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打打打坐 第41回【誕生の儀式について】

打打打坐 第41回【誕生の儀式について】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2021年1月29日 15時00分

冬によくあるシーン

真冬のゴルフコースは、基本的には、空いています。空いているコースを、スイスイと素早くプレーする快感は、真夏と真冬のゴルフの醍醐味の一つです。

空いているコースの楽しみ方は人それぞれで、空いているからマイペースでゆっくりプレーしたいというゴルファーもいます。

スイスイとスピードを上げてプレーするゴルファーは、早めの時間にスタートして、一気にプレーするという傾向があります。ゆっくり回りたいゴルファーは、逆に遅めのスタートを好むという傾向があります。彼らは、少しベテランになると、早い組に追いつかれるとパスをさせるというハウツーを使えるようになります。だから、両者は互いに不快な思いをせずに共存できるのです。先人の知恵を継承しながら、ゴルファーたちは楽しくゴルフを続けているという一つの証明です。

そして、最近増えているのが、コースデビューの人がいる組です。
空いている冬場のコースのほうが迷惑をかけにくいと考えて、後ろの時間帯に空きがあることを確認して予約するというパターンが増えているのです。

一昔前と大きく変わったのは、コースデビューの人がいる組に、一人もベテランがいないというケースが増えたことです。遅い組が、早い組をパスさせることを知らないような経験値の初級者ゴルファーが、コースデビューするゴルファーの卵を連れてくるというわけです。仲間を増やそうとする情熱は、実はゴルフ歴が浅いほうが熱いのです。

誰でも最初は初心者だったという事実

「おいおい。前の組がコレじゃ、参ったね」
なんて、大声で前の組を威嚇する人がいます。昭和時代のゴルフシーンでは、スロープレーは大罪として、多少の脅しや不条理に遭っても、しかたがないという空気があったのです。社用族がゴルファーの主役でしたから、ヤクザ紛いの暴言を吐いても笑って済まされるのが、一部上場企業の管理職だったりすることもよくありました。大企業だから偉いという風潮はバブルが弾けるまで続きました。

ただでも、緊張して上手くいかない初心者は、はやし立てられて、余計に焦って、ドツボにはまっていきます。バブル期までゴルフをしていたけれど、継続せずに、興味はないという中高年の人は、話をじっくりと聞いてみると、この手の経験をして、トラウマになってしまっているという例がけっこうあるようです。

中学1年生でコースデビューして、数年間の間は、子供がゴルフをするなんてろくなもんじゃない、とか、生意気だ、とか、意地悪をされました。中学生はコース内で目立つので、混雑していたりして、後ろの組が質の悪い連中だったりすると、ガンガン打ち込まれました。キャディ付きでのプレーが普通だったので、すぐに、コースの偉い人を呼んだりして、大きなトラブルにはなりませんでしたが、振り返ると、当時のゴルフコースにはビジネスマンはたくさんいたかもしれませんが、ゴルファーは一握りだったような気がします。

特にバブル期は、コースが客を選べる時代だったので、レッドカードではありませんが、問題がある客をコースの偉い人の一声で、プレー中でも一発退場させて、出入り禁止処置にすることが普通にありました。悪い意味で、ゴルフコースも調子に乗っていたような気がします。

子供のほうが影響を受けやすいので、10代の終わり頃には、初心者丸出しで、スロープレーになっている前の組に向けて、僕も怒鳴ったりすることがありました。それが当たり前だと、何の疑問もなかったのです。

「誰でも、最初は初心者だったことを忘れないようにしないと、どんなにゴルフが上手くとも、軽蔑される人になってしまうよ」
大好きで尊敬していた先輩ゴルファーから、ある日、さり気なく注意されて、目が覚めました。

確かにその通りであり、初心者を排除するのではなく、ゴルファーなら、やさしく見守って、育てていくことが正解なのだと考えるようになりました。

コンペに初心者がいるときは、アイツに任せろ、という合言葉が、僕の周辺には実際にあって、20代の頃から初心者のコースデビューにもよくお付き合いしましたし、コンペなどでは基本的には初心者がいる組でした。いかに楽しくゴルフに触れてもらうか? スロープレーにならないようにするにはどうしたら良いか? ハウツーがいくつも出来て、最終的には、こういうことは儀式なのだと思うようになりました。

ちなみに、同伴者によってゴルフに影響するようでは、競技ゴルファーとして致命的な欠点になると教えられて育ったので、どんな人と一緒の組でも、今も自分のゴルフに影響はしません。

ゴルファーは、みんな仲間

コースデビューの日がいる組の後ろに付くのが嫌なら、スタート前に、スタッフに相談して別のハーフのスタートに変えてもらうなどの作戦を実行すれば良いのです。

周囲を観察して、情報を分析する能力はゴルフの腕前と比例します。コースデビューの人がいる場合、練習グリーンでも、わかるのが普通ですし、前の組だとしても、会話などに耳を澄ませていれば発見できます。スタートになってギャアギャアと騒ぐのは、自らの腕前不足を自慢気に披露しているようなもので、かなり滑稽で、カッコ悪いものです。

そもそも、その日、偶然にもゴルフコースを共有することなった全ての来場者は赤の他人であっても、運命共同体の仲間でもあるのです。前の組について進むのがゴルフです。原則として、一本書きのルートを並んで進むしかないのです。

ゴルファーは、みんな仲間です。自分も多くのゴルファーに見守られて育ってきたのに、その恩を忘れて初心者をいじめるのは、義理人情を持ち出すまでもなく、恥ずかしいことだということを自覚したいものです。

日本の少子化問題は、どんどん深刻になっていくようで恐怖です。ゴルフも同じです。ゴルフ人生で、最低一人のゴルファーを誕生させなければ、ゴルフ人口は減っていくのです。

ゴルファーが誕生することをやさしく見守る気持ちになれない人の多くは、新しいゴルファーを誕生させていないようです。子供が生まれて親になるように、ゴルファーも誰かをデビューさせて、本当のゴルファーになるような気がします。

繰り返しになりますが、ゴルファーは仲間なのです。ゴルファー誕生の儀式を妨害することなく、無事に楽しくゴルフが出来るように気遣い、心配りをするのは、ごく自然のことなのです。

尊敬されるように振る舞おうと意識することまで強制は出来ませんが、軽蔑されても良いと開き直る人と、僕はゴルフを一緒にする気にはなれないのです。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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