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打打打坐 第56回【お米の国ゴルファー】

打打打坐 第56回【お米の国ゴルファー】

打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

配信日時:2021年5月14日 15時00分

フェアウェイは食べられない

今年は梅雨が早く来そうだと天気予報士がテレビで話していました。気が付けば、北関東でもゴルフコースのフェアウェイは完全に緑になりました。

「芝生に穂が出ていて、フライヤーになっちゃうから、今の時期のゴルフは難しいよね」

なんていうような声も聞こえてきます。新緑を通り越して、深緑の季節がゴルフコースにもやって来ました。

日本のゴルフコースのほとんどのフェアウェイに使用している芝生は高麗芝です。穂と呼ばれている部分は、実です。高麗芝の場合は、春と秋の2回、実を付けます。とはいえ、高麗芝は種ではなく、地下茎で増えていくので、穂は不要です。

フェアウェイに穂が出ているのは見たことがないけれど、ラフに穂が出ているのは、春先のトーナメントでも見ることがある、という観察眼が鋭い人もいると思います。ラフは多くのコースで野芝を採用しています。野芝は春にだけ穂が出ます。

穂に栄養分を取られてしまうと、芝生の育成が悪くなるので、ゴルフコースの管理スタッフは、穂を刈り取る作業を必死になって行っています。しかし、葉も一緒に刈ってしまうので、芝生に元気がなくなってしまうという側面もあり、痛し痒しなのです。

穂が出ている芝生があるコースなんて、整備不良でプレーするのが嫌だという人もいます。僕は、そういうコースも大好きです。

生物学的な分類では、高麗芝も野芝もイネの仲間で、穂は、ザックリと考えれば、お米みたいなものだからです。日本に生まれて、お米が主食であることに感謝しまくっている自分としては、芝生の穂が出ると思うのです。

「おぉ、お米の季節が来たな」

新米の季節は秋ですが、ゴルフコースで芝生の穂が出る頃、田んぼでも田植えのタイミングとなります。

田んぼを見つめて

関東エリアでは、どこに行っても田んぼがあります。ゴルフコースの行き帰りでも、コースからでも、田んぼを見ることが出来ます。

春になると、水が張られて、田植えがあって、あっという間にイネは育って、夏になれば稲穂が出て、秋になると稲穂がお辞儀するように重そうに実って、田んぼは黄金色になります。同じコースに通っていると、田んぼの様子で、季節がわかったりもするのです。

ゴルフコースに隣接する田んぼの場合、コースのほうが高い位置にあることが多いので、田んぼを見下ろすような感じなります。見下ろす田んぼは、観察しやすいのです。

実って黄金色になった田んぼも良いのですが、個人的には、田植えが終わったばかりの水面が見える田んぼが好きです。天気が良いと、空と雲が田んぼに映って、贅沢な瞬間を見ることが出来ます。もう一つの平行世界が覗けたようなような不思議な気持ちになります。

20代の頃は、田んぼがきれいだ、とか、欠片も思いませんでした。ゴルフコースの周辺の田んぼの位置にも興味がありませんでした。お米の国のゴルファーだとシンパシーを感じるようになって、田んぼを観察するようになったのは、40代になってからです。

詫び寂びがわかる大人になったからなのか。食いしん坊の宿命なのか。理由はわかりませんが、余裕が出てきたからだと勝手に思い込んでいます。

ちょうど、田植えの季節になったので、今は、毎週コースから田んぼを見下ろすのが楽しみです。

お米の国ゴルファーのしあわせ

毎年、お米の消費量は減っているそうです。糖質制限ダイエットで、お米を長い期間食べていないという人たちもいます。ご飯派とか、パン派とか。好みはあると思います。それでも、この国の文化はお米の国として成り立っています。

ゴルフの朝、コンビニに寄って、朝食を買って、車の中で食べながらコースに行くことは、個人的に、ゴルフの一部になっています。コンビニの新製品情報を仕入れては、次はコレを食べようと楽しみにしていたりします。朝食として、基本的には、おにぎり1個とパンを買います。

食堂での朝食だと、洋定食と和定食なら、迷わずに後者を選びます。バリバリのご飯派です。

コンビニ朝食が、ゴルフとセットになるようになったのと、田んぼが気になるようになった時期は、完全にリンクしています。それまでは、好んでおにぎりを購入することがなかったのですが、車を運転しながら食べられるという都合の良さと、腹持ちの良さで、おにぎりを選んだら、美味しかったのです。そして、次々に出る新製品も工夫されていて、なかなか楽しいのです。

『コンビニおにぎり、恐るべし』と感心したときに、田んぼが見えて、こうしてお米は作られるのか、と繋がったのです。

高麗芝がイネの仲間だということは知識として知っていましたが、それ以降、急にそれも愛おしく感じるようになりました。

この国のゴルフは、自虐的に最悪だと考える傾向があります。そう考える多くの人が、実際に海外でゴルフをしたことがないという奇妙な現実があります。経験していたとしても、旅行のオプションだったり、有名コース巡りの旅だったりする、いわゆる良いコースで経験したゴルフ体験と、一般的な国内コースでの体験を比較するのは邪道で、フェアではありません。

個人的な経験で書くと、庶民的なコースで海外と国内を比較しても、この国のゴルフはトップレベルに優れています。文化的な違いを差し引いても、スタッフワークが可能にするコース管理などは最高レベルにあります。胸を張るのは、ゴルフコースの関係者で、ゴルファーではないかもしれませんが……

芝生には、主にイネの仲間とムギの仲間があります。お米が作れるエリアは、イネの仲間にとっても快適なのです。だから、良い環境でゴルフが出来る偶然に感謝したくなります。田んぼで田植えが始まり、新米が出回るまでの期間が、ゴルフの季節だというゴルファーはたくさんいます。芝生が緑だから、という理由なのだそうです。

お米の国ゴルファーだからこそ感じられるしあわせは、他にもたくさんあります。同じお米の国ゴルファーとして、自分で見つけた面白さや、しあわせを語り合えるのもゴルフの内なのです。

【著者紹介】篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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