episode 6 【ゴルファーとゴルフをする人】
社内ゴルフコンペ参加者の平均年齢が50歳を超えたことに気が付いた役員から「若い参加者を増やせ!ただし、コンプライアンスには十分に注意せよ」という特命を帯びた上司A。一切の強要なしに若い部下たちをグリーンに誘うことは可能なのか? 上司Aの挑戦は始まった……
配信日時:2020年7月16日 06時00分
目次 / index
上司Aは、最初に特命への協力をお願いした社員Bと情報交換をした。最後のゴルフ部採用の社員Bは、社内コンペに参加している中で最も若手である。
社内コンペに若手を参加させると言いつつ、社員Bは40代になっていて、若手と言うより中堅であるが、社内のゴルフファー人口の若手の分布は、40代が多く、30代、20代と少なくなっていくという予想をしていたので、彼の周囲が最も参加しやすいと考えていたのだ。
社員Bは、積極的にゴルフについて、同期やその周囲の顔見知りで、ゴルフの話をしたことがない人に声をかけまくったという。結果として、ゴルフの話をしたことがない人の中に、ゴルフしている人はほとんどいなかったが……
なかなか面白いケースも出てきたという。
◆40代の社員でも、同期会のようなゴルフの集まりがあって、初心者同士で固まる傾向がある
◆ゴルフをしたことはなくとも、そろそろしてみようかなぁ、と興味を持っている40代は3人に1人ぐらいいる
◆先日の社内のゴルフレッスンイベントをきっかけに、インドアレッスンに通い始めた仲間がいる
◆ゴルフレッスンのイベントは、継続してやって欲しい、という声もあった
◆ゴルフをしていると判明した40代は、地元や学生時代の友人と楽しんでいて、社内には公開したくないという傾向があった
◆夫婦でゴルフを始めて、夫婦でゴルフを楽しんでいるというパターンは、頻度を聞くとかなり熱心だった
上司Aも、20代や30代の社員の協力者たちとの交流した結果、自分が感じたことも含めて報告をした。社員Bも、予想外だったことも多く、思い込みが激しかったところをゴルファーとして反省したと話した。
二人で報告しあっていて、ほぼ同時に気が付いたことがあった。二人の立ち位置と同じ人と、全く違う人が、同じゴルフをしている人の中にいるのだ。
◆昔からゴルフをしているゴルファーと、ゴルファーになろうと普通に考えている人だけではない
◆ゴルフはするが、ゴルファーになる必要性は感じていない人たちが確実に存在する
◆価値観が多様になっている世の中で、一つの価値観だけを押しつけるような方法ではゴルフは嫌われる
◆ゴルファーとゴルフする人が共存できるのか? ではなく、同じコースを使用するのだから共存はマストであり、双方が納得してゴルフを楽しめる方法を模索しなければならない
上司Aは、社員Bと話して良かったと痛感した。ゴルファー同士だから、共有している違和感からハッキリと気が付くことができたのだ。たぶん、上司Aがゴルフを始めたときから、ゴルファーとゴルフをする人という二つの人種は存在していた。ただ、時代がそれを許さなかったので、ゴルファーとゴルファーのフリをしている人として共存していたのだ。
21世紀になって20年。上司Aは、これまでの聞き取りを振り返って、絶滅に向かっているのはゴルファーのほうで、生き残るのはゴルフをする人になっていく流れを感じた。大きな流れを、どうのこうのできる力は上司Aにはない。ただ、社内コンペに若者を参加させるという特命が、ゴルフをする人を参加させることだと意識を変えなければダメだと強く思った。
ゴルフをする人たちの話を、もう少し聞いてみなければ、特命は暗礁に乗り上げてしまう。上司Aは、色々と考えていたが、自分の知らないところで、考える速度を超えて、事態は進んでいた。
社内コンペに若手を参加させると言いつつ、社員Bは40代になっていて、若手と言うより中堅であるが、社内のゴルフファー人口の若手の分布は、40代が多く、30代、20代と少なくなっていくという予想をしていたので、彼の周囲が最も参加しやすいと考えていたのだ。
社員Bは、積極的にゴルフについて、同期やその周囲の顔見知りで、ゴルフの話をしたことがない人に声をかけまくったという。結果として、ゴルフの話をしたことがない人の中に、ゴルフしている人はほとんどいなかったが……
なかなか面白いケースも出てきたという。
◆40代の社員でも、同期会のようなゴルフの集まりがあって、初心者同士で固まる傾向がある
◆ゴルフをしたことはなくとも、そろそろしてみようかなぁ、と興味を持っている40代は3人に1人ぐらいいる
◆先日の社内のゴルフレッスンイベントをきっかけに、インドアレッスンに通い始めた仲間がいる
◆ゴルフレッスンのイベントは、継続してやって欲しい、という声もあった
◆ゴルフをしていると判明した40代は、地元や学生時代の友人と楽しんでいて、社内には公開したくないという傾向があった
◆夫婦でゴルフを始めて、夫婦でゴルフを楽しんでいるというパターンは、頻度を聞くとかなり熱心だった
上司Aも、20代や30代の社員の協力者たちとの交流した結果、自分が感じたことも含めて報告をした。社員Bも、予想外だったことも多く、思い込みが激しかったところをゴルファーとして反省したと話した。
二人で報告しあっていて、ほぼ同時に気が付いたことがあった。二人の立ち位置と同じ人と、全く違う人が、同じゴルフをしている人の中にいるのだ。
◆昔からゴルフをしているゴルファーと、ゴルファーになろうと普通に考えている人だけではない
◆ゴルフはするが、ゴルファーになる必要性は感じていない人たちが確実に存在する
◆価値観が多様になっている世の中で、一つの価値観だけを押しつけるような方法ではゴルフは嫌われる
◆ゴルファーとゴルフする人が共存できるのか? ではなく、同じコースを使用するのだから共存はマストであり、双方が納得してゴルフを楽しめる方法を模索しなければならない
上司Aは、社員Bと話して良かったと痛感した。ゴルファー同士だから、共有している違和感からハッキリと気が付くことができたのだ。たぶん、上司Aがゴルフを始めたときから、ゴルファーとゴルフをする人という二つの人種は存在していた。ただ、時代がそれを許さなかったので、ゴルファーとゴルファーのフリをしている人として共存していたのだ。
21世紀になって20年。上司Aは、これまでの聞き取りを振り返って、絶滅に向かっているのはゴルファーのほうで、生き残るのはゴルフをする人になっていく流れを感じた。大きな流れを、どうのこうのできる力は上司Aにはない。ただ、社内コンペに若者を参加させるという特命が、ゴルフをする人を参加させることだと意識を変えなければダメだと強く思った。
ゴルフをする人たちの話を、もう少し聞いてみなければ、特命は暗礁に乗り上げてしまう。上司Aは、色々と考えていたが、自分の知らないところで、考える速度を超えて、事態は進んでいた。
今回の金言
「コースに合った馬がいるなら、 コースに合ったゴルファーもいる
If there are horses for courses,there are also golfers.」
(イギリスの古いことわざ)
馬というのは、競走馬のことである。ゴルフと競馬は、その歴史を振り返ると切っても切れない関係にあるが、この諺は、そういううんちくが絡んでいるわけではない。
競馬を知らない人のために説明すると、馬とコースには昔だけはなく、21世紀になっても相性がある。例えば、競馬のコースには右回りのコースと左回りのコースがあるが、左回りでは抜群に強いのに、右回りになると普通の馬になってしまう競走馬がいる。様々な要因はあるのであるが、左回りと相性が良い馬は左回りのコースだと勝率が高くなり、人気が上がる。コースの相性が良いというわけだ。
競走馬ほどデータが明確に分析されてはいないが、ゴルファーとコースにも相性の善し悪しがある。
ゴルファーとコースの相性は、基本的には好き嫌いだったりすることが多いが、良いスコアが出たという事実の前では、理屈は全てぶっ飛んでしまうのが現実である。
理想の異性とはかけ離れていても、自分のことを好きだとアピールしてくる異性に惹かれて、付き合ってしまうような恋愛の神様のイタズラみたいな現象は、ゴルフでも日常茶飯事ということなのだ。山あり、谷あり、色々な経験を経て、相性というものが徐々にわかってくるものだ。ゴルファーとゴルフコースの相性も、経験が生み出すものだといっても過言ではないのである。
経験豊富なゴルファーの一人である上司Aにも、相性の良いと感じるコースと相性が悪いコースと感じるコースはあるが、いつも意識していることは、コースに嫌われないような努力をするべきだということだった。どんなに相性が良くとも、嫌われるような行為を繰り返せば、自然とそのコースとの相性は悪くなるものだからだ。
人との関係にも相性はある。ゴルフをする人たちと会ってみて、上司Aは彼らを嫌いにはなっていなかった。むしろ、馬が合うという相性の良さすら感じていた。同じようにゴルフが好きだという情熱を感じたからだ。
相性は一方的なものではないと信じて、上司Aは特命を全うしようと誓った。
If there are horses for courses,there are also golfers.」
(イギリスの古いことわざ)
馬というのは、競走馬のことである。ゴルフと競馬は、その歴史を振り返ると切っても切れない関係にあるが、この諺は、そういううんちくが絡んでいるわけではない。
競馬を知らない人のために説明すると、馬とコースには昔だけはなく、21世紀になっても相性がある。例えば、競馬のコースには右回りのコースと左回りのコースがあるが、左回りでは抜群に強いのに、右回りになると普通の馬になってしまう競走馬がいる。様々な要因はあるのであるが、左回りと相性が良い馬は左回りのコースだと勝率が高くなり、人気が上がる。コースの相性が良いというわけだ。
競走馬ほどデータが明確に分析されてはいないが、ゴルファーとコースにも相性の善し悪しがある。
ゴルファーとコースの相性は、基本的には好き嫌いだったりすることが多いが、良いスコアが出たという事実の前では、理屈は全てぶっ飛んでしまうのが現実である。
理想の異性とはかけ離れていても、自分のことを好きだとアピールしてくる異性に惹かれて、付き合ってしまうような恋愛の神様のイタズラみたいな現象は、ゴルフでも日常茶飯事ということなのだ。山あり、谷あり、色々な経験を経て、相性というものが徐々にわかってくるものだ。ゴルファーとゴルフコースの相性も、経験が生み出すものだといっても過言ではないのである。
経験豊富なゴルファーの一人である上司Aにも、相性の良いと感じるコースと相性が悪いコースと感じるコースはあるが、いつも意識していることは、コースに嫌われないような努力をするべきだということだった。どんなに相性が良くとも、嫌われるような行為を繰り返せば、自然とそのコースとの相性は悪くなるものだからだ。
人との関係にも相性はある。ゴルフをする人たちと会ってみて、上司Aは彼らを嫌いにはなっていなかった。むしろ、馬が合うという相性の良さすら感じていた。同じようにゴルフが好きだという情熱を感じたからだ。
相性は一方的なものではないと信じて、上司Aは特命を全うしようと誓った。
【著者紹介】四野 立直 (しの りいち)
バブル入社組作家。ゴルフの歴史やうんちく好きで、スクラッチプレーヤーだったこともある腕前。東京都在住。