ALBA Net  ゴルフ
ALBA Net  ゴルフ

打打打坐 第19回【風に吹かれて】

打打打坐 第19回【風に吹かれて】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2020年8月21日 15時00分

無風、もしくは、微風

「本日は、無風、快晴! まさに、ゴルフ日和です!」

ゴルフコンペ当日。幹事の朝の挨拶がこんな調子だと、参加者は盛り上がります。

最高気温が体温を超えた先日。早朝ゴルフで涼しい内にスタートしたのですが、ゴルフ日和の無風、快晴で、途中から気温が30度を超えてピンチでした。そこで、新兵器を登場させました。首からかけるタイプと、小型超強力タイプの扇風機です。無風の好コンディションだからこそ暑い、ということもあるわけで、扇風機の風に冷やされて、快適にゴルフをすることができました。

扇風機の勝利だと満足していた最終ホールで、グリーンの旗がゆらゆらと揺れました。風が出てきたのです。そよ風でしたが、林の中を抜けてくる風は…… ほんのりと冷たいのです。扇風機は強烈でしたが、自然のそよ風は別次元だと感心しました。

この国のゴルファーは、無風が大好きですが、ゴルフが育ったスコットランドでは、風はゴルフのスパイスであり、無風のゴルフは物足りないと言われます。とはいえ、スコットランドはレアケースで、世界中の多くのエリアで、ゴルフにおいて風は厄介者という扱いのようです。所変わればなんとやら、なのです。

ゴルファーも、風を意識するようになったら一人前、という格言があります。お天気には敏感で、天気予報を詳細に確認しているゴルファーも、チェックするのは降水関連のみで、風力や風向は確認していないということは「あるある話」です。

レーザー計測器やGPSで一の位のヤードまで調べるゴルファーが、風に興味がないなんて信じられません。いわゆる、そよ風と呼ばれる程度の風でも、空中を飛ぶボールには100ヤードで数ヤードの影響があることが普通だからです。風は見えないのに、影響します。風を意識していなければ、ショットの誤差だと勘違いして、上達を妨げます。

なんとかと風は使いようです。
見えないけれど、確実に存在する謎を解く推理ゲームだと考えると面白くなってきます。情報を収集して、風を読み切った快感はゴルフの醍醐味の一つで、読んだ通りに打つことができて、快感を得ることができます。複数の条件が合わさって、初めて到達できるエンディングがあるのです。

熟練のクールなゴルファーは、雨天のゴルフのときに、こんなふうに言うのです。

「風がなくて良かったね。雨は防げるけど、風はどうしようもないからねぇ……」

風のゴルフは難しいのです。だから、風のゴルフより、雨のゴルフのほうが楽だということなのです。達観していると感心している内は、まだまだです。ある程度、ゴルフを経験して、蓄積すれば、この気持ちは共通になるからです。(ごく一部、風のゴルフが大好きだという変わり者を除いてですが)

山の風、海の風

関東地方の土地勘がない人にはわかりづらいと思いますが、僕は20代の頃、半数以上のラウンドを千葉県でしていました。ゴルフの基礎的なテクニックは、その頃に身につけたものです。その後、栃木県でのゴルフが多くなっていって、現在に至ります。

風がボールにどう影響するか?
ボールを始めとした用具でも違いが出ます。持ち球の高さや、球筋でも影響が出ます。コースによって、または、エリアによっても、風の影響が違うと知ったのは、海外でゴルフを何度かしてからです。同じ風速の場合、大陸と島国では風の影響が全く違いました。大陸では、影響が小さいので、強く吹かない限り風は無視できるエリアが多かったのです。

関東に話を戻します。千葉県は、北関東という海沿いのエリアで、栃木県は、南関東という海から離れたエリアになります。同じ風速の場合、千葉の風は大きく影響しますが、栃木の風の影響は小さいのです。千葉の風と栃木の風が違うことに気が付いてから、僕のゴルフはワンランクアップした気がしました。ゴルフの謎が一つ解けた気がしたのです。

理屈はわからなくとも、経験則で知ることもあります。池や川が絡んでいるホールでは、そうではないホールより風の影響が強いというものはその代表例でした。

「でした」と、過去形で書いたのは、21世紀になってから経験則ではなく、科学的に説明がつくようになったからです。水面で起きる水の微かな蒸発がイオン風を吹かせて、水が絡む場所では風量が強くなります。建築学では、都市部にある水の影響で起きるイオン風を考慮するようになりつつあります。

僕は理系ではないので、詳細はを説明できませんが、水面を走る風は速くなる、ということを知っていれば、風を読む力はアップします。

追い風と向かい風

「アゲインストを嫌っている内は、ゴルファーも半人前」という格言があります。

ゴルフはレベルが上がるほど、ボールを狙い通りに止めるゲームになりますから、ボールが飛ばなくとも止めやすい向かい風は計算がしやすく、スコアアップしやすいということになるわけです。プロゴルファーを始めとして、上級者の99%は、選べるならアゲインストを選ぶのです。

ちなみに、向かい風という意味で、この国で使っているアゲインストという用語は、和製英語です。正式には、ヘッドウィンド(headwind/into the wind)です。
追い風はフォローという用語を使っていますが、テールウィンド(tailwind/downwind)です。

正式には、と書きましたが、日本語で向かい風、追い風で十分ですし、和製英語だから使用禁止ではなく、ある意味で文化ともいえるので、アゲインスト、フォローを使っても良いと思います。

こういうことを考えるたびに、日本語が素晴らしいと誇らしく思います。表現力が高いからです。風についての表現も実に様々です。強風、暴風、疾風、旋風、つむじ風、順風、逆風、清風、そよ風、熱風、寒風…… 次々に思いつきます。

ゴルフコースにも、色々な風が吹きます。風と戯れる、なんていうオシャレなことを考えずに、風も楽しむという努力目標にすると良いと思います。

風は見えます。
旗竿の旗が揺れたり、木々の葉がざわめいたりします。旗の揺れ方や葉の動きで、風向きや強さがわかります。視覚で感じる風は、比較的強い風でなければ見えないという弱点があります。同様に、耳で聞こえる風も、それなりの強さでなければ聞こえない弱点があります。

頬や指先で、風を感じることもできます。頬に感じたり、濡らした指を立てて冷たさを感じることで、微風でも方向を感じ取れます。

見えないものを見つけるという楽しみが、風にはあるのです。

コロナ禍で過ごす特別な夏……
数ヶ月経ったのに、進むべき安全な方向性すら見えてこない苛立ちが、人々を不安にさせています。それなのに、風を読み、まだ有利な風が吹いていると確信して、秋に国政選挙があるという噂があります。

ゴルファーも、指導者も同じです。フォローが好きで、それに頼っている内は、実力不足を露呈する未熟者か、真っ赤なニセモノなのです。ホンモノであれば、フォローという助けを借りずに、アゲインストが強ければ強いほど実力を発揮して、淡々としているものだからです。

扇風機の強烈な風に冷やされながら、知り尽くしていたつもりの自然のそよ風の心地良さを再確認するのもゴルフなのです。なぜなら、ゴルフコースにも、明日は明日の風が吹くからです。風に吹かれて、ゴルフを楽しみましょう。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
連載

ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

ゴルフライフ 週間アクセスランキング


おすすめコンテンツ

関連サイト