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    打打打坐 第29回【新しいクラブは夢で一杯】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2020年10月30日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    2020年の秋は豊作!

    「2020年はドライバーの当たり年だ!」
    耳にタコができるほど聞きました。
    その通りだと思いますし、秋の新製品が出揃って、その思いをより強くしました。

    「いやいや、2020年はアイアン革命の年だよ」
    という声も聞こえてきます。
    これも、全面的に肯定します。今年出たアイアンの中には、革新的なものがいくつもあります。また、オーソドックスなものの中にもシビれるアイアンがあります。

    新製品のインプレションを書くときに、ショップ店員だった頃の気持ちになって考えることにしています。
    例えば、Aさんには合わなくとも、Bさんにはベストマッチというクラブは存在します。もちろん、ゴルフメーカーはできるだけ多くの人に合うように、テクノロジーを駆使して開発をしているのですが、万民に合うものは、全ての部門で70点というような秀才優等生的なクラブが多いのです。
    20世紀であれば、大量生産と大量消費の時代でしたから、それで良かったのかもしれません。
    ゴルフクラブの性能がどんどん上がった結果、21世紀の現在は、Aさんは50点しか出せないけれど、Bさんなら100点満点が出せるというようなタイプ別なクラブが市場に溢れています。

    一昔前まで、そういう特別なターゲットに合わせて100点満点を出せるクラブは、上級者用のみでした。プロ用につぎ込んだ開発費を回収するための図式が出来上がっていたからです。

    21世紀に入って、トッププロと一般的なアマチュアが同じ道具を使うという例が増えて、一気に100点満点の特殊なクラブが誰でも購入可能な時代になってきたというわけです。

    しかし、そういう宣伝をすると、一部の人だけにしか興味を持ってもらえません。
    ゴルフクラブの宣伝は、20世紀の頃とほとんど変わりません。たくさんの人に購入して欲しい、という点を最優先しているからですが、それはしかたがないことなのだと思います。

    2020年、本当にゴルフクラブは面白いものが多くて、豊作だと断言できます。
    コロナ禍で、ゴルフコースに行けなかった分で、新しいクラブを買おうと考えているゴルファーにとっては、最高のタイミングで、ラッキーなのです。

    夢を売るのは詐欺ではない

    ショップでゴルフクラブを売っていた頃、最も忙しくなるのは、11月と12月の二ヶ月間でした。
    冬のボーナスを見込んだ秋の新製品投入があって、当時は、お歳暮をゴルフ用品にする営業マンもたくさんいたからです。
    僕のいたショップでは、この期間だけアルバイトを増やして対応していました。
    その中に、ゴルフはしたことがないのに、僕とお客様のやり取りを聞いて勉強して、全く同じように商品を売ることができるようになった学生アルバイトがいました。便宜上、Qくんとします。
    途中から、基本の時間給にプラスして、売り上げに応じた歩合のアルバイト代も払うことにしました。

    Qくんは、コミュニケーション能力に長けていて、相手が何を欲しているかということを観察して推測する能力もずば抜けていました。
    仕事終わりには、夕食に誘って、一緒の時間を何度も過ごす内に、自然と彼を入社させたいと思うようになりました。
    翌々年の春に卒業したら、この会社で働かないか? と単刀直入に確認しました。良い返事が聞けるという自信もあったのです。

    「この仕事は面白いし、嫌いではないのですけど……」
    結果として、Qくんからは良い返事がもらえませんでした。言いにくそうにしている彼に、遠慮しないで、思ったことを話すように促すと
    「ゴルフクラブを売る仕事って、詐欺ですよね?」
    と真っ直ぐに僕を見つめて言ったのです。

    彼の主張は、彼のような素人でもハウツーがあれば売れることに驚いたことから始まって、実際に購入したお客様がクラブを使ってみて、言った通りにならなくて失望して、責任をとれと言われたらどうしようか、と怖かったというのです。確かに、扱っている商品の多くが彼の1ヶ月のアルバイト代より高いのに、それが飛ぶように売れていくのですから、彼の不安もわかりました。

    「騙すつもりで売っている人なんて誰もいない。ゴルフクラブを売る仕事は、『夢を売っている』という側面もあるんだ。このクラブを使ったら…… と想像できるお客様は、方法さえ正しければ、その夢を実現できる可能性があるからね」
    イマイチ納得しないQくんに、僕は続けました。
    「百歩譲って、詐欺というのは訴えられなければ成立しない犯罪だよね。心配してるように、失望して、訴えてくるお客様なんて1人も存在しないのを残りのアルバイト期間でよく見ていてごらん」

    ゴルフクラブを売る仕事は、お客様と一緒に夢を見て、それが実現するサポートをする仕事なのです。

    購入したクラブが思った通りにならなくとも、失望している時間なんて夢見るゴルファーにはありません。練習をして、使い熟せるように、練習場に行かなければならないからです。
    それでもダメなときは、ショップに来て相談を受けることがありますが、親身になってアドバイスしますし、時には、一緒に練習場にもゴルフコースにも行きました。そのお客様のクラブを借りて、一球入魂で、理想として夢見ていたショットを披露すれば、お客様の夢は続きます。実際に、放たれたボールは現実であり、真実だからです。

    その頃の一球入魂が、現在のコースで打ち直しなしのインプレ動画を撮るのに役立っているのです。
    ちなみに、Qくんは卒業まで、アルバイトを続けてくれましたが、某有名企業に就職後、独立して起業して…… 今は複数の会社を経営している立派な実業家です。

    悩んでいる時間は幸せなのだよ

    クラブ選びに悩んでいるという相談をよく受けます。

    ゴルフは、やればやるほど、悩むことが増えて、悩みも深くなるものです。
    悩みながら、それをクリアする。その達成感は、悩みが深いほどに大きくなります。
    クリアした途端に、次の悩みが見つかるのです。その繰り返しが、ゴルフの面白さであり、魅力なのです。

    ゴルフの悩みの中には、クリアができないものも存在します。
    例えば、もっと飛距離が欲しいと悩んだ場合、1番手アップとか、2番手アップとか、クリアできる条件があるものですが、身体的な意味で、シビアな限界も存在します。
    また、飛距離アップに成功した副作用で、ミスヒットが多くなってしまって、スコアのアベレージは下がってしまうこともあるのです。
    やればやるほど、ゴルフの悩みは複雑に、クリアは困難になっていきます。

    クリアすることを諦めることが正解であることも、ゴルフの面白さです。

    クラブの悩みは、ゴルフの悩みの中で、最も単純で幸せだという説があります。
    購入できれば半分ぐらいクリアですし、即効性があるからです。

    面白いことに、クラブの相談をされると、できることと、できないことが明確なことが、ほとんどなのです。
    飛距離はクラブ変更でアップすることが可能です。
    方向性能が高いクラブもあります。
    スピン性能は、クラブの得意分野で、プロゴルファーでさえ、技術よりも用具で調整するのが主流です。
    その3つの項目以外は、できないことに分類されることが多いのです。

    お金でスコアが買えるか? というよくある疑問にも、「部分的には」と答えます。

    「このクラブを買ったら……」
    夢を見るのと同時に、悩みは始まります。儚い夢なのか…… それとも、予知夢で素敵な未来があるのか……
    ゴルフクラブは、購入して、最初に打つまでの時間が悩ましいけれど、楽しいのも事実です。

    当然ですが、購入して、夢見た通りのボールが打てるようになれば最高です。
    悩みの最終的なクリアは、購入ではなく、結果が出ることです。

    仮に夢に破れても、ゴルフが終わるわけではありません。
    次の夢を見ることができますし、クラブも次々に市場投入されます。
    自分に合った最高の1本は、待っていて見つかる可能性よりも、探す努力をするほうが見つけられる可能性がアップします。

    2020年の秋の新製品は、最先端のテクノロジーで開発されています。
    それらの科学の結晶が、夢で一杯という不思議さもゴルフだからこそです。
    夢見るだけならタダです。夢見るゴルファーとして、ゴルフを楽しみましょう。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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