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打打打坐 第44回【パターはゴルフの鍵】

打打打坐 第44回【パターはゴルフの鍵】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2021年2月19日 15時00分

パターはどうして多様な形なのか?

「14本のゴルフクラブの中で、何が一番好きですか?」
と問われたら、僕は迷わずに、パターと答えます。

質問が変わって、
「14本のゴルフクラブの中で、何が一番得意ですか?」
と問われたら、パターとは答えられなくなりました。
パターと答えていた時期はありました。20代の頃です。

ゴルフをすればするほど、パターというクラブは、少しずつ謎に包まれていくようになるようです。無邪気に打っていた初級者の頃、練習すればした分は確実に上達を実感できたあの頃、戻れるものなら戻りたいと、何度も何度も考えてしまいます。

パターの謎がわかってくれば、ゴルファーとして一人前だと、言っていた先輩がいました。先輩は、明らかに練習不足が原因でパットに苦しんでいましたから、名言なのに、説得力に欠けると笑い話になっていましたが、僕もオールドゴルファーの端くれになった今、やっと一人前になってきたような気がしています。

その先輩は、パットに苦しみながら、練習以外の努力は人一倍していました。新しいパターや、話題になったパターがあると、我先にと購入していたのです。

先輩のパターの数は凄いことになっていました。先輩の古希(70歳)のお祝いの会を開催したときに、参加者に好きなパターを1本持って帰って良しと自らのパターコレクションを放出したのですが、参加者は20数名に対して、運び込まれていた『もう使わないパター』は、70本もありました。奥様の話だと、その倍ぐらいの数のパターが、まだ家にあるとのことでした。

先輩の奥様は、ゴルフをしない人でしたが、なんでこんなに色々な形のパターがあるの? と、不思議がっていました。先輩みたいに悩めるゴルファーが、それだけいるということなのです、と説明しましたが、全く納得していませんでした。

パターほど、多種多様な形があるクラブは存在しません。それらは、全て、パットをして、狙い通りにボールを操って、ホールインするための知恵と努力の結晶なのです。本当は、ゴルファーの数だけ『合うパター』が必要なのだという説もあり、もっと多種多様であるべきだという賢者もいます。

パット名人たちと統計的な目安

僕はゴルフ人生でパット名人と呼ばれる人に、瞬間的なものも含めれば9人に会ったことがあります。トッププロゴルファーは別です。彼らは、基本的には名人クラスだからこそ、そのポジションを維持しているわけですので、別枠で考えることにします。

名人たちに共通することは、どこからでもパットを決めてくるオーラを持っていることと、実際にハマれば、漫画の中の世界のように連続でワンパットを永遠のごとく続けることができたことです。

最もわかりやすい名人は、ドライバーが180ヤード、フェアウェイウッドが160ヤードという飛距離ながら、調子が良ければ涼しい顔でアンダースコアでプレーできる人でした。いわゆる、ボギーオンでワンパットのパーを基本としたゴルフをするのです。僕は20代だったこともあって、その名人を第1打目で100ヤード近くオーバードライブしながら、一緒にプレーして、1回もスコアで勝ったことがありませんでした。

たった1度だけ、僕のホームコースで同スコアだったことがあったのですが、プレー後、名人は3時間も練習グリーンで居残り練習をしていたと、後日、コースのスタッフから聞き、自分の未熟さを痛感して、パットの練習を納得いくまでするようになるきっかけになりました。

そのような超人的な名人は別として、一般的なゴルフシーンでパットの達人と呼ばれるレベルは、どんなときも2パットで済ませるようになることだと思います。
このレベルまでは、よほど間違った方法を採用していない限り、練習量で到達できます。

例えば、ショットの練習を週一で1.5時間しているのであれば、30分のパット練習を週3回同じ量にするようなイメージが最低限の練習量です。今までショット練習の時間が多かった場合は、しばらくの間、パットの練習量を増やすのもアリです。打つ感覚とボールの打ち出し速度がシンクロすることと、狙い通りの方向に打ち出すことをテーマにして、繰り返すことです。鍛えた結果の感性は、頼りないもので、練習をサボればすぐに衰えますが…… 名人にはなれませんが、達人には誰でもなれるのです。

パットは、ボールを転がして、108ミリのカップに沈めることを目的としたストロークです。芝生は自然の生き物です。例えば、1枚の芝生の葉が、ボールのディンプルの角に当たれば、少しだけ転がりに影響して、結果を変えることもあります。落ち葉の軌跡が、完全には予想できないように、完璧に打ち出されたボールも、厳密な意味では必ず同じ転がりをするとは限らないのです。

僕が会ったパット名人たちに共通していた最後の一つが、例外なく、日頃の行いにこだわっていたことです。つまり、入るのも、入らないのも、最後は運次第ということなのです。運を高め、運を下げないように日常生活から準備をして、努力も続けていました。

よく寝ること。バタバタした準備をしないこと。悪事はしないこと。この三点は、異口同音に9人全てが、ゴルフの内だと教えてくれました。

ちなみに、先程の180ヤードしか飛ばないパット名人は、家とゴルフコースの行き帰りで自動車を運転する際に、制限速度を厳守するという徹底ぶりでした。

「これだけやったのだから、大丈夫だと信じられることが一番大事」

と言いつつ、他の人が運転するときは、飛ばせ、と指示をする憎めないおじいちゃんでした。

パットの達人の扉を開けるために

ゴルフにおいて、パットはキーポイントになります。

グリーンまでのストロークは、失敗しても取り返せる可能性がありますが、入る入らないというグリーン上のストロークは、オールorナッシングだからです。極論を書けば、成功条件は、入るという一つだけで、他は全て失敗なのです。何より、打たない、パターを使わないという逃げの選択肢がないのがパットです。スコアの中の何割かは、どんなゴルファーでもパットです。

では、パットは究極に難しいストロークなのかというと、実は、他のストロークに比べると、ゴルファーに優しい部分もあるのです。普通の女性が、必死になって鍛えても、ドライバーで300ヤード飛ばすのは99%無理です。でも、パットにかんしては、トッププロも、パット名人も、ひ弱な女性でも、体力差で無理だと諦めなければならないことは、ほとんどありません。同じフィールドで、ハンディキャップがなくとも、老若男女が戦えるのがパッティングの面白さであり、醍醐味なのです。

パットの練習量を維持すれば、2パットがマストのパット達人にはなれると書きました。さらに、パット名人が大切にしている運を味方に出来れば、鬼に金棒です。

忘れられないミスパットの記憶の蓄積に翻弄されて、パットの謎に悩むベテランゴルファーからすれば、「いやいや、そんなことだけで上手くいくなんて、あり得ないですよ」というクレームが来そうです。上手くいけば儲け物。それもパットの極意ですが、そういうことではなく、次はパターに注目してみましょう。

『弘法筆を選ばず』で名人クラスになれば借り物のパターでも、少し打てば、2パットマストでプレーできると思います。しかし、ワンパットを量産する名人のパットは、自らの愛機であるエースパターがなければ無理です。

名人の中には、他人が自らのパターに触れることを極端に嫌うケースもあります。エースパターを大事にしているということと、ほんの少しの違和感があってもパットは狂うという経験が、より慎重な対応になって、触るな、という感じになるようです。中には、キャディさんにも触らせずに、パターだけは持ち運びを自分でするという名人もいました。

合うパターというのは、単純に結果が出るパターです。そして、その多くは、練習量多かったときに手にしていたパターの形になるようです。

練習でも、合う合わないが、明白になるのもパターの特徴です。合わないパターは、どんなに練習をしても結果が出ません。逆に合うパターは、練習量が自然と最小限になるような結果が出るものです。理屈ではなく、これは感性の範疇です。乱暴ですが、やればわかるという世界です。

スコアを考えたときに、パッッティングはキーポイントになります。そして、パターは鍵そのものだ、と言えるのです。鍵だから、あんなに種類があるのです。自分の中にあるパット達人の扉を開けることが出来る鍵は、基本的には一種類です。

世の中には、パットの達人はたくさんいます。名人を目指せる力があるゴルファーもいます。L字使い、と呼ばれていたり、ピン使いと呼ばれていたり、最近では、蜘蛛使いなんかもいます。まずは、使い熟して、使い手としてパターに認めてもらうことです。

挑戦しなければわからないことが、ゴルフではよくあります。この数年、僕は蜘蛛使いとして頑張ってきました。やってみなければわからないから、挑戦をしてきたというわけです。やってダメなら、と戻れるところも、ゴルフの面白さです。遠回りは、無駄にはなりません。パターの試打をしながら、そろそろ…… と考えている時間も、たぶん、僕にとってはパットの練習なのです。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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