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    episode 16 【ゴルフ部を作ろう!】

    社内ゴルフコンペ参加者の平均年齢が50歳を超えたことに気が付いた役員から「若い参加者を増やせ!ただし、コンプライアンスには十分に注意せよ」という特命を帯びた上司A。一切の強要なしに若い部下たちをグリーンに誘うことは可能なのか? 上司Aの挑戦は始まった……

    配信日時:2020年12月3日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    社員Eから、社内の共有スペースであるコミュケーションルームに呼び出されて、上司Aは驚きの計画が進行していることを教えられた。彼の30代の社内のゴルフサークルのメンバーたちが総動員で、社内に公認のゴルフ部を作ろうと準備が始まった、というのである。

    確かに、ゴルフ部を作ろうという話は特命に協力してもらっている仲間内で、何度か出ていた。少し前に役員にも報告した中にも入れていた。しかし、上司Aの中では、その設立目的を含めて、具体的に動き出しほど固まっていない、という認識だったのだ。

    「鉄は熱いうちに打て、というじゃないですか」

    社員Eは楽しそうにしながら上司Aにプレゼンを始めた。


    ◆ゴルフ部の設立目的は社内のゴルフ仲間の親交を深めること
    ◆少人数でも良いので、来る者は拒まず、去る者は追わずでの部活動とする
    ◆最終的には月例。当面は季節ごとの年4回のコンペと年2回の合宿をする
    ◆部室は強いてコミュニケーションルーム内とする
    ◆人工芝のグリーンを設置してもらって、普段は誰でも自由に座ったり、寝たり出来るようにする
    ◆グリーンを使うイベントとして、誰でも参加OKのパット戦を行うことでゴルフに興味がある人を誘う
    ◆グリーンのカップは普段は蓋をして平らにしておく



    上司Aは、社員Eの熱意に押されながら、その発想の柔軟さとゴルファーの発掘とゴルフをしてみたい人へのアピールとしてゴルフ部が機能する未来を想像して、感心した。人工芝のグリーンは、既に図面も出来ていて、コミュニケーションルームに設置したイメージ図まで添えられていた。

    「総務の同期から聞いたんですけど、地下に書類保管用の倉庫があって、ペーパーレス化の影響でいくつかの倉庫を開けることが可能らしいんです。天井高もあるので、将来的には、そこに打席を作って部室とさせてもらって、できればコミュニケーションルーム内にもグリーンとは別に打席があると良いなぁ、と考えています」

    「凄い先のことまで、よく考えたなぁ」

    「仕事でゴルフというのは気が重いですけど、部活であれば、会社のお付き合いということで、家族に対してもゴルフだと言いやすいという利点があるので、同年代サークルのメンバーがノリノリなんです」

    上司Aは、一部の支社の社屋の屋上や地下に、ゴルフの練習ができる打席があることを知っていた。いずれも、特命を下した役員の一派が、その支社長を歴任していて、彼らの推しがあって、福利厚生として認められたものだ。○○支店に赴任すると、ハンディキャップが10下がるという社内の都市伝説もあるが、それらの施設と無関係ではない。ちゃんとネゴエーションすれば、本社の地下や、共有スペースに練習場があっても、たぶん大きな問題にはならないと予測できた。

    彼のプランを聞けば聞くほど、上司Aが考えていたゴルフ部は、お偉いさんを巻き込んで、トップダウン的にすんなりと予算を通すという方法は、いかにも浅く、効果も薄いように感じた。


    ◆社員間から自然発生的にゴルフ部が欲しいという要望が出るのが好ましい
    ◆役員でも社長でも参加は可能だが、接待的な付き合いは御法度とする
    ◆グリーンや練習ブースはゴルフ部員が管理するが、誰でも自由に使えるところがミソになる
    ◆現在だけでも50名ぐらいの部員は楽に集まる
    ◆会社から予算が出なくとも、非公認のサークルとして月会費などで運営は可能
    ◆お飾りで、部長は上司A。部長代行として社員Bと社員Eで部の運営をする
    ◆社内の福利厚生の部活動の申請はすぐにでもしたい
    ◆部内サークルとして、同世代部や女子部というような活動もしたい



    お飾りの部長と言われても腹は立たなかった。社員Eは、スクランブルコンペのときに、名幹事としてなかなかの人材だと上司Aは認めていたが、ゴルフ部にかんして任せても、基本的には大丈夫だと思った。基本的に、というのは、ゴルファーというのはプライドの生き物だからこその調整が必要だという確信があったからだ。

    若い社員たちが、聞いたことのないスポーツの部を作るのであれば、何ら問題なく通る話でも、自分のほうが詳しいと信じているお偉方にとってゴルフになると話は別だ。男の嫉妬は、表面化しないと余計にややっこしくなるものだ。

    上司Aは、頭の中で、どこを立てていくのが、最も良いかを考え始めていた。

    今回の金言

    (写真・Getty Images)

    (写真・Getty Images)

    「バンカーショットで大切なことは、細かい技術論ではなく、実行する勇気である」
     (ジーン・サラゼン)


    ジーン・サラゼンは、バンカーショットの名手で、サンドウェッジを発明したプロゴルファーとしてもゴルフ史に刻まれている人物である。この金言は、米国のゴルフ雑誌に載った“わたしのアドバイス”という連載の一節だ。

    サラゼンは、次のようにも言っている。

    「バンカーショットは、バンカーに対する潜在的な恐怖心が原因で、ゴルファー自身が難しくしているのだ」

    「バンカーショットが苦手で、バンカーを避けてプレーしようとしても、避けようと思えば思うほど、入ってしまうのがバンカーなのだ」

    そういう前提の上で、出てくるのが今回の金言である。

    ゴルフ部が、どう機能するかを考えるよりも、社内の人間関係に考慮したりするよりも、ゴルフ部をスタートして、みんなで楽しくゴルフをしようという勇気と実行力が大事なのかもしれない。上司Aは、しみじみと思っていた。

    若いということだけでなく、社員Eのキャラクターや個人の能力もあるのだろうけれど、何事も恐れない勇気は羨ましいと思った。

    上司Aは、ゴルフを始めたかなり早い時期に、バンカーの練習をかなりの量をしたこともあって、バンカーショットが苦手だと思ったことが一度もなかった。アプローチショットには、好不調の波があるのに、バンカーショットには、それがないような気がして、時と場合によっては、バンカーに入ってホッとするときすらある。

    若い社員を強制にならないように注意して社内コンペに参加させるという上司Aに下された特命は、バンカーに入って、トラブルになったときと同じではないにしても、奇妙で、目標をクリアするのが困難なミッションであることは変わりない。慎重にすることも大事だが、大胆な勇気も大事なのだ。

    上司Aは、今まで以上に、ゴルフにたくさんのことを教わっていると感じていた。

    【著者紹介】四野 立直 (しの りいち)

    バブル入社組作家。ゴルフの歴史やうんちく好きで、スクラッチプレーヤーだったこともある腕前。東京都在住。

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