メキシコシティから西に550キロに位置するグアダラハラ。ロレーナ・オチョアの生まれ育った故郷には温暖な気候を求めて世界中から富裕層が集まっている。高層ビルが建ち並ぶ一画もある一方で、貧しい地域も大きく広がり貧富の差が激しいというのは、メキシコならではなのかもしれない。

グアダラハラから車で約45分、ラ・バランカという小さな街に“学校”がある。一歩校舎に足を踏み入れるとそこには子供たちの笑い声がこだまする別世界。“ラ・バランカ・スクール”には小学校から高校までの約360名の生徒たちが通っている。創設したオチョアが教室に入ると子供たちに一気に囲まれた。

2010年5月、世界ランキング1位のオチョアは「ゴルフトーナメントで勝つことよりも、Giving Back、恩返しすることが私にとっては大事なこと」と28歳の若さで電撃引退した。オチョア自身は「ツアーで戦うのは10年まで」と決めていたという。引退後の翌年には第一子をもうけて、今や3人の母となり超多忙な日々を送っている。

オチョアと「学校」が出会ったのは05年のこと。地元のチャリティトーナメントに出場していた際に、資金が困窮している学校が閉鎖の危機に直面していることを知った。07年から“ロレーナ・オチョア基金”が協力し、08年からは運営を引き受けた。当時はまだ現役だったが「子供たちにとって家族の次に大事なことは教育を受けること。ここに来る度に子供たちからたくさんのエネルギーをもらいゴルフを続けることができた」と振り返っている。

学校では授業の他に一日2食、朝食と昼食が支給され授業料は1カ月2ドル（約290円）のみ。片道2時間を歩いて通ってくる生徒もいるという。メキシコシティに拠点を置くオチョアは子育てとグアダラハラとの往復、さらに資金を集めるために“ロレーナ・オチョア・チャリティトーナメント”を世界中で開催。卒業生はすでに6千人を超えた。

「夢はアカデミーをメキシコ全土に広げること。南米全土でも良いわ（笑）忙しいのは大好き」と笑うオチョア。この〝Giving Back〞こそが今もメキシコで最も尊敬されるアスリートとされる理由なのだ。