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    打打打坐 第20回【ゴルフルールの心】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2020年8月28日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    事件は現場で起きている

    2020年、コロナウィルスがパンデミックを起こし、ゴルフ界も自粛ムードで大人しくしていましたが、8月になってやっとメジャートーナメントの“全米プロ”が開催されました。史上初の無観客での全米プロは、大いに盛り上がり、特別な夏の記憶に残るトーナメントになったのです。

    いきなりですが、2日目の3番ホールのグリーンの脇で、事件が起きました。

    ロリー・マキロイの2打目が深いラフに落ちたのですが、ボールが見つからず、周辺にいたメディアのスタッフも一緒になってボールを探したのです。2019年からボール探しに許される時間は、それまでの5分間から3分間に短縮されました。観客がいれば、ボールが止まる瞬間を目撃している人もいて、ロストボールにはなりづらいのですが、無観客のトーナメントではロストボールが普段より多くなる傾向があります。

    幸運なことに、すぐに、マキロイが打ったボールは発見されました。しかし、そのボールは、捜索中に踏まれて地面にめり込んでいたのです。マキロイは、すぐに、ルーラー(ルール委員)を呼んで、裁定を仰ぎました。

    規則 7.4 の処理で、動かされたボールを元に戻すようにリプレースすることになりました。元の状態は誰も見ていないので、推定するしかないのですが、最初にリプレースしたボールを見たマキロイは、ラフの上にボールが浮いたように止まったのを見て、

    「これなら離れた場所からもボールが見えたはずだ。元のライはもっと悪かった」

    と気が付きました。ボールが見えない状態だったことは自分も知っていたので、リプレースをやり直して、もっと沈んだ位置にボールを置いたのです。(このケースでのリプレースのし直しは規則で認められています)

    テレビ中継で見ていたゴルファーは、何をしているのか? 何があったのか? 疑問を抱いたのですが、マキロイのフェア精神が2回のリプレースの真相だとわかると、美談として世界中に広まったというわけです。

    結果的に、マキロイは寄せに失敗して、このホールをボギーにしました。

    ちなみに、2019年のルール変更で、ボール探しのときに、自らがボールに触って、動かしてしまったときは、無罰で、ボールを元の位置にリプレースする処理ということになりました。(今回は、別の人が踏んで動かした)

    ゴルフルールは、ゴルフの黎明期から長い時間、明文化されていませんでした。マッチプレーが中心でしたので、双方の話し合いで確認すれば済んだからです。現在でも、重大な違反でない限り、マッチプレーでは双方が合意して勘違いで処理したルール違反には罰則がつかないという名残があるのです。

    マキロイのような美談はゴルフ史の中に溢れています。美談の主人公は、異口同音に言うのです。

    「ゴルファーとして当たり前です。泥棒しないことは当然で、わざわざ、美談にしないと思うのですが……」

    ゴルフルールは罰するためではなく、助けるためにある

    ゴルフのルールが明文化されたのは、ゴルフの長い歴史からするとつい最近という感じになります。1754年、R&Aが統一した13ヶ条のルールが最初のゴルフルールといわれていましたが、20世紀になってその10年前の1744年に、エジンバラのミュアフィールドを拠点としていた“ザ・オナラブル・カンパニー・オブ・エジンバラ・ゴルファーズ”が制定した13ヶ条のゴルフルールが発見されて、現在では、最古はエジンバラ、統一はセントアンドリュースということになっています。

    ちなみに、現在のような形で世界共通のゴルフルールとなったのは1952年のR&AとUSGA(全米ゴルフ協会)の合意以降となります。あまり意識しないゴルファーが多いですが、メジャーなスポーツで、世界共通ルールで行われている競技はごく少数だけしか存在しませんが、ゴルフはその代表の一つです。

    欧米で忌み嫌われる13という数字を持った最初のゴルフルールは、明文化せずともゴルフの精神が理解できていれば不文律で済むはずなのに、という無念が見え隠れするような妄想を抱いてしまうのです。この瞬間から、ゴルフはよりたくさんの人たちに楽しんでもらえるようになったのと同時に、呪いがかかった、というストーリーです。

    さて、13ヶ条のゴルフルールで、現代までほぼ変わらずに残っているのは、二つの決まりです。

    一つは、ティーから打ち出したボールをホールアウトするまで、連続してストロークする、というゲームとしての概要。もう一つは、ボールはあるがままでプレーするというゲームの神髄。

    トラブルがなければ、ゴルフは実に単純なゲームです。クラブでボールを打つ、ひたすら、ホールインを目指す。それ以上でも、以下でもないのです。

    そして、二つの決まりで完遂できなかったときのために、ゴルフルールは作られています。途中でボールがなくなってしまったら、ボールを打つのが困難なライに止まってしまったら、それらのピンチに遭って困ったゴルファーを救済するために、他のゴルフルールがあるのです。

    ゴルフルールというと、罰ばかりに目が行ってしまう人が多いようですが、自分を助けてくれるマニュアルだと理解すれば、色々なことが簡単になります。知っている者が得をする、という現代のセオリーが万能だという気はありません。でも、ゴルフルールは知れば知るほど、ピンチから保険のように自分を守ってくれるものなのです。

    ゴルファーはプレーヤーであり、審判でもあり

    最初のマキロイのルール処理の美談を聞いて、

    「自分の不利なように振る舞えば、ゴルフルールなんて覚えなくとも大丈夫!」

    という考え方に自信を持ったオールドゴルファーもいると思います。これは大きな誤解です。

    昭和の頃から、鼻からゴルフルールを勉強することを諦めて、自己犠牲で乗り切るという根性論がまかり通ってきました。平成のゴルファーも、同じように考えているケースが多いのが現実です。

    ゴルフの特別な部分は、プレーヤー自らが審判でもあるということです。ルールを知らない審判で、ゲームが成り立つわけはないという正論ではなく、ほんの少しだけ知っているだけで十分だ、ということなのです。少し考えればわかるはずです。自分を守るためにルールを利用することが可能な審判のほうが、絶対にゴルフを面白くできます。

    ゴルフルール全てを覚える必要はありません。偉そうに書いている僕も、全てを覚えてはいません。ただ、いつでもすぐにカンニングできるようにしていることで、補うようにしているのです。キャディバッグに潜ませる小さなサイズの簡易版のルールブックがありますし、スマホがあればJGA(日本ゴルフ協会)のウェブサイトで、ゴルフルールを検索することができます。自分に当てはまりそうなゴルフルールは、そんなに多くはありません。一通り読んでいれば、次に見つけ出すのは難しくないのです。

    マキロイの美談の深層は、新しいルールを熟知していたからこそ、生まれたといえます。

    美談になりたくてゴルフルールを知るのは邪道ですし、得もしないような気がしますのでオススメできません。ゴルファーを助けるために生まれた多くのゴルフルールを知らずに、救済を無視してプレーするゴルフは、根性はあれど、もったいないですし、ゴルフの精神を冒涜しているとも思うのです。

    2019年からの新しいゴルフルールは、複雑になりすぎたルールを整理して簡素化し、気軽にゴルフを楽しめるように、改めて性善説をベースに悪意がない事故をプレーヤーの責任にしていた罰則が激減しました。

    ゴルフルール嫌いの多くは、食わず嫌いです。13ヶ条という呪いの効果なのか、無意識でルールを遠ざけているゴルファーはたくさんいます。
    練習不足のまま、コースに出たゴルファーが苦労するように、勉強不足も同じように損をしているのです。2019年からの新しいルールで、ゴルフを本当の意味で楽しみましょう。トランプのゲームのルールぐらい簡単ですので、まずは、サラッと見てみることです。

    13ヶ条にかけられた古い呪いが解ける瞬間は、たぶん、審判としてルールを確認し始めた時なのです。ゴルフルールには心があります。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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