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    打打打坐 第17回【金持ちゴルファー 貧乏ゴルファー】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2020年8月7日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    スコアはお金で買えるか?

    ゴルフはメジャーな球技の中で、最も用具を使用する球技だと言われています。クラブセットに、キャディバッグ。ボールなどの小物に、ゴルフシューズ。そして、ゴルフウェア等々……
    購入後、長く使えるものから消耗品まで、その総数は最小限でも20アイテムは超えます。

    20世紀のゴルフメーカーのカタログと、21世紀のゴルフメーカーのカタログで、最も変わったと言われているのは、昔は腕前別にブランドがあって順番に並んでいたのが、現在では朧気な腕前別のラインアップになっていて、定番だった初級者用のラインアップがなくなってしまったことです。全国チェーンの中古ショップが広まったことで、初級者は中古のクラブを購入するようになったのが原因です。

    プロゴルファーがやさしいクラブを使うようになったことで、腕前別のラインアップにはあまり意味がなくなり、体力やスイングタイプに合わせてクラブを選ぶのが21世紀のゴルフのスタンダードになりました。

    そんな中で、昔も今も変わらないセオリーがあるというのです。

    “ゴルフは金持ちほど上手い”
    “スコアはお金で買える”

    先日も、世帯収入の高さと子供の学歴は比例するというデータを根拠にして「金持ちゴルファーのほうがスコアが良い」という説を力説している人がいました。確かに、資金力があればクラブを色々試してコースにもどんどん行けます。この2点で無条件にスコアアップするのは間違いありませんから、説得力があります。

    【金持ち=ゴルフが上手い】という説は、半分本当で半分は間違いだと個人的には考えています。昭和の時代にゴルフショップで勤務していた頃から、様々なお金持ちゴルファーを見てきた経験で断言できるのは、お金でスコアを買うように上級レベルなゴルフをする人もいますが、お金をドブに捨てているように効果が出ない残念なレベルのゴルフに苦しむ人も少なからずいるのです。

    つまり、【金持ち=ゴルフが上手い】という傾向は確かにありますが、セオリーといえるほど割合は多くはありません。

    どうしてそんな悲劇が起きてしまうかというと、ゴルフにおいてお金で買えるスコアの要素と、買えないスコアの要素があることを理解できないお金持ちが、一定数常に存在するからなのです。ゴルフの神様はある意味で平等なのだと安心します。

    お金をかけずにゴルフができる時代

    2020年、夏。コロナ禍で縮小している雰囲気のゴルフ業界で、不思議な噂が流れています。

    「若いゴルファーが増えているらしいぞ……」

    日本以上に大変なことになっているアメリカでは、正式な統計で、若いゴルファーが目立って増えてきています。屋内スポーツだけではなく、屋外でやるスポーツも、感染防止を徹底できないという理由で禁止されている種目が多いのに、ゴルフだけは安全に楽しめるというキャンペーンを徹底した結果、だったらやってみようか、という若い世代がゴルフを始めた、ということのようです。

    日本でも、若いゴルファーが安価な価格でプレーできるゴルフコースを中心に増加しているらしいのです。元々ゴルフをやってみたかった人たちが、この機会にやってみようと考えるようです。若い人たちは、コロナウィルスに感染しても大丈夫だと考えている人が多く、ゴルフの壁が低く感じるという事情もあるようです。夏場は夏料金という安い金額でプレーできるという点も影響しているのかもしれません。

    安価でプレーできるゴルフコースがあることもありますし、クラブも探せば安いものがたくさんあります。昔に比べると、半分以下の予算でもゴルフができる時代になりました。若者がお金をかけずにゴルフを楽しむ様子を見て、お金持ちゴルファーの一部が「貧乏臭くて不愉快だから排除すべきだ」と主張しているという話も耳にします。

    棲み分ければ良いのです。

    貧乏ゴルファーを見ると不愉快になる人は、そういうゴルファーが来場しない高額でコンサバティブなゴルフコースに行けば良いだけのことです。ケチって安価なコースに来ているのに、自分の趣味や趣向で貧乏臭いと文句をいうのは言語道断です。金持ちかもしれませんがゴルファーとしての知性と品性に欠けています。

    本当にゴルフが大衆化するというのは、棲み分けが進むことだと僕は考えています。お互いに「郷に入れば郷に従え」なのです。お金をかけない貧乏なゴルフは悪ではありません。堂々と自分なりのゴルフを楽しめば良いのです。

    昔は、若さはゴルフにおいてプラスに働きにくいと言われていました。経験値がスコアに出る傾向が現在よりもはるかに強かったからです。最も影響しているのは、クラブの難易度が下がったことです。クラブを使いこなすのに時間がかかるという時代は完全に過去のものになりました。

    やさしいクラブを使ってやさしくゴルフをする場合、若さが体力差となって有利に働くことがあるというパターンも増えてきています。貧乏ゴルファーでもお金持ちゴルファーに勝てることもあるから、ゴルフは面白いのです。

    ゴルファーの金銭感覚は特別

    金持ちゴルファーと貧乏ゴルファーは、ゴルフを長くすればするほど融合していく傾向があります。ゴルフ歴が長くなるほど、自分なりのゴルフスタイルが出来上がっていくからです。本当はお金持ちなのに、ゴルフにはお金をかけないスタイルもあれば、逆に、お金持ちではないのに、必要に応じてゴルフにお金をかけるというスタイルもあるのです。

    例えば、ゴルフを始めたばかりの頃は、お金持ちでも貧乏でも1本10万円のドライバーに驚き、多くの人が5万円ドライバーの購入を検討するという現実に戸惑うものです。一発でOBや池などでなくなってしまう可能性があるボールが、1個数百円することにも躊躇するのが当たり前なのです。

    ゴルファーの価値観は、特別で独特のものです。ゴルフを長くするとそれが麻痺してしまうのですが、初心者ですら数回ゴルフをすれば徐々に価値観の変化が現れて、数年で良い意味でも悪い意味でもゴルファーの価値観に染まります。ゴルフには「麻薬的な魅力がある」といわれるのはこういう部分でも理解できます。

    ちなみに、最初のテーマに戻りますが、たくさんの先人たちのお陰で統計的に“お金で買えるスコア”について判明しているものがあります。

    一つは、ドライバーです。

    もちろん本人の努力が成果に結びつくこともありますが、自分に合ったドライバーを使うのと、そうではないのとでは格段の差になります。OBが数分の一に減るドライバーがあるとします。ラウンドで平均で4回OBが出てしまっていたとして、それが1回になれば、6打もスコアは良くなります。飛距離に関しても飛ぶドライバーと飛ばないドライバーの飛距離差は、僕でさえ20ヤードを楽に越えます。

    難しいのはそれが理屈でわかるものではなく、実際のコースでトライ&エラーを繰り返さないとわからないところです。日本ツアーではわかりづらいですが、世界一のツアーである米ツアーのトッププレーヤーの使用ドライバーを見ても「弘法も筆を選ぶ」という現実を確認することができます。契約しているゴルフメーカーを無視してでも、自分に合うものにしなければ戦えないのです。

    もう一つは、ボールです。

    強烈なバックスピンに憧れるゴルファーはたくさんいます。バックスピンをかけるために必要な要素の65%ぐらいはボールの性能で、残りの30%がクラブ、技術的な要素は5%程度というのが現在では常識になっています。バックスピンは用具でかかるものなのです。

    そして、飛距離性能もボールの性能の一つです。飛ぶボールと飛ばないボールでは楽にアイアン1番手に相当する10ヤードの飛距離差が出ます。初級者の頃はミスショットも多いのでわかりづらいのですが、自分の距離感が明確にわかる上級者になれば、距離の差は火を見るより明らかになるのです。クラブとの相性もありますから、先程のドライバーとボールの組み合わせで30ヤードの飛距離アップということもあります。それは、飛ばないことに悩んでいるゴルファーに一夜にして起きる“奇跡”となるのです。

    腕前ではなく、用具の機能に依存している要素は、どれと、どれだ、と知ることで、ゴルフのスコアはお金で買えるというセオリーを現実にできます。

    他にも色々とあるのですが、一つでも腕前ではなく用具に負担させている要素を知れば、次々に別の要素も発見できるもので、それもゴルフの醍醐味なのです。

    トッププレーヤーだけでなく上級者と呼ばれる人たちを観察しても、わかってくることがたくさんあります。お金の使い方次第でゴルフは上手くもいけば、下手にもなります。それは突き詰めれば、お金持ちか? 貧乏か? ではなく、観察力や創造力という頭の使い方が問題なのだと思うのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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