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    打打打坐 第12回【追いかけてもバーディーは来ない】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2020年7月3日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    恋し焦がれてこそゴルフ

    ゴルフを恋愛に例えて語ろうとすると、その瞬間、醒めてしまうという人がいますが、そういう人に限って、実は、そういうロマンスな要素が欠けているせいで、ゴルフで苦労していていたりするものです。ゴルフに恋していない人に、ゴルフの神様は微笑まないからです。

    恋は落ちるもので、理屈ではありません。嫌いになることに理由はあっても、好きになることに理由がないことは、その証明だといえます。ゴルフに恋してしまった瞬間は、振り返ってみてわかるもので、そこにはロジックがないことも多々あります。

    僕の場合は、コースデビューでのスタートホールの1打目です。1978年当時、ゴルフをする中学生は珍しく、スタート時間前にティー周辺に集まるマナーが浸透していたこともあって、1打目を打つときに、僕は20人以上の赤の他人の大人たちの好奇の視線を浴びていました。

    「打てるのか?」
    「子供のくせに」
    「プレーが遅いと困るよ」

    たくさんのつぶやきが聞こえてきます。

    夏休みのお盆の時期で、晴天でした。ティーの目の前には、大きな池。100ヤードは飛ばさなければ池ポチャです。(池ポチャなんて言葉は知りませんでしたが)

    キャディーさんに、どうぞ、打ってください。と言われて、スッと構えて、頭だけ動かさないように、と注意しながら打ちました。素晴らしい体験でした。芯に当たったボールは、高い弾道でストレートにフェアウェイの真ん中、200ヤード地点に向かって飛んでいきました。

    「ナイスショット!」
    「おぉ、すげぇー」
    「こりゃ、ビックリしたね」

    大きな声がたくさんしました。賞賛の大合唱のようでした。

    快感で鳥肌が立って、立ち尽くした僕の耳元に同伴者の叔父が、「お辞儀!」と言ったのです。慌てて、褒めてもらったことに会釈をして、ティーを降りました。お互いに面識がなくとも、良いストロークを目の当たりにしたら、賞賛の声をかけるのがゴルファーだということを、2打目に向かって歩きながら教わりました。ゴルフって、ゴルファーって、なんてステキなんだろう…… 中学1年生の僕は感動したのです。

    生まれて最初のショットで、ゴルフの虜になってしまったというパターンは珍しいもので、必死にやっているのに上手くいかない中で遭遇したスーパーストロークで虜になる例が多いようです。

    恋は未熟な情熱で、燃え上がりやすく、冷めやすいという特徴があります。僕の場合は、希少なタイプで、あの夏の日から一度も冷めることなく、ゴルフに恋い焦がれて40数年が経ちました。

    追えば逃げる小鳥のように

    遠くから見つめているだけでも、恋心は満たされるという人もいますが、ゴルフとの恋は触れ合う駆け引きがメインになるのが宿命です。恋愛の形は、十人十色で、ゴルファーの数だけ準備されています。深まれば深まるほど、切なくなるのが恋でもあり、成就したと思えば、次には冷遇されて落ち込み、気まぐれな異性に振り回されて苦悩するがごとく、ゴルフの悩ましさに一喜一憂を繰り返します。

    恋愛の形は無限にあるのですが、ゴルフとの恋にも、一般的な恋と同じように、先人たちのトライ&エラーの蓄積で見つかった必勝法のようなものが存在します。

    例えば、僕はスコアカード通りのパープレーを目標にゴルフをしています。周囲の人から見れば、ボギーを打っても淡々として、すぐにバーディーでバウンスバックするのをみて、「あれだけ楽にバーディーが取れれば、ゴルフが楽になるよなぁ」なんて思われるわけです。

    狙わなければ、バーディーどころか、パーですら怪しくなることも事実ではありますが、バーディーを取ろうと思えば、バーディーは逃げていきます。バーディーは、和訳すれば、小鳥ちゃんのような幼児語です。恋と同様に、小鳥は追えば逃げるのです。

    追わずにいても、ゴルファーには多少の運不運があっても、基本的には平等にチャンスは訪れます。訪れたチャンスに、興奮しすぎず、冷静に、確実にできることをした結果がバーディーだったり、パーだったりするのです。バーディーはゴルフの神様の贈り物です。奪うものでも、取るものでもなく、恐縮しつつ、受け取るのが正解なのです。

    “好き”という気持ちを前面に押し出して、猪突猛進なハウツーラブが上手くいくこともありますが、相手がモテる異性であればあるほど、追えば逃げるものです。僕らがプレーしているゴルフコースの各ホールは、多少の差はあっても、ほとんどがモテモテの異性です。

    究極の恋愛は片想いである

    両想いだけが恋愛だと考えるのは、恋愛オンチの特徴です。書くまでもありませんが、叶わないと知っているのに、大好きな気持ちを維持し続ける片想いこそが、恋愛の正しい形だといえます。両想いは、片想い同志が偶然のタイミングで出逢った刹那に過ぎないと考えると、色々なことが腑に落ちたりします。

    ゴルフに恋する気持ちは、まさに、片想いを恥じずに、誇れるようになって一人前になるように思います。

    還暦を過ぎて、急激に、ゴルフのスコアアップを達成した先輩がいます。

    「勘違いしていたんだよ。オレはゴルフと結婚できると思っていた」

    少しお酒が入ったシーンで、先輩は、そのように語り出しました。

    「ゴルフは、アイドルに恋をしている覚悟をして、初めて、その神髄に触れられる。わかるよな? アイドルは自分だけの一人には絶対ならないし、どんなに努力しても、両想いにはならないとわかっていて、それでも恋しい気持ちが止まらない……」

    他の人が聞いたら、ちょっとイタいおじさんたちだと思われると警戒しながら、セーブするように相づちを繰り返しました。

    そういう精神的な改革がゴルフに良い影響を与えた部分はあったと思います。でも、その先輩の場合は、還暦を機に、やさしい用具に総入れ替えしたことが、スコアアップの要因として割合が高いと僕は考えていました。でも、そんな現実的な反論は一切しませんでした。

    ゴルフの魔法は、薄いガラスで覆われて威力を発揮します。些細な衝撃でガラスは簡単に割れてしまうのです。過去に何人も、割れて、壊れて、二度と元に戻れなかった例を見てきました。先輩にはそうなって欲しくなかったのです。

    ゴルフを独り占めできると考えた自分を恥じて、アイドルに恋したのだと改心して、ゴルフのレベルが上がったと言い切れる先輩はステキです。こういう還暦ゴルファーと、いつまでもゴルフを一緒にしたい、と思いました。

    本気と狂気は、コインの裏と表のようなものです。恋は時に人を狂わせます。ゴルフでも同様なことは起きます。

    酸いも甘いも噛み分けた大人たちが、早起きをし、半日を使って、球打ちのゲームに興じるなんて、考えれば考えるほど不思議で、普通ではないのです。だからこそ、ゴルフに恋してしまったのだと笑ってしまえば良い、と推奨しています。ゴルフへの恋心は、全ての謎を解明して、本気を維持する原動力になります。たとえそれが、永遠の片想いだとしても…… ゴルフであれば、後悔はしないはずです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

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