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    打打打坐 第73回【キャリアベストとアイス】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年9月10日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    キャリアベストは遙か昔

    久しぶりに、ワクワクとドキドキで一杯の状態で、18番ホールのティーに立っていました。

    このホールをパーなら67。バーディーなら66というスコアになるからです。僕のキャリアベストスコアは、67なので、更新するチャンスがやってきました。56歳という年齢と加齢で不自由になっていく身体を考えると、『ラストチャンスかもしれない』と考えていました……

    67でプレーしたのは、24歳の夏でした。それまでのベストスコアは70で、一気に60台に突入するのりしろしかない急上昇中の若きゴルファーだったのです。その日は、いわゆるゾーンに入っていて、何をしても上手くいくという夢のようなラウンドでした。

    何と言っても、最終ホールを迎えたときには6アンダーだったのです。つまり、パーでも66でした。最終ホールは、両サイドがOBなのに、とても狭くて長いホールでした。第1打目は奇妙なキックをしてOBでしたが、気を取り直してプレーしてボギーで上がって5アンダーというラウンドでした。

    一昔前ぐらいの感じの鮮明な記憶なのに、32年前の出来事です。ベストスコアを更新して、ワンランク上のゴルフが出来るようになりました。アンダーのゴルフに気負いがなくなって、調子が良くて、得意なコースであればアンダーでプレーして当たり前みたいな雰囲気になったのです。

    現代に話を戻しましょう。
    56歳でも挑戦できるからゴルフは面白い、と余裕を持って18番をプレーしたつもりでしたが、呆気なくダブルボギーにしてしまいました。

    それでも、69というスコアは素晴らしいものですが、年に何度か、調子が良いか、運が良ければ出るスコアで、少しだけガッカリしました。

    しかし、1番ホールのティーに立ったときから『今日のご褒美は……』と自らを奮い立たせていた楽しみに気持ちは移って、ウキウキした気分になりました。ご褒美に相応しいゴルフだったと、胸を張るのには十分すぎる内容だったからです。

    ベストスコアはご褒美みたいなもの

    キャリアベストという言葉が一般的になったのは、一昔前でした。それまでは、普通にベストスコアという言葉が使われていました。

    グランドスラムが、諸々の経緯で、一年間で全てのメジャーを獲得することの意味に限定されて、生涯で全てのメジャーに勝つことをキャリアグランドスラムと呼ぶようになった時期の直後から、キャリアベストという言葉も広がったので、あまり深い意味はない流行りのようなものだと考えていました。

    しかし、言葉の意味を使い分けているケースがあることに気が付いたのです。

    「本当の意味のベストスコアは、5年以内の数字で、それ以前のものはキャリアベストですよね?」

    その違いを初めて知ったときに、残酷で、冷たいものを感じて、少し怖くなりました。


    確かに、僕も若い頃に、同じようなことを感じていましたが、詳細に聞けば聞くほど、やるせない気分になったのです。

    「何十年も前のベストスコアにすがりついて、いつまでも上手いつもりでいる老人にはイラつきますよね」

    「こういう人たちを黙らすために、キャリアベストとベストスコアはハッキリさせたほうが良いんです」


    僕自身も、そういう一人なんだろうなぁ、と感じていました。当時、僕は重症化したドライバーイップスとアプローチイップスに悩まされて、ベストスコアどころではないゴルフをしていたから余計に辛かったのです。とはいえ、密かに励みにもなりました。キャリアベストに挑戦すれば、衰えても同じ人間なのだから、それなりのベストスコアは出るはずだ、と自分に鞭を打ちました。

    思ったより時間はかかりましたが、2021年の夏の時点で、キャリアベストは67。5年以内のベストスコアは68だと言えるようになりました。

    ゴルファーはマウントをとりたがる習性がありますので、こだわりは理解できますが、キャリアベストも、ベストスコアも、僕は数字としては軽めの指針に過ぎないと考えています。瞬間最大風速のようなもので、実力の一端ではありますが、自慢して競うような数字ではないと思うのです。

    僕自身、良いスコアでプレーすれば楽しいし、嬉しいですけれど、いずれのベストもご褒美のようなものなのです。ご褒美をもらったことを自慢するのは自由ですが、どれだけの奉仕や良い行いの報いなのかという過程があっての自慢であって欲しいと強く思います。

    ゴルフの神様は意地悪なので、悪行三昧で、ゴルファーとしての資格に欠けるような人にも、この手のご褒美を授けることがあります。

    ご褒美をいただけたことに納得できるゴルファーと、そうではない人に、明確に分かれるのです。これが見えて来ると、ゴルフの面白さと奥深さが変わってきます。

    アイスを味わいながら想う

    前の週のゴルフ帰りに購入して、遠慮のない濃厚な甘さに感動すらした棒アイスを朝から意識していました。それは、自分へのご褒美です。

    「あれ? アイスは、ゴルフ帰りに必ず食べていますよね?」

    と事情に詳しい人は笑うかもしれません。その通りです。まず、帰り道のアイスは、あまたをシャキッとさせて、眠気を覚ましてくれます。そして、ゴルフは肩の上のゲームで、熟練のゴルファーほど脳を酷使していますので、甘いもので足りない糖分の補給をすることはマストなのです。だから、ゴルフの帰り道のアイスはルーチンでもあるわけで、本当にオススメなのです。

    アイスを堪能した後、高速道路を走りながら考えました。

    『ゴルフができることが、そもそもご褒美のようなものだ」

    苦手なホールの第一打目で、会心のドライバーショットを打てたのも、大ピンチのホールで7ヤードの難しいラインのパーパットが入ったのも…… 全てをご褒美だと考えれば、感謝するだけの謙虚な気持ちになります。

    ゴルフが終わって、その日の反省をして、またゴルフがしたくなる気持ちを意識しながら、その日のあれやこれやに感謝する気持ちに包まれると『整った状態』になります。整った状態というのは、無の境地とか、宇宙と繋がった感覚とか、色々と言われますが、満ち足りて、リラックスして心地が良くなった状態だと考えるのが一番近いようです。

    ゴルフが出来て幸せだぁ、ということは、常に感じていますが、満足したラウンドがあって、ご褒美も堪能して、よりリアルに感じる至福の瞬間がその最高潮なのだと思います。

    スコアが悪くとも、大満足できるラウンドはありますし、逆に、スコアが良いのに、猛省することばかりの残念なラウンドもあります。

    「ゴルフと仕事だけは、どれだけやっても飽きねえよな」

    大好きだった先輩が、ゴルフの帰り道に言ったセリフです。猛烈なビジネスマンで、晩年は複数の企業を経営していましたが、ゴルフはお世辞にも上手くはなかった人でした。僕は、仕事人間ではないので、仕事について飽きるという範囲について語る資格がないことは承知の上、名言だと胸に刻み込みました。

    次のゴルフの帰り道もアイスを食しながら、僕はその日のゴルフを振り返るのだと思います。そして、いつものように、早く次のゴルフの日にならないかなぁ、とワクワクするのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

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