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打打打坐 第49回【ネームプレートは語る】

打打打坐 第49回【ネームプレートは語る】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2021年3月26日 15時00分

ネームタグ? ネームプレート?

キャディバッグには、持ち主がわかるようにネームプレートを付ける慣習がこの国にはあります。

欧米では、クラブハウスのエントランスでバッグを渡して、スタッフに運んでもらい、カートに積んでもらうというシステムではないのが普通です。その作業は、基本的にはセルフサービスで、自分がやることだからです。

誰がいつ始めて、根付いたのかはわかりませんが、預けられたバッグが誰のものなのかがわからないと、組ごとのカートに積み込むことが不可能なので、この国では、名前がわかるようにバッグに小さなタグを付けることが決まりになりました。

表題を読んで違和感を感じた人もいるかもしれません。ネームプレートではなく、ネームタグではないの? という疑問に答えます。これは、どちらも正解なのです。現在は、ネームタグと表記することが多数派になりましたが、昭和の時代にはネーププレートと呼ぶのが常識でした。

同じものなのですが、タグというと、オートメーション的な冷たさを感じてしまうので、個人的にはできるだけ、ネームプレートと表記することにしているのです。

「○○△△様、至急、キャディマスター室までお越しください」

という緊急館内放送を耳にすることが、最近少し増えたような気がします。コロナ禍で若いゴルファーが増えて、まだ、ネームプレートをバッグに付けていない状態でコースに来ているからだと思われます。

紙のタグに、サイペンで名前を書いて、代用していたのに、何かの拍子に紙が破れてしまったり、コースによっては紙のタグなどに名前が書かれていても、確認のために本人を呼び出すというケースもあるそうです。

ベテランゴルファーでも、ネームプレートの紐が切れて、なくなってしまったことに気が付かないまま、コースに来てしまって、呼び出しを受けていることがあります。

「ネームタグって、どこで作るんですか?」

昨年以降だけで、10回以上聞かれました。異常な数です。僕は仕事でネームプレートを作ることも請け負うときがあるのですが、そういう話ではなく、ネットなどでキャディバッグを購入すると、ネームプレートの名入れは自分でお願いします、というシステムが多いからです。

中には、ゴルフ歴7年目にして、ちゃんとしたネームプレートを始めて持とうとした男もいました。それまでは、キャディバッグに付属していた無地のネームプレートに、プリントした名前を貼り付けて使用していたそうです。

十分に機能していたのですけれど、ある先輩から
「ビギナーみたいで、みっともないから、ちゃんとしなさい」
と、叱られたそうです。

昔ながらの意味で、ちゃんとしたネームプレートとは、名前が刻印されたものという意味だと思われます。

いくつかの方法を教えました。その数時間後に、彼は、ネットで注文して、後日、ちゃんとしたネームプレートを入手したのです。費用は2千円ぐらいで、実に簡単です。

プリントした名前を貼り付けたり、テプラで打ち出した名前を貼ったり、それらしいものでも悪くはありません。コースのスタッフが名前を確認できるという機能を満たしていれば良いのです。

ただ、そういう簡易的なネームプレートを見て、信頼できないという印象を持つ人も確実に存在することも事実なのです。

ネームプレートの品格

昭和からバブル期にかけて、ジャラジャラ族と密かに後ろ指を指されているゴルファーがたくさんいました。キャディバッグに、たくさんのネームプレートを下げているからジャラジャラ族です。

この頃、ネームプレートは、ゴルファーの名刺とか、肩書きとか、何者なのかを証明する役割を持っているという考え方と現実があったからです。

キャディバッグを購入すると、付属しているネームプレートに、ショップはサービスで名前を彫ってくれるのが当たり前でした。このプレートは、キャディバッグのメーカーのオマケですから、そのバッグの持ち主だという証です。購入すれば誰でも手に入るプレートは、最低限で、自慢のアイテムにはなりません。

ゴルフコースのロゴなどがデザインされた公式なネームプレートは、メンバーになった人だけの特権で、メンバーをやめるときには返却しなければならないものでした。バブル期に向けて、投資の対象となった会員権の価格はうなぎ登りでした。どこのメンバーなのか? 一目でわかるステイタスでしたので、そのネームプレートはステイタスになったというわけです。

ジャラジャラ族の複数のネームプレートは、複数のメンバーコースを持っていることをたくさんの人に知らしめるための必殺技だったのです。ジャラジャラの部分だけを真似て、お守りやらキーホルダーの類いまでぶら下げている初心者も出現したりして、面白い時代でした。

さらに、実力を証明したいゴルファーもいました。競技ゴルフの参加賞はネームプレートが主流でした。笑い話のようですが、予選、地区決勝、全国大会と1試合で3枚もネームプレートが収集できることもありました。それぞれが、一目で見てわかるように大きさや素材などを変えてあるのです。当然、全国大会のものが、カッコ良くて、価値があると考えられていました。

ジャラジャラ族は、そういうプレートも含めて、戦利品を誇示し、自分が多くの肩書きを持っていることを自慢していたのです。

実を言うと、僕も20代半ばまでは、ジャラジャラさせていましたが、尊敬している先輩から、

「その年の全国大会のプレートがあるなら、それだけで十分だろ。ジャラジャラさせるのは一番が決められないか、価値がわかっていないと公言しているようでカッコ悪いぞ」

と教えられて、すんなりと改心したのです。それ以降は、ネームプレートは1枚だけにしています。

ちなみに、絶滅寸前ですが、ジャラジャラ族は令和にも生きています。練習場などで、マウントを取るように群れながら大声でしゃべっている人たちを観察すると、見つかる確率が高いと言われています。

いきなりですが、ネームプレートには表と裏があります。これが諸説あって面白いのです。名前を入れる無地の面が表面で、デザインが入っているのは裏面だという説。デザインが表面という説。両A面のレコードみたいに(レコードも表裏があり、表がA面だったので)、両方面という説。

自分がしっくりくるのが、正解なのですが、何が主役かを考える意味で、興味深いのです。

ネームタグは冷たくて、ネームプレートは温かいイメージがあると書きましたが…… プレートという言葉には、少しだけ誇らしげなイメージがあるのです。そういうことが、色々な自己満足や誤解を生んでしまうこともあったのだと思います。

ゴルフは、人間の本性を剥き出しにすると言われています。それも、あらゆるシーンで最良と最悪という極端な形で。ネームプレートにも、そういう役割があるのです。

僕は、ゴルフのネームプレートには品格が宿る、と考えています。

ディープなゴルフアイテムとして

ネームプレートの最優先の機能は、持ち主が誰にでもわかるようにする、ということです。どこのコースのネームプレートか? 何の大会のネームプレートか? そんなことは二の次三の次です。

ゴルファーは、見栄を張ったり、自慢をしてしまう生き物としての宿命を背負っています。ネームプレートでも、ちょっとしたきっかけで、目的を忘れて、欲望のままに違うベクトルに乗ってしまうことがあります。

よくあるパターンが、名前を英語表記にしてしまうというものです。ローマ字が読めないなんてあり得ないので、大丈夫だし、他の人とちょっと違って目立つし、海外のコースによく行っていると思われるかもしれないなんて、期待してしまうのです。

コースのスタッフからすれば大迷惑なのです。もちろん、読めますが、ひらがなで書かれたネームプレートと同じなのです。

例えば、『わたべ あきら』がネームプレートに刻まれていたとして、その日の来場者に『渡部 明』と『渡辺 晃』という同姓同名がいたとすると、現場は大混乱です。スタート時間が離れていれば、どうにかなるケースもありますが、間違ってカートにバックを積んでしまえば大問題になります。過去に一度でも、積み間違いを起こしたことがあるコースであれば、その危険がある場合は、躊躇なく、確認のために呼び出しをします。

結局、気の緩みで作ったネームプレートのせいで、館内放送で呼び出しをかけられて、バッグを確認するという情けない事態になるのです。そもそも、ちゃんと漢字表記にしているもう一人の同姓同名さんに迷惑をかけるなんて最悪です。

格好つけたのに、逆になってしまって、涙が出そうな喜劇です。

「キャディバッグに、名前を刺繍で入れたから、もう、ネームプレートはいらないですよ」

なんて、ショップ店員に薦められて、オプションでネームを入れたバッグを購入して、本当にネームプレートを付けないなんていうのも、同じように呼び出し対象です。

少しだけ想像力を働かせれば、危険なことがわかるはずなのに、ゴルフというのは楽しすぎて、死角だらけになってしまうものなのです。ネームプレート一つ取っても、例外ではありません。

ネームプレートは、多弁です。
持ち主のことを語るのです。

僕は、今まで、ゴルフコースや団体やゴルファーの集まりのネームプレートを数え切れないほど作ってきました。そのときに考えるのは、ネームプレートは多弁だと言うことでした。

あくまでも、ネームプレートの主役は、持ち主の名前です。でも、そのゴルファーにとって、唯一無二の素敵なネームプレートになって欲しいと祈りながら作りました。

目立ち過ぎるのも悪ですし、なんだかわからないほど地味なのも悪です。山椒は小粒でぴりりと辛い、というようなセンスが光る逸品が、末永く使えるネームプレートになるのです。

私見ですが、尊敬できるゴルファーはほぼ例外なく、自他共に納得できるネームプレートをしているものです。ネームプレートで、主張するのは、最上級のゴルフアイテム術かもしれませんが、だからこそ、一生楽しめる分野でもあるのです。

ゴルフ人生を象徴するようなゴルフな逸品として、お気に入りのネームプレートがあるのは幸せです。そんなことを書きながら、打打打坐のオリジナルのネームプレートを、読者のゴルファーと共有する夢を見ました。それもまたゴルフなお話です。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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