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    episode 20 【誰とでもできるのがゴルフだ】

    社内ゴルフコンペ参加者の平均年齢が50歳を超えたことに気が付いた役員から「若い参加者を増やせ!ただし、コンプライアンスには十分に注意せよ」という特命を帯びた上司A。一切の強要なしに若い部下たちをグリーンに誘うことは可能なのか? 上司Aの挑戦は始まった……

    配信日時:2021年2月4日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    上司Aは急に忙しくなった。仕事ではなく、プライベートが過密になったのだ。

    社内だけでも、ゴルフに行く約束を20件してしまったのだ。実行されたない社交辞令な約束にするのは主義に反した。カレンダーを見ながら、頭を抱えることになった。

    最後のゴルフ部採用の社員Bとも約束があったので、ざっくばらんに現状を相談をした。
    「先輩は真面目ですね」
    と社員Bは笑った。

    「良いチャンスじゃないですか。ごちゃごちゃに組み合わせちゃえば、解決ですよ。自分も全面的に協力します」
    そう言われて、上司Aは目から鱗が落ちたような気がした。

    例えば、常務Iと二人で行くわけにはいかないので、他に誰かを誘わなければならない。誰を誘うかと常務Iにお伺いをたてる必要があるが、同時に、どこのコースにするか、ということも重要になる。失礼のないようにするのは当たり前で、ゴルフをすることに何らかの意味があるようにしたかった。考えれば考えるほど、正直な話面倒臭くなった。

    別の約束も似たり寄ったりだ。社内ゴルフの大幹事である社員Hとの約束では、特命を言いつけた役員を同伴することも考えた。ゴルフ部準備チームの面々との対決もある。野球部出身の社員Dと契約社員Fたちが、ゴルファーとして独り立ちするまで付き合いたいという思いもあった。

    上手く調整しようと考えるほど、個別に対応する形になり、下手すれば、毎日ゴルフに行かないと対応できなくなるのだ。


    ◆特命の達成を考えれば、色々な人たちを事前に知り合いにしていたほうが、これからが潤滑に進む
    ◆ゴルフ部創部を考えても同じで、ネットワークを演出できる
    ◆大幹事Hと30代の社内サークルの社員Eと自分の組み合わせは気が楽だ
    ◆常務Iと女子社員Cと契約社員Fとの4人組で、大衆コースでプレーするのも面白い
    ◆夫婦でゴルフをしている社員Gはゴルフ部準備チームのスクランブル戦に誘ってみよう
    ◆社員Bが声がけしてくれている社員たちとの予定は社員Bに全て任せよう
    ◆失敗しても謝れば良いのが仲間の良いところだ、と開き直って良いのだ



    上司Aは、毎週、ときには、平日に休みを取って、約束のゴルフに行った。

    思い切って、あまり何も考えずに組み合わせを作った。最終的には、予定が合う人同士を関係性は無視して一緒にした日もあった。しかし、ゴルフが好きな仲間ばかりなのだ。どんな組み合わせでも、けっこう楽しんで、面白がって、ゴルフをすることが出来た。

    中には、上司Aも初めてプレーする人もいたが、今までの印象と良い意味で違った人もいて、それは幸運なことだと感謝した。


    ◆常務Iはセルフで安価にプレーできるコースで初めてプレーしたらしいが、これはこれでありだと高評価だった
    ◆大幹事の社員Hは、近い将来、安価で気軽なコースで社内コンペを開催するのもありだと言った
    ◆野球部出身社員Dは、ますます上手くなっていて、スコア的にも初心者とは言えなくなってきた
    ◆女子社員Cと契約社員Fは常務Iにプレー代金を出してもらって喜んだ
    ◆女子社員Cと契約社員Fは、ゴルフ部に女子サークルを作るべく、準備を進めている報告を受けた
    ◆30代代表の社員Eは、色々な人とプレーすることの面白さに目覚めて、今までの主義を少し変更した
    ◆社員Bが声を掛けた40代の社員もゴルフ部に入りたいと表明した
    ◆上司Aは次々とゴルフをしながら、特命を成功させるためには、小さな約束で絆を作ることだと確信した



    以前、常務Iに特命のことを打ち明けなかったが、一緒にプレーをしていたら、女子社員たちとゴルフに行くようになったきっかけなどで、自然とそういう話も出てしまった。特別に驚きもせず、常務Iは「謎が解けたよ」と素っ気なかった。

    上司Aは、集中してラウンドの数をこなしたことで、自分のゴルフの調子が上がって、平均スコアがぐんぐん上がった。良い意味での副作用だった。

    この一連のことで、会社員としてゴルフを長くやり過ぎたのだ、と上司Aは反省した。

    調整して、自分の力を見せつけようというスケベ心が、混乱の始まりだった。単純にゴルフがしたい、ゴルフを一緒にしよう、ということで良かったのだ。なによりも、このメンバーで、また、ゴルフをしましょうというケースが続発したのは嬉しかった。

    今回の金言

    (写真・Getty Images)

    (写真・Getty Images)

    「ゴルフに言葉は必要ない」
     (呂良煥)


    呂良煥は、台湾出身のプロゴルファー。1970年代に日本でも活躍した。1971年の全英オープンで2位になり、フランスオープンと南米のコロンビアオープンに優勝した直後に、記者に、言葉に不自由しないのか? と聞かれて、コメントした言葉が今回の金言である。

    この金言には続きがある。
    「ゴルフは万国共通です。一生懸命に、真面目ににプレーしていれば、それが自分を理解する言葉になるのです」

    世界中でプレーをしていた呂良煥プロだからこそ、この金言は重みがある。

    上司Aは、海外で何度もゴルフをしているが、言葉が通じない国で地元のゴルファーとプレーしたことが一度だけあった。そのときにも、言葉が通じなくとも、一緒にゴルフが出来るのだと感動したものだった。

    変に気を利かして、おかしなことになったり、約束を果たさずに、信用を失ったりせずに良かった。上司Aは、ゴルフのせいでハードになった日程を過ごしながら、ゴルフをしていた良かった、と何度も思った。自分もなんだかんだ言って、単純明快が好きなのだ。

    そして、この金言も思いだしたのだ。言葉は要らない、なんてカッコイイ振りで言うセンスは上司Aにはなかったが、話さなくとも通じる共通言語としてのゴルフの機能を思い知らされた気がした。特命を達成するゴールが、明確に見えてきた気がしたのである。

    【著者紹介】四野 立直 (しの りいち)

    バブル入社組作家。ゴルフの歴史やうんちく好きで、スクラッチプレーヤーだったこともある腕前。東京都在住。

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