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打打打坐 第26回【一穴主義とパター】

打打打坐 第26回【一穴主義とパター】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2020年10月9日 15時00分

パターと女房は古いほど

「パターだけは、長年使い続けたほうが上手くなりますよね?」

と聞かれて、答えに詰まりました。

「パターが上手い人は、同じパターをずーっと使っているじゃないですか」

そういう傾向は間違いなくあります。でも、パターを変更する理由の過半数は、問題を解消する可能性を感じたからだからで、問題がなければ、パターを替える必要はありませんから、使い続けることで上手くなったという証明としては不十分です。

同じパターを使い続けることは、パターという道具を使い熟すという意味で効果は間違いなくあります。自分の技術を剥き出しにする意味でも優れた方法です。名人クラスにパットが上手い人の何割かは、エースパターとして常用しているパターとは別に、自らの技術レベルをチェックするために使い古したベースになるパターをすぐに練習できるように身近に置いています。

そういう見えない利用法まで含めて、パターを替えない意味を考えてしまいました。

その昔、ゴルファーの間で「女房とパターは古いほど良い」という金言がよく使われました。「女房と鍋釜は古いほど良い」という諺のパロディで、長年連れ添って苦楽を共にしてきたものは味わいがあって良い、という意味です。逆に、「女房と畳は新しいほうが良い」という諺のパロディで、「女房とパターは新しいほうが良い」という金言も大いに交わされたのです。これは、とにかく新しいものは気持ちが良いという意味です。

同じパターを使い続けることが、パットが上手くなることに直結するか、という質問にイエスか、ノーで答えるのは無責任だと思いました。

パターに問題がある場合、それを使い続ければ、上手くなるどころか、下手になる可能性もあります。問題のあるパターとは? と考え出すと、ますます答えにくくなってしまったのです。

質問者は、答えにくそうにしている僕に配慮したからなのか、答えを待たずに、自然に話題を変えようとしてくれました。若いのに、気遣いができて立派です。

「パターを替えない人のことを一穴主義って呼ぶのって、合っていますか?」

一穴主義なんて言葉を久しぶりに聞いたので、少し驚きました。1人の人としかセックスをしない主義は、男性同士だと少しばかりの軽蔑を伴って使われましたが、女性視線であれば、絶対に浮気をしない誠実な人間だと評価してくれるケースもありました。転じて、一つのものを大事にする人というでも使われますが、下ネタだと不快に感じるケースもあったので、徐々に使われなくなったのだと思っていました。

間違いではないかもしれない、と答えました。

少し前まで、僕は多くの仲間に一穴主義と影で言われていたのです。

ゴルフ的一穴主義とは

2018年まで、僕はキャディバッグの中の14本のレギュラーをほとんど替えずにゴルフをしていました。10年以上クラブを替えていないゴルファーは、実はかなりの人数がいることが統計的にわかっています。統計上のゴルファーは、年に1回以上ゴルフコースに行って、ゴルフをした人のことです。

月に1回ラウンドするゴルファーを月一ゴルファーと呼び、ゴルフ業界からすると過半数を占めるボリュームゾーンだと考えられています。そういうゴルファーに紛れるように、年一ゴルファーも存在しています。

年に1度しかゴルフをしないのであれば、10年で10回しかクラブを使いません。10回しか使っていないのに、クラブを替えるのはもったいないという考え方は十分に理解が出来ます。その反面、日進月歩で進化しているゴルフクラブは、10年前のものは中古市場でも二束三文扱いで、用具に気を遣っている人から見れば、そんな道具でゴルフをしているなんて信じられないということになることも理解できます。

僕の場合は、10年間で数百回ラウンドしていましたから、どちらかといえば、後者のケースに当てはまって、一穴主義と言われていたというわけです。

替えないと決めていたのではなく、クラブを替えることに興味はあって、情報は収集していましたし、色々な試打もしていました。でも、クラブを替える必要を感じなかったのです。自分のバッグの中身は、その頃の自分のゴルフを支えるのに十分でしたし、厳選したレギュラーに不満がありませんでした。

2017年頃から状況が変わり始めました。体力も落ちて、使用しているクラブがオーバースペックになっていることがマイナスになってスコアに影響してきたのです。2018年から2年間かけて、バッグの中の14本全てのレギュラーを交換しました。使い手である監督は同じですが、違うチームになりました。

そんな状況の中でも、パターだけは、時々、替えていました。コースに持ち込むまでは、新しいエースパターの活躍を疑いません。確信に近い期待をもって、ハッピーなデビュー戦を迎えるのです。そのぐらい信じられるパターでなければ、パターを交換しようとはしません。

しかし、少ないときには3ラウンドで、元に戻してしまうこともありました。結果的には浮気です。古女房である元エースパターは、定位置に戻って数ラウンドは猛烈に入りまくりって、自らの優秀さをアピールします。ゴルフクラブは、本当に不思議なのですが、実戦投入した本番でなければ、ちゃんと機能してくれるかがわかりません。

エースパターは、しばらくすると『あれ?』という感じになるのですが、そういう時期にご一緒する人たちからすれば、一穴主義というように見えるというわけです。

ゴルフ的一穴主義には諸説ありますが、クラブを変更しないと意味だと考えて良いと思います。それが、プラスになるのも、マイナスになるのも、自分次第というところがゴルフの面白さでもあるのです。

一穴主義ではなくて……

この数年は、90%以上、同じコースでプレーしています。試打ラウンドは、同じコースでなければ正確な比較ができないからです。最低でも1年間で新製品が50アイテムはあるので、50ラウンドは同じコースでプレーしているわけです。

そのラウンドの何割かをご一緒してくれているゴルフ仲間に、パターの話から始まった一穴主義の話をしました。

「それって、パターとか、クラブではなくて、同じコースでほぼプレーしている僕らにピッタリじゃないの」

という話になりました。ゴルフは、少ない打数でホールインするゲームですし、ホールは色々な意味で使う用語でもあります。確かに、クラブを替えないというよりも、意味合い的には合っているような気がしました。

そういう意味の一穴主義であれば、堂々と胸を張って自慢したいと思います。同じコースばかりに行くことに、同情してくれる人もいますが、実は良いことばかりで悪いことはほとんどないので、願ってもない環境だと感謝しているからです。

色々なコースに行かなければわからないこともありますが、同じコースで鍛えなければ、身につかないこともあるのもゴルフの真実なのです。そんな話で、ゴルフ仲間とひとしきり盛り上がったのです。

「パターを替えないのは一棒主義だと言ったら、下ネタになっちゃうかね」

笑いながらゴルフ仲間が言いました。同世代ならではの発想に、その場が和みました。男性視点だと一穴主義ですが、女性視線であれば一棒主義ということになるというわけです。

2020年現在、パターは、ゴルフクラブ市場に千種類を超えて溢れています。他のクラブに比べて、パターヘッドのデザインの多様性は異常といえます。とはいえ、それだけ、こだわるゴルファーが多く、需要があるという動かぬ証拠でもあるのです。

次々に開発される新しいパターに惑わされずに、たった1本のパターと一緒にグリーン上で戦い続けることは、想像する以上に大変なことです。それを考えると、一棒主義という文字が凜として、頼りになるように見えて来るのです。

新しい革新的な用具は、歴史上、何度も出現しては、ゴルフ全体に及ぶ進化をもたらしてきました。自分のゴルフの自信があればあるほど、その変化の波に乗り遅れるケースがあり、大きな代償を支払わなければならなかったゴルファーもたくさんいます。時代の流れに逆らって、上手くいった例はゴルフの歴史で皆無なのです。

新しさを次々に試めす楽しさもゴルフであり、こだわりのクラブを使い熟してスコアに反映されるのを楽しむのもゴルフです。正解は、ゴルファーの数だけあるのです。

下ネタになるリスクがある言葉を使わなくとも、諸々の主義は説明できるかもしれませんが…… 信じた主義を貫くゴルファーは、イメージしやすい言葉のほうが盲信しやすくなるのです。信じられる主義があるゴルファーは、成果の有無に関係なく、幸せなのです。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
連載

ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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