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    打打打坐 第58回【さらば、エチケット】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年5月28日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    呪われた切符の伝説

    『昨今の若いゴルファーは、エチケットを軽視していて困る』

    オールドゴルファーが言いそうなセリフですが、これは40年前に書かれたものです。いつの時代も、ベテランが新人に不満を持つというパターンは続いているというわけです。

    しかし、2019年のゴルフ規則の大改革でエチケットはゴルフ規則から消えてしまい、過去のものになったと思っているゴルファーが多いようです。

    ゴルフ規則の第一章は「エチケット」でした。規則以前の問題で、ゴルフをする資格を問うのがエチケットです。エチケットを守れない者は、ゴルフをする資格がない、という厳しい注意事項だったのです。

    このエチケットが、ゴルフの中に取り込まれた正確な歴史はわかっていません。だから、ちょっとした伝説がありました。すべて英語で書かれているゴルフ規則の中に、エチケットだけは「etiquette」というフランス語なのです。第一章の重要な項目が、どうしてフランス語なのか? ゴルフはエチケットに呪われている、という説まであったのです。

    エチケットは、元々、古いフランス語が語源で、英語化される際には「チケット」になりました。フランス語のエチケットには、特別なレベルの礼儀作法という意味合いがありますが、チケットは切符みたいな証明に過ぎません。適切な言葉として、エチケットはゴルフ規則の第一章に採用された、というのが真相のようです。

    これからは、昔はエチケットが第一章で良かった、なんていうシーンが増えるのかもしれませんが…… そもそも、第一章のエチケットを実は一回もちゃんと読んだことがないゴルファーのほうが多かったのです。そういう人に限って、自分の都合を押しつけるのにエチケットを振りかざすインチキな傾向がありました。エチケットは、都合が良い水戸黄門の印籠のように使われていた、という現実もあったのです。

    真面目にエチケットを厳守してゴルフをすることを良しとしてきた正統派オールドゴルファーの中には、エチケットがゴルフ規則から消えたことを歓迎している人たちもいます。新しい規則のほうが、ゴルフの精神の神髄に忠実で曖昧さが排除された、とも読み取れるからです。

    エチケットはマナーの集合体

    わかりやすく書くと、エチケットは礼儀作法で、マナーはより実践に近い行儀作法です。エチケットは、洗練されたマナーの集合体なのです。

    なんだか面倒臭そうだね、と思うのは人情です。でも、エチケットはたった数ページのゴルフの心得で、単純で簡単なものだったのです。

    他者への心配りがゴルフの精神の基本で、安全にゴルフをするために周囲に気を配ってスイングすることから始まって、打ち込み行為の禁止と、人がいそうな所に打ったらフォーと声をかけること。

    他のプレーヤーの邪魔にならないように音を立てない、視界に入らない、インターバルでスコアを確認する。プレーのペースに配慮して、前の組に付いていくこと、自分の番になったらすぐ打てるように準備すること、ボールがなくなりそうだと思ったら暫定球を打ち、ボール探しは時間以内に済ますこと。(2018年までは5分間)

    プレーが速い組をパスさせること。コースは共有するもので、バンカーを均したり、ディボット跡やボールマークは直すこと。練習スイングで芝生を傷つけず、ボールを取り出すときにホールを破損しないことというコース保護。

    エチケットを要約すれば、原稿用紙1枚で十分な分量しかないのです。これ以外のマナーは、応用としての工夫か、適当な伝聞が残ってしまった罰のようなものです。

    ゴルフは、一人では出来ません。コースをたくさんの人たちと一緒に使うことで成り立っています。だから、目の前の同伴者への心配りだけではなく、見えないゴルファーへの心配りも必要になります。全く知らない同士でも、ゴルファーであればシンパシーを感じることができるのは、ゴルフというゲームの成り立ちが影響しているのです。

    エチケットなんて知らないと無視してみても、結果として、エチケットで保護されているゴルフコースでプレーするしかない事実は不動です。また、互いの心配りで安全に、スムーズにゴルフが出来るという現実も無視できません。ゴルフをする資格がエチケットだという仕組みは、実に見事なものだったです。礼儀と行儀は、親しき仲だからこそ、威力を発揮したからです。

    さて、2019年以降、エチケット無きゴルフは、どうなっているのでしょうか?

    エチケットは永遠なり

    ゴルフ規則をちゃんと読んでみれば、一目瞭然でわかります。

    規則1「ゲーム、プレーヤーの行動、規則」を読んでみてください。2ページと少ししかありませんが、単純明快にゴルフが書かれています。

    エチケットは、いくつかに分散されて、ゴルフ規則の中で生き続けているのです。最も重要な部分は、規則1.2「プレーヤーの行動基準」です。日本語のプレーヤー版を見ても、たった12行しかありません。

    この規則違反の罰則は委員会が決めることが出来ることになっています。通常であれば、プレーしているコースが委員会で、競技やトーナメントではどれが委員会となるかが明記されています。トーナメントでは、失格という罰則を採用することも何度もありますし、ゴルフコースの場合も、即刻退場や、出入り禁止にするなどの罰則を課すことができます。

    効力としては、エチケットと同様で、実行しやすいという意味では、より強化されたとも言えます。2019年以降のほうが、ゴルフをする資格は厳しくなったという人たちがいるのも理解できるというものです。

    大人の事情で、ここで全文を転載することは出来ませんが、JGAのホームページなら無料で見ることが出来ますので、規則1とその前にある序文は一度読んでおくことを強くオススメします。

    先日、20代の若きゴルファーと規則1の話をしました。
    「難しそうだと思っていましたけど、当たり前のことで、3ラウンドもすれば自然と覚えて、実践していることばかりで拍子抜けしました」
    と笑っていました。

    ネットで何でも検索できる時代になって、若きゴルファーの吸収力には感心させらるシーンが多々あります。エチケットが第一章だった頃が懐かしい、とノスタルジックに語るオールドゴルファーは、先輩からの教えを厳守してきただけで、本質的な部分のゴルフの理解が若いゴルファーに負けてしまうことが、既に起きているような気がします。

    ゴルフ規則の大改革で出来上がった新しいゴルフ規則は、エチケットの呪いを解くように、その精神とハウツーを規則の中に分散させた強烈なものになっているのです。

    例えば、ボール探しの時間は、5分というこれまでの常識をぶっ壊すように3分となりました。現場で測ればわかりますが、3分というのは、さーっと見渡して探したら終わりです。怪しい場所を行ったり来たりしている時間はありません。

    また、規則5.6bでは、打つ順番になったら40秒以内にストロークするべきであると明記されています。素振りも入れて、40秒です。やってみるとわかりますが、ちょっとのんびりしたら、すぐに40秒オーバーです。ちなみに、ストロークプレーの場合、1回目の罰は1打罰。2回目の罰は2打罰、3回目は失格という罰を科することができます。

    ゴルファーを増やすために、ゴルフ規則は甘くなったというのが定説になっていますが、本当は新たに強化された怖い規則が機能しているのです。

    昔のエチケットのほうが良かった、といっても後の祭りです。ゴルファーには、規則を守って、安全に楽しくゴルフをする以外の選択肢はないのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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