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    打打打坐 第39回【アイスバーンでも楽しいゴルフ】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年1月15日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    マイナス10度のコースにて

    2021年の年始、大雪で大変なことになっている地方もあったようです。記録的な寒気の影響で関東も天気こそ良かったものの極寒になっていました。試打の予定は待ってくれませんので、予定通りに試打ラウンドに行きました。それが初打ちになったというわけです。

    朝、7時少し前にコースに着くと、車の外気温計には『-10』という数字が……
    マイナス10度なんて気温でゴルフするのは、記憶が正しければ、ゴルフ歴40数年で初めてでした。これだけで、得をしたというか、ゴルフの神様からお年玉をもらった気になりました。普通では体験できないことをゴルフ絡みで体験できるのというだけで、ワクワクは10倍なのです。

    快晴微風というコンディションでしたから、スタートする7時半には、マイナス8度まで気温は上がっていましたが、寒さに強く、防寒対策も抜かりがないと胸を張っている僕でさえ、かなり寒いスタートホールでした。それでも、今年最初のショットはフェアウェイの真ん中にボールが飛んで、2打目の初試打撮影(アイアンの試打なので)もナイスショットでした。

    コースは、フェアウェイもラフも、グリーンも、全てがカチカチに凍っていました。これこそが、極寒ゴルフの風景であり、修行としての真冬ゴルフの真骨頂なのです。

    さて、3番ホールまで行ったときに、最初の異変がありました。ちなみに極寒ゴルフを経験したことがない人のために解説をすると、北関東のゴルフコースの場合、真冬ゴルフであれば、マイナス5度くらいは普通に遭遇します。このくらいの気温だと、ピンフラッグの旗が凍っていて、なびいた形で、ストップモーションのように固まっています。クラブを洗うためにカートに積まれた水が入ったバケツも、表面は凍っていたりします。

    同伴者が、2番ホールで外して、カートの荷物置きに置いたマスクを、やはり寒いからと、もう一度、装着しようとしたときのことです。

    「マスクが凍っている……」

    マスクは、曲面を保ったまま、カチカチに凍っていました。

    それを見て笑いながら、僕も、ドリンクホルダーに置いておいたペットボトルの麦茶を一口飲もうとして、吐き出しそうになりました。口の中に、異物が入ってきたからです。一瞬、虫かと考えましたが、中の麦茶があまりの寒さで凍り始めていたのです。膜のような薄い氷が、一気に口に入ってきたというわけです。

    マスクが凍るのも、ペットボトルの麦茶が凍り出すのも、ゴルフでは初めての経験でした。

    極寒ゴルフは、同伴者との絆を深めます。バカ同士のシンパシーのような力が働くのです。同伴者と、極寒の初打ちを楽しみました。

    こんなのゴルフじゃない説の考察

    アイスバーンのようになったゴルフコースで、特に厄介なのは、グリーンのカチカチ具合です。まるでカート道路に落ちたボールのように、ボールは強烈にバウンドして跳ねるからです。グリーンの最も手前に落ちたボールが、大きく跳ねて、グリーンを越えてOBゾーンにというシーンは、真冬ゴルフでは日常茶飯事です。

    ゴルフというゲームは、肩の上でプレーするものである、と、ゴルフの偉人は異口同音に言いましたが、まさに、真冬のアイスバーンのようになったグリーンこそが、頭脳をフル回転させて、攻略することを楽しむチャンスなのです。頭を使ってゴルフをするという醍醐味をスルーするのは、本当にもったいないことです。

    真冬のゴルフコースを観察していると、工夫することなく、カチカチのグリーンを普通に狙い続けて、ムキになっている人たちがたくさんいます。彼らは言うのです。

    「こんなのゴルフじゃないよ」

    自分の未熟さを棚に上げて、情けない話ですが、こういう人たちほど、別のシーンでは

    「ゴルフは自然との闘いなのだ!」

    なんて声高に主張したりするものなのです。何とも滑稽で、ゴルフの残酷さに震えてしまいます。

    カチカチのグリーンでプレーするゴルフも、ゴルフです。いわゆる、スピン系のテクニックや用具の機能が、ほとんど無効になるところが面白いのです。

    コースの難易度を上げたり下げたりする工夫は、一見、自然のように見えますが、冷静に考えれば人的な要素だったりします。例えば、速いグリーンは、自然だけでは絶対に出来ません。コース管理の努力と科学力と経済力の賜物なのです。

    真冬のゴルフコースでも、グリーンがカチカチにならないようにするハウツーは存在しますが、大半のコースではコストが見合わないので、その対策は最小限です。

    つまり、本当の意味での自然との闘いであり、頭脳戦でもあるのが、真冬ゴルフなのです。

    冬に寒いからゴルフをしないという人たちを否定はしません。しかし、自然との闘いがゴルフだという台詞を使いたいのであれば、真冬のゴルフコースを攻略してからだと、個人的には強く思うわけです。

    凍ったコースの攻略法

    凍ったコースでは、グリーン以外でも面白いことが起きます。本当の極寒になると、フェアウェイも凍ります。このフェアウェイでもボールはガンガン跳ねるのです。僕は夏よりも冬のほうが飛距離が落ちますが、ドライバーだけは、1年で1番飛ぶ季節が真冬になるのです。

    状況にもよりますが、凍った下り坂に放たれたドライバーショットは、100ヤードくらいランが出ることも珍しくありません。この経験だけでも、十分に極寒ゴルフをする意味があると思います。

    ドライバーでぶっ飛ばして、グリーンを狙うショットは考え方を変えるのです。

    僕は「P1選手権」というパターだけでゴルフをするというイベントを主催していました。元々、カチカチに凍ったグリーンでもゴルフを楽しむ提案として始めたものです。優勝者はハーフ40台の前半でプレーするのが当たり前でした。

    パターはフルスイングするものではない、という批判もありました。使用目的以外でパターを使うのは、パターが可哀想だというわけです。それも理解は出来ますが……

    産業廃棄物として処分される運命直前の1本500円とか、1000円で売られている中古屋さんのパターを助けると考えただけです。規則で禁じられていないので、パターでフルスイングしても、叱られるわけではありません。スコットランドやアイルランドのリンクスでは、60ヤードぐらいからでも、パターがベストだとキャディーさんがパターを差し出すことは当たり前のようにあるので、フルスイングに耐えるように作ってあるというパターメーカーからの励ましのメールもありました。

    なんといっても、パター1本でゴルフをするのは、思いっ切り頭を使います。高い球を打つのは無理なので、障害物を平面的に避けながら攻略ルートを見つけて、パターだけで距離感を出していきます。コースマネージメントの基礎を鍛える意味で、パターだけでプレーさせる指導法は、昭和の頃にはけっこう目にしたものです。

    僕は真冬の間、ハイロフトのウェッジを抜いて、L字の古いパターをバッグに入れます。パターで転がして寄せるためです。上手くいけば、僕のような貧打でも120ヤード以内で、間に障害物がなければパターでグリーンを狙うことが可能です。

    ゴルフの思考がしっかりしているゴルファーなら、少し打ち慣れると、ちゃんとグリーンに乗せられるようになりますし、運が良ければベタピンに寄ったりもします。このようにして、転がすことで攻略する快感は、ゴルフの本質を刺激して、癖になるだけではなく、暖かい季節になっても骨となり肉となって自分のゴルフにプラスになります。

    ゴルフはアイスバーンなコースでも楽しいものです。それは、ゴルファー次第なのです。どんな困難も、必死になって考えて、出来ることを鍛えれば、乗り越えられることを真冬のゴルフは教えてくれるのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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