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    打打打坐 第4回【密かに、僕らは鉄でも飛ばしたい】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2020年5月8日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    タイトリストの『T400』アイアン
    タイトリストの『T400』アイアン
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    ぶっ飛び系アイアンに市民権を!

    新しいアイアンを確認する際に、最初に7番アイアンのスペックを見るようになりました。

    ロフト角が26度であれば、間違いなく「ぶっ飛び系アイアン」だと認識して、改めて、機能を確認します。28度でも、一応「ぶっ飛び系アイアン」だと考えます。いわゆるオーソドックスな7番アイアンのロフトは34度前後。4度刻みを1番手だとすると、ロフト角26度の7番アイアンは、2番手分立っているというわけです。

    21世紀になって、一部のメーカーが先行して発売し、非力なゴルファーを助けた「ぶっ飛び系アイアン」は、日本独自の系譜でした。2019年、世界中で最も売れているブランドである『ゼクシオ』にぶっ飛び系アイアンのラインアップが加わりました。このアイアンのヒットで、流れが変わったのかもしれません。

    2020年、タイトリストが『T400』というアイアンを市場投入しました。7番アイアンのロフト角は、26度です。日本独自だった「ぶっ飛び系アイアン」が、グローバルスタンダードになった瞬間でした。

    実を言えば、ロフト角だけではなく、クラブの長さ他、細かい工夫があってこその「ぶっ飛び系アイアン」です。タイトリストの『T400』は、そういう意味で、細かいところまで仕上がっているクラブです。

    「ぶっ飛び系アイアン」という呼び方は、そう遠くない将来、古いものになると思われます。タイトリストが採用すると、それはスタンダードになるというのは、ゴルフ用具業界の常識だからで、「ぶっ飛び系アイアン」ではない新たなカテゴリー名が生まれると思われるからです。

    大ヒットしているはずが……

    某有名ゴルフ量販店の試打ブースで、過去1年間で試打されたアイアンの8割は「ぶっ飛び系アイアン」だったと聞きました。各メーカーがラインアップしている「ぶっ飛び系アイアン」も、戦力商品として売れているそうです。

    ゴルファーは、ゴルフが生まれた直後から、ある呪縛に囚われています。『飛距離』の魅力は、ゴルフの面白さの一部です。ボールが飛ぶ快感は、ゴルファーであれば誰でも体験しますが、『飛距離』は薬のようなものなのです。微量であれば、やる気などが増すという効能があるのですが、調子に乗って大量に使えば、ただの毒となってゴルファーを苦しめるのです。

    アイアンは、ボールを狙い通りに止める用具であって、飛距離を求めるものではない、という金言もあります。アイアンの番手自慢は、下手くその証明に過ぎない、とも言います。

    わかっているのですが…… 飛ばしたいという呪縛は強烈です。かつては、ゲテモノ扱いされたこともあった「ぶっ飛び系アイアン」は、ゴルファーの理性と欲望の狭間で進化しながら、主役として舞台に登りつつあるのです。

    しかし、「ぶっ飛び系アイアン」を使っているゴルファーが、そんなに多いようには感じなかったのも事実です。これには、ちょっとした細工がありました。飛距離が出るアイアンほど、バックフェースがシンプルで、モノカラーで、目立たないデザインになっているのです。そのほうが、圧倒的に売れるそうです。

    つまり、その恩恵は受けたいのですが、できれば、密かに使いたい、というゴルファー心理が「ぶっ飛び系アイアン」ユーザーにはあるようなのです。

    僕の周囲では、昨年ぐらいから、かなり飛距離が出る人でも「ぶっ飛び系アイアン」を選んでいます。「7番アイアンで200ヤードを打てるから楽だ」というのです。アイアンは7番アイアンからになったと言われても、その分、ウェッジが増えて、アイアンの総本数は変わらないようです。短い番手はやさしい、と感じるのも誇張ではなく、事実だと思われます。だからこそ、理解はできますが、本末転倒なような気もします。

    緻密に選べる幸せな方法を考える

    「ぶっ飛び系アイアン」は、厳密に分析すると2種類に分かれます。一つは、飛ぶ人用で、もう一つは飛ばない人用です。

    見分けるのは簡単です。番手間のロフトを観察すれば良いのです。4度刻みのものは、飛ぶ人用です。5度以上の刻みになっているのであれば、飛ばない人用です。

    これを見極めないと、スコアアップは望めません。4度刻みのアイアンは、今までのスタンダードアイアンと同じようにかなり飛ぶ人が、番手間が10〜15ヤードなるためのものです。番手間の適切な距離を保つためには、非力の場合だと、5度、6度というロフト差が好ましいのです。

    5度以上の刻みになっていれば、数番手で1番手分を吸収できますので、アイアンの総数を減らすことが可能になります。結果として、その分を、自分の弱点の強化や、得意な分野のクラブの拡充に使えるのです。

    「ぶっ飛び系アイアン」は、飛距離性能を最優先したので、アイアンとして難易度が高いものがたくさんあります。この数年間で「ぶっ飛び系アイアン」を購入したのに、スコアアップどころか、スコアダウンしている人は、難しいアイアンを選んだ結果です。

    使いやすい「ぶっ飛び系アイアン」で、マストな要素は、高弾道を楽に打てることです。何ら苦労せずに、高いボールが打てることが大事なのです。7番アイアンで、5番アイアンのロフトだから、5番アイアンの弾道では、新しいアイアンとは言えません。2020年の「ぶっ飛び系アイアン」は、7番アイアンの高さ、または、それ以上の高さのボールで、5番アイアンの飛距離が打てるアイアンなのです。

    緻密に選ぼうと考えると、残念ながら、市場にある「ぶっ飛び系アイアン」の全てが対象にはなりません。だからこそ、選ぶのが楽しいです。少ない選択肢でも、自分に合ったものを選べることは幸せなことです。

    とは言いつつ、僕はマッスルバックのスタンダードなロフトのアイアンを使用しています。ロマン派と呼ばれている一つの要因です。この手のアイアンでなければ、得られない快感があり、それが自分のスコアメイクに役立っていると信じています。

    2020年。試打ラウンドをして、惚れ惚れする「ぶっ飛び系アイアン」がいくつも出現してきました。昨年の今頃までは、次のアイアンと考えたときに「ぶっ飛び系アイアン」という選択肢はありませんでしたが、現在では筆頭の候補は、ある「ぶっ飛び系アイアン」です。自分と同じアイアンが、他の人を助けるのを良しと思えないので、念のためと考えて、具体的な名称は文中には登場していません。

    新型コロナウィルスのせいで、新しい世の中になりそうな雰囲気です。新生活習慣のゴルフには、それに相応しい新しいスタンダードが必要になります。思い切って、新しいアイアンで、スタートを切るのも悪くはありません。もちん、宣伝することなく、誰にも気付かれないように、密かに……
    「ぶっ飛び系アイアン」ほど、それに相応しいものはないのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
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