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    打打打坐 第16回【車とゴルフの関係】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2020年7月31日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    電車で行けるゴルフは減少

    日本の場合、国土の7割以上が山で、ゴルフコースが作れる場所は人里離れてしまう運命にありました。
    特に関東地方は、平地は人が生活するために江戸時代から開発が進み、ゴルフコースが増えていく昭和初期には山地にしかゴルフコースに使える土地がありませんでした。
    地方のゴルファーには想像もできませんが、関東の場合、家から1時間以内でゴルフコースに行けるというのは貴重で、片道1時間半、ときには、2時間かかっても車に乗ってゴルフに行くのは当たり前なのです。

    電車で行けるコースは、どんどん減っています。
    バブル期には、コースの最寄り駅には、クラブバスと呼ばれたゴルフコースの所有するバスが、電車が着く時間になると駅前が一杯になるほどお客様を乗せるために集合したものですが、現在では、クラブバスを所有していないコースのほうが圧倒的多数になってしまいました。
    バスの維持費、運転できるスタッフの雇用等々。余計な費用として切り捨てた結果です。

    行きも帰りも、アルコールを嗜みたい人たちにとって、電車でゴルフというのは王道のセットですが、そういうこだわりを持ったゴルファーは、いつの間にかオールドゴルファーだけになってしまったようです。

    傾向として、都市から近いコースほど高額なプレー代のコンザバティブなゴルフコースで、都市から離れるほど安価でプレーできるカジュアルなゴルフコースだと言えそうです。前者はクラブバスを維持している例が多いという傾向もあります。

    安価でプレーできるゴルフコースに行くためには、足として、自動車が不可欠になります。
    実際には、昭和の時代から、車とゴルフがセットになっているほうが多数派だったので、時代の流れととは言えないのですけれど、ゴルフコースが多様化していく中で、改めて、車とゴルフの関係に注目されているのも事実なのです。

    ゴルフのために免許を取る時代

    かつて、就職する際に、最低限の資格と写真付きの身分証明書として、自動車運転免許証を持っていることはマストでした。18歳になったら、できるだけ早く免許を取るために教習所に通うことに疑問を持つ人のほうが、少し変わり者だったような気がします。
    一家に一台、自動車があることは中流以上の家庭環境の証でもあったようです。一億総中流時代を生き抜いた価値観は、つい最近まで、常識として通用しました。

    2020年の時点で、最大手の自動車メーカーは、免許を取ろうというキャンペーンの宣伝を自社の新しい自動車の宣伝と同じように流しています。免許証がなければ、自動車を購入もしない、ということなのです。

    警察庁が2019年3月27日に発表した「運転免許統計」によると、20代の免許取得率は84.2%です。
    30代、40代、50代の免許取得率は、90%を越えていて、かつ、母数も多いので、人数で比較すると20代の免許取得者は約998万人で、最も差がある40代は約1731万人なのです。
    若者の自動車離れは、数的にも明確です。

    公共交通機関が充実しているので、都市部に住んでいる場合は、自動車を持っている意味がなくなってきている、という理屈も理解できますが……

    頼もしいことに、ゴルフを始めた若い人たちが、車がないと不便だからという理由で免許を取っているそうです。
    お古のクラブではない新品のクラブも欲しいけれど、それらを買う前に、まずは免許証だと考える若者は、なかなか見所があると、褒めたくなります。

    安価でプレーできるコースでよく見る風景が面白いのです。
    この数年、駐車場に同じステッカーが貼ってある色々な車がたくさん止まっているのです。まるで、そのステッカーの会社の宣伝の撮影をしているように見えるほど多い日もあります。

    目立つ位置に貼られたステッカーは、大手の駐車場管理会社のロゴで、その会社のレンタカーである証です。今までのように、営業所に借りに行くのではなく、自宅に近い駐車場に止まっている時間貸しのレンタカーは、ネットやスマホで気軽に予約して使えるメリットがあるようで、彼らの中では、あのステッカーはゴルフとセットになっているようです。
    仲間と乗り合わせて、高速代金やガソリン代やレンタカー代金を頭割りするわけで、経済的でもあります。

    自動車を保有しなくとも、免許証さえあれば、効率良く、便利に、車とゴルフというセットを使いこなせるのです。
    良い時代になりました。

    車があるという前提で、日本のゴルフは成り立ってきました。
    2020年の時点でも、若干の多様化を受け入れつつ、その前提は崩れることはなく、車とゴルフのセットは健在です。ゴルフの腕前と同じぐらい、車を上手に利用していることはゴルファーにとって重要なのです。

    一人で車に乗って老いと向き合う

    2020年。コロナ禍で、ゴルフはニューノーマルなゴルフへと強制的に変貌しつつあります。
    家から一人で車に乗って、地元以外では寄り道をせずに、ゴルフコースとの往復することが奨励されています。
    仲間と乗り合いだからこそ生まれる行き帰りの楽しい時間もゴルフの内だという話は、御法度ということになります。

    僕は20代の頃、競技ゴルフに夢中になっていました。その頃は、乗り合いでゴルフに行くことを基本的には拒否していました。自分のペースを少しでも乱されることは“悪”だったからです。
    一人でゴルフコースに向かい、コースまで20分になったら、雨でない限り、窓を全開にして、現地の温度や匂いに慣れるようにして、心が落ち着かせるために用意したカセットテープをカーオーディオで流す…… 毎回繰り返すことで、試合でも、普段と何ら変わらないゴルフができるようになりました。
    ルーチンが大切だということは、誰にも教わらなくとも二十歳ぐらいから知っていました。集中してゴルフをするために必死で守った習慣だったのです。

    30代になってから、仲間と車内でバカ話をしながら笑い合う時間がプライスレスだと知り、そのテクニックを磨きつつ、現在に至ります。
    それでも、一人で車を運転してゴルフコースに行くことが、年間で数回あります。いずれも、以前とは真逆で、集中できない違和感があって、苦労しています。

    ニューノーマルなゴルフを無視はできないので、これから試行錯誤が続きそうです。

    先日、明らかな睡眠不足と、オーバーワークで疲れ切った状態で一人で車を運転して、ゴルフに行くことになりました。
    こういうときの一番の敵は、睡魔です。安全に運転できてこそのゴルフです。うとうととしないためのハウツーは、たくさん知っています。
    窓を開けて、強制換気。ガムを噛んだり、甘いものを食す。ハンズフリーで電話……
    最も効果があるのは、大声で気分良く歌うことで、これは最後の手段にしています。

    その日の帰り道。睡魔に負けないように、最近覚えた楽曲を準備していたので、最高の気分で歌いまくりました。自らの衰えない歌の実力を意識しつつ、すぐに異変に気が付きました。
    “歌詞を覚えているはずなのに、歌詞が出てこない!”のです。

    以前は、運転に100%集中して、歌唱も100%が普通でした。それなのに、運転に100%集中していることで、明らかに歌唱が疎かになるのです。
    “これは…… 老いだな”と愕然としました。

    1965年生まれの55歳。毎日は大袈裟ですが、月々ぐらいのペースで“老い”を発見する日々です。特にゴルフでは、“老い”との戦いは熾烈で、長期戦に持ち込んでは負けるという連敗続きです。
    歌うことをやめて運転だけに集中しました。ショックで睡魔もぶっ飛んでしまって、スイスイと無事に帰宅しました。

    ニューノーマルなゴルフが、永遠に続くものなのか? 一時的な我慢で済むのか?
    この議論をしているのは、“老い”たゴルファーばかりのような気がします。変わることはとてつもない恐怖なのです。

    車とゴルフは、ニューノーマルなゴルフでも原則としてセットです。
    ゴルフができるだけで、十分に楽しいことは間違いありませんが、できれば、車で過ごす時間もゴルフの内として、腕前を発揮したいと強く思ってしまうのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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