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    打打打坐 第62回【ボールとゴルファー感覚】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年6月25日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    ボールって高くない?

    「ゴルフする人が、必死になってボールを探す理由が、やっとわかったんです」
    ゴルフ歴半年。ラウンド2回の若者が、得意げに話していました。

    「上手い人が使うボールって、1個500円とかするじゃないですか。500円落としたら、必死に探すのは当たり前だなぁ、とわかったんです」
    微笑ましい話です。

    「そこにゴルフの神様が出現して、1000円払ったら、なくなったボールを出してあげよう、と言ったら、多くのゴルファーは1000円払うと思うよ」
    と僕は話しました。

    きょとんとしている彼に、金額的なものというよりも、ロストしたら2打分の損になるという価値観が、ボール探しに必死になる理由だと思う、と説明したのです。

    聞いてみると、彼の使用しているボールは、親戚がくれたビニール袋に入った20個ぐらいのロストボールだということでした。2回のラウンドで半分ぐらいに減ったので、ネットでボールを買おうと考えて検索をしたら、ボールが想像以上に高額だったので驚いた、ということで、いい大人が必死になってボール探しに夢中になる謎の答えが出たと思ったそうです。

    「今までの人生で、なくなるかもしれない前提の消耗品で数百円を使うのって、あり得ないですし、1個100円でも、ちょっと嫌だなぁ、と思いますよ」
    彼は、心底驚いて、ゴルフはお金持ちの遊びなのだと、改めて思ったというのです。

    「でも、ゴルフをもうやめようとは思えないんですよね。滅茶苦茶に面白いですし、一緒に始めた仲間もいますから」
    彼がゴルフの虜になりつつあることに、少し安心しました。

    多くの初心者が、ゴルフボールの値段に驚くというのは、あるある話です。しかし、そんなアレコレは、あっという間に、笑える昔話になってしまうのも、あるある話なのです。

    いわゆる一般的な日常生活では、なくなる可能性があるのに数百円のボールを使うという決断はしづらいものだと思います。いわゆる非常識です。世間の非常識が、ゴルフでは常識になってしまうことは、たくさんあります。ゴルファー感覚と呼んでいますが、価値観や判断基準がゴルフの世界の中だけで通じるものに、ごく自然になってしまうのです。

    ゴルファー感覚は、ゴルフの怖いところでもあるので、言い換えればゴルフ中毒だという指摘もあります。

    そんなどこかが麻痺してしまった仲間だけで楽しめるパラダイスが、ゴルフコースであることは間違いなく、ゴルフが底抜けに楽しいという証でもあるのです。

    ボールが一番大事

    「ゴルフ用具で何が一番大事ですか?」
    という問いに対して、本音で答えて良いシーンなら
    「ボールです」
    と答えます。

    全てのストロークで使う唯一のゴルフ道具がボールだからです。

    ゴルフボールは、何気なく使っていますが、とんでもない科学の力の結晶なのです。

    中身は全く同じままで、ディンプルを全て平らにして、普通のボールのようにツルツルの表面にしたとします。そのボールは、ディンプルがあるボールの半分ぐらいしか飛びません。ディンプルがあるから、ゴルフボールは世界中の球技で最長とも言える飛距離を得ているのです。ディンプルはゴルフにおける最大の発明の一つです。

    更に、面白い実験があります。素材や内部構造、カーバーとディンプルまで全く同じボールで、表面の塗装の素材を変えたとします。それだけで、数ヤードですが、飛距離が変わるのです。

    0.01ミリの世界まで探求した科学力で、僕らはゴルフを楽しんでいます。

    ドライバーも科学力を注ぎ込んで開発していますが、ボールに比べたら、限定的で、レベルは落ちます。他のクラブも同様です。クラブは、まだ未完成な分野で、腕前と合致しないとフルに機能しないという面白さがあります。

    そういう意味では、ボールにはゴルファーの腕前が入り込む要素があまりありませんので、面白みに欠けますが…… だからこそ、ボール選びは大事で、致命傷にもなりますし、最強の武器にもなるのです。

    ボールにこだわってこそゴルフ

    ボールなんて、何でも良いというゴルファーはたくさんいます。それはそれとして、悪いことではありません。科学の結晶の最先端で凌ぎ合って作られたボールは、差が小さくなって、どんぐりの背比べでもあるからです。

    飛距離が数ヤード違うだけで、開発という視点や、トッププロレベルでは大変な性能差になりますが、数ヤードの精度でボールを打てるゴルファーなんて、全体の1%もいないので、性能差が隠れて見えないという事情もあります。

    好きなプロが使っているのと同じボールが使いたいという理由でボールを選ぶのもアリです。ツアーボールは、自分のゴルフを掛け値なしに剥き出しにしてくれます。

    クラブと同じメーカーやブランドのボールを使うという選択もアリです。クラブは開発する際に、どのボールを使うかで、最終的なチューニングをします。メーカーやブランドが合っていれば、組み合わせが悪くて結果が出ないという悲劇を未然に防ぐことが出来ます。

    ボールは何でも良いという説を否定しませんでしたが、一つだけ、できれば守ったほうが良いことがあります。同じボールを使うことです。

    ボールが変わると、色々なストロークに良くも悪くも影響します。その中で、ショートゲームにかんしては、ボールの影響が結果に結び付きやすいのです。更に書くと、その影響はプロでも腕前で調整することが出来なかったりするのです。

    有名な話ですが、バックスピンをかけようとしたときに、戻りやすいボールとクラブはマストで、スピンに鈍感なボールとクラブでは、トッププロでもバックスピンをかけるのが無理だったりします。これはボール選びの際に忘れてはいけない逸話です。ときとして、ボールの機能や特徴は、技術という腕前を凌駕するのです。

    ボールをコロコロ変えると、ショートゲームの感覚がいつまでたっても磨かれない可能性があります。つまり、アプローチやパットの上達の障害になってしまうことがあるわけで、それを承知で繰り返すのは大問題です。

    用具のインプレッションで、ボールを扱うメディアが少ないのは、実際にコースでラウンドしながらでなければわからないことが多くあり、手間がかかることと、競技レベルのテスターがラウンドで自分の使用球以外を使うことを嫌がるからです。慣れないボールを使うと、自分の感覚が狂ってしまうことがよくあり、その経験を何度かすると、ボールの試打ラウンドは危険だということになるようです。

    僕も一昔前までは、お断りをしていましたが、今は積極的にやるようにしています。理由は、自分のゴルフに影響が出ないハウツーがわかったからです。

    僕はボールのこだわりが強いゴルファーの一人です。その最大の理由は、お守り効果を知っているからです。信頼できるボールは、お守りとしても機能するのです。自分の使用球以外のボールでプレーすると、ラウンドで2打〜4打はスコアが悪くなるのが普通ですが、逆に考えれば、信用できる高性能の使用球があれば、常に数打はボールのお陰で良くなっていると言えるのです。

    ボールはほとんどの場合、2年ぐらいでモデルチェンジします。後継機種のボールが同じ感触で使えて、機能を発揮するボールとは限りません。大手の有名なボールでも、名称以外は違う新しいボールになった、ということがよくあるのです。

    ロストになりそうなボールを大人が必死になって探しているシーンは、ゴルフをしない人にとって、不思議に映るようです。その半分ぐらいの意気込みで、お守りになる自分にとって優秀なボールを見つけてみましょうと、提案したいと思います。

    ボールにこだわってみると、見えなかった世界が見えて来るはずです。個人的には、ボールの世界は、かなり面白いゴルフの一面なので、こだわらないのは、もったいないと考えてしまうのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。

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