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世界特許を持つミズノの鍛造工場に潜入取材! フォージドアイアンの伝統と進化をこの目で見てきた

世界特許を持つミズノの鍛造工場に潜入取材! フォージドアイアンの伝統と進化をこの目で見てきた

ミズノから2024年モデルとなる『Mizuno Pro』シリーズのアイアンが新発売された。3つのモデルが展開されているが、そのうちの2つのモデルには鍛造のクロモリ(クロムモリブデン鋼)が使われている。なぜ従来の軟鉄ではなくクロモリを使うのか、どうして一体成型にこだわるのか。ゴルフライターの鶴原弘高が鍛造工場の現場に赴き、アイアンの製作工程を見て、話を聞いた。

配信日時:2023年9月15日 10時00分

【ミズノ企画開発者と中央工業の現場責任者に話を聞く】なぜ、クロモリなのか?

中央工業の社屋にて、ゴルフライターの鶴原が2社の担当者に話を聞いた。写真左から、中央工業の山本和夫さん、ミズノ開発企画部の前中健佑さん、ライターの鶴原弘高

中央工業の社屋にて、ゴルフライターの鶴原が2社の担当者に話を聞いた。写真左から、中央工業の山本和夫さん、ミズノ開発企画部の前中健佑さん、ライターの鶴原弘高

鶴原:工場を見学させてもらって、非常にワクワクしましたし、楽しかったです。まず、クロモリ鍛造のアイアンを開発するに至った経緯を教えてください。

前中:飛距離を追求しながらミズノらしい打感を備えたいという思いがあって、2018年頃からクロモリという素材に注目して製品開発に取り組みました。最初に製品化できたのが『JPX 921フォージド』というモデルです。クロモリは、軟鉄に比べると製造段階でのハードルが上がるのですが、そこは中央工業さんが頑張ってくれました。

2020年に発売された最初のクロモリ鍛造モデル『JPX 921フォージド』

2020年に発売された最初のクロモリ鍛造モデル『JPX 921フォージド』

鶴原:クロモリ鍛造になると、具体的にどのあたりが難しくなるのですか?

山本:クロモリは強度が高い素材なので、軟鉄と同じ製法だと、金型に鉄が行き渡らずに充満しません。それらを考慮したうえで、粗鍛から精鍛という鍛造工程での金型設計を変えたり、工程を増やすなどして成功に至ったという経緯があります。

鶴原:比較的すぐにクロモリでも鍛造できるようになったのですか?

山本:いや、お恥ずかしい話ですが、めちゃめちゃ苦労しました(笑)。初期の『JPX 921フォージド』を製造していた頃は、もう本当に大変で……。そういった経験と失敗を積むことによって、段々と製造工程がシンプル化できるようになり、今では新たなものが生み出せるようにもなっています。

鶴原:新たなものとは?

前中:中央工業さんのおかげで、以前のモデルよりもフェースの肉厚を薄くできるようになっています。フェースが薄肉になると反発を上げてさらに飛距離を伸ばせるようになるので、そういった製造技術の進化はミズノのアイアン開発にとっても大きなメリットになっています。

最新モデルの『Mizuno Pro 243』では、フェース厚が前作よりも0.3mm薄肉化されている

最新モデルの『Mizuno Pro 243』では、フェース厚が前作よりも0.3mm薄肉化されている

鶴原:以前、ミズノには軟鉄よりも反発のいい軟鉄ボロン鋼を使ったアイアンもありましたよね。軟鉄ボロン鋼とクロモリには、どういった違いがあるのでしょうか?

前中:強度の面では、軟鉄ボロン鋼よりもクロモリが優れています。フェースを薄肉化するにはクロモリのほうが有利なので、軟鉄ボロン鋼からチェンジしたという経緯があります。

鶴原:軟鉄ボロン鋼のヘッド製造も中央工業が手掛けていたそうですが、それも鍛造するのが大変だったのでしょうか?

山本:そうですね。やはり難しかったです。ですが、今から思えば、軟鉄とクロモリの中間材がボロンだったのかなと思います。いきなり軟鉄からクロモリ鍛造を手掛けるとなると、もっと難しかったんじゃないかなと。軟鉄ボロン鋼の経験があったからこそ、クロモリ鍛造もできたと言えますね。

鶴原:ちなみに、もう軟鉄ボロン鋼が使われることはないのでしょうか?

前中:ウェッジではまだ使用しているモデルがありますよ。軟鉄ボロン鋼は、通常の軟鉄よりも溝の摩耗が少ないメリットがあるんです。

鶴原:JPXシリーズのホットメタルや『Mizuno Pro FLI-HI』には、ニッケルクロムモリブデン鋼という別の素材が使われていますよね。

前中:ニッケルクロムモリブデン鋼は、クロモリよりもさらに強度が高い素材です。鍛造には適していませんが、フェースをさらに薄肉化して反発をより向上できる長所があります。そのあたりの素材もミズノではモデルによって使い分けています。

鶴原:ミズノ側から中央工業に対して、いろんな要望が出てくると思うのですが、困ってしまうようなことはなかったですか?

山本:今でもありますよ(笑)。鍛造製法では薄肉なものほど成型するのが難しくなります。もっとフェースを薄く作ってほしいとミズノさんから依頼があると、正直「え〜っ!」と思います。けれど、私もゴルファーなので、薄肉フェースによって飛距離が伸びたら有利になるというイメージが沸くんですよね。現在の当社の技術力を鑑みて、製造でどこまで攻められるのかを毎回、前中さんと相談してやっています。

前中:山本さんには、毎回しつこいぐらいに「薄くしたい」とお願いしています(笑)

山本:サンプルとして1つ作るだけなら何とかなります。ただ、それを量産化にするとなると、さらに高いハードルを越えなければいけなくなる。とくに新しい素材や製法に挑戦するとなると、なおさらです。

中空構造を採用した『Mizuno Pro 243』でも前作より0.2mmのフェース薄肉化を実現している

中空構造を採用した『Mizuno Pro 243』でも前作より0.2mmのフェース薄肉化を実現している

鶴原:クロモリの「グレインフローフォージド製法」で作られた『Mizuno Pro 243』と『Mizuno Pro 245』は、前作よりもフェース厚が薄くなっていますよね。それなのに打ってみると、打感が前作よりも良くなっていることに驚きました。どういった工夫があるんでしょうか。

前中:インパクト時のヘッドの振動を周波数解析すると、前作では8000Hzあたりの金属的な高音があることが分かりました。これを改善するために新作ではトップブレードの肉厚などを調整しています。

鶴原:それがミズノ独自の「HIT(ハーモニック インパクト テクノロジー)」という技術ですね。軟鉄鍛造のマッスルバック『Mizuno Pro 241』とも打ち比べたのですが、『Mizuno Pro 243』と『Mizuno Pro 245』の打感は軟鉄鍛造と遜色ないものに仕上がっていました。

前中:本当に中央工業さんの協力があって、ミズノの打感に対するこだわりを損なわず、新しいモデルを作り出すことができていると思います。

鶴原:こうやってクラブの開発者と製造者がガッツリとタッグを組むことで、フォージドアイアンがさらに進化していることがよく分かりました。ありがとうございました!

ミズノが考える、真の“フォージド”アイアンとは?

フォージドとは鍛造を意味する言葉だが、現代ではフォージドアイアンというカテゴリーに多種多様なモデルが含まれている。例えば、ボディのみが軟鉄鍛造でフェース部に反発のいい板材を使っているモデルや、鋳造のボディにクロモリの鍛造フェースを使っているモデルでも、ネック部分には「FORGED」と刻まれている。だが、おそらくミズノではそれらを“フォージド”とは認めていない。軟鉄であれクロモリであれ、ネック部からフェース部までが一体鍛造で作られているものこそ、ミズノにとっては真の“フォージド”なのだ。そして、飛距離性能を備えるクロモリ一体鍛造アイアンという新たな存在が、ミズノにとっての“フォージド”を新たなフェーズに突入させるものになっている。

ミズノプロ、最新モデルの詳細は公式ホームページを参照↓

https://jpn.mizuno.com/golf/mizunopro?did=dtctop_topbn

 

●写真/田中宏幸

●構成・文/鶴原弘高

●取材協力/中央工業株式会社

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