なぜ、オデッセイが【三角ネック】? 本当に真似じゃないのか? 担当者を尋問した
【三角ネック】のパターといえば、テーラーメイドの『トラス』と相場が決まっている。が、今年まさかの展開で、オデッセイが『TRI-BEAM』という三角ネックを発売予定。一体どういうことなのか?オデッセイ担当者を鋭く追求した!
配信日時:2023年4月7日 04時18分
三角の形は違うが、特許は大丈夫?
テーラーメイドが、三角ネックの『トラス』を大ヒットさせたことは、誰もが知っている。出てきた当初、筆者は奇抜な形を敬遠して見向きもしなかったが、稲見萌寧を例に女子プロたちがその性能を証明。こうなれば掌返しするのがゴルファーで、もはや【奇抜】から【高性能】の象徴になった向きすらある。
そんな【三角ネック】を天下のオデッセイが後から真似するなんて道理に反する。「三角ネックはテーラーメイドのモノだろ!」と突っ込みたくなるのがゴルファーの自然な反応だ。そこで、オデッセイのパター担当者に「特許侵害じゃないのか?」との勢いで、尋問開始。その第一声はこうだ。
「言いたいことは分かりますが、特許侵害など一切なく、オデッセイが三角ネックの研究を重ねて出した答えが【建築の梁(BEAM)の強度から着想を得た、ラケットホーゼル】です。三角は同じ形ではなく、オデッセイは直角三角形。ネック形状に縛りがあるなら、クランクネックやショートスラントネック、#1のブレード型も、#7のツノ型も全てダメだと言いたいのですか?」(オデッセイ担当者)
この反論に、いきなり気勢をそがれた筆者。たしかに、クランクネックもショートスラントも全メーカーが採用している……。そして【ピン型】と一般に呼ばれるクランクネックブレードも、元々PINGが『ANSER』や『ANSER2』をヒットさせ、今では全メーカーにこの形状ラインナップがある。もちろんテーラーメイドにも……。
加えて、#7のツノ型はオデッセイがやり始めだが、PINGふくめほぼ全メーカーにラインナップが広がっている……。しかしながら、たとえ特許侵害がなくても、『トラス』を真似たのは事実ではないのか? この程度で筆者が引き下がると思ったら大間違いだ。
ネック“軽量化”の課題を解決!?
「真似したとの表現は適切ではありません。女子ツアーを中心に、長年ホワイト・ホットインサートに信頼が厚いものの、どうしてもプロから【三角ネックはないの?】と問われて来たのがここ数年の現状。だったらオデッセイも【強いネック形状を作ろう!】となった経緯です。そもそもツアープロからの強い要望が発端なんですよ。
三角ネックは既に『トラス』でツアー成績が証明されていることもありますし、既存のモノより強いモノを作りたかった。研究を重ねる中で、三角形で支えると安定性が増す反面、三角ネック部分に重量が取られてしまう弱点が判明したため、【軽量化しつつ、安定性を増す】という、難題の解消に向かう方向になりました」(同)
これには筆者も思い当たるフシが……。以前、三角ネックで少し左に打ち出す傾向があったが、その時はインサートの食いつきの問題と思い、ネック重量になど想像が及ばなかった。オデッセイの研究では、試作段階では60gもあった三角ネックの重量だったところが、研究を重ね『TRI-BEAM』で約36gと半減に成功したとか。
通常のクランクネックは20~30gとのことで「これに近い重量になった」と胸を張る担当者だが、こんな言い分で筆者の疑念が消えるワケがない。さらに輪をかけて強烈な疑問を担当者に突きつけた。
「三角の底面がトラスより幅の狭い支え方なのに、同じ打点ブレの強さになるはずがないのでは?」。加えて、三角ネック部分がかなり軽量になったなら、なおさら「ネックの強度が弱くなっているのではないのか?」と。
“H字”断面で強度と軽量化◎
「それが違うんです。今回の『BEAMネック』の由来は“梁”と言いましたが、梁のように軽量化と強度が必要なものにどんな構造材が使われるかというと、断面がH字もしくはI字の『I-Beam』と呼ばれる鋼材です。BEAMネックの真ん中の部分は薄くなっていますが、両サイドの柱を含め、断面をH字の形状にして、強度と軽量化を両立させました」(同)
三角ネックの底面が狭い問題を指摘して食い下がるも「実はクランクネックの幅でもH字の構造は効果があります」と頭を振る担当者。さらなる強化で、今回の直角三角形になったのだが「構えやすさを犠牲にしないギリギリを目指した」と言う。
「三角の底面が幅広なほど、従来のネックに見慣れたプロが使えなくなります。ですから、十分な当たり負けの強度を持つ直角三角形にすることで、これまでのクランクネックに慣れた方でも移行しやすい見た目をキープしています」(同)
たしかに実際に構えて、体に近い側が末広がりか?それとも『TRI-BEAM』のようにストンと落ちているか?は大違い。『トラス』はここに大きな三角の面があることで違った安心感も感じるが、従来パターと違和感がないのは『TRI-BEAM』に違いない。
ヒール打点に強く、転がりも◎
ここは、「男子プロたちの反応にもよく現れている」のだとか。『トラス』の場合、PGAツアーや国内男子プロたちの使用者も少ないが、『TRI-BEAM』は投入したての先週の開幕戦で既に5名の使用者がおり、テスト要望が引きも切らない状態だとか。やはり、この辺りは長年使用率1位のホワイト・ホットインサートの影響もあるのか……。
「もちろん、そのツアーフィードバックはあります。やはり、インサートの反発性の良さから【飛んでくれる】【同じ振り幅でも転がる】との声があります。加えてインサートを埋め込むくり抜き部分で、既に20~30gもの周辺重量配分があることも見逃せません。ホワイト・ホットインサートは反発性だけじゃなく、ミスヒットに元々強いので」(同)
一通りラインナップが目の前にあったが「そこまで疑うなら、この場で転がしては?」と担当者。会議室のカーペットだが、筆者は担当者に気づかれないよう、敢えて打点をトウとヒールに外しまくり(約1.5~2cm)方向をブレさせようと画策。が、悔しいことに初球に4球連続で当たり続けてしまう……。また、形状ラインナップの強さに気づいて興奮し、あろうことか疑念が吹っ飛んでしまった……。
新ダブルワイドが超ズルい!
既報の通り、上田桃子が『TRI-BEAM DW(ダブルワイド)』で開幕から優勝争いをしたが、この『TRI-BEAM』は今までの『ダブルワイド』よりフェース長がかなり短い。2倍ワイドなブレード型として出てきたが、フェースが短く「もはやマレット」的な見え方となっていた。
⇒⇒上田桃子、種子田香夏のTRI-BEAM『DW』がもはやブレード型ではない件
つまり、ブレード型ユーザーも、マレット型ユーザーも、両方とも移行しやすい要素を併せ持った上で『BEAMネック』が採用されている。コレが強くないワケがない。そして、直近の男女ツアーの使用者を調べてみると「案の定」の結果だった……。
【男子プロは、4/5人がDW】
杉山知靖(DW)、H・W・リュー(DW)、比嘉拓也(DW)、小西貴紀(DW CS)、塚田陽亮(6M)
【女子プロは、7/12人がDW】
上田桃子(DW)、エイミー・コガ(DW)、鶴瀬華月(DW)、奥山友梨(DW)、種子田香夏(DW)、フェービー・ヤオ(DW)、工藤優海(DW CS)、河本結(#1)、葭葉ルミ(#1)、柏原明日架(TWELVE)、神谷そら(TWELVE)
現状でも男女プロの64.7%が『TRI-BEAM DW(ダブルワイド)』を使用する異常事態になっている。考えてみれば、昨年の開幕時から女子ツアーではトラス人気と同時に【幅広ブレード人気】という新たなトレンドが出てはいたが、コレが今年は男子ツアーにも広がり始めたわけだ。
新たなDWのトレンドに気づいてあまりに興奮する筆者に、冷めた眼で担当者が改めて問う。「そろそろ終わりにしていいですか? それとも、まだトラスの真似だと疑いますか?」。当てが完全に外れた筆者が、即座に引き上げたことは言うまでもない……。
Text/Mikiro Nagaoka