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    コロナ禍でのゴルフトーナメント開催 その“苦労”や“思い”とは 〜bpカストロール株式会社 代表取締役社長 小石孝之氏

    レギュラーツアーへの出場資格を持たない選手や新人選手らに、試合経験の場をつくることなどを目的に1991年に設立された「ステップ・アップ・ツアー」。年々そのツアーの価値は高まりを見せている。

    配信日時:2020年12月28日 03時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    コロナ禍での開催、大会に携わった人の思いとは?(写真:福田文平)
    コロナ禍での開催、大会に携わった人の思いとは?(写真:福田文平) (撮影:福田文平)
    • bpカストロール株式会社の代表取締役社長・小石孝之氏(写真:福田文平)
    • 開催までの苦労を語る大会事務局長の檜垣峰男氏(写真:福田文平)
    • 小石氏のスタートコールは大会名物の1つになっている(写真:福田文平)
    • レギュラーツアー1勝のホステスプロ・金田久美子も大会に初出場した(写真:大会事務局提供)
    • 前年覇者のホステスプロ・井上りこも楽しそうにプレーを続けた(写真:福田文平)
    • 表彰式ではレギュラーツアーでの活躍を選手に訴える(写真:大会事務局提供)
    この記事の写真 11 枚を見る
    新型コロナウイルスという“未知の感染症”で、世界が混乱に陥った2020年。私たちの日常生活にも、大きな変化を及ぼした。プロゴルフ界も例外ではなく、女子ツアーは本来の開幕時期だった3月から大会中止が続いた。その状況のなか試合を開催した人々には、どんな思いや葛藤があったのだろうか? ステップ・アップ・ツアー「カストロールレディース」を共催するbpカストロール株式会社の代表取締役社長・小石孝之氏と、大会事務局長を務めた檜垣峰男氏に話を聞いた。(取材・文/間宮輝憲)

    ■新型コロナウイルスで“開催”と“中止”の狭間に

    bpカストロール株式会社の代表取締役社長・小石孝之氏(写真:福田文平)

    bpカストロール株式会社の代表取締役社長・小石孝之氏(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    ステップ・アップ・ツアーで、未曾有(みぞう)の2020年を締めくくる大会となった「カストロールレディース」。“Castrol”と書かれたロゴののぼりがコースではためく光景は普段と変わらない。また、もともとギャラリーを入れずに行われてきた大会のため、無観客という要素が与える違和感も少ない。だが、木々が赤々と色づく前で選手がプレーする景色は、いつもと雰囲気が異なる。これまで“灼熱の8月”に行われてきた大会だから、というのがその大きな理由だ。

    今年18試合の開催が予定されたステップ・アップ・ツアーは、最終的に10試合が中止となった。本来の開幕戦だった3月の「rashink×RE SYU RYU/RKBレディース」から延期や中止のドミノ倒し状態。もともと9月2日の開幕を予定していたカストロールレディースも11月17日開幕にずれ込んだ。ここまでの間、大会に携わる人々は、コロナ禍の状況をどのような気持ちで見つめていたのだろうか?

    小石氏「9割方、中止という流れができていました。我々の母体はイギリスにありますが、日本に比べヨーロッパ、アメリカ本土は厳しい状況が続いていました。6月の段階で、『中止にしたほうがいい』という話も出て、一時はその流れに傾きかけていた。JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)の小林浩美会長とも話をして、なんとか延期で対応する道を模索しました」

    “開催”と“中止”の狭間で、揺れる日々が続いた。そんな時に、もともと延期がアナウンスされていたrashink×RE SYU RYU/RKBレディースの8月開催が決定。ここから“カストロール開催”の機運も高まった。日程を調整し始めると20年の最終戦の週が空いていることも分かり、「そこに延期しよう」という方向へ本格的に舵が切られた。
    開催までの苦労を語る大会事務局長の檜垣峰男氏(写真:福田文平)

    開催までの苦労を語る大会事務局長の檜垣峰男氏(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    だが、1週間近くゴルフコースを貸切ることが必要になるプロトーナメントとあって、日程を動かすことは簡単に進むことではない。この時の苦労について、檜垣氏はこう振り返る。

    檜垣氏「準備に関しては大変でした。日程をずらすということは、新たにゴルフ場の予約が必要となります。新たに動かそうとしていた週には、すでに一般ユーザーの予約が40組ほど入ってました。それをみなさんにも協力してもらい、日程変更やコース変更をお願いして対応しました」

    さらに、これが終わったからといって一息つくことはできない。今年の大会は、例年にはない“感染防止対策”を張り巡らす必要があった。消毒液、検温準備、飛沫防止アイテムなどを、必要以上にコースへと設置しなければならない。試合が潤滑に進むことと、感染防止を同時に行うことが求められながら、「スタッフも極力少なくして、いる人数でまかなうようにしました」(檜垣氏)と携わる人間の数も少なくした。こうして、無事初日を迎えることができた。

    ■「選手を救いたい」という思いでこぎつけた開幕

    小石氏のスタートコールは大会名物の1つになっている(写真:福田文平)

    小石氏のスタートコールは大会名物の1つになっている(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    「一言でいえば、よかったということです」(小石氏)。そのシンプルな言葉が、無事開催にこぎつけた心境をあらわしていた。では、なぜその苦労を乗り越えてまで大会を行うことにこだわったのか? そこには、こんな“親心”が見受けられた。

    小石氏「レギュラーツアーで戦う選手は、スポンサーもついていて、これまで通りとはいかないにせよ、大会が中止になっても収入という面ではある程度確保されているはず。しかし、ステップではそうはいかない選手も多い。例年であれば企業のプロアマに呼ばれたり、レッスンなど収入を得られる場がありますが、それもほとんどなくなっている。QTランクで下位にいる選手を、少しでも救いたいという気持ちもありました」

    選手たちのほとんどは、特に今年の前半、“職場”を失っている状況が続いた。賞金を得られないことは死活問題につながる。また同社がスポンサー契約を結ぶ選手も、ここには9人が出場。それが“救いたい”という気持ちを、さらに増長した。
    レギュラーツアー1勝のホステスプロ・金田久美子も大会に初出場した(写真:大会事務局提供)

    レギュラーツアー1勝のホステスプロ・金田久美子も大会に初出場した(写真:大会事務局提供)

    小石氏「今年の契約プロには、金田久美子選手ら、これまでレギュラーを主戦場にしていながら、今はステップで戦うことになった選手も多い。そういう意味でも活躍の場を与えたかった。選手としてはギャラリーの拍手を浴びながらプレーするほうが雰囲気は出るかもしれませんが、まずは賞金を獲得するというのが職業人である彼女たちの本分。試合が開催されていることがプラスになると考えてきました」
    前年覇者のホステスプロ・井上りこも楽しそうにプレーを続けた(写真:福田文平)

    前年覇者のホステスプロ・井上りこも楽しそうにプレーを続けた(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    カストロールレディースは、第1回大会からここまで「プロが活躍する場所を提供したい」という考えから、アマチュア選手に出場資格を与えずに開催を続けてきた。アマチュアが出ないかわりに、本来であればQTランクの兼ね合いで、あまり試合に出られない選手にも推薦で門戸を開き、1人でも多くのプロにプレーしてもらうことが狙いの1つにある。その思いも、開催へのモチベーションになったということも考えられる。

    ■選手に対するスポンサーの“親心”

    表彰式ではレギュラーツアーでの活躍を選手に訴える(写真:大会事務局提供)

    表彰式ではレギュラーツアーでの活躍を選手に訴える(写真:大会事務局提供)

    だがその一方で、こういう“親心”も持ちあわせている。

    小石氏「今年、プロ野球の巨人軍が大量に戦力外通告を出して話題になりましたが、選手にどこかで早く見切りをつけさせ、次のスタートを切らすことも大事だと思っている。プロゴルファーは、ライセンスを取得すれば一生“プロ”でいられる。最近の女子ツアーは若手が台頭し、25歳くらいでもう中堅と呼ばれる世界。そのなかで予選通過できないことが続くのであれば、レッスンに活路を見出すとか、協会のなかに入って運営に携わるとか、プロゴルファーとして将来どういうポジションにいるべきか、それを見極める時代にあるのかな、と感じています」

    そして小石氏は、この気持ちを隠すことはせず、普段から選手にも話として伝えているという。
    この大会を“ステップ”にさらに大きな舞台での活躍を願う(写真:大会事務局提供)

    この大会を“ステップ”にさらに大きな舞台での活躍を願う(写真:大会事務局提供)

    小石氏「もうそろそろ考える時期ではないか、などの話はしますよ。それも含めての契約ですから。夢を追いかけるのはいいこと。ただ夢を追いかけるだけの技量、力量が備わっているのか、その判断は必要。プロである以上、経費はかかる。そのうえで生計を立てないといけないですから」

    選手が活躍する場を考え、“試合を提供する”ことと、“試合に出ない選択肢を提示する”ことは、ある部分では相反する要素を持ち合わせているようにも思える。

    しかし選択肢を多く用意する、これが大会を開催するスポンサーにとっては、プロアマ開催によりビジネスメリットなどとは別の大事な考え方なのではと、話を聞いて感じた部分だ。

    ■コロナ禍でもゴルフトーナメントに投資するメリット

    車とゴルフの親和性は高い(写真:福田文平)

    車とゴルフの親和性は高い(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    試合中止が続いたこと。これは今年のコロナ禍が引き起こした、直接的な影響の一つといえる。さらにここからは(もうすでにではあるが)経済的な面でも、その“余波”は大きなものになってあらわれてくる。大会を主催・共催する多くは一般企業なだけに、今後、試合自体が少なくなるというのもファンとしては危惧する部分だ。

    実際、12月23日に行われた国内女子ツアーの2021年の日程発表で、ステップ・アップ・ツアーは5試合が休止・中止になることが明らかになった。うち1試合は、プロテストが日程変更されたことなどに伴う休止だが、それ以外はコロナの影響が少なからず理由になっていることは十分に考えられることだ。

    カストロールレディースは、来年9月1〜3日の開催が正式に決まったが、企業としてのbpカストロールは、この状況下でのゴルフトーナメントへの投資について、どのような考えを持っているのか。それについて聞いてみると、自動車のエンジンオイルやケア商材の製造・販売を行う同社として、“車とゴルフの親和性”という点を強調しながら、こう話した。

    小石社長「まずビジネスの側面から考えると、ゴルフをやる人は車の所有者であるケースが多い。もちろんステップ・アップ・ツアーで試合を行うことが、すぐに企業認知度につながるかは分からないけれど、費用対効果も考えながら地道にやっていきたい。また私たちのお客さまにはゴルフ好きな方が多い。プロアマなどは、ホスピタリティの一つにもなります」

    コロナ禍以前から、自動車オーナー1人あたりの車一台の使用年数、車齢は伸びていた。その傾向に、この未曾有の事態が拍車をかけることは、ごく自然の成り行きのようにも感じる。
    優勝した小野祐夢(右)に優勝カップを渡す小石氏(写真:福田文平)

    優勝した小野祐夢(右)に優勝カップを渡す小石氏(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    小石氏「これまでなら3年で車を買い替えていた人たちが、もう少し長く乗ろうというマインドになると、それがメンテナンスへの意識につながる。エンジンオイルや、カーケア商品の需要が増える可能性は今後あると私たちは考えています」

    小石社長は、カストロールレディースを開催するうえで、「真夏に行われる灼熱の大会」ということにこだわってきた。ことしはコロナの影響で11月開催に、そして21年も東京五輪開催を受けて9月開催が決まったが、それが明けたときには、「やっぱり灼熱。開催は夏しかない(笑)」(小石社長)というイメージを持ち続けている。これからも暑い会場で、熱い戦いが見られることに、大いに期待したい。
    大会が開催されたことでプロ初優勝をつかむことができた小野祐夢(写真:福田文平)

    大会が開催されたことでプロ初優勝をつかむことができた小野祐夢(写真:福田文平) (撮影:福田文平)

    新型コロナウイルスという“未知の感染症”で、世界が混乱に陥った2020年。私たちの日常生活にも、大きな変化を及ぼした。しかしカストロールレディースの根底に流れる“哲学”は、これからもきっと大きく変わることはないだろう。小石氏の言葉は、そんなことを感じさせるものだった。

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