episode 11 【スクランブルで始めよう・その4】
社内ゴルフコンペ参加者の平均年齢が50歳を超えたことに気が付いた役員から「若い参加者を増やせ!ただし、コンプライアンスには十分に注意せよ」という特命を帯びた上司A。一切の強要なしに若い部下たちをグリーンに誘うことは可能なのか? 上司Aの挑戦は始まった……
配信日時:2020年9月24日 06時00分
目次 / index
上司Aのチームのスクランブル競技の後半戦9ホールは、絶好調だった。
まず、スタートホールのパー5を2オン2パットでバーディー発進だったのだ。社員Dのドライバーがいきなり大当たりして、160ヤードしか残らなかったことが、楽々バーディーに繋がったのだ。最初のホールで、第1打目が最低1回は選ばれなければならないという義務を果たした社員Dは、このハーフで3回もドライバーショットが選ばれるという大活躍をした。
女子社員Cも、少し狭いホールで赤ティーからという利点を生かして、最高のドライバーショットを放って、バーディーを呼び込むきっかけを作った。
契約社員Fは、短いパー3で好きなクラブだと話していたユーティリティで、ニアピンとなったスーパーショットを打った。自分で打ったパットが入って、実質一人で、バーディーをもぎ取ったのだと大いに盛り上がった。上司Aは、残り距離があるときなどの2打目で、契約社員Fには、好きなユーティリティの練習をするつもりで、と積極的に打たせて、自信を付けさせていた。初級者の場合、残り距離を打ち分けるのは難しいので、好きなクラブでナイスショットが打てる快感を覚えさせるほうが本人のゴルフのためになると、上司Aは過去の経験で知っていたからだが、見事に結果が出たのには驚いた。
「一生忘れない!」
と契約社員Fは、何度も言った。彼女もゴルフの沼に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
◆上司Aチームは、後半戦は5番ホールで全員が1打目の義務を消化できたことで、余裕が生まれた
◆2打目の採用は上司Aがパー3を除く7ホール中6ホールだった
◆パットの順番は、上司Aが最後という決まり以外は、後半は自由にしたことがリラックスして好結果になった
◆ティーショットが選べるという点がスクランブルのゲームの肝になる部分で、上司Aチームは最高にハマった
◆9ホール中8ホールがパーオン以下で、バーディー外しのパーが多かった
◆最終ホールのパー5で、スタートと同じように2オンしてバーディーで、チームスコアは4アンダーになった
終了後、レストランの一角を借りて、簡単な表彰式があった。後半戦優勝はぶっちぎりで上司Aチームだった。前半戦は2位で、ニアピン賞も独占し、ドラコン賞も一つはいただいた。
賞品でも上司Aは感心させられた。全てうまい棒のような駄菓子だったのだ。見たことがないような大きな袋に入った駄菓子は、子供がいる参加者にはお土産になるだろうし、家飲みなどでつまみとしても食べられるということで、表彰される人を選ばない気遣いを感じた。
また、見た目のインパクトがあるのに、聞いてみると一つ一つは千円もしないという。参加費は安かったのに、結局、全ての参加者が大きな賞品を持って帰ることになった。上司Aのチームは、多くの賞品を獲得したので、持てないほどだった。
表彰はアルコールも、軽食もなく、ただ、テーブルを借りるだけのものだったが、約20分の表彰式は本当に楽しい時間になった。上司Aは色々と考えをまとめた。
◆上司Aはスクランブル競技をもっとやってみたいと思った
◆初心者がチームで助け合いながらプレーしてゴルフを覚えていくのには最適だと思った
◆30代の幹事が準備してくれた表彰式と賞品は、衝撃だったけど、素晴らしかった
◆ただ、社内ゴルフコンペで、スクランブル競技は面白そうだけど困難なところもあって、現実的ではない
◆スクランブル競技は、スクラッチ競技なので、上手い人がいるチームは圧倒的に有利になる
◆コレはコレとして、別に社内行事としてやるのも面白いかもしれない
女子社員Cと契約社員Fは、またやりたいです、と積極的だったが、社員Dの評価は少し違った。
「自分がいくつでプレーできたのかが、全くわからないので、普通にプレーしたくなります」
上司Aは、ハッとした。確かに、自らのスコアアップのために努力を繰り返しているようなゴルファーには、スクランブル競技には物足りなさがあるのかもしれない。
上司Aが入社したばかりの頃、ゴルフ部採用の大先輩から言われたことを思いだした。
「競技ゴルフばかりしてくるとわかりにくいかもしれないが、社会には、社会人の数だけそれぞれのゴルフが存在することを否定していては、前に進めないからな」
ゴルフコミュニケーションは、時代共に進化する部分と、頑固に変わらない部分があるのかもしれない。
若いゴルフ文化の一部に触れたことは、必要不可欠なことだったので有意義な時間だった。上司Aは、近道を歩んではいないことを自覚していたが、これを遠回りにしないために、努力が必要だと気を引き締めた。
まず、スタートホールのパー5を2オン2パットでバーディー発進だったのだ。社員Dのドライバーがいきなり大当たりして、160ヤードしか残らなかったことが、楽々バーディーに繋がったのだ。最初のホールで、第1打目が最低1回は選ばれなければならないという義務を果たした社員Dは、このハーフで3回もドライバーショットが選ばれるという大活躍をした。
女子社員Cも、少し狭いホールで赤ティーからという利点を生かして、最高のドライバーショットを放って、バーディーを呼び込むきっかけを作った。
契約社員Fは、短いパー3で好きなクラブだと話していたユーティリティで、ニアピンとなったスーパーショットを打った。自分で打ったパットが入って、実質一人で、バーディーをもぎ取ったのだと大いに盛り上がった。上司Aは、残り距離があるときなどの2打目で、契約社員Fには、好きなユーティリティの練習をするつもりで、と積極的に打たせて、自信を付けさせていた。初級者の場合、残り距離を打ち分けるのは難しいので、好きなクラブでナイスショットが打てる快感を覚えさせるほうが本人のゴルフのためになると、上司Aは過去の経験で知っていたからだが、見事に結果が出たのには驚いた。
「一生忘れない!」
と契約社員Fは、何度も言った。彼女もゴルフの沼に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
◆上司Aチームは、後半戦は5番ホールで全員が1打目の義務を消化できたことで、余裕が生まれた
◆2打目の採用は上司Aがパー3を除く7ホール中6ホールだった
◆パットの順番は、上司Aが最後という決まり以外は、後半は自由にしたことがリラックスして好結果になった
◆ティーショットが選べるという点がスクランブルのゲームの肝になる部分で、上司Aチームは最高にハマった
◆9ホール中8ホールがパーオン以下で、バーディー外しのパーが多かった
◆最終ホールのパー5で、スタートと同じように2オンしてバーディーで、チームスコアは4アンダーになった
終了後、レストランの一角を借りて、簡単な表彰式があった。後半戦優勝はぶっちぎりで上司Aチームだった。前半戦は2位で、ニアピン賞も独占し、ドラコン賞も一つはいただいた。
賞品でも上司Aは感心させられた。全てうまい棒のような駄菓子だったのだ。見たことがないような大きな袋に入った駄菓子は、子供がいる参加者にはお土産になるだろうし、家飲みなどでつまみとしても食べられるということで、表彰される人を選ばない気遣いを感じた。
また、見た目のインパクトがあるのに、聞いてみると一つ一つは千円もしないという。参加費は安かったのに、結局、全ての参加者が大きな賞品を持って帰ることになった。上司Aのチームは、多くの賞品を獲得したので、持てないほどだった。
表彰はアルコールも、軽食もなく、ただ、テーブルを借りるだけのものだったが、約20分の表彰式は本当に楽しい時間になった。上司Aは色々と考えをまとめた。
◆上司Aはスクランブル競技をもっとやってみたいと思った
◆初心者がチームで助け合いながらプレーしてゴルフを覚えていくのには最適だと思った
◆30代の幹事が準備してくれた表彰式と賞品は、衝撃だったけど、素晴らしかった
◆ただ、社内ゴルフコンペで、スクランブル競技は面白そうだけど困難なところもあって、現実的ではない
◆スクランブル競技は、スクラッチ競技なので、上手い人がいるチームは圧倒的に有利になる
◆コレはコレとして、別に社内行事としてやるのも面白いかもしれない
女子社員Cと契約社員Fは、またやりたいです、と積極的だったが、社員Dの評価は少し違った。
「自分がいくつでプレーできたのかが、全くわからないので、普通にプレーしたくなります」
上司Aは、ハッとした。確かに、自らのスコアアップのために努力を繰り返しているようなゴルファーには、スクランブル競技には物足りなさがあるのかもしれない。
上司Aが入社したばかりの頃、ゴルフ部採用の大先輩から言われたことを思いだした。
「競技ゴルフばかりしてくるとわかりにくいかもしれないが、社会には、社会人の数だけそれぞれのゴルフが存在することを否定していては、前に進めないからな」
ゴルフコミュニケーションは、時代共に進化する部分と、頑固に変わらない部分があるのかもしれない。
若いゴルフ文化の一部に触れたことは、必要不可欠なことだったので有意義な時間だった。上司Aは、近道を歩んではいないことを自覚していたが、これを遠回りにしないために、努力が必要だと気を引き締めた。
今回の金言
「ゴルフスイングは指紋のようなもので、
同じものはなく全て独特の形をしている」
(ジェームズ・ロバートソン)
ジェームズ・ロバートソンは、ゴルフの歴史の研究で有名だったゴルフ評論家で、ゴルフの記録やエピソードを集めた著書『St. Andrews, Home of Golf』(1967年)の中に書かれた言葉。
昔に比べると、個性的なスイングが減ったと言われている。ビデオなどで気軽にスイングチェックできるからだという説が有力だが、プロゴルファーでも、アマチュアでも、よく知っている人なら遠くから見て、スイングで「あれは、○○だ!」と本人確認が出来ることが多い。
上手い人のものまねをすることは、ゴルフだけではなく、スポーツ全般で上達の王道だ。芸術点を競うような競技出れば、完全コピーで、個性が出せないものもあるのだが、ゴルフのように用具を使いボールを飛ばす場合は、スイングでは完結せずに、求めるの結果は弾道になる。だから、スイングは調整機能を求められて、実に様々な形になるのだ。
ゴルファーの数だけゴルフがあると教わった上司Aだが、注意し続けなければ、自分たちのゴルフだけが正しいのだと他者のゴルフを上書きしようとしてしまうものだ。若い世代と、ゴルフを一緒にしてみて、上司Aはそういう愚行だけは避けようと誓った。
色々なスイングがあることを指紋に例えた金言のセンスに感動する。
上司Aの挑戦は、一つのベクトルに向かって、前進したといえる。しかし、簡単に形式が違うコンペを融合できる可能性は低く、特命を達成できるゴールはまだまだ先である。
同じものはなく全て独特の形をしている」
(ジェームズ・ロバートソン)
ジェームズ・ロバートソンは、ゴルフの歴史の研究で有名だったゴルフ評論家で、ゴルフの記録やエピソードを集めた著書『St. Andrews, Home of Golf』(1967年)の中に書かれた言葉。
昔に比べると、個性的なスイングが減ったと言われている。ビデオなどで気軽にスイングチェックできるからだという説が有力だが、プロゴルファーでも、アマチュアでも、よく知っている人なら遠くから見て、スイングで「あれは、○○だ!」と本人確認が出来ることが多い。
上手い人のものまねをすることは、ゴルフだけではなく、スポーツ全般で上達の王道だ。芸術点を競うような競技出れば、完全コピーで、個性が出せないものもあるのだが、ゴルフのように用具を使いボールを飛ばす場合は、スイングでは完結せずに、求めるの結果は弾道になる。だから、スイングは調整機能を求められて、実に様々な形になるのだ。
ゴルファーの数だけゴルフがあると教わった上司Aだが、注意し続けなければ、自分たちのゴルフだけが正しいのだと他者のゴルフを上書きしようとしてしまうものだ。若い世代と、ゴルフを一緒にしてみて、上司Aはそういう愚行だけは避けようと誓った。
色々なスイングがあることを指紋に例えた金言のセンスに感動する。
上司Aの挑戦は、一つのベクトルに向かって、前進したといえる。しかし、簡単に形式が違うコンペを融合できる可能性は低く、特命を達成できるゴールはまだまだ先である。
【著者紹介】四野 立直 (しの りいち)
バブル入社組作家。ゴルフの歴史やうんちく好きで、スクラッチプレーヤーだったこともある腕前。東京都在住。