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    episode 2 【ゴルフで孝行】

    社内ゴルフコンペ参加者の平均年齢が50歳を超えたことに気が付いた役員から「若い参加者を増やせ!ただし、コンプライアンスには十分に注意せよ」という特命を帯びた上司A。一切の強要なしに若い部下たちをグリーンに誘うことは可能なのか? 上司Aの挑戦は始まった……

    配信日時:2020年5月21日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    「ここでAさんと打ち合わせするなんて、ちょっと刺激的ですね」

    入社5年目の秘書課の女子社員Cは、上司Aを見つめて言った。

    数年前にホールとして利用していたスペースをコミュニケーションスペースに改造して、いつでも自由に社員が使える場所にした。一人でノートパソコンを使えるブースもあれば、ミーティングができるテーブル、靴を脱いで上がるお座敷スペースもあって、当初は“誰が、何に使うのだ?”と懐疑的な見方もされた。

    上司Aもランチタイム利用のイメージしか湧かなかったが、若い社員を中心に、息抜きスペースだけではなく、簡単な打ち合わせや、小さな打ち上げまで、実に多様なオープンスペースとして機能したのだ。複数のメディアにも、社内活性化の成功例として取り上げられたことあった。

    社員Bから女子社員Cから話を聞き、特命の協力を依頼してはどうか、と提案された。確かに若い女性の意見も聞きたいと思った。彼女のことは知っていた。数回だが、頭数合わせだと、役員に連れられて社内ゴルフコンペにも参加したこともあったからだ。教わったとわかる癖がない美しいフォームでボールを打つ女子という印象だった。

    女子社員Cに、社内メールで概要を書き、会って話を聞きたいと送ると、業務としてならということで、この場所を指定されたのだ。実は、噂だけで一度も来たことがなかった上司Aは、コミュニケーションスペースに足を踏み入れて少し驚いた。午後3時、広いスペースには、50人ぐらいの社員がいた。明らかに打ち合わせをしているグループや、一心不乱にパソコンで作業している社員もしたが、お座敷で昼寝している社員も何人かいた。

    「こういう話のときは、ここが一番良いんです。あの組み合わせで、何をしているの? と思う人がいれば、今後のアピールがスムーズになるかもしれないですし」

    女子社員Cは、ニコッと笑った。

    まずは、彼女のゴルフの話を聞いた。

    ・高校入学のお祝いで祖父からゴルフセットをプレゼントされた
    ・孫とゴルフがしたいのだ、と理解して、ゴルフ部に入部した
    ・ゴルフをすることで家族とのコミュニケーションが潤滑になった
    ・祖父や父は、学校の休みに海外でゴルフをさせるご褒美を用意してくれた
    ・大学在学中もゴルフをするのは基本的には家族とだった
    ・ゴルフは今でも家族に孝行するツールとして重宝している
    ・入社以後は、役員とのコミュニケーションツールにもなった
    ・過去に数回、社内コンペに参加したのは役員から強いプッシュがあったから
    ・参加したことはないが、社内に同期入社を中心としたゴルフグループがあって熱心に活動しているようだ


    「Cさんはお嬢様なんだね」

    上司Aが話を聞いた感想を口にすると、彼女は微笑むだけで否定はしなかった。ホンモノの対応だった。

    お嬢様やお坊ちゃまという特殊な環境だからゴルフをしている、という昭和から続くステレオタイプは、平成でも、たぶん、令和でも廃れることはない。これも、この国のゴルフの隠しきれない側面の一つだからだ。

    しかし、かつては、お金持ち=ゴルフだったが、現在ではそれは通用しなくなってきている。言葉は悪いが、貧乏でもゴルフができることが主流になるような時代になってきているのである。

    改めて、女子社員Cに、特命の事情を説明して、協力を依頼した。

    「頼まれたので参加します、ということではなく、人集めやコンペの内容などで、色々な提案をしますので、自分が参加するかは、その結果次第ということで良ければ…… 面白そうなので協力したいです」

    上司Aは、ありがとう、と素直に頭を下げた。

    女子社員Cによると、秘書課の課長からも社内ゴルフコンペに出るようにというお願いが、再三あったという。秘書たちの半分はゴルフを嗜むが、二つ返事で参加をしないのは、単純にコスト問題だというのだ。

    「過去に、わたしが参加したときも、参加費もプレー代も、役員の奢りだったんです。正直にいうと、それが条件みたいな感じでした」

    上司Aは、いきなり本丸を奇襲されたような気がして、身構えてしまった。

    「社内コンペは、たぶん、役員の意向なのだと推測しますが、開催コースが高級すぎて、プレー代が3万円近くするのは、個人で負担できる範囲を超えていると思います。更に、参加費が1万円近いというのも高すぎるんです」

    上司Aは、自分の若い頃を思いだしていた。

    入社してすぐにバブルが弾けたので、バブル入社組という肩書きは上司Aの肩にも重くのしかかった。若い頃は、社内ゴルフコンペの費用は確かに痛かった。バブルが弾けた後も、ゴルフコースのプレー代は下がったとはいえ、高額であることには変わらなかった。借金をして、参加したことも何度もあった。

    バブル期にプレー代金が5万円だったゴルフコースが、今であれば1万円を切った値段でプレーできる。開催コースをプレー代金が安価なゴルフコースにするという選択肢は、昔はなかったのだ。上司Aは、若い頃に唯一の解決策として、役職に応じた差をつけて社内コンペの費用を会社が下っ端ほど厚く負担してくれる方法を考えたことを思いだした。誰にも言わないまま、忘れてしまっていた。

    コスト問題は、過去に何度も議題として出てはいたのだ。社内行事なのだから、一部でも会社負担ができないのか? と。また、開催コースをもっと庶民的なゴルフコースで、という提案も近年になって何度も出ている。表向きは、それは良いかもしれない、というムードになるのであるが、あとから幹事たちに圧力が掛かって、現状維持が続いているらしい。

    「仮に、プレー代と参加費の合計が、いくらぐらいなら、社内ゴルフコンペに参加しようと思えるのかな?」

    「人にもよると思いますが、わたしなら1万5千円ぐらいですね」

    お嬢様だと思ったが、金銭感覚が麻痺しているわけではないのだと上司Aは、女子社員Cを見直した。とはいえ、コスト問題は、長年放置されてきたアンタッチャブなのである。ため息が出そうになるのを上司Aは、気付かれないようにグッと飲み込んだ。

    「あっ? D君だ」

    女子社員Cが、突然、立ち上がって、遠くに見ながら手招きをした。

    「ちょっと、D君。来て、来て」

    「D君は、同期で営業部にいます。野球部出身で、神宮で140メートル飛んだホームランを打ったことが、彼のアイキャンディです」

    声を潜めて、女子社員Cが社員Dの説明をした。

    「彼は、少しゴルフに興味があるので、話をすると、今後の参考になると思います」

    190センチはある巨体な社員Dは、体に似合わない素早い動きで、上司Aと女子社員Cがいたテーブルに来た。上司Aは、社員Dとは初対面だったので、簡単に挨拶をした。「Aさんと、どうやったら社内の若手がゴルフをするようになるか? という打ち合わせをしていたの」

    女子社員Cは、かなり省略した説明をした。

    「自分も、仕事にプラスになるからと、何度もゴルフをすることを薦められましたが、昔と違って、営業だからゴルフ接待という時代でもないので、全くやらないまま、今に至ります」

    社員Dは、ハキハキしていて体育会系の好青年という印象だった。

    「負けを認めるのが怖いからじゃないんだ?」

    イタズラするように、女子社員Cが言った…… 彼女の言う通り、社員Dが話に加わったことで上司Aは、新たな可能性に気が付くことになった。

    今回の金言

    (写真・Getty Images)

    (写真・Getty Images)

    「高速カメラや、テレビは、スイングをはっきり分析することができるが、プレーヤーが何を考えているかまでは、わからない。」
    (ヘンリー・ロングハースト)


    ロングハーストは、ゴルフ評論家として欧米では有名な偉人の一人だ。この金言は、1964年に出版された“Only on Sunday”の中に書かれたもの。

    半世紀以上前、前回の東京オリンピックの年の金言でありながら、現代でも十分に通じる真理を感じる。それどころか、現代のほうがよりゴルファーの心に染みるような気がする。

    スイングの分析は、50年前とは比較にならないほど進んでいる。クラブがどのように動いているかは、どの部位にフォーカスしてもわかるようになったし、放たれるボールのスペックと連動してチェックできる計測方法もある。画面での2Dではなく、3Dで、あらゆる方向から観察することもできるようになったことも進化である。

    スイングの分析が、恐ろしく進化したのに、それに見合うようには、ゴルファーの平均スコアは良くなっていないのが現実である。半世紀前の悩みは、現在でも悩みのままなのだ。

    ゴルフをする人であれば、誰もも知っているはずだ。メンタルがゴルフにどのくらい影響するか、を。

    ほんの少しの弱気が、完璧なスイングを簡単に壊してしまうことや、思考を少し変えただけで調子が悪くともベストスコア更新を達成することなど、ゴルフはスイングを極めても、それだけでは終わらない。

    素振りだけシングルや、練習場シングルと呼ばれる人たちが、分析して、鍛えなければならないのは、スイングではないのである。

    上司Aが受けた“社内ゴルフコンペに若い参加者を増やせ”という特命は、スイングであるハードと知性やメンタルのソフトの両方から進めていかなければ、達成でそうにない。昔は、直列的な関係でゴルファーは増殖したが、2020年代では、それらのハウツーは通じない。

    上司Aは、スイングではない部分で少しだけ前進したようだ。


    【著者紹介】四野 立直 (しの りいち)

    バブル入社組作家。ゴルフの歴史やうんちく好きで、スクラッチプレーヤーだったこともある腕前。東京都在住。

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