節目の第10回大会を迎えた「カストロールレディース」のこれまで、そしてここから 〜BPカストロール株式会社 代表取締役社長 小石孝之
レギュラーツアーへの出場資格を持たない選手や新人選手らに、試合経験の場をつくることなどを目的に1991年に設立された「ステップ・アップ・ツアー」。現在20試合が開催されるなど、年々そのツアーの価値は高まりを見せている。
配信日時:2019年8月29日 07時00分
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カストロールレディースの過去、未来を聞く
レギュラーツアーの“下部”という位置づけながら、近年はここでの活躍そのままにレギュラーでも結果を残す選手も多く、ツアー自体が大きな盛り上がりを見せるステップ・アップ・ツアー。今年から「パナソニックレディースオープン」がレギュラーツアーに参入したこともあり、昨年よりは1試合減ったものの、試合数は年間20試合を数える。
しかし、ほんの数年前の2010年、その試合数はわずか4試合だった。その年に主催4社のうちの1社としてツアー参入を果たし、以降開催を続けているのがBPカストロール株式会社だ。まだ“黎明期”とも呼べる時代から開催を続けている同社が抱く「カストロールレディース」への思いとは、一体どんなものなのか?
今年の大会が行われた7月31日〜8月2日に試合会場を訪れ、同社の代表取締役社長・小石孝之氏と、大会事務局長を務めるコンシューマー事業部 関東第1支店支店長・檜垣峰男氏に話を聞いた。(取材・文/間宮輝憲)
しかし、ほんの数年前の2010年、その試合数はわずか4試合だった。その年に主催4社のうちの1社としてツアー参入を果たし、以降開催を続けているのがBPカストロール株式会社だ。まだ“黎明期”とも呼べる時代から開催を続けている同社が抱く「カストロールレディース」への思いとは、一体どんなものなのか?
今年の大会が行われた7月31日〜8月2日に試合会場を訪れ、同社の代表取締役社長・小石孝之氏と、大会事務局長を務めるコンシューマー事業部 関東第1支店支店長・檜垣峰男氏に話を聞いた。(取材・文/間宮輝憲)
10度目の開催…節目の大会を迎えて
今年10回目を迎えた「カストロールレディース」の会場は、本拠を英国に置く世界トップのプレミアム潤滑油メーカー「Castrol(カストロール)」の看板やのぼりであふれている。毎年おなじみとなった“緑に包まれた光景”のなか、今年も選手たちは額に汗を流しながら1打を競い合っていた。
「あっという間の10年間。『もう10回なんだ』という感じですね」。その会場を眺めながら、小石社長はこんな感慨を口にした。
もともと「少しでもレギュラーツアーに出られない選手たちのチャンスを広げてあげたい」という思いで始まった大会。同社が属する自動車業界にゴルフ好きが多く、プロアマがビジネスにとって大きなコンテンツになることもあり、現在まで続いてきた。
この間には、ツアーを取り巻く環境も大きく変化していった。昨年のステップ賞金ランク1位の河本結は、下部ツアーながら約1821万円を稼ぎ出すなど、その規模は徐々に大きくなりつつある。そんな10年間をふまえ、小石社長は当時と今の違いについて、こう説明する。
「試合数が少なかった当時は、レギュラーツアーに出られない選手が、自分の力を試すための場所でした。しかし、今は試合が増えたこともあって、ステップでも『ここは休もう』というように、いうなればレギュラー的な思考で休息をとる週を設定する選手もいます。そういう意味では、我々スポンサーサイドの考え方は変わっていないけど、選手の考え方は変わってきていますね」
“黎明期”ともいえる頃から、ステップ・アップ・ツアーを見続けている小石社長だからこそ感じる、時代の流れ。いかに女子ツアーが恵まれた舞台になっているのかということが、その言葉を聞くだけでも伝わってくる。
「あっという間の10年間。『もう10回なんだ』という感じですね」。その会場を眺めながら、小石社長はこんな感慨を口にした。
もともと「少しでもレギュラーツアーに出られない選手たちのチャンスを広げてあげたい」という思いで始まった大会。同社が属する自動車業界にゴルフ好きが多く、プロアマがビジネスにとって大きなコンテンツになることもあり、現在まで続いてきた。
この間には、ツアーを取り巻く環境も大きく変化していった。昨年のステップ賞金ランク1位の河本結は、下部ツアーながら約1821万円を稼ぎ出すなど、その規模は徐々に大きくなりつつある。そんな10年間をふまえ、小石社長は当時と今の違いについて、こう説明する。
「試合数が少なかった当時は、レギュラーツアーに出られない選手が、自分の力を試すための場所でした。しかし、今は試合が増えたこともあって、ステップでも『ここは休もう』というように、いうなればレギュラー的な思考で休息をとる週を設定する選手もいます。そういう意味では、我々スポンサーサイドの考え方は変わっていないけど、選手の考え方は変わってきていますね」
“黎明期”ともいえる頃から、ステップ・アップ・ツアーを見続けている小石社長だからこそ感じる、時代の流れ。いかに女子ツアーが恵まれた舞台になっているのかということが、その言葉を聞くだけでも伝わってくる。
大きな転換期となる3日間大会への変更
そんなツアーの流れに合わせるように、節目を迎えたカストロールレディースにも、今年1つの大きな変化があった。それが3日間大会になったこと。昨年までは2日間で勝負を決してきたが、今年から予選ラウンド2日間の後に、決勝ラウンドで優勝者を決める大会となった。
レギュラーツアーでも4日間競技が増えるなど、現在のLPGA(日本女子プロゴルフ協会)は『世界に通用するツアー』を目指し歩みを進めている。3日間大会なら世界ランクの加算対象試合にもなり、この流れはLPGAの肝いりともいえるものだ。
「3日間大会が増えるなかでも、『うちは2日間で』なんていう考えもありましたが、小林(浩美LPGA会長)さんらからは『いずれは3日間で』という話も出ていた。よりレギュラーに近い形で大会を開催して欲しい、という思いがLPGAさんにはありますからね」
こう小石社長は背景を説明する。大会事務局長を務める檜垣氏は、「予算取りが変わるし、体力勝負にもなります(笑)。でも運営面で変わった部分はないですし、単純に1日伸びた、という感覚だけです」と話す。だが、やはり試合展開をみると、2日間と3日間では大きく異なってくる。
小石社長も、「やはり3日間のほうが面白さはありますよね」と語る。「2日間でも初日が終わって、団子状態になると、『これがどうなるのかな?』というワクワク感はあった。でも3日間だと、本当に調子のいい選手達が予選を通って、最終日に優勝を争う。この暑さですから、体力がない選手は厳しい戦いになりますが、見ごたえはありますよね」。無類のゴルフ好きでも知られるだけあって、ギャラリー的な視点でも、大会を楽しんでいた。そして、来年以降も3日間大会は継続の予定だ。
レギュラーツアーでも4日間競技が増えるなど、現在のLPGA(日本女子プロゴルフ協会)は『世界に通用するツアー』を目指し歩みを進めている。3日間大会なら世界ランクの加算対象試合にもなり、この流れはLPGAの肝いりともいえるものだ。
「3日間大会が増えるなかでも、『うちは2日間で』なんていう考えもありましたが、小林(浩美LPGA会長)さんらからは『いずれは3日間で』という話も出ていた。よりレギュラーに近い形で大会を開催して欲しい、という思いがLPGAさんにはありますからね」
こう小石社長は背景を説明する。大会事務局長を務める檜垣氏は、「予算取りが変わるし、体力勝負にもなります(笑)。でも運営面で変わった部分はないですし、単純に1日伸びた、という感覚だけです」と話す。だが、やはり試合展開をみると、2日間と3日間では大きく異なってくる。
小石社長も、「やはり3日間のほうが面白さはありますよね」と語る。「2日間でも初日が終わって、団子状態になると、『これがどうなるのかな?』というワクワク感はあった。でも3日間だと、本当に調子のいい選手達が予選を通って、最終日に優勝を争う。この暑さですから、体力がない選手は厳しい戦いになりますが、見ごたえはありますよね」。無類のゴルフ好きでも知られるだけあって、ギャラリー的な視点でも、大会を楽しんでいた。そして、来年以降も3日間大会は継続の予定だ。
10年を振り返って思うこと
一言で“10年間”というが、それは決して短いものではない。ここに至るまでに、千葉を舞台に数多くのドラマが生み出されてきた。
そこで小石社長に、印象に残っている大会を聞いてみた、すると真っ先に返ってきた答えが、「大竹エイカが勝った試合(2014年)ですかね」というものだった。同社の契約プロでもあった大竹が、大会初の“ホステスV”を成し遂げた年とあって、今も鮮明に記憶に残っている。
「あとは…」と言って、もう1つ挙がったのが16年大会だった。山城奈々が、佐々木慶子と争ったプレーオフで、あわや池ポチャというセカンドショットからバーディを奪い、劇的勝利をおさめた年だ。小石社長は、その一つひとつの場面をとてもクリアに、そして淀みなく語る。記憶はいつも鮮明だ。
だが、順風満帆とばかりにはいかなかった。11年に起きた東日本大震災もその一つだ。未曾有の災害に襲われたことで、開催の是非すら問われるのが当時の状況。電力不足なども取りざたされ、一時は関西での開催も視野に入れた。それでも変わらず千葉開催を踏み切ったのは、ゴルフで少しでも盛り上げたいという思いからだった。
参入当時と今を比べて、小石社長が一番の違いを感じるのが、選手層だ。「10年前にジュニアだった選手が、今28〜30歳と円熟期を迎えています。当時と今の選手とでは、ジュニアからプロになる時点でのレベル、技術、メンタル面での強さ、この差が大きく違いますよね」。宮里藍の活躍などもあり、女子ゴルフ界が底上げされていることを大会を開催し続けることで実感する。
そして、長きにわたり女子ツアーに携わる身として、こんな思いも抱く。「今の19〜21歳くらいの選手は、苦しい時代を知らない。レギュラーも苦しい時代は試合数が少なくて、樋口(久子)さんはじめ、協会が奔走してました。今はスポンサーも増えたし、特にレギュラーは何十年も続けている主催さんもいる。そういう人に対する敬意は忘れてほしくはないですね」。人気絶頂ともいえる現在の女子ツアーだが、“飽食”ともいえる状況を当たり前とは思って欲しくない、そんな“親心”のようなものも垣間見えた。
そこで小石社長に、印象に残っている大会を聞いてみた、すると真っ先に返ってきた答えが、「大竹エイカが勝った試合(2014年)ですかね」というものだった。同社の契約プロでもあった大竹が、大会初の“ホステスV”を成し遂げた年とあって、今も鮮明に記憶に残っている。
「あとは…」と言って、もう1つ挙がったのが16年大会だった。山城奈々が、佐々木慶子と争ったプレーオフで、あわや池ポチャというセカンドショットからバーディを奪い、劇的勝利をおさめた年だ。小石社長は、その一つひとつの場面をとてもクリアに、そして淀みなく語る。記憶はいつも鮮明だ。
だが、順風満帆とばかりにはいかなかった。11年に起きた東日本大震災もその一つだ。未曾有の災害に襲われたことで、開催の是非すら問われるのが当時の状況。電力不足なども取りざたされ、一時は関西での開催も視野に入れた。それでも変わらず千葉開催を踏み切ったのは、ゴルフで少しでも盛り上げたいという思いからだった。
参入当時と今を比べて、小石社長が一番の違いを感じるのが、選手層だ。「10年前にジュニアだった選手が、今28〜30歳と円熟期を迎えています。当時と今の選手とでは、ジュニアからプロになる時点でのレベル、技術、メンタル面での強さ、この差が大きく違いますよね」。宮里藍の活躍などもあり、女子ゴルフ界が底上げされていることを大会を開催し続けることで実感する。
そして、長きにわたり女子ツアーに携わる身として、こんな思いも抱く。「今の19〜21歳くらいの選手は、苦しい時代を知らない。レギュラーも苦しい時代は試合数が少なくて、樋口(久子)さんはじめ、協会が奔走してました。今はスポンサーも増えたし、特にレギュラーは何十年も続けている主催さんもいる。そういう人に対する敬意は忘れてほしくはないですね」。人気絶頂ともいえる現在の女子ツアーだが、“飽食”ともいえる状況を当たり前とは思って欲しくない、そんな“親心”のようなものも垣間見えた。
決して変わらない“大会の哲学”
これからも大会主催を通じて、女子ゴルフ界への貢献を続けていく気持ちに変わりはない。そんな小石社長に、カストロールレディースの“未来予想図”を聞いてみた。すると、まずは大会がこれまで徹底してきた『プロのための大会である』という方針は変わらないことを断言した。
カストロールレディースにはアマチュアの出場枠は用意されていない。それは、こんな理由からだ。
「プロとアマの違いは、ゴルフでお金を稼いで生計を立てていくかどうか。五輪のことを考えると、アマチュアの子たちの腕試しの場所は必要だけれど、それはオープン競技や高校の大会などたくさんある。でもプロは違う。例えばQT200位の選手はステップでも推薦がないと出ることができない。下手すれば1年で1試合も出られないという選手もたくさんいる。ステップの試合数が増えることによって、下位の選手にも月に1回は試合に出られるようなチャンスが平等にあればいいかなと思う」
それもあって、同社が推薦する選手を決める時にこんな意思も働かせているという。
「今年でいうとQTランクで大会に出られたのは、165位くらいまでの選手です。そうなると本来は166位〜200位くらいまでの選手が推薦の対象になるのですが、この大会はさらにその下、200位以下の選手も推薦しています。少しでもチャンスを与えてあげたいなというのもあるし、QTランクだけでなく、選手の多様性も考えて選ぶというのが今の基本。そこはこれからも変わらない部分でしょうね」
そして改めて「プロだけの大会というのは今後も変わらない」と繰り返した。「僕が引退したらどうなるかは分からないけど(笑)」と冗談めかした小石社長だったが、すぐさま檜垣氏は「その意思は引き継がれますよ」と笑った。大会がこだわる部分がブレることはない。
カストロールレディースにはアマチュアの出場枠は用意されていない。それは、こんな理由からだ。
「プロとアマの違いは、ゴルフでお金を稼いで生計を立てていくかどうか。五輪のことを考えると、アマチュアの子たちの腕試しの場所は必要だけれど、それはオープン競技や高校の大会などたくさんある。でもプロは違う。例えばQT200位の選手はステップでも推薦がないと出ることができない。下手すれば1年で1試合も出られないという選手もたくさんいる。ステップの試合数が増えることによって、下位の選手にも月に1回は試合に出られるようなチャンスが平等にあればいいかなと思う」
それもあって、同社が推薦する選手を決める時にこんな意思も働かせているという。
「今年でいうとQTランクで大会に出られたのは、165位くらいまでの選手です。そうなると本来は166位〜200位くらいまでの選手が推薦の対象になるのですが、この大会はさらにその下、200位以下の選手も推薦しています。少しでもチャンスを与えてあげたいなというのもあるし、QTランクだけでなく、選手の多様性も考えて選ぶというのが今の基本。そこはこれからも変わらない部分でしょうね」
そして改めて「プロだけの大会というのは今後も変わらない」と繰り返した。「僕が引退したらどうなるかは分からないけど(笑)」と冗談めかした小石社長だったが、すぐさま檜垣氏は「その意思は引き継がれますよ」と笑った。大会がこだわる部分がブレることはない。
レギュラーツアーへの“昇格”は?
では、逆に変わる部分はあるのか? ためしに『レギュラーへの昇格は?』という質問を投げてみると、小石社長は笑いながら「たぶん行きません」と言った。そして、こんな話を聞かせてくれた。
「1、2回目までは『いずれはレギュラーに!』なんて言ってました。でも、最近はステップのままでいいかなと思っています。ビジネスの側面から考えるとプロアマがとても重要。そのなかで、カストロールレディースは1社単独開催で、協賛が入ってないので、プロアマにしろ前夜祭にしろファミリー的な雰囲気が作れるんです」
確かにプロアマの様子を見ると、プロと参加するアマチュアの距離がすごく近く、スイング指導などが密に行われている姿を目撃する。
その光景について話すと檜垣氏は、「もちろんレギュラーで活躍して欲しい気持ちは前提にありますが、大会も10回目の開催になるとゲストとプロの選手もつながり始めて、『久しぶり』という挨拶をかけあったり、雰囲気もよくなっています。そこから他の大会に推薦してもらえたり、コネクションができている。本当にいい大会になっているし、積み重ねが出てきました」と語った。このステップ・アップ・ツアーというなかで、一つの文化を作り上げてきた自負がある。
そして今年の大会は小石社長をはじめ、カストロールにとって、新たに“印象に残る”大会の一つとなった。それは、契約プロの井上りこがツアー初優勝をこの大会で挙げたからだ。その姿を見届けた小石社長に、『この大会も印象に残るものになりましたね』と言葉をかけた。すると、感無量といった表情で、ただただ深くうなずいた。また新たな感動を味わうため、次は11回目となる大会へ向け一丸となり進んでいく。
「1、2回目までは『いずれはレギュラーに!』なんて言ってました。でも、最近はステップのままでいいかなと思っています。ビジネスの側面から考えるとプロアマがとても重要。そのなかで、カストロールレディースは1社単独開催で、協賛が入ってないので、プロアマにしろ前夜祭にしろファミリー的な雰囲気が作れるんです」
確かにプロアマの様子を見ると、プロと参加するアマチュアの距離がすごく近く、スイング指導などが密に行われている姿を目撃する。
その光景について話すと檜垣氏は、「もちろんレギュラーで活躍して欲しい気持ちは前提にありますが、大会も10回目の開催になるとゲストとプロの選手もつながり始めて、『久しぶり』という挨拶をかけあったり、雰囲気もよくなっています。そこから他の大会に推薦してもらえたり、コネクションができている。本当にいい大会になっているし、積み重ねが出てきました」と語った。このステップ・アップ・ツアーというなかで、一つの文化を作り上げてきた自負がある。
そして今年の大会は小石社長をはじめ、カストロールにとって、新たに“印象に残る”大会の一つとなった。それは、契約プロの井上りこがツアー初優勝をこの大会で挙げたからだ。その姿を見届けた小石社長に、『この大会も印象に残るものになりましたね』と言葉をかけた。すると、感無量といった表情で、ただただ深くうなずいた。また新たな感動を味わうため、次は11回目となる大会へ向け一丸となり進んでいく。