秋ゴルフが美しい理由
10月、11月はゴルフコンペの季節でもあります。
一昔前、上級ゴルファーは、ゴルフコンペに誘われる数でレベルがわかるという説がありました。社用族が主役だった時代から個人の趣味でゴルフをする時代に変わっていく中だからこそ、「また一緒にゴルフがしたい」と思われるゴルファーの価値というのが問われていたのです。
2020年秋。先が見えないコロナ禍の中、次の感染爆発の波が来ることに怯えつつ、『Go to ○○』の連続攻撃に腰がむずむずする人も多いと察します。ゴルフシーンでは、春ゴルフを我慢した分を取り戻すように、この秋は、毎週ゴルフコンペがあると忙しそうにしているゴルファーもいる反面、まだまだ我慢が大事だと妄想ゴルフで我慢しているゴルファーもいるようです。ゴルフコースも、予約が混雑して、キャンセル待ちになっている日もあるところと、暇な日が続いていると嘆いているところが明確に分かれているようです。
「秋のゴルフコースが美しいと言うけど、正直に告白すると、あまり美しいと感じたことがないのです……」
そんなふうに、戸惑っている真面目なベテランゴルファーに会いました。
ゴルフをしているエリアによりますが、実は、秋のゴルフコースが美しいというシーンは極めて少ないのが、現実だったりするのです。
秋のゴルフコースの美しさの定番は、芝生の緑がまだ残っているコースに、赤や黄色に紅葉した木々とのコントラストです。秋が美しいことで有名なコースは、基本的には借景に頼っています。つまり、近くに見える山々や森などが自然林やそれに近い整備がされていて、コース外の紅葉した風景を楽しんでいるというわけです。
秋ゴルフならココだ! というホールもあります。春の桜の季節も、18ホール全てが桜並木というゴルフコースはありません。何ホールかそういう絵になるシーンになるホールがあるだけです。秋ゴルフでも、同様なのです。名物ホールということなのです。期間限定で、特定のホールに、紅葉する大木があったり、並木があったりするというわけです。
ゴルフコースにとって落ち葉は、掃除するスタッフの作業量を何倍にもする厄介者です。落ち葉の中にボールが入ったら、打ちづらいだけではなく、ボールがロストしてしまうこともあるからです。早朝にきれいに掃除しても、風がある日などは、昼には落ち葉が積もってしまう、ということもあります。秋の一定の期間は、神経を磨り減らして、落ち葉を排除してくれているので、僕らは快適な秋ゴルフを楽しめるわけです。
秋に美しいホールが出来るとしても、設計段階、または、施工段階で、プレーライン周辺には、落ち葉が出る種類の木を配置することに反対する現実があるのです。その結果、美しい四季の変化を楽しめる国のゴルフコースなのに、ティーの周辺の生け垣ぐらいしか秋を感じないゴルフコースばかりになってしまったというわけです。
さらに、ゴルフコースが最も密集している関東では、自然林を切り開いて、杉などに計画的に植え替えた山林が多くなった歴史があります。残念ながら、借景もあまり紅葉しないのです。自然林に囲まれたゴルフコースは、数は少ないですが、そこで秋ゴルフをすると圧倒的な紅葉に、夢の中でプレーしているような気分になります。
小さな秋を見つけるのも秋ゴルフの楽しみです。そんなふうに余裕を持つことが、秋ゴルフを堪能する秘訣なのかもしれません。
一昔前、上級ゴルファーは、ゴルフコンペに誘われる数でレベルがわかるという説がありました。社用族が主役だった時代から個人の趣味でゴルフをする時代に変わっていく中だからこそ、「また一緒にゴルフがしたい」と思われるゴルファーの価値というのが問われていたのです。
2020年秋。先が見えないコロナ禍の中、次の感染爆発の波が来ることに怯えつつ、『Go to ○○』の連続攻撃に腰がむずむずする人も多いと察します。ゴルフシーンでは、春ゴルフを我慢した分を取り戻すように、この秋は、毎週ゴルフコンペがあると忙しそうにしているゴルファーもいる反面、まだまだ我慢が大事だと妄想ゴルフで我慢しているゴルファーもいるようです。ゴルフコースも、予約が混雑して、キャンセル待ちになっている日もあるところと、暇な日が続いていると嘆いているところが明確に分かれているようです。
「秋のゴルフコースが美しいと言うけど、正直に告白すると、あまり美しいと感じたことがないのです……」
そんなふうに、戸惑っている真面目なベテランゴルファーに会いました。
ゴルフをしているエリアによりますが、実は、秋のゴルフコースが美しいというシーンは極めて少ないのが、現実だったりするのです。
秋のゴルフコースの美しさの定番は、芝生の緑がまだ残っているコースに、赤や黄色に紅葉した木々とのコントラストです。秋が美しいことで有名なコースは、基本的には借景に頼っています。つまり、近くに見える山々や森などが自然林やそれに近い整備がされていて、コース外の紅葉した風景を楽しんでいるというわけです。
秋ゴルフならココだ! というホールもあります。春の桜の季節も、18ホール全てが桜並木というゴルフコースはありません。何ホールかそういう絵になるシーンになるホールがあるだけです。秋ゴルフでも、同様なのです。名物ホールということなのです。期間限定で、特定のホールに、紅葉する大木があったり、並木があったりするというわけです。
ゴルフコースにとって落ち葉は、掃除するスタッフの作業量を何倍にもする厄介者です。落ち葉の中にボールが入ったら、打ちづらいだけではなく、ボールがロストしてしまうこともあるからです。早朝にきれいに掃除しても、風がある日などは、昼には落ち葉が積もってしまう、ということもあります。秋の一定の期間は、神経を磨り減らして、落ち葉を排除してくれているので、僕らは快適な秋ゴルフを楽しめるわけです。
秋に美しいホールが出来るとしても、設計段階、または、施工段階で、プレーライン周辺には、落ち葉が出る種類の木を配置することに反対する現実があるのです。その結果、美しい四季の変化を楽しめる国のゴルフコースなのに、ティーの周辺の生け垣ぐらいしか秋を感じないゴルフコースばかりになってしまったというわけです。
さらに、ゴルフコースが最も密集している関東では、自然林を切り開いて、杉などに計画的に植え替えた山林が多くなった歴史があります。残念ながら、借景もあまり紅葉しないのです。自然林に囲まれたゴルフコースは、数は少ないですが、そこで秋ゴルフをすると圧倒的な紅葉に、夢の中でプレーしているような気分になります。
小さな秋を見つけるのも秋ゴルフの楽しみです。そんなふうに余裕を持つことが、秋ゴルフを堪能する秘訣なのかもしれません。
新しいルールとバンカー
少しだけミスショットをして、ショートしたボールがバンカーに入りました。パー5で2オンを狙って、グリーン手前のバンカーにボールが行ってしまったのです。落胆よりも、ウキウキしました。バンカーショットが楽しみだったのです。
20代でバリバリの競技ゴルファーだった頃、バッグには60度のウェッジが入っていました。当時としては極めて珍しいものでした。そのウェッジは、米国のメーカーのステンレスヘッドという特殊なもので、元々長かったシャフトをカットして、短くして使っていました。バンカーショットは、技術論より練習量がある一定のレベルまでは勝ります。愛着が出るほど練習しまくった60度のウェッジは、ほぼバンカー専用で、僕は周囲の人たちからバンカーがとても上手い選手というように評価されていました。
60度のウェッジを手放してから四半世紀が過ぎ、2020年からバッグに再び60度のウェッジを入れることになりました。狙いは別の所にありましたが、このウェッジは、全く練習しなくとも、あの頃のように、バンカーから狙い通りに寄せることができるのです。徹底して練習した蓄積が、身体のどこかに保存されていたのだと、ビックリしました。
バンカーショットが打てることを楽しみにしながら、バンカーを覗き込むと、僕のボールはバンカーの中央にありました。そこは、直径40センチぐらいの円形に落ち葉が密集していました。その中央に、ボールが乗っていたのです。
以前のルールでは、そのまま打つしかありませんでしたが、2019年のルール改正で、落ち葉などのルースインペディメントはバンカー内でも取り除けるようになりました。慎重に、落ち葉を取り除きました。
しかし、ボールは、ボールよりも少し大きい落ち葉の上に乗っていたのです。最後の1枚は、規則で動かせません。ルースインペディメントを動かすときに、ボールが動いてしまうと1打罰になってしまうからです。どうやっても、ボールの下敷きになっている葉っぱを違反せずに取り除くのは不可能でした。
そのまま打つしかない規則と現状を受け入れるのもゴルフの内だと、切り替えた瞬間。『これは小さな秋だなぁ』と気が付きました。
プレーに夢中になって、秋らしい美しいシーンに気が付かなかったりすることは誰にでもあることです。風景を楽しむことは、ゴルフとは別のものだと嫌がる人もいますけれど、集中力を維持するのに最も大事なことは、メリハリを上手に使うことです。ボールとスコアカードだけをプレー中に見続けるのは、あまり良いハウツーとは言えません。
ちょっとした不幸や悲劇も、考え方次第です。だからゴルフはやめられないのです。
20代でバリバリの競技ゴルファーだった頃、バッグには60度のウェッジが入っていました。当時としては極めて珍しいものでした。そのウェッジは、米国のメーカーのステンレスヘッドという特殊なもので、元々長かったシャフトをカットして、短くして使っていました。バンカーショットは、技術論より練習量がある一定のレベルまでは勝ります。愛着が出るほど練習しまくった60度のウェッジは、ほぼバンカー専用で、僕は周囲の人たちからバンカーがとても上手い選手というように評価されていました。
60度のウェッジを手放してから四半世紀が過ぎ、2020年からバッグに再び60度のウェッジを入れることになりました。狙いは別の所にありましたが、このウェッジは、全く練習しなくとも、あの頃のように、バンカーから狙い通りに寄せることができるのです。徹底して練習した蓄積が、身体のどこかに保存されていたのだと、ビックリしました。
バンカーショットが打てることを楽しみにしながら、バンカーを覗き込むと、僕のボールはバンカーの中央にありました。そこは、直径40センチぐらいの円形に落ち葉が密集していました。その中央に、ボールが乗っていたのです。
以前のルールでは、そのまま打つしかありませんでしたが、2019年のルール改正で、落ち葉などのルースインペディメントはバンカー内でも取り除けるようになりました。慎重に、落ち葉を取り除きました。
しかし、ボールは、ボールよりも少し大きい落ち葉の上に乗っていたのです。最後の1枚は、規則で動かせません。ルースインペディメントを動かすときに、ボールが動いてしまうと1打罰になってしまうからです。どうやっても、ボールの下敷きになっている葉っぱを違反せずに取り除くのは不可能でした。
そのまま打つしかない規則と現状を受け入れるのもゴルフの内だと、切り替えた瞬間。『これは小さな秋だなぁ』と気が付きました。
プレーに夢中になって、秋らしい美しいシーンに気が付かなかったりすることは誰にでもあることです。風景を楽しむことは、ゴルフとは別のものだと嫌がる人もいますけれど、集中力を維持するのに最も大事なことは、メリハリを上手に使うことです。ボールとスコアカードだけをプレー中に見続けるのは、あまり良いハウツーとは言えません。
ちょっとした不幸や悲劇も、考え方次第です。だからゴルフはやめられないのです。
秋ショットを楽しむ
『落ち葉ルール』というローカルルールを設定するゴルフコースがあります。
落ち葉の中でボールがなくなってしまっても、無罰で、そのエリアの近くから、新しいボールをドロップしてプレーが出来るというものです。落ち葉の吹き溜まりは修理地扱いにすることで対応するケースもあります。グリーン上で、打ったボールが動いている間に、ライン上に移動してきた落ち葉にボールが当たったら無罰で打ち直しが出来るというものも見たことがあります。
せっかくの秋ゴルフなのに、ほんの少しの不運が楽しい気分を台無しにしてしまうのを未然に防ぐ意味で、個人的にはこの手のローカルルールを強く支持しています。
そもそも秋ゴルフの一つのファクターは、美しい紅葉であり、落ち葉なのです。
それが不幸の種になる要因は、排除できればするべきだと思うのです。
話の続きに戻ります。。
「おぉ! 凄い!!」
同伴者から賞賛されました。
バンカー内で色づいた落ち葉に乗ったボールを新しい60度のウェッジで打ちました。ポンと上がったボールは、ホールの50センチ手前に落ちて、次のバウンドでホールの横を通り過ぎて、少ししピンがかかって、カップの真横、50センチに止まったのです。
落ち葉を取り除いているシーンから珍しそうに僕を観察していた同伴者は、ほぼ百点という結果を見て、
「今みたいに下に葉っぱがあるときは、どうやって打つの?」
と聞いてきました。
「バンカーの中であれば、普段と全く一緒で、特別なことはしないでも大丈夫ですよ」
と答えたのです。実際に、ゴルファーに出来ることはそんなものです。無限に対応できるというのは、無い物ねだりです。
そもそも、バンカーで落ち葉の上にボールが止まることなんて、何万回に1回あるかないかという奇跡みたいなものです。以前のゴルフルール時代に、バンカー内の動かせない落ち葉の中にあるボールを打った経験が何度もありました。これがやれることを確実すると徹底することで、集中できるのか、結果として上手くいくことが多かったのです。新しいルールでは、取り除ける落ち葉が多いので、やさしくなっただけではなく、より秋を感じられるようになったような気がしました。
「秋ショットだと思って楽しむのがコツです」
と、付け足したように同伴者に説明しましたが、彼の興味は、傾斜が強く、難しいグリーンのパットのラインに持って行かれてしまって、上の空でした。
秋ショットって、なかなか言い言葉じゃないか、と自画自賛しながら、順番が来たので、50センチのバーディーパットを打ちました。ボールは、カップの縁をくるりと一周して、グリーン上に止まりました……
葉っぱの上のボールを打ったことは、たぶん、忘れてしまうと思うのですが、カップの縁を一周して入らなかった短いパットは、同じような短いパットのたびに、記憶の中で自分を苦しめるだろうなぁ、と朧気に覚悟をしました。
秋という季節は留まることを知らずに、落ちるようにして過ぎて行くものです。季節が変わるまでに、パットを入れまくって記憶の上書きをしようと誓うのも、今年の秋ゴルフの一部になったのです。
落ち葉の中でボールがなくなってしまっても、無罰で、そのエリアの近くから、新しいボールをドロップしてプレーが出来るというものです。落ち葉の吹き溜まりは修理地扱いにすることで対応するケースもあります。グリーン上で、打ったボールが動いている間に、ライン上に移動してきた落ち葉にボールが当たったら無罰で打ち直しが出来るというものも見たことがあります。
せっかくの秋ゴルフなのに、ほんの少しの不運が楽しい気分を台無しにしてしまうのを未然に防ぐ意味で、個人的にはこの手のローカルルールを強く支持しています。
そもそも秋ゴルフの一つのファクターは、美しい紅葉であり、落ち葉なのです。
それが不幸の種になる要因は、排除できればするべきだと思うのです。
話の続きに戻ります。。
「おぉ! 凄い!!」
同伴者から賞賛されました。
バンカー内で色づいた落ち葉に乗ったボールを新しい60度のウェッジで打ちました。ポンと上がったボールは、ホールの50センチ手前に落ちて、次のバウンドでホールの横を通り過ぎて、少ししピンがかかって、カップの真横、50センチに止まったのです。
落ち葉を取り除いているシーンから珍しそうに僕を観察していた同伴者は、ほぼ百点という結果を見て、
「今みたいに下に葉っぱがあるときは、どうやって打つの?」
と聞いてきました。
「バンカーの中であれば、普段と全く一緒で、特別なことはしないでも大丈夫ですよ」
と答えたのです。実際に、ゴルファーに出来ることはそんなものです。無限に対応できるというのは、無い物ねだりです。
そもそも、バンカーで落ち葉の上にボールが止まることなんて、何万回に1回あるかないかという奇跡みたいなものです。以前のゴルフルール時代に、バンカー内の動かせない落ち葉の中にあるボールを打った経験が何度もありました。これがやれることを確実すると徹底することで、集中できるのか、結果として上手くいくことが多かったのです。新しいルールでは、取り除ける落ち葉が多いので、やさしくなっただけではなく、より秋を感じられるようになったような気がしました。
「秋ショットだと思って楽しむのがコツです」
と、付け足したように同伴者に説明しましたが、彼の興味は、傾斜が強く、難しいグリーンのパットのラインに持って行かれてしまって、上の空でした。
秋ショットって、なかなか言い言葉じゃないか、と自画自賛しながら、順番が来たので、50センチのバーディーパットを打ちました。ボールは、カップの縁をくるりと一周して、グリーン上に止まりました……
葉っぱの上のボールを打ったことは、たぶん、忘れてしまうと思うのですが、カップの縁を一周して入らなかった短いパットは、同じような短いパットのたびに、記憶の中で自分を苦しめるだろうなぁ、と朧気に覚悟をしました。
秋という季節は留まることを知らずに、落ちるようにして過ぎて行くものです。季節が変わるまでに、パットを入れまくって記憶の上書きをしようと誓うのも、今年の秋ゴルフの一部になったのです。
【著者紹介】篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。