ALBA Net  ゴルフ
ALBA Net  ゴルフ

世界特許を持つミズノの鍛造工場に潜入取材! フォージドアイアンの伝統と進化をこの目で見てきた

世界特許を持つミズノの鍛造工場に潜入取材! フォージドアイアンの伝統と進化をこの目で見てきた

ミズノから2024年モデルとなる『Mizuno Pro』シリーズのアイアンが新発売された。3つのモデルが展開されているが、そのうちの2つのモデルには鍛造のクロモリ(クロムモリブデン鋼)が使われている。なぜ従来の軟鉄ではなくクロモリを使うのか、どうして一体成型にこだわるのか。ゴルフライターの鶴原弘高が鍛造工場の現場に赴き、アイアンの製作工程を見て、話を聞いた。

配信日時:2023年9月15日 10時00分

ミズノといえば岐阜県内にある養老工場のイメージが強いが、アイアンヘッドの鍛造は広島にある中央工業という会社で長年行われている
ミズノといえば岐阜県内にある養老工場のイメージが強いが、アイアンヘッドの鍛造は広島にある中央工業という会社で長年行われている

ミズノ独自の打感をもたらす「グレインフローフォージド」製法とは?

ミズノのアイアンは、その打感の良さから世界中のゴルファーに愛されてきた。何十年も前の話になるが、著者にとってはゴルフを始めた当初からミズノの軟鉄鍛造アイアンはひとつの憧れであり、「いつかはミズノを使いたい」と思いながら練習に励んでいたものだ。きっと同じようなゴルファーは多いだろう。
 
ミズノのアイアンをミズノたらしめている打感は、同社が世界特許を持つ「グレインフローフォージド製法」という鍛造技術よってもたらされている。その鍛造工程を一手に請け負っているのが、東広島市にある中央工業だ。
 
中央工業は1938年に創業され、1960年代からアイアンヘッドを製造してきた歴史を持つ。自動車部品などで使われる精密鍛造という高い技術力を持っていて、その技術を応用してゴルフ用品の製造も手掛けるようになったという。ミズノとの関係性は古くて深く、実はミズノ独自の「グレインフローフォージド製法」の世界特許は、中央工業との共同出願によるものだったりする。

1972年にミズノから発売された軟鉄鍛造アイアン『グランドモナーク』は、中央工業によって鍛造されたミズノのアイアン初期作。中央工業の社屋では、自社の鍛造アイアンの歴史と実績がこんなふうに額装されていた

1972年にミズノから発売された軟鉄鍛造アイアン『グランドモナーク』は、中央工業によって鍛造されたミズノのアイアン初期作。中央工業の社屋では、自社の鍛造アイアンの歴史と実績がこんなふうに額装されていた

「グレインフローフォージド製法」は、1つの丸棒からネック部とフェース部を一体成型して鍛造する製法で、ネック部になる丸棒の一部を絞り出す工程を経ているところに中央工業ならではの独自性がある。これによって鍛流線と呼ばれる金属組織がネックからフェースまで途切れないヘッドを作り出すことをでき、この鍛流線こそが打音や打感に大きく影響し、ゴルファーに心地よいインパクトフィールを与えている。

長い鋼材の状態から工場内で丸棒に切り出され、熱せられた丸棒。このひとつひとつがヘッドとして鍛造される

長い鋼材の状態から工場内で丸棒に切り出され、熱せられた丸棒。このひとつひとつがヘッドとして鍛造される

中央工業を訪れると、長い鋼材から各アイアンヘッドとなる丸棒が切り出され、高温に熱せられ、何度も鍛造されていく様子を見ることができた。
 
最初に行われる粗鍛と呼ばれる工程では、職人がエアドロップハンマーを用いて丸棒をひとつずつ鍛造していく。足のペダルでハンマーを打ち下ろすのだが、この作業にも3〜5年の修練が必要だという。次に精鍛という工程を数回経て、金属の塊がどんどんアイアンらしい形状へと変わっていく。

熱して絞り出され、くの字になった丸棒をひとつずつ職人が鍛造していく粗鍛という工程

熱して絞り出され、くの字になった丸棒をひとつずつ職人が鍛造していく粗鍛という工程

大きな音とともに打ち下ろされるハンマー。現場では地響きを感じるほどに力強い

大きな音とともに打ち下ろされるハンマー。現場では地響きを感じるほどに力強い

鍛造されてベルトコンベアーで流れてくれるヘッドは、透き通るような黄金色に輝き、まるで新星のようにも見え、著者の目を魅了した。隣にいた編集者がボソリと「新しいアイアンが欲しくなっちゃいました」と漏らすほど。鍛造されたてのヘッドの姿は、本当に美しい。

鍛造されたばかりのヘッドは透き通るような黄金色。温度の低下とともに徐々に赤くなり、鉛色に変わっていく

鍛造されたばかりのヘッドは透き通るような黄金色。温度の低下とともに徐々に赤くなり、鉛色に変わっていく

ミズノだけが、クロモリでも一体成型の鍛造アイアンを開発できる

中央工業で鍛造されているクロモリ素材『Mizuno Pro 243』のヘッド

中央工業で鍛造されているクロモリ素材『Mizuno Pro 243』のヘッド

ミズノのアイアンというと、ヘッド素材にS25CMという軟鉄を採用したフォージドアイアンを思い浮かべるゴルファーがほとんどだろう。実際にマッスルバックの最新モデル『Mizuno Pro 241』はその代表例なのだが、近年ではクロモリ素材を使った鍛造アイアンも作り出している。最新モデルでは、『Mizuno Pro 243』『Mizuno Pro 245』がそれにあたる。
 
近年では、多くのゴルファーがアイアンにも飛距離性能を求めるようになった。そんなゴルファーのニーズに沿うよう、ミズノとしても飛ばせるアイアンを開発する必要があり、そこで新たに目を付けたのがクロモリという素材だ。
 
クロモリは、軟鉄よりも高強度の素材であるため、軟鉄よりもフェースの肉厚を薄く設計することで反発性能を向上し、ボールスピードを上げることができる。また、クロモリは強度がありながら靱性(ねばり)もあるため、アイアンのフェース素材としても適している
 
ただし、高強度の素材でフェースの肉厚が薄くなると、どうしても打感が悪くなってしまう。そのうえ、クロモリ自体が高強度ゆえに加工が難しいという問題もある。
 
そこで中央工業では、クロモリ素材を使いながらも、ネック部とフェース部を一体成型する鍛造方法を新たに確立。同社の高い技術力によって、これまで軟鉄で行ってきた「グレインフローフォージド製法」をクロモリでも行うことに成功した。これができるのは中央工業だけで、言い換えるとミズノにしか、クロモリ一体成型の鍛造アイアンは開発できないということだ。
 
実際に『Mizuno Pro 243』や『Mizuno Pro 245』を打ってみると、飛距離性能と打感の良さを両立していることがよく分かる。これも中央工業による陰ながらの大きな功績といえるだろう。

精鍛の最終段階。職人が目視とノギスを使って製品状態をチェックしている

精鍛の最終段階。職人が目視とノギスを使って製品状態をチェックしている

工場内では、実際に最新モデルの『Mizuno Pro 243』や『Mizuno Pro 245』のヘッドが製造されている工程を見ることができた。はっきり言って素人目には、これまで軟鉄で行われてきた製造工程とクロモリでの製造工程との違いが分からなかったが、クロモリ素材から「グレインフローフォージド製法」によって『Mizuno Pro 243』と『Mizuno Pro 245』が鍛造されているのは間違いなかった。

スコアラインも鍛造で入れられ、完成に近い状態のヘッド

スコアラインも鍛造で入れられ、完成に近い状態のヘッド

ギア 週間アクセスランキング


おすすめコンテンツ

関連サイト