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    木村和久のおやじゴルフニュース「ピン差しパター打ちはなぜ浸透したのか?」

    ゴルフはそこそこそのキャリアを積んでいくと、マンネリや金欠、はたまた体の痛みなどさまざまな問題を抱えながら続けてゆくこととなります。そのとき感じているのは、ゴルフ道を極めようとガムシャラに目指していた目標を失う虚無感。ここらでひと息入れてみませんか。コラムニスト木村和久が、エンジョイゴルフの本質と核心、そしてこれからどうやってゴルフ生活を楽しんでいけばいいのかを提案し、マンガ家・かざま鋭二のイラストと共に旬なゴルフ情報をお届けします。

    配信日時:2021年11月2日 03時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
    • イラスト・かざま鋭二
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    2019年のルール改正で起きた悲喜こもごも

    ■ピン刺しパター打ちは利益がいっぱい■

    ゴルフをやっている人は、真面目な人が多いですなあ。それが、この連載をこれまでに3回やってみての感想です。

    原英莉花が秘書だったら【写真】

    連載2回目に掲載した「ゴルフはどこまでサボれるか」という企画で「最大スコアの採用」の提案をしました。けど賛同するリアクションは少ないです。これは正式ルールですよ、便利ですよといっても、聞く耳を持ってくれないのは何故でしょうか?

    というわけで今回の本題、2019年のR&AとUSGAのルール改正で起きた、悲喜こもごもの話をしたいと思います。

    2019年のルール改正で、さまざまな事が改正されました。その中でも非常に分かりやすい改正は、「パターはピンを差したまま打てる」ようになったこと。これはピンを差してパターを打ったほうが楽だし、スピーディだよといいたいのです。結果、改正が始まってから、皆さんは堰を切ったように、ピン差しパター打ちを始め、あっという間に多数派となりました。

    ごくたまにピンを抜いて打つ人を見かけますが、「ピンを抜くんだから、カップに入れてよ」みたいな言葉が投げかけられ、明らかに邪魔者扱いをされています。2021年の現在、アマチュアのゴルフでは、ほぼ100%ピンを差してパットをしているのではないでしょうか。これが現状です。

    ルール改正前は、ピンを差して打つことに相当数の人が抵抗を感じるだろう。そう予測したのですが、結果は逆でした。なんで抵抗を感じると思ったか? それは過去に私が、ピンを差してパターを打ったことがあったからです。

    平成時代の中頃でした。出版関係の先輩と軽井沢の晴山ゴルフ場に何度か遊びに行き、そこでピン差しパター打ちを体験しました。平成時代にピンを抜かずにパターを打てるゴルフ場(あくまでグリーン上での話です)は、ほとんどありません。私の知る限りでは、軽井沢の晴山ゴルフ場が唯一といってもいいぐらいの存在でした。ここは距離が短く、リゾート感覚のカップルが来る確率が高いので、ローカルルールを使い、ピン差しパター打ちが出来たのです。

    先輩に「ここはピンを差したままパター打っていいんだよ」といわれても「そんな横着なゴルフはしたくありません」と心の中で思っていました。けど先輩の手前、ピンを差したまま打つしかなく、しぶしぶ従ったものです。

    実際ピンを差したままパターを打つと、相当な違和感があり、「ピンに当たってボールが弾かれたらどうすんだよ〜」とマジで憤慨しました。全然面白くないじゃん、そんな感想です。けど2019年以降、ピンを差したまま打っていいルールに変わりました。最初はピンを差したり、抜いたりやっていたのですが、誰もがピンを差したまま打つことに。

    それが、もの凄く早いスピードで浸透したのです。これは物凄い変化ですよ。徳川から明治政府へ、鬼畜米英からウェルカムマッカサーぐらいの大転換が、わずか3ヵ月ぐらいの間に実行されたのですから。凄いショックでした。

    なんでピン差しパター打ちが、あっという間に浸透したかというと、利益を得る人が多かったからです。どういうことか、順を追って説明しましょう。

    ?ゴルフ場にとってはプラス。
    つまりゴルフ場はキャディさんの労働が減って、非常に助かるのです。キャディさんは、お客さんのクラブを抱えて、ボールを拭いて、ラインを読むのに精一杯。さらにピンを抜いて、戻すなんてね。しかも年配のキャディさんが多いですから。おばちゃんキャディは、余分な作業がひとつ減って、凄く楽になったと思います。さらにピンを抜かないことにより、プレー時間の短縮も出来る。まさに一石二鳥でした。だからゴルフ場では、神風が吹いたようなものです。セルフプレーでも、ハーフで平均10分くらいは、プレー時間が短縮できたんじゃないですか。

    ?プロもやっている。
    さらにピン差しパター打ちに拍車のかけたのが、プロのトーナメントです。テレビで試合を見ていると、多くの選手がピンを差したまま打っている。もちろんここぞというパットは、ピンを抜いてますが。それでも効果絶大でした。プロもやっているのだから、アマチュアならなおさらじゃんと思って、ピン差しパター打ちをやり始めたのです。

    ?抵抗勢力は抵抗しづらい雰囲気に。
    4人でラウンドして、たったひとりだけピンを抜くのは、相当面倒臭い行為です。パーティ内でみんながピンを差して打つのですから、従わざる終えません。ひとりだけ意地を通して、ピンを抜いてのパター打ちは、なかなか難しいとなったのです。

    ?もはやピン抜きは面倒臭い行為
    そして一旦、ピンを抜かないで打つことの便利さを覚えたら、もうピン抜きなんて、面倒くさくてやってられません。強く打ってしまっても、ピンに当たり「ガシャン」とカップに入ってしまう。そんなラッキーパターなんかがあれば、やっぱりピン差しが一番となるわけです。そうやって見事、全世界でピンを抜かずにパターを打つことが浸透しました。あっぱれとしかいいようがありません。
    イラスト・かざま鋭二

    イラスト・かざま鋭二

    ■ビギナーを助ける「最大スコアの採用」■

    一方、同じ時期に制定された「最大スコアの採用」は、ほとんど浸透していません。これはアマチュアのスコア格差を防ぐ救済措置です。1ホールの最大スコアを、「パーの倍」(パー3なら6、パー4は8)など、自由に決めていいルールです。

    ゴルフ場のスコアカードに、「スルーザグリーン、オール6インチリプレースでプレーして下さい」と、ローカルルールが書いてあったのを見たことがあります。同様に「最大スコアを設定してプレーできます」と書くのも可能ですが、そんなのは見たことがありません。

    2019年のR&Aのルール改正は、アマチュアのビギナー救済、そしてプレー時間の短縮がテーマでした。だから「最大スコアの採用」は、大叩きして進行を遅らせることを防ぐ、画期的なシステムですがほとんど理解されていません。

    ボール探しは5分から3分に変わり、スピーディなプレーとなりました。ティショットでOBを打ったとしても、暫定球を打たないで、前進4打を選択できることも正式に決まりました。このルールはアマチュアクラブの月例競技などでも、採用して構わないんですよ。でも実際の競技では、OBらしきボールを打ったら、暫定球を打たせることが多いですけど。

    日本のアマチュアゴルフ界では、このようにR&Aが決めたルールを吟味し、自分らに都合のよいルールを採用しているのが現状です。その中に、都合の最大ルールの採用は入ってないのです。

    ゴルフって「ありのままに打つべきもの」、「スコアをいじるのは人間として恥ずべき行為」、「どこかでゴルフの神様が見ているスポーツ」といわれています。そこで、突如叩き出したら「そこは最大8でいいから」といわれても、ピンと来ないのです。つまりスコア誤記、卑怯な方法、小ずるいプレーに見えてしまうのです。

    けど「スコアコントロール」という考えでいうと、至極まっとうなルールです。ゴルフのハンデキャップの計算方法だって、一番叩いたスコアをカットするでしょ。スキーのジャンプ競技なども、一番悪い点数をカットします。F1レースの年間ポイントも1990年までは有効ポイント制度(年間レースの成績の悪いほう2レースを切り捨て)を採用していましたからね。

    ゴルフでは悪いスコアを切り捨てるわけにはいかないので、最大スコアで救済し、プレー時間の短縮もする。しかも、ビギナーが腐らずに、ゴルフを続けられる。なかなか画期的なルールだと思うんですけどね。

    今後、最大スコアの採用を浸透させるのなら、ゴルフ場でのキャディの教育が重要でしょう。たまに女性が混じったコンペなどでは、女性が叩いたり、窪みのあるところで困っていると「当クラブは6インチリプレースを推奨してますので……」といって、救ってくれるキャディさんがいます。これからは女性がバンカーなどで叩き出したら「最大スコアを採用できますので……」といって、 助け船を出してあげないと。

    こういうルールに対して、無関心なゴルフ業界やアマチュアゴルファーは、本当にビギナーが末永く、楽しくゴルフをして頂きたいと願っているのか? 甚だ疑問です。本当は下手なやつは目障りだから来るなとかね、そう思ってるんじゃないか。物凄い閉鎖性を感じる今日この頃です。
    木村和久
    きむら・かずひさ/1959年生まれ、宮城県出身。世の中のトレンドを追求し、ゴルフや恋愛に関するコラムを多数執筆するほか、マンガ原作も手がける。隔週刊ゴルフ誌「ALBA」ほか、連載多数。

    かざま鋭二
    かざま・えいじ/1947年生まれ、東京都出身。多くのゴルフマンガを執筆。代表作「風の大地」(原作・坂田信弘)では小学館漫画賞を受賞。現在、エイジシュートに挑戦中。
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