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    打打打坐 第81回【エチケットリーダーなき時代】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年11月5日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    急いでも同じという発想

    短いパー4。
    ドライバーがバカ飛びすれば、グリーンに乗ってしまうかもしれない、と考えるゴルファーはたくさんいます。実際に、そのホールで、僕もワンオンしたことがあります。つまり、そんなに飛ばなくとも、条件が合えば届いてしまうホールなのです。

    そのホールでは、前に誰もいなければ、ドライバーで打つこともありますが、前の組がいるときは、レイアップすることにしています。
    理由は二つです。
    スコアの平均を出してみると、刻んだほうが圧倒的にスコアが良いという現実と、前の組がグリーンを降りるまで待っている時間の過ごし方がストレスに感じるマイナスがあるからです。

    そのホールで、先日、こんなセリフを聞きました。
    「急いで行っても、どうせ次のホールも詰まっているから、ゆっくり行こうぜ」

    30歳前後の4人組。4人共に、ウェアは最新で、ビシッと決まっていました。一昔前なら、若いがゴルフに力を入れている中上級者かもしれない、と考えますが、最近は素振りを見ないと腕前は判明しません。スタートは、その時点で時間よりも20分以上遅れていました。僕らの組の後ろの組も、その後ろの組も、カートを並べてそのホールのスタートを見守っていました。

    彼らの素振りを見て、ある意味で納得しました。しっかりとスイングになっているのは1人だけで、残りの3人は、当てるのがやっとというふうに見えました。腕の振りに夢中で、下半身はお留守だったからです。

    グリーンが空いて、4人が順番に打ちました。一番ちゃんとしていた若者は引っ掛けて、50ヤード先にある防球ネットに。残りの3人は、全員、チョロなどで50ヤードも飛びませんでした。

    「今日は、みんなおかしいな」
    先程、話していた若者が再び大きな声で言いました。待っている僕らへ伝えようとしたのだと思います。ちなみに、リーダー的に振る舞っていたその若者は、4人の中で最も酷い初心者スイングでした。

    ゴルフは、本当に残酷で、怖いゲームです。

    1000回ぐらい打てば、奇跡が起きてグリーンまで行くボールが出たかもしれません。だから、前の組がグリーンを降りるまでは打たないという判断を、全否定はしません。せっかくのゴルフですから、一発の快感を無駄にしたくない気持ちは理解できるからです。

    ただし、
    「急いで行っても、どうせ次のホールも詰まっているから、ゆっくり行こうぜ」
    というセリフは、浅はかで、自己中心的な発想を露呈しているだけで、アウトです。

    満員御礼で、コース内が渋滞していても、普通にプレーファーストでプレーするのが正解です。

    レジなどの順番待ちで並んでいるときに、前について、一歩ずつ進んでも、結局同じだからと、立ち止まっている人と同じ発想です。こういう人は、単に迷惑なだけです。現在であれば、ソーシャルディスタンスをとって、前について進むだけです。そんなときに、マイペースを持ち出すのは、どう考えても無理があります。

    後ろの組の視線が気になったとしたら、必要なのは幼稚な言い訳ではなく、素直に事情を話せば良いのです。
    「当たったら、届いてしまいそうなので、待たせてください」
    ペコッと会釈して、話せば、厳しかった視線は、優しいものに変わります。飛ばない人や、刻む人が、先に打ったりする工夫とセットなら、完璧です。

    エチケットリーダー制度

    20世紀末まで、日本のゴルフは原則としてキャディ付きでした。今のようなセルフプレーをしたことがない人のほうが多数派だったのです。

    21世紀になって、急速に乗用カートを採用して、セルフプレーができるゴルフコースが増えていきます。この時期に、日本中で流行したのはエチケットリーダー制度です。同じ組の中の一人が、エチケットリーダーとして、その日一日は、率先して、進行に注意して、コースを保護して、安全にプレーするようにするのが、エチケットリーダー制度でした。

    その組で最も上手いハンディ頭(がしら)か、年長の人が指名されるのが奨励されましたが、徐々に、最も目下の者が押しつけられたりするようになって、機能しなくなったことで、約10年前をピークに廃れてしまいました。

    キャディー付きが当たり前だった頃は、キャディーさんがエチケットリーダーでした。前の組と離れてしまえば、前に追い着くまで、叱咤激励して客であるゴルファーを急がせましたし、それぞれのゴルファーの飛距離を把握して、打ってください、と、さり気なく許可を出したりもしていました。そういうゴルファーさばきが上手いキャディさんが優秀とされていました。ルールなども、キャディさんにおんぶに抱っこで、覚えなくとも、どうにかなっていたのです。

    今でも、高級なコースでは、セルフプレーを選択できず、キャディー付きのプレーのみというところが多く、そこでプレーしているゴルファーは、昔と変わらないと言われています。

    エチケットリーダーなんて、本来は不必要なのです。ゴルフは、自らが審判ということを特徴とするゲームだからです。個々のゴルファーが、ほんの少しの知識と意識を持って、実行できれば、コース上での問題は起きません。

    速度か、安全か

    エチケットのゴルフ談義で盛り上がるテーマの1つに、どのエチケットが優先されるべきか? というものがあります。

    前の組にボールを打ち込むのは、危険な行為として、ゴルフでは御法度です。何度もやるケースは、出入り禁止という処置も下されます。

    ゴルフボールは、小さくて固く、重さもあるので、勢い良く飛んできたものに当たると大怪我をすることもあります。目に当たって、視力を失ってしまう事故が、重大な事故として有名です。

    いわゆるエチケットの中で、最優先すべきは、安全だというのがセオリーでした。
    一瞬の油断で、一生を左右するような事故を起こしてはならない、という考え方です。

    その次に優先されるべきは、進行です。渋滞するコースは、多くのゴルファーの時間を奪うからです。

    渋滞には先頭で原因を作った人たちがいます。誰でも、その原因になる可能性はあります。問題は、遅れを取り戻すための速度を上げるテクニックと、実行力です。ハーフ2時間でプレーしているのだから、急ぐ必要はない、と開き直る人がいますが、ゴルフでは、前の組についていくペースが最低限ですし、後ろの組を待たせるのも進行の妨げになり、渋滞の先頭になる可能性があるのです。何時間でプレーしているかは目安の1つに過ぎないのです。

    エチケットのことを書くと、若いゴルファーがゴルフは面倒臭いからやめる、となってしまう可能性があるので、遠慮するようにと注意されることがあります。

    若いゴルファーのゴルフへの情熱を馬鹿にしてはいけません。彼らはネットで検索して調べた上で、納得したものや価値を理解したものは、ガンガン吸収します。そして、実行します。成長力が凄いのです。

    ゴルフ歴が長いだけのオールドゴルファーたちは、若く吸収力がある時期に、キャディーさん任せでゴルフをしていたので、意外にエチケットのことを知りません。僕に、若者をダシにして注意をしてくる方々は、そういう事情があって、今更、恥をかきたくないようです。

    ゴルフ界のエチケットリーダーになりたくて、偉そうに書いていると誤解する人もいます。何度も書きますが、ゴルフは自らが審判です。エチケットリーダーなんていらないのです。

    エチケットリーダーなき時代は、暗黒の恐怖ではなく、光り輝く素晴らしいものになっても、何ら不思議はありません。エチケットリーダーなき時代に胸を張れるかどうかは、今、このときに、ゴルフをしているゴルファー次第なのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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