ミズノ独自の打感をもたらす「グレインフローフォージド」製法とは?
ミズノのアイアンは、その打感の良さから世界中のゴルファーに愛されてきた。何十年も前の話になるが、著者にとってはゴルフを始めた当初からミズノの軟鉄鍛造アイアンはひとつの憧れであり、「いつかはミズノを使いたい」と思いながら練習に励んでいたものだ。きっと同じようなゴルファーは多いだろう。
ミズノのアイアンをミズノたらしめている打感は、同社が世界特許を持つ「グレインフローフォージド製法」という鍛造技術よってもたらされている。その鍛造工程を一手に請け負っているのが、東広島市にある中央工業だ。
中央工業は1938年に創業され、1960年代からアイアンヘッドを製造してきた歴史を持つ。自動車部品などで使われる精密鍛造という高い技術力を持っていて、その技術を応用してゴルフ用品の製造も手掛けるようになったという。ミズノとの関係性は古くて深く、実はミズノ独自の「グレインフローフォージド製法」の世界特許は、中央工業との共同出願によるものだったりする。
「グレインフローフォージド製法」は、1つの丸棒からネック部とフェース部を一体成型して鍛造する製法で、ネック部になる丸棒の一部を絞り出す工程を経ているところに中央工業ならではの独自性がある。これによって鍛流線と呼ばれる金属組織がネックからフェースまで途切れないヘッドを作り出すことをでき、この鍛流線こそが打音や打感に大きく影響し、ゴルファーに心地よいインパクトフィールを与えている。
中央工業を訪れると、長い鋼材から各アイアンヘッドとなる丸棒が切り出され、高温に熱せられ、何度も鍛造されていく様子を見ることができた。
最初に行われる粗鍛と呼ばれる工程では、職人がエアドロップハンマーを用いて丸棒をひとつずつ鍛造していく。足のペダルでハンマーを打ち下ろすのだが、この作業にも3〜5年の修練が必要だという。次に精鍛という工程を数回経て、金属の塊がどんどんアイアンらしい形状へと変わっていく。
鍛造されてベルトコンベアーで流れてくれるヘッドは、透き通るような黄金色に輝き、まるで新星のようにも見え、著者の目を魅了した。隣にいた編集者がボソリと「新しいアイアンが欲しくなっちゃいました」と漏らすほど。鍛造されたてのヘッドの姿は、本当に美しい。
ミズノだけが、クロモリでも一体成型の鍛造アイアンを開発できる
ミズノのアイアンというと、ヘッド素材にS25CMという軟鉄を採用したフォージドアイアンを思い浮かべるゴルファーがほとんどだろう。実際にマッスルバックの最新モデル『Mizuno Pro 241』はその代表例なのだが、近年ではクロモリ素材を使った鍛造アイアンも作り出している。最新モデルでは、『Mizuno Pro 243』と『Mizuno Pro 245』がそれにあたる。
近年では、多くのゴルファーがアイアンにも飛距離性能を求めるようになった。そんなゴルファーのニーズに沿うよう、ミズノとしても飛ばせるアイアンを開発する必要があり、そこで新たに目を付けたのがクロモリという素材だ。
クロモリは、軟鉄よりも高強度の素材であるため、軟鉄よりもフェースの肉厚を薄く設計することで反発性能を向上し、ボールスピードを上げることができる。また、クロモリは強度がありながら靱性(ねばり)もあるため、アイアンのフェース素材としても適している。
ただし、高強度の素材でフェースの肉厚が薄くなると、どうしても打感が悪くなってしまう。そのうえ、クロモリ自体が高強度ゆえに加工が難しいという問題もある。
そこで中央工業では、クロモリ素材を使いながらも、ネック部とフェース部を一体成型する鍛造方法を新たに確立。同社の高い技術力によって、これまで軟鉄で行ってきた「グレインフローフォージド製法」をクロモリでも行うことに成功した。これができるのは中央工業だけで、言い換えるとミズノにしか、クロモリ一体成型の鍛造アイアンは開発できないということだ。
実際に『Mizuno Pro 243』や『Mizuno Pro 245』を打ってみると、飛距離性能と打感の良さを両立していることがよく分かる。これも中央工業による陰ながらの大きな功績といえるだろう。
工場内では、実際に最新モデルの『Mizuno Pro 243』や『Mizuno Pro 245』のヘッドが製造されている工程を見ることができた。はっきり言って素人目には、これまで軟鉄で行われてきた製造工程とクロモリでの製造工程との違いが分からなかったが、クロモリ素材から「グレインフローフォージド製法」によって『Mizuno Pro 243』と『Mizuno Pro 245』が鍛造されているのは間違いなかった。