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    打打打坐 第76回【秋は美味しいゴルフを】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年10月1日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    全米オープンの季節

    ゴルフコースから見える田んぼの稲刈りが進んで、新米の文字を街のあちこちで見かけるようになりました。暦も10月になりましたので、季節は秋になったのです。

    スポーツの秋をゴルフで! というキャンペーンもありますし、こういう機会に読むゴルフを盛り上げる読書の秋を推進したいという個人的な想いもありますが…… 結局、多くの人が共感するのは食欲の秋です。新米だけではなく、秋には美味しいものが次々に出てきます。

    西暦2000年前後の数年間、僕は自分が主催する秋のゴルフコンペを『全米オープン』と銘打って開催していました。賞品は全て『お米関係』だから、全米オープンなのです。

    その昔、コンペの賞品を消え物(食べたらなくなってしまう食品のようなもの)にするのは御法度いう企業ルールもありましたが、僕は家で待っている家族も喜んでもらえる美味しい賞品は、ゴルフコンペの賞品として相応しいと考えていたのです。

    全米オープンは大好評で、毎年、夏には「開催日は?」と問い合わせがあるほどでした。今では、当時の参加者が主催するいくつかのコンペへ、そのDNAが引き継がれています。

    先日、初めてコンペの幹事を任された若者に相談をされたので、自分なりの賞品のラインアップの考え方などを伝授しました。コンペの幹事も極めればゴルフの究極の楽しみ方の一つになります。

    お菓子なども含めた食べ物を賞品にする秋のゴルフコンペは、食欲の秋と絡めることもできるので、オススメできます。開催コースの周囲の名物などがあれば、より面白くなります。

    名幹事というレベルになると、そのコンペに出なければ手に入りにくいスペシャルな賞品を用意できるかが勝負になります。あれが欲しいから参加するというゴルファーがいるのは、幹事冥利に尽きます。

    かく言う僕も、いくつかそのようなキラーコンテンツとなる賞品を持っていますが、自慢するのは無粋なので、詳細はコンペに参加した人だけのお楽しみとさせていただきます。

    見えていない景色と味わう楽しみ

    競技ゴルフに夢中になっている頃にプレーしたコースを、久しぶりにプレーして、何度も驚くことがありました。

    「この池は、昔はなかったよね?」
    「このバンカーは記憶にないなぁ」
    「ここってOBだったの?」

    ほとんどの場合、僕の記憶が間違っていて、昔から変わらないレイアウトだったりするのがオチでした。

    何十回もそういうことがあって、やっとわかったのですが、競技ゴルファーだった頃は、自分のボールが行きそうな所だけしか見ていないから覚えていないのです。例えば、よくあるティーの目の前にある池とか、ボール止めの機能で変な位置にあるバンカーとか、自分の描いたルートから離れている場所は記憶されていないのです。

    ある先輩が、やっとメンバーになったプライベートコースに招待してくれたときに、その話をしました。

    「それはもったいない。日本のコースの味わいは、盆栽や日本庭園の『わびさび』だからね」

    と話しながら、その先輩は、そのホールのティーの脇にある松の枝振りが素晴らしいという説明をしてくれました。

    フェアウェイの真ん中に、大きな盆栽のような松があるコースが高く評価された時代が、この国にはありました。もちろん、ゴルフの楽しみ方はエチケットを守っている限り自由ですから、それを否定はしません。個人的には、ゴルフ以外の趣味をゴルフに持ち込んで価値観を押しつけるのは邪道だと思うので、そういう鑑賞眼を鍛える気にはなれませんでした。

    別の尊敬している先輩とも同じ話をしました。

    「面白いねぇ。集中するということは、そういう部分があるのかもしれないね。ただ、損をしているような気もするな。ゴルフコースは、料理みたいなものだと考えると、かなり面白くなるんだよ」

    四半世紀前、僕の中で、ゴルフの楽しみ方の新しい扉が開いた瞬間でした……

    その先輩とは、その後も何十回も一緒にラウンドしました。ゴルフコースに向いている用地に作られたコースは、あまり調理しなくとも美味しくいただける新鮮な食材のようなものです。逆に、ほとんどが当てはまる向いていない用地に作られたコースは、料理人の腕の見せ所です。調理をしなければ食べることが出来ない食材がたくさんあるように、美味しくいただけるように開発されてきた調理法は人類の文化の歴史でもあります。

    和食だけの基準で、フレンチを語ることはできませんし、中華料理の食材の中には、他の国の料理では使えないものも一杯あります。でも、料理として出されれば、美味しいことを期待して誰もが食べるという点は世界共通です。

    この話の詳細を書き出すと、本1冊分でも足りませんから、この辺りまでにしておきますが、ゴルフをコースは味わうように楽しむことで、たくさんのことがわかりますし、底なしに面白くもなるのです。

    人は濃い味を求める

    友人の料理人が呟きました。

    「どんなに努力しても、結局、コンビニには勝てない」

    数での勝負の話かと思いましたが、よくよく聞くと、料理の味の話だったのです。

    人間の欲望にはブレーキが効きません。美味しいものを求めて、足し算をするのは、二流の料理人でも可能なのだそうです。美味しさを足していけば、間違いなく初期段階では美味しくなっていくそうです。

    最高に美味しい数値を超えた瞬間、それは急激に魅力を失って、不味いものに変わってしまうのも事実なので、料理人は引き算も使うというわけです。最高のギリギリを目指すバランスが料理人のセンスであり、腕前でもあるらしいのですが……

    コンビニは、そういう部分で、圧倒的なデータと検証で、料理人の必死の蓄積を蹴散らす、と彼は嘆いたのです。

    「相当の美食家でも、目隠しテストをされたら、コンビニの料理を最優秀だと評価するものが、一つ二つじゃないんだよ」

    素材が自然のものであれば、個体差がありますし、気候などの影響もあって、微調整をしながら調理をして、味を決めていくわけですが、頂点を越えれば台無しになることを知っているので、素材のコンディションを加味して、効きすぎて頂点になる一歩手前が正しいというのが先人の料理人たちが極めてきたバランスだったらしいのです。しかし、コンビニの料理は、頂点を狙って攻めているそうです。

    これは、ゴルフを味わって楽しんでいるゴルファーにも当てはまります。例えば、距離が長いホールが面白いと、どんどん長くした結果、やり過ぎて面白さを失ったホールは世界中にあります。少し前から、逆に距離を短くし直す流れが、ゴルフコースの世界では大きくなってきています。

    人間の欲望にブレーキがないということは、ゴルフのシーンでも見たり、感じたりすることが、たくさんあります。ゴルフコースでわかりやすいのは、グリーンのメンテナンスです。速くし過ぎて、ゴルフの面白みを阻害しているようなグリーンがあっても、遅くする動きになっていません。本末転倒で、速さに耐えるようにグリーンを改造するコースすら出現しています。ゴルファーの欲望も、ノーブレーキなのです。

    どこまで激辛の料理が食べられるか? という悪趣味な戦いが、メディアを賑わしたりもします。レベルが低いほど、極端なベクトルに振れるという例ですが、人は濃い味を求めるという料理人の苦悩にリンクすると思います。

    ゴルフコースの料理人は、設計家だけではなく、実際に施工した業者やスタッフも含まれますし、毎日のメンテナンスをするスタッフも含まれます。ゴルファーは、ただ食べて、お腹を満たせばOKだという人が大半かもしれませんが、味がわかる人もたくさんいます。

    食欲の秋だからこそ、ゴルフコースを味わって欲しいと思います。
    それを意識して楽しむと、ゴルフは更に面白くなります。
    自分が和食好きなのか、洋食が良いのか、中華ファンなのか。
    肉が好きなのか、牛か、豚か、鶏か。
    魚は、刺身か、煮物か、焼き物か。
    どの季節の旬のものが好きか。

    味わうほどに、自分のゴルフが見えて来るのです。
    美食家になる必要はありません。大食いでなくとも大丈夫です。

    最終的には、美味しいと感じたゴルフコースに通うようになるのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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