』は、テーラーメイド直営店など限られた店舗のみに設置されているフィッティング専用ヘッドだ。フェースに弾道計測機「GC4」に反応する反射型のマーカーを内蔵し、正確な弾道やスイングデータを測定できるため、「こういったフィッティングもぜひ経験してほしい」と、石井は『Qi35』シリーズの新たな魅力を総括した。