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打打打坐 第48回【ゴルフとお酒について】

打打打坐 第48回【ゴルフとお酒について】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2021年3月19日 15時00分

春はコンペの季節

3月も半ばになって、あちらこちらで桜の開花の知らせが届いています。春になったという実感を次々に感じています。

先日、面白い光景を見ました。

その日は、朝から半袖になれる暖かさで、青空が広がるゴルフ日和でした。20人ぐらいのグループが、笑顔で練習グリーンの脇で集合していました。コロナウィルス対策で、個々が2ヤードぐらい離れていました。その人数であれば、15ヤード直径の円になれば十分なはずなのに、通常の2倍はある30ヤード直径ぐらいの円になって集合していました。円の真ん中の幹事は大声で挨拶や説明をしていたのです。

春のゴルフコンペです。コンペの季節がやって来た、と少し嬉しくなりつつ、それを見ていました。

自分たちのスタート時間が近くなって、ティに向かうことになって、グリーン脇のカートが通る道路を通らなければ、ならなくなりました。そこは、そのコンペの集団の輪がはみ出していました。頭を下げながら、サークルを横切りました。幹事が大声で「カートが通ります」と誘導してくれました。

道路に、仲間がはみ出さないようにする気遣いもコンペの幹事の腕前だという苦言をいう野暮はなしに、新しい時代のゴルフコンペのあるある話なのかもしれないと考えていました。ソーシャルディスタンスをとった集合を見ながら、今年の春はどうなるのか? と例年なら案内が来ているはずなのに、未だに何ら案内が来ないゴルフコンペのいくつかを思いだしていました。

昨年の4月と5月の春のゴルフコンペは軒並み、中止になりました。案内が来ていないということは、今年も同じような状況なのかもしれません。

集合していたゴルフコンペの参加者の3割ぐらいは、缶ビールや缶酎ハイを片手に持って、飲みながら話を聞いていました。

驚く人もいるかもしれませんが、社交族がゴルファーの主役だった頃は、飲みニケーションとゴルフはセットだと考える人たちが過半数だったのです。その価値観を未だに継続している人たちも少なくありません。朝から宴会みたいな雰囲気を当時から苦々しく思う人もいました。僕はその中に積極的な参加は遠慮していましたが、ゴルフの楽しみ方は色々で良いのだとも考えていて、否定はしていませんでした。

飲めないゴルフはゴルフじゃないと、バブル崩壊後に、ゴルフをやめてしまった人もいる反面、現在のゴルフシーンでは、一滴もアルコールを口にしないでゴルフをする人も増えています。

「アルコール消毒! 2組目のカートにクラーボックスがありますので……」
カートが通り過ぎたあとに、声が後ろからしていました。

不要不急の外出を避けて、感染予防を徹底しましょう、というスローガンが広まって約1年。飲食することが悪いのではなく、感染対策を蔑ろにして集まってしまうことが危険だということなのです。

ゴルフコンペは、ちゃんと感染対策をして参加すれば、安全だと個人的には思いますが、何かあったときに言い訳が出来ないから、という理由でコンペの開催を躊躇することも納得できるのです。コロナウィルスを気にしないでゴルフができるようになる未来が待たれます。

あぶさんを知っていますか?

「真剣にゴルフをするつもりなら、アルコールを飲みながらというのは不謹慎です」
という意見が、最近では、どうやら主流派になりつつあります。

ゴルフが単なる球打ちのスポーツではなく、文化としても成立すると考えると、飲みながら出来るゲームは特別で、ある意味で熟成しているとも言えますが、僕もほぼ100%飲まずにゴルフをしています。

アルコールを目の敵にする風潮は、全体主義のちょっと嫌な匂いがして賛成できません。そういう話が出るたびに、僕は一人のゴルファーを思いだすのです。

仮にAさんとしますが、その人は公務員で、ゴルフが大好きでした。四六時中、ゴルフのことを考えているような人でした。ある競技で県の記録を持っていて、インハイで優勝争いをした経験がある運動神経と体力もあって、出逢ったときには調子が良ければパーブレイク出来る腕前でした。「競技ゴルフをしたいのだけど、一人ではハードルが高い」という相談を受けて、当時はたった一つしかなかったダブルス競技に僕とエントリーしたのです。

二人の合計スコアで競われる競技の予選で、僕は絶好調でパープレーに近いスコアでしたが、Aさんは明らかに緊張して、借りてきた猫のようならしくないプレーで80台になってしまいました。それでも、結果オーライで、僕らはギリギリで予選を通過して、決勝に進みました。

Aさんは、自分が足を引っ張って申し訳ない、と落ち込んでいましたが、僕は当時、ゴルフは個人戦で、ダブルスは遊びのようなものだと考えていて、それが最初の参加でしたから気にしていませんでした。

「やっぱ。競技のときっちゅうのは、飲んじゃ駄目なのかね?」
とAさんに相談されたのは、全国決勝のコースでの練習ラウンドの途中でした。確かに、競技ゴルフでレストランでガンガン飲んでいるというシーンはあまり見ませんし、全国大会になると、当時から周囲は学生ゴルファーだらけで、その半数近くは未成年でしたから余計にそういうムードではなかったのです。

Aさんがお酒も大好きなことは知っていました。
「朝、コースに着いてから、車の中で思いっ切り飲んでプレーしても、誰も咎めませんよ。ガンガンやってください」
と僕は答えました。

当日、Aさんは、少し赤い顔をしてチェックインしてきました。到着後、駐車場に止めた車の中で、クーラーボックスに入れてきた500ccの缶ビールを2本、一気に飲んだら、落ち着いてきたよ、と笑ったのです。午後のスタート前にも、車に戻って、少し呑もうと思う、といわれて、今日は行けそうだと安心したのです。二人共に70台だったような気がするのですけど、真ん中ぐらいの順位だったと記憶しています。

Aさんは、競技のときは車で飲むという作戦で、その後、メンバーコースのクラブチャンピオンを何連覇もしたり、個人で競技ゴルフに出て、なかなかの成績を収めました。僕を師匠と呼んでいましたが、冷静に分析すると、生涯成績はAさんのほうが良かったと思います。

その作戦は親しい人しか知りませんでしたが、知っている人たちの間で、Aさんはゴルフ版あぶさんだと尊敬されていました。「あぶさん」とは、水島新司氏による野球漫画で、主人公の野球選手が酒を飲まなければ実力が出ないという酒豪の強打者のお話なのです。

僕は、今でも、Aさんは一変の曇りなく真剣にゴルフをしていたと思っています。酒の力を借りることの是非はあるかもしれませんが、酒に飲まれることなく、嗜んでいる範疇だったから誰にも文句をいわれなく良いと確信しています。

酔っ払って、迷惑を掛けるような所業は、ゴルフだけではなく、一般的な生活でも悪いことです。それと同じベクトルで、お酒を嗜むゴルファーを一緒にするのは低レベルな話です。お酒に飲まれないことと、飲んだら車の運転をしないことなどを徹底すれば、あとはご自由にどうぞ、で済むはずです。

ゴルフは十分に酔わせてくれる

僕がコースで原則としてお酒を飲まないのは、帰りの車の運転を考えてのことです。

四半世紀前まで、昼休憩で、勧められればお酒を飲んでいました。断ると少し空気が悪くなることが、その当時は多かったから、ということもありました。しかし、ある日、ゴルフコースを出てすぐの国道で、飲酒運転の一斉検問をしていたのです。昼に大ジョッキと中ジョッキを飲んでいましたが、それからハーフをプレーして、お風呂にも入って、3時間半ぐらい経っていました。嘘をつかずに、そのまま説明すると、念のためということで、呼気検査を受けることになりました。今であれば、飲酒運転になるようですが、当時は基準が甘かったので、アルコールは出ているが違反にはならない、という数値が出ました。1時間半、その場で足止めされて、もう一度検査をして、数値が出ないことを確認後に解放されました。

違反にはなりませんでしたが、待っている間に冷静に考えたのです。飲んで数時間しか経過していなければ、飲酒運転になってもおかしくありません。ゴルフコースでは飲まないようにしよう、と心に誓って、それ以降は、運転があるときは飲まないようにしました。

約10年前からは、前夜が飲み会のときも、翌日の出発時間の8時間前になったら、ノンアルコール飲料にチェンジするようにしています。前夜に飲み会など、不謹慎かもしれませんが、飲みニケーション世代ですし、断りたくない楽しい時間でもあるので、自己責任を徹底しているというわけです。

「酒は百薬の長」ということわざには、「されど、万病の元」という続きがあるという良く出来た小話があります。好きなものだからこそ大切にするのが正解ですから、お酒が好きな人はゴルフをしながらお酒を飲むにしても、スマートにカッコ良く飲む努力は必要です。そのような自分なりの流儀を持っていて初めて、酒飲みゴルファーとして多くの人に認められるのです。

やせ我慢を含んだ美学があれば、ゴルフは各個人の趣味趣向を否定せずに受け入れてくれます。緊張を適度にほぐしてくれたり、楽しい気分に敏感になったり、お酒を薬として上手く使って、ゴルフをより楽しめることは幸せなことです。

何度も書いて恐縮ですが、僕はゴルフしている最中にお酒を飲むことは、ほとんどありません。でも、ゴルフをしていれば、自然と心地良く酔ったみたいな気分になれることがたくさんあるのです。もちろん、良いことだけではなく、大叩きして悪酔いすることもありますが、ゴルフに酔わされて気分良いと感謝する瞬間もあります。僕を含む、多くのゴルファーは、無意識ではあっても、ゴルフに酔わされているはずなのです。お酒は中毒性があるから駄目だという意見がありますが、そういう意味では、ゴルフも似ているのです。

ゴルフ中のお酒を頭ごなしに否定することに、強い抵抗を覚える最大の理由は、ゴルフにいつも酔わされて、その快感の虜になっているからかもしれません。

春のゴルフコンペで、ほろ酔い気分で花見ゴルフ…… それも間違いなく、ゴルフの一つです。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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