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打打打坐 第34回【ゴルフをするメリット】

打打打坐 第34回【ゴルフをするメリット】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2020年12月4日 15時00分

ゴルフのススメ

約20年前の話です。
ある起業家にゴルフについて相談されました。

僕はゴルフショップを辞めて、小さな広告代理店で働いた後、ヘッドハンティングされてマーケティングリサーチ会社の若き役員をしていました。どんな仕事をしていても、ゴルフはプラスになるので重宝していましたが、時々、ゴルフの専門家みたいな扱いでゴルフ関係の相談をされていたのです。

「ゴルフをするように、と薦められているのだけれど、ゴルフをするメリットって何なの?」
珍しい質問でした。多くの相談は、既にゴルフをしている人からのものだったからです。

20代まで競技ゴルフにどっぷり漬かって、結婚を機に引退後は、ゴルフを楽しむことに貪欲に挑戦をしていました。でも、当時の僕は、まだまだ、一般的なゴルフの楽しさについて深くは知りませんでした。直前まで、スポーツ専門学校でゴルフの講師に派遣されていたので、そのときの教科書を参考にして、ゴルフの魅力を彼の前で次々に披露しました。

驚異的にボールが飛ぶ球技なのに、1度の角度のズレが命取りになるターゲット性。
用具の多様性と科学力が反映する面白さ。
ゴルフコースの広さと自然を相手にする不条理。
成績が基本的には整数でハッキリとわかるゲームとしての非情。
個人のゲームでありながら1人では出来ない人間関係の深さ。
1時間ぐらいは熱弁しました。若い頃の僕は、典型的なお調子者のお節介焼きでした。(今でもそういう傾向はありますが)

「半日を費やしただけのメリットがわからないなぁ……
半日あれば、最低でも50万円ぐらいの利益を生めるのに……
お金が入ってこないだけではなく、逆に何万円か払うんでしょう?
主観で良いのだけど、それだけの価値があると断言できる?」

僕は黙りました。心の中で、コレだから、ゴルフをしない人と話をするのは嫌なんだよ、と毒づきました。結果的に、その起業家は、そのときはゴルフを始めませんでした。当時の僕は、簡単なシーンでミスショットをしたような気分になって、自分を責めて、少しだけ落ち込みました。

約10年後、ある雑誌で、その起業家がコメントしているのを見て笑ってしまいました。

『何度もゴルフをする機会があったのに、後回しにしてきたことに後悔があります。ミスするたびに、あのとき、ゴルフを始めていれば、と思ってしまうんです……』

ポーズをとっている写真の彼の右手には、百万円で譲ってもらったという自慢のパターが握られていました。

共通の知り合いに確認したところ、その数年前に若い愛人に一緒にゴルフがしたいと哀願されて、コロッとゴルファーになったということでした。

強引に利益確定する悲喜劇

ゴルフに夢中になりすぎて離婚してしまった知り合いが数名います。ゴルフウィドウ(golf widow)という言葉があることから、これは世界中で、それも遙か昔からある悲劇のようです。

ちなみに、ゴルフウィドウは、夫がゴルフに夢中になって、かまってもらえない妻のことで、ゴルフのせいで未亡人のようだという意味です。

ゴルフには中毒性があります。中毒になってしまった人に、ゴルフの魅力についてゴルフ談義をしかけると、大概は不毛な時間を過ごすことになります。

ゴルフの欠点は面白すぎることです。極めるほど、それは個別のものになっていき、他者に理解できない領域に入っていきます。ゴルフの面白さは、一つや二つではなく、ゴルファーの数だけ準備されているのです。全てを手に入れたような成功者や権力者でも、ゴルフは面白く、かけがえのないものになっている例は無数にあります。

ゴルフをしない人に説明しても理解できないことを何度も経験した結果、僕は聞かれれば答えるようにしています。

「とにかく、一度、ゴルフをしてみればわかります」

たぶん、それが究極の答えなのです。

ゴルフの魅力を他者に言葉で伝えることは、とても困難です。たぶん、言語を越えて、言葉にならないのです。

大恋愛を経験した人ならわかると思いますが、恋人を嫌いになる理由は明確ですが、好きになったきっかけはわかっても、好きになった理由は説明できないものです。ケースバイケースでは、DNAで説明するほうがわかりやすかったりするのですが、大恋愛が強烈だった人ほど、わかりやすい理屈は他者のものであって、自分に当てはまりはしない、と考えるものです。

僕は10代の頃、付き合って、とか、好きだ、とか、愛している、とか、言葉にして欲しいと彼女に言われても、言葉にすれば嘘になるから、と、頑なに拒否した結果、ほとんどの恋愛が熱いけれど爆発するように短命でした。

どうして、大好きで、かけがいのない気持ちを行動で示しているのに、わかってくれないのか、と相手の未熟さにイライラしたりもしましたが、純愛を安易に通過して、互いのぬくもりを確認できるようになると、急に大人になって、望まれる前に察知して、言葉で愛を語れるようになったのです。

何を言うよりも、1回のキスのほうが多弁であると理解したことで、人生だけではなく、ゴルフも段飛ばしでレベルアップしました。この頃に、大切なものほど言葉では伝わらないことがあることをゴルフに教えられていたのかもしれません。

そんなあなたが一番好き

2020年。世界はコロナウィルスによって、一変しました。政治家も、テレビのコメンテーターも、ユーチューバーも、誰もオススメしたわけではないのに、世界中で若い世代のゴルフ人口が急増しているそうです。屋外で接近せずにプレーするゴルフの特性が、感染のリスクを軽減するからだと言われています。

この機会に、自分の子供にもゴルフをさせたいのだが、一切興味がなくて、どうしたら良いか? という相談が増えました。
「ゴルフをするメリットって、何なんだろうか?」
と質問されるのです。

「メリットなんて、何もないですよ。欲しいものを聞いて、買ってやるから、1回ゴルフに付き合え、という条件を出せば、とりあえず、メリットは発生します」
と答えます。

ゴルフをするメリットなんてない、と定義してしまうと、案外と簡単に真実が見えてくるものです。

何の得にもならないものに、夢中になったり、ムキになったりすることは、21世紀の現代人にとって信じられない無駄です。
損得勘定こそが、全ての方程式だと考えれば、この世は単純で悩みがなくなります。ズルをしても、間違いを犯しても、儲かったほうが勝ちだという価値観に文句を言う人のほうが狂人扱いされるようになって、ずいぶんと時間が経ちました。

完璧に得だけをして生活が出来る勝者が、本来であれば、対極にある無駄だらけのゴルフをやめられない現実は、滑稽で面白いです。

何の得にもならないゴルフをしている人たちは、わかりやすい世界で生きている人たちには理解できない存在です。それが不思議だと思ったり、隠されているだけで、本当は得をしているのではないかという謎を感じる人は、ゴルフをしてみればわかるはずなのです。

ゴルフの面白さは、プライスレスです。他者を説得できる得などは存在しないことを、熟練のゴルファーは知っています。

その魅力は、ときには中毒症状を引き起こして、人を狂わせます。そうならないように我慢することもゴルフの面白さなのですが、夢中になるのと、狂ってしまうのは背中合わせなのです。

日本を代表するアーティストであるユーミンは、その昔、サーフィンに夢中になっている女性の歌を歌いました。ただ、良い波を待って、波が来れば乗るだけのサーフィンは、何のたしにもならないものですが、だからこそ、それに夢中になっているあなたが好き、だという歌です。

夢中になっている人は素敵です。夢中になれるものがある人は幸せです。そんなことを言っていられるのは、若い人だけの特権だと言いますが…… 某国の大統領の例を出すまでもなく、酸いも甘いも知り尽くした老人までゴルフに夢中になっています。目の前に、ゴルフという、とてつもない奇妙な現実が存在しています。

夢中になるものがある人は別として、もしなければ、試してみるべきです。このゲームは合法ですので、安心してプレーできることは保証します。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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