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    打打打坐 第40回【ゴルフとごはんの関係】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年1月22日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    生涯最高のゴルフ飯は何ですか?

    「ゴルフ歴40数年。ゴルフ人生で一番美味しかったメニューと、そのコース名を教えてください」

    という質問がありました。

    考えたこともなかったので、少しだけシンキングタイムをもらいました。そもそも、ゴルフコースの評価にランチを含めることを無意味だとバカにし続けていました。ゴルフをすることと、ごはんを食べることは別物で、セットに考えるのは、なんともチープな発想だと考えているからです。

    とはいえ、そんな主張をしても先方を戸惑わせるだけです。目をキラキラさせて、答えを待っている若者の気持ちには応えたいと考えました。

    中一でゴルフを始めてから大学を中退するまで、ゴルフコースのレストランではカレーライスしか注文してはいけない、と教えられて、それを頑なに守っていました。自分で稼げるようになってから、自由に好きなものを注文しなさい、というのが、我が家の方針だったのです。

    どこのゴルフコースのメニューにもあって、基本的には最も安価なのがカレーライスです。ゴルフが出来る幸せを考えたら、ランチ抜きでも十分だと考えていましたので、カレーライスに一切の不満はありませんでした。毎回、カレーライスを注文して、美味しくいただいていました。

    二十歳の夏。祖父のメンバーコースだったCカントリーで、ランチのときに、注文を取りに来たスタッフが祖父に小声で、何かを伝えていました。祖父は、それをテーブルの人数分注文して、自分の伝票に付けるように指示していました。暑い日でした。僕以外の同伴者は冷たいビールを美味しそうに飲んでいました。

    いつものカレーライスが来る前に、唐突に、小さな透明の器が運ばれて来たのです。それは、夏限定で特別なメンバーだけに提供される裏メニューの『ジャガイモのビシソワーズ』でした。生まれて初めて見た冷製スープでした。砕いた氷が引き詰められた器の上にもう一つ器があって、そこにオフホワイトの見るからに冷たそうな液体が入っていました。後になって、それは祖父の好物の一つだと知りましたが、祖父は他の同伴者にも勧めながら、率先して小さなスプーンを取ると、スッとすくって、スープを口に運びました。

    「カレー以外のものを食べたのは内緒だぞ」

    と言われた僕は、頷きながら、ビシソワーズを初体験したのです。

    冷たくて、ふんわりと口の中に広がる甘みと旨み…… 息が止まるぐらいの衝撃でした。こんなに美味しいものが世の中にあるのかと思ったのです。小さなスプーンがもどかしく、器を手に取って、グッと一気に飲みたい衝動を抑えなら高速で完食しました。夏のゴルフの思い出の一つです。

    最初にそれが浮かんだので、彼にはエピソードと一緒に、それを伝えました。

    社会人になって、カレーライスの縛りから卒業して、最初にゴルフコースで注文したメニューは…… カツカレーでした。そのとんかつが、気絶するほど美味かったことも忘れられない思い出でしたが、ビシソワーズと聞いて、ピンときていない彼を見ながら、カツカレーが正解だったか、と少し後悔しました。

    それからしばらくの間、ゴルフコースのごはんのことばかり考えていました。

    例えば、朝食を考える

    バリバリの競技ゴルファーだった若かりし頃、僕には致命的な弱点がありました。宿泊してゴルフをすると、前半のスコアが悪いのです。色々と調整をしてみましたが、ダメでした。競技の場合、家からコースまで250キロ以内なら、宿泊しないで通うことにしました。その結果、初日から普通にゴルフが出来るようになって、成績も良くなりました。

    それでも、プライベートのゴルフでは、自分だけ宿泊しないというわけにはいきません。僕の20代の前半はバブル期のど真ん中でしたので、宿泊のゴルフをする機会が多かったのです。今では、信じられないという人も多くなりましたが、当時のゴルフ事情は異常でした。ゴルフがしたくとも、どのコースも満員で予約が取れないのです。

    予約できる日の予約開始時間にコースの予約専用の電話に電話をしても、回線がパンクして、NTTの案内が流れるということは日常茶飯事でしたし、予約した枠を売り買いする業者も存在したほどです。

    ゴルフコースは、どこにでも作れば人が来た時代でした。山奥の僻地のコースには、宿泊施設が併設されていることが増えました。宿泊者用の朝食も、旅館のような和定食や洋定食から進化をして、バイキング形式の朝食が人気になりました。バブル期の特徴で、何でもお金を掛けることが当たり前でしたので、バイキングも現在のような最低限ではなく、バカみたいに魅力的なメニューが次々に投入されて、並んでいたのです。少しずつ、食べたいものを食べても、あっという間に3人分ぐらいになってしまうのです。

    例えば、産みたての烏骨鶏の卵かけご飯に、有名店の佃煮5種に、豚汁で1回目。焼きたてのクロワッサンに、サラダとフライドポテトに、カリカリに焼かれたベーコンとソーセージで2回目。ここで、濃厚なミルクとフレッシュジュース。フレンチトーストとワッフルに、フルーツで3回目。

    他にも、朝粥もあれば、お茶漬けも、おにぎりもあるし、焼き魚に開き、刺身まであって、スクランブルエッグと目玉焼きは、目の前でシェフがオーダーで調理してくれました。冬は肉まんとあんまん、豚の角煮まんもありました。朝からケーキを食べることも可能でした。

    ついつい食べ過ぎて、お腹がいっぱいのゴルファーたちが、苦しそうにスタートする風景も『あるある』だったのです。

    懐かしいですが、僕は現在のほうが選択が多く充実していると考えています。ゴルフコースのレストランは、朝は営業していないところも増えました。コロナ禍では尚更です。朝、レストランで優雅な朝食なんていう過ごし方は、過去のものになりつつあります。

    21世紀になってから僕は基本的には朝食は車中派になりました。高速道路に乗る前に、コンビニに寄って、朝食を買って、コースに行きながら食べるのです。

    運転しながら片手で食べられるメニューだけでも、コンビニは選び放題です。おにぎりも、パンも、豊富に揃っています。更に、次々に出る新製品も楽しいですし、徹底的にマーケティングをして、ブラッシュアップを繰り返していますので、コンビニの食品は美味しいのです。それでいて、安価です。

    ゴルフコースの朝食が1000円平均ぐらいとして、コンビニならプレー中の飲料まで買っても、半分で済みます。コスパも最高で、選ぶ楽しさもあって、美味しいのです。朝食車中コンビニ派は、それだけで、ゴルフの楽しさを一つ増やしいている感じがしています。

    空腹は最高のスパイス

    ゴルフコースを楽しむ余裕があるゴルファーは、一握りしかいないと言われます。ゴルフをすることに夢中で、コースを堪能するところまでは進めないというわけです。

    僕は、ゴルフコースも楽しみたいというゴルファーには、料理を味わうように考えると良いと説明します。素材が良ければ、生でも美味しい、ということから始まって、管理という調理を経て、どんどん美味しさが増すというわけです。素材は、魚か肉か、はたまた、野菜か? 料理も和洋中、種類は色々ですし、最後は自らの好みです。そうなる前には、一通りの経験は必要です。美味しいものを食べていなければ、味がわからないからです。

    食事は、極論をいえば、生きるために必要なもので、美味しさは二の次で良い、という考え方もあります。コースを楽しむ余裕がないゴルファーは、まさに、生きるために食べているのと似ています。それは悪いことはではありません。

    ただ、美味しくしようと素材を選び、必死に調理している人たちがいることを考えれば、味わうことにも意味が生まれますし、もっと楽しめるという話なのです。食は、身体を作ります。食を楽しむ余裕は、心を豊かにします。

    ゴルフコースの評価にランチの項目があることに、ずーっと反対してきました。評価をお願いされても、項目を見て、そういうことがあれば断ってきました。ゴルフコースは、ゴルフをするフィールドとして、純粋にそれだけを評価すべきです。立地やクラブハウスなども評価基準にするのは、如何なものかもと考えています。

    例えば、セントアンドリュースのオールドコースは聖地ですが、日本からは遠いスコットランドです。マスターズを開催しているオーガスタナショナルも、米国内でもかなりの田舎です。行きづらい所を低評価にするなら、この二つのコースはダメなコースでしょうか?

    コロナ禍のニューノーマルなゴルフで、不幸中の幸いだと思っていることがあります。スループレーで、ゴルフだけをして、クラブハウスの機能を最低限しか使わないことができるようになったことです。純粋にゴルフコースを堪能出来るからです。

    ビシソワーズは、今でも大好きです。あの夏の翌年も、祖父に密かにビシソワーズを注文してもらいましたが、同じはずなのに、最初のビシソワーズの感動には遠く及びませんでした。最後の晩餐は何を? と問われれば、迷わずとんかつと答えます。週に1回はとんかつ屋さんに行くとんかつ好きで、絶品と言われるとんかつをいくつも堪能してきました。でも、あのカツカレーのとんかつの感動は別物です。

    “空腹は最高のスパイスだ”と言われます。その瞬間にしか味わえないスパイスは、プライスレスで、スペシャルなのです。

    ゴルフコースも同様です。料理評論家のような経験を積み、知識で武装して、スパイス抜きでランキングを作れるコース評価のプロフェッショナルもいますが、食べるのに夢中だった時期を経て、好みが出てきて味わえるようになり、スパイスを含めて感動したりできるのが、ゴルフコースを味わう醍醐味なのです。誤解しないように書くと、最低限の知識があったほうが、より美味しいのも事実です。

    そういうゴルフコースの美味しさを知れば知るほど、刹那のスパイスを知っているゴルファーであることに胸を張りたくものなのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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