記者もそうだが、クラブ好きは新しいモノ好きな人が多い。昨年4月の「マスターズ」から採用し、その後6月に「ブライソン・デシャンボーが『AVODA』製のバルジの付いたワンレングスアイアンで全米オープンで勝った」と聞いた時に『何それ?』と、興味を持った人も多いだろう。
ところが、気になるものの、日本での取り扱いはずっと無いままだった。そんな謎めいた『AVODA』を今回日本初上陸させたのが、アーチシャフトも手掛ける㈱HopeFul社長の浅井淳一氏だ。「ワンレングスの概念が180度変わる」と氏が惚れ込む『AVODA』の独自性とは?
『AVODA』プロトタイプで、昨年デシャンボーがメジャー制覇
昨年4月の「マスターズ」から『AVODA』アイアンを投入したデシャンボーはオーガスタでいきなり6位、5月の「全米プロゴルフ選手権」で2位、6月の「全米オープン」で優勝と凄まじいメジャー成績をたたき出した。そして、先日の「マスターズ」でも『AVODA』のまま優勝争いの末、5位に。ここ1年のメジャー成績は他の選手より抜きん出ている。
大きな理由が、自ら開発に携わった『AVODA』のプロトタイプアイアンで、ドラコン選手級のヘッドスピードを持つデシャンボーにだけ必要な、バルジとロールのあるプロトタイプを使用して、世界中のクラブ好きの注目を集めた。
当時設立一年強だった『Avoda Golf』を興したのは、デシャンボーの長年のコーチのマイク・シャイと師匠が同じで、自身もプロゴルファーのトム・ベイリーだ。ジュニア時代からデシャンボーと親交の深いベイリーは、ワンレングスアイアンにも造詣が深く、コーチのシャイも交えて様々なスペックを一緒に研究してきた仲だとか。
ベイリーは、デシャンボーがコブラから離れた2022年以降、彼と協力して自らアイアンメーカーの立ち上げを決意し、3Dプリンターを使用した精密なヘッド製作を開始した。そのため『AVODA(アボダ)』とはヘブライ語の“精密”の意味で、バックフェースのロゴもヘブライ語で“精密 = דִיוּק”と刻印されている。
デシャンボーは37.5㌅のワンレングスだが、自らもプロであるベイリーは、この精密なヘッドを活かし、ライ角を揃えて精密に打つため【37㌅のワン(セイム)レングス】を一般発売した。米国では6番がフィッティングの基本となるが、日本でも【ワンレングス】は7番アイアン相当の37㌅に統一されている。
この長さを聞いて、どう思うだろう? 「自分はデシャンボーのようなパワーヒッターでもないし……」と尻込みするだろうか。それとも「練習時間が取れないからありがたい!」と取るだろうか。当のベイリーは、日本のゴルフ業界の【ワンレングス】の捉え方が間違っていると警鐘を鳴らす。
独自の【コンボレングス】が新しい!
日本で【ワンレングス】の利点は「同じ長さなら一つの番手だけで練習効率が出るし、7番は打てるんだから、もっと短い5番ならカンタンに打てるはず」と誤解する人が多く、実は弱点がそこにある。購入したはいいものの「パワー不足で5番が上がらずキャリーが出なかった」と失敗する人も多い。この根本的なミスマッチを解決するのが【AVODA】なのだ。
ベイリーは「5番や6番が短くなって再現性が増し、練習時間が短縮する」といった、日本でのワンレングスの捉え方を完全否定。そうではなく、利点はライ角が統一して精度を出せることにある。その観点から長い番手は【コンボレングス】の新設計で解決。それが「ロングアプローチクラブ(5I~7I)」と「スコアリングクラブ(8I~PW)」という、独自の分け方を提唱する。
実際、プロでも5番アイアンをピン筋に打ち続けることは難しく、「乗ればOK」「タテ距離がズレなければ左右はある程度の幅ならOK」との感覚が普通だが、8番以下はそうはいかない。これはアマチュアも同じで、精度をさほど求めない「ロングアプローチクラブ」は長さをフローさせて今まで通りに打つことが可能になっている。
球が曲がる真因はインパクト時のライ角!
反対に、ピン筋に打ちたい8番以下の「スコアリングクラブ」は37㌅に統一。こう聞くと「短い方が精度が出るだろ!」と思うはずだが、ベイリーはミスの真因をデシャンボーやマイク・シャイと突き詰めている。我々の球が曲がる原因は日によって、状況によって変わる【インパクト時のライ角のバラツキ】にあると確信を持つため、スコアリングクラブだけを同じ長さ・ライ角に設定した。これにより、短い番手も高さとスピン量が増す副産物も得られる。
ベイリーは従来の【長さがフローし、ライ角も0.5°刻み】にも疑いの目を持ち、特に初心者には「同じ長さ・ライ角のモノで構えることで、アドレスの再現性が高く上達が早い」と考えている。そして、練習に時間を割けない人も【コンボレングス】なら、インパクトのライ角を揃えやすく、精度を保ちやすいと言う。2種類のどちらが合うかは、専門知識を持った限られた店のフィッティングを通して判断する形になる。
AVODA流【フィッティング】とは?
まず【ワンレングス】か【コンボレングス】かを見極めるため、38㌅と37㌅の2種類の5番アイアンを打って、スピン量やキャリーなどのデータを判別。記者は元々スピン量が多いタイプでワンレングスでも十分に飛距離と高さを出せたため前者だったが、同時に試した同僚は迷わず【コンボレングス】を選択していた。
念のためウェッジも試す形で、一般的な短いモノとセイム(37㌅)も比べる。最初は戸惑ったものの、長い37㌅の方が明らかに高さとスピン量が増え(約300rpm)ワンレングスの可能性を感じたが、ライン出しなど風対策はコースで確かめたいのが本音。フィッティングは続き、ライ角の違う7番(60/62/64°)で最適なモノを選んだ最後に、極太グリップを含めたモノを試して完了となる。
国内50店舗の選りすぐりの店で!
現時点でフィッティングできるのは、東京都・品川区の「ARTCH TOKYO」のみだが、浅井氏は「フィッティングとクラフト技術に長けた、選りすぐりのお店に絞って、まずは国内50店舗ほどの取り扱いを目指したい」と言う。
今回、AVODAを試して気付いたことは「普段どれほど各番手専用のアドレスを無意識に取っているか」ということ。日によって調子が狂うのも、練習不足に加え「アドレスの狂いから生じる」ことを痛感した。そうした精密な基準としても使える“デシャンボーISM”満載のアイアン。一度試して損はないと思う。(編集部M・K)