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打打打坐 第15回【18ホールがある幸せ】

打打打坐 第15回【18ホールがある幸せ】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2020年7月24日 15時00分

ゴルフコースは、なぜ18ホールなの?

ゴルフが育ったスコットランドでのお話。
ゴルフが貴族だけのゲームではなく、一般の人にも広がり始めた頃。
ゴルフコースのホール数は、場所によって用地の大きさに合わせてバラバラで、決まった数はありませんでした。

スコットランドは、緯度で見れば日本の北海道より北に位置しています。寒い時期になると凍えながらゴルフをする人たちもたくさんいたのです。
彼らは携帯用の小瓶にウィスキー入れ、懐に忍ばせて、ゴルフをしていました。1ホールを終えるごとに、キャップにウィスキーを注いでキュッと飲んで、気付け薬のようにすることも楽しんでいたのです。

小瓶のウィスキーがなくなったら、その日のゴルフは終わり、という決まりが自然とできていきました。
小瓶のサイズもキャップの大きさも決まっていたので、18杯分でウィスキーが空になりました。
ゴルフはいつの間にか、18ホールを一つの単位とすることになったのです。

素晴らしくロマンチックな18ホールウィスキー説ですが、これはお伽噺です。
つまり、これは『うそちく』なのです。(うそちくとは、いかにもありそうなうんちく風の嘘話のこと。ブラジャーのAカップは、マリーアントワネットの胸のサイズが基準になった、といううそちくが有名)

18ホールに確定していく細かい経緯を書くと本1冊分になってしまうのでカットしますが、セントアンドリュースのオールドコースは、近代ゴルフが成立しつつあった頃は22ホールだったのです。
一部の土地が返還請求されて、削られた結果、18ホールに変更されました。これは記録も残っている史実です。

何とも味気ない話で、ロマンもへったくれもありませんが、そもそも、その頃のゴルフはマッチプレーが基本ですから、勝敗が最終ホールまでつかないことのほうが珍しく、その前のホールで勝敗が決してしまうのが普通でした。
だから、当時のゴルファーは、18ホールという中途半端な数字に特別な疑問も持たずに受け入れたようなのです。

一周回ってラウンド

2020年7月。新型コロナウィルスの影響で、ゴルフコースで感染防止の目的でスループレーを選択するゴルファーが増えているそうです。

先日、こんなシーンを見ました。
「追加ハーフできますか?」

僕らの後ろの組の若者3人。僕の組が5時40分スタートで、彼らが5時47分スタート。スイスイと素早くプレーして、ラウンドを終了したのが、僕の組が8時10分で、後ろの組は8時25分ぐらいでした。
僕の組は、雨模様だったので、ラウンドで終了して、ゆっくりと片付けをしていたときに、後ろの組からやる気満々声がしたのです。

「スミマセン。スループレープランのお客様は、追加ハーフはできない決まりなので……」
コースのスタッフが謝罪していました。
若者たちは、そうですよね、と納得して、片付けを始めました。

ロッカーに行くと、シャワーを浴びた後の彼らの会話が聞こえてきました。
「去年までは、ラウンドで十分だと思っていたけれど、一ヶ月半、自粛したらさ、なんだかラウンドでは満足できない気分になっちゃって」
「値段が少ししか変わらなかったから、昼食付きの追加ラウンド可能のほうにしておけば良かったね」
「ここなら2ラウンドも楽にできそうじゃん」
「じゃあ、来月の1週目はここにしようか?」

僕は着替えながら、ニヤニヤしてしまいました。
たぶん彼らは、30歳になっていない若者で、ゴルフ歴もそう長くないのだと思われます。
しかし、プレースピードは速いし、スタッフとも丁寧に会話ができるし、何より、月に3回ぐらい安くできるコースを探して仲間とゴルフをしている様子だったことが、嬉しかったのです。

ラウンドでは満足できない…… そういう時代を僕も通って来たから、共感できました。甘酸っぱい気分になりつつ、リベンジするところが素晴らしい、とも感じていたのです。

ゴルフにおいて、プレーすることを「回る」と表現することがあるのは、ラウンドが和訳されたのだと思われます。
ラウンドが18ホールを意味するのは、スコットランドでゴルフが育ってきた証なのです。
セントアンドリュースを始めとして、リンクスの多くが、1番からスタートして、最終ホールに戻ってくるという1周回るワンループタイプのレイアウトでした。
前半はクラブハウスから離れていくのでOUTコース、後半は戻ってくるのでINコースと呼ばれたことが、9ホールごとの呼び名になってきたのです。

久しぶりに、ラウンド、つまり、18ホールについて、じっくりと考えるきっかけになりました。

18ホールという絶妙さ

僕は、たびたび、ゴルフの神様を意識します。それを馬鹿にされることも多いですが、やめられません。

例えば、18ホールという単位も偶然の要素が重なって成立したもので、歴史的な検証をしても、ゴルフの神様のシナリオが予めあったのではないかと考えてしまうほど、巧みで、お見事なのです。

何より、実際にゴルフをプレーすればするほど、18ホールという単位に感心させられます。
短すぎず、長すぎずに、ちょうど良い数なのです。
例えば、百を切ることを目標にしているゴルファーはたくさんいますが、18ホールではなく、16ホールなら百切りは比較にならないほど簡単にできるはずです。逆に20ホールであれば、百を切ることは何倍も難しい挑戦になります。
百ストロークの攻防が面白いのは、18ホールという数字があってこそ成り立つのです。

近年、メジャーなスポーツは競技開始から決着がつくまでの時間が、2時間以内であることが多く、観戦する際にも2時間以内が集中して見続けることができる限界だと言われています。
ゴルフはプレー時間が4時間以上かかることが、プレー人口が減っていく原因の一つだという説も根強いのです。
それに伴って、ホール数を減らそうという議論もあります。

18ホールに満たないコースがあることを否定はしませんが、わざわざ18ホールで1ラウンドというフォーマットをいじることには反対です。

18ホールという絶妙な味付けに、軽い気持ちで引き算をすれば、ほんの少しのつもりでも、ゴルフそのものが変わってしまうぐらいの不味さに変わってしまう危険があります。

18ホールを同じ調子を維持してプレーするのが難しいのがゴルフです。
朝は絶好調だったのに、午後は絶不調という天国と地獄は、どんなゴルファーでも経験します。時にはメンタル的なスタミナを試す意味で、18ホールはマラソンのような耐久レースとして機能することもあります。

同じ18ホールが、物足りないぐらい短く感じることもあります。
3ホールごとに区切ったりして、コースマネージメントをすることもありますし、6ホール単位で区切ることで劇的にゴルフが変わるゴルファーもいます。
18ホールは、やればやるほど、ゴルフにとって不可欠で、面白さの要素になっている絶妙な数字で単位なのです。
新型コロナウィルスで、ゴルフを中止している人たちがいます。
SNSを観察すると、7月は、久しぶりのゴルフだという投稿がたくさんあります。
18ホールをプレーできる喜びは、当たり前だと思っていたことが、簡単になくなってしまう儚いものだったのだと実感するほどに、大きくなるようです。

改めて、ゴルフを18ホールできることに感謝して、18という数字の絶妙さにシビれるゴルフをしましょう。
否定しても、ゴルフの神様がいるのだと、わかってしまう経験ができるかもしれません。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
連載

ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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