テーラーメイド『Qi10』シリーズは「やさしいと評判の名器」と、どこまで差がある?
テーラーメイドの新作『Qi10』シリーズのドライバーの性能について、さらに掘り下げ。過去の名器と比較してどこまで利点があるのか?
配信日時:2024年2月22日 01時46分
まずは10Kの『Qi10 MAX』に注目!
前回は、テーラーメイドがいかにして「業界最大級の上下左右MOIである10Kを達成したか?」をひも解き、新しい同社のテクノロジー面を掘り下げた。が、最も大事なのは、我々一般ゴルファーにとっての打った時のメリットだ。
そこで、大ヒットしてアベレージゴルファーの多くを救ってきた、過去の評判の高い名器と、今作『Qi10』シリーズを比較してみることにした。テストするのは、前回の吉川仁プロに加えて、ドラコン出場歴も多数ある4Plus Fitting Labo & Golf Salonの長谷川ケントプロを加え、精密にテストしていく。
計測はトラックマンとGCクワッドを併用し、1球ずつ打点をチェックして、フェースセンターからどのくらい離れた打点かを確認。10K・MOIの『Qi10 MAX』、約8,500・MOIの『ステルス2』、約8,700・MOIの『SIM2 MAX D』のボールの散らばりや弾道傾向を比較してもらった。
過去の名器からどう進化した?
吉川仁プロの純正シャフトの『Qi10 MAX』の試打寸評は「今までのテーラーメイドにも、他社にも無かった高MOIで、真っすぐ構えた後はフェース開閉せず小細工も入らず、ドーンと真っすぐ球を目標に運べてラク過ぎます。しかも、スピンが増えすぎずに飛ばせます」というもの。これ以上のヘッドなんてあるの?と絶賛したが、ヘッドスピードの速い長谷川プロはどうか。
「3年前の『SIM2 MAX D』から打ち始めて、去年の『ステルス2』の次に今年の『Qi10 MAX』を打ったのですが、スイング中の動きに【高MOI特有のお尻が垂れて遅れる動き】がないとハッキリ感じられますね。純正シャフトではボクのヘッドスピード(最大56m/s)に合わないため、公平を期すため同じ『ベンタスTRブルー』の6Sで打ちましたが、同じシャフトだから余計にヘッド挙動の差を感じます。
他社の高MOIヘッドを何度テストしても、毎回ボクには【ヘッドが付いて来てくれない】と感じて、ヘッド後方が垂れてスピンが増え過ぎることばかり。『Qi10 MAX』にはそれが無いから、この投影面積の大きさと10Kの極限MOIなのにすごく実戦的でコリン・モリカワ選手やネリー・コルダ選手、永峰咲希プロが投入する気持ちもよく分かるなと」(長谷川プロ)
ヘッドスピードが速い人でも使える高MOIヘッドは、「ボクには初めての経験。右ペラが出ないことも含めて衝撃です」と、驚きを口にする。
過去の名器と、つかまえ方が違う
過去の名器、特に『SIM2 MAX D』は約8,700・MOIと『Qi10 MAX』が出るまでは同社史上最高MOIの部類で、巷で『SIM2』シリーズは「高MOIで過去1、2を争うほど曲がらない」と言うゴルファーも多かった。が、長谷川プロは「Qi10 MAXだけは、つかまえ方の種類が『SIM2 MAX D』とは全く違う」と言う。
「テーラーメイドには“D=DRAW”、“HD=HIGH DRAW”の名の、ドローバイアスでつかまる名器が多々ありましたが、『Qi10 MAX』とはつかまえ方の“質”が違いますね。ヘッドスピードが速い人がD系だとフェースターンが強すぎて左に巻いて使えなかったけど、『Qi10 MAX』はいい意味で適度。フェース自体が動きづらいので、極端なプルフックやチーピンがない安心感が丸っきり違います。
かといって『右に滑るか?』と言えば、それも無いのが不思議。とにかく、切り返した後に高MOIで必ずつきまとう【お尻が垂れる動きがない】から、違和感や減速もないし、インパクトゾーンでもフェース開閉が少なくストレートにドーンと押す感じ。インパクト中の開閉も少なく、フック幅もスライス幅も小さくなりますね。スピン量も試しにHS53m/s近くで振っても最大3,100rpmでフケ球も皆無でした」
吉川プロも頷き、「我々はインパクト中の開閉というか、入口と出口のフェース角、打点ブレによる軌道に対するフェース向きの変わり方を計測器でチェックしますが、明らかに『SIM2 MAX D』や『ステルス2』より『Qi10 MAX』の方がフェースがスクエアに動く時間が長い。だから、今までのドローバイアスのクラブとは別物なのでは?」と言う。
全てのスピード帯でオールOK
この動きの差が、ボールの散らばりに如実に差が出た。『Qi10』シリーズと過去の名器のセンター打点でヘッドスピードを変えて打つと、シャフトは同じ『ベンタスTRブルー』(6S)で長谷川プロはあらゆるスピード帯で『Qi10 MAX』が最もブレない結果に。吉川プロも同様にいろんなスピード帯で同様の結果に。
そのため「純正シャフトの50Sならもっと下からですが、ベンタスTRブルーなどカスタムシャフトにすれば『Qi10 MAX』はあらゆるスピードでオールOKというか、FWキープしたい万人に結果が出ると思います」と言う。ただ、打点を外すテストでは「HS50m/s以上で振ると、トウ打点では少し違う結果だった」と長谷川プロ。
「抑えたスピード帯はツイストフェースも効くのか、トウ打点でも適度にドローで目標に戻ってくるし、フェースが開くミスでも右抜けが少ないです。でも、フルスイングに近い50m/sは重心角が大きい影響か、ドローヒッターのボクにはつかまりが強くなり過ぎました。ただ、フェードヒッターなら全然使えるというか、その辺りはコリン・モリカワ選手がいい例ですよね」(長谷川プロ)
ヒールもOKなのが10Kの補正力
そして、ヒール打点に関しては、吉川プロがこう言う。
「ボクも長谷川プロもお店のお客様のほとんどが、打点を外すのはトウ側が多いんですよ。そもそも、ヒール側に打点を外す保険をかけないから、テストも除外していますし。ただ、今回怖いけどネックに当てるつもりでワザとヒールで打つと、過去の名器と『Qi10』シリーズの差はすごく感じましたね。
適度なイン・トウ・イン軌道のボクが約1.5cmヒール側に外しても、ドローバイアス系の『SIM2 MAX D』は低い打出しで左にいく球が多いのに、『Qi10 MAX』だとフェードがかかって目標に戻ってくる球がほとんど。これが【10Kの補正能力】というか、後ろから真っすぐブレずに押すヘッドは全然違いますね」
ヒール打点のミスは、頻発するというより「不意に出るもの」と捉える上級者の2人だが、『Qi10 MAX』ならその点も補正してくれるとお墨付きを出した。
『Qi10 MAX』から打てば合うものが分かる
そのため、試打やフィッティングの仕方も「当然、まずは『Qi10 MAX』から打つべき」と、声を揃える。
吉川プロは「スピン量が増えすぎずに、お尻が垂れない極限MOIのヘッドは初めて。だから、ヘッドスピードやパワーの先入観を捨てて、全員がまず『Qi10 MAX』から打つべき。スピン量やインパクト中の開閉や、合うシャフトなどは、ヘッドが決まってからでいいので、まずは10Kを体験する方が先ですね」と言う。
長谷川プロも「ステルスやステルス2で『プラス』を選んだ自分も含めて、投影面積の大きなヘッドを食わず嫌いする人が多いと思いますが、それは間違いなく損ですね。『Qi10 MAX』から打ってみて、スピン量や操作性が必要なら『Qi10』と『Qi10 LS』に自ずと合う使うべきモノが見つかります」。
事実、『Qi10 LS』だったローリー・マキロイが『Qi10』に直近で移行したり、『ステルス2プラス』だった久常涼や岩崎亜久竜が『Qi10』を選ぶなど、今作では様々な変化が見て取れる。これまで『D』や『HD』だった人、そしてスタンダードな真ん中を使ってきた人も、今年は『Qi10 MAX』にハマる空気が、ビンビンに漂っている。
取材協力/4Plus Fitting Labo & Golf Salon
撮影/山代厚男