被害総額40億円超“ゴルフスタジアム被害者たちの今” 全国各地で続くひとりぼっちの戦い
被害総額40億円超“ゴルフスタジアム被害者たちの今” 全国各地で続くひとりぼっちの戦い
配信日時:2022年10月25日 04時00分
「このまま引き下がるわけにはいかない」。全国に散らばるゴルフスタジアム(以下GS)事件の被害者たちが、事件発覚から5年以上が経った今も、孤高の戦いを続けている。判決が出た事件もあれば、上訴の手続きが行われた事件もある大型集団訴訟の現場を追った。
「みんなの名コースガイド」うまくなってこんなコースを回りたい
大都会・新宿の朝。駅から吐き出されたビジネスパーソンが足早に職場を目指し、オフィスビルへと吸い込まれていく。かつてはツアープロとして戦い、今はレッスンを本業とする原子由美子は、開業間際の午前9時半すぎ、新宿区内にあるオフィスビルの真正面に立った。
そのビルには、原子が今、法廷闘争を繰り広げているリース会社・ビジネスパートナーが入居している。ビジネスパートナーは大阪高裁で「三割敗訴」の判決を受けたばかり。
■被害者1000人以上の巨額詐欺事件
この事件を簡単に振り返っておこう。ゴルフ界に衝撃が走ったのは、2017年の春だった。被害総額40億円超、被害者1000人以上という巨額詐欺事件の全貌が明らかになったからだ。
GSの営業担当者がレッスンプロや工房、練習場にHP作成を持ちかけ、クレジットやリース料の支払いは、毎月同額の広告料を送金することで実質無料になるとの条件を提示。与信の際に虚偽の申告をさせ、信販会社やリース会社と契約させたが、広告料の送金が2017年2月下旬にストップ。レッスンプロたちにはローンやリース料の支払いだけが重くのしかかった。
この件を「ホームページを『土地と建物』、広告収入を『賃料』とすれば、シェアハウス『かぼちゃの馬車』の『サブリース』と酷似している」と指摘する声は多い。「かぼちゃの馬車」におけるスルガ銀行の役割を演じたのが、大手信販会社やリース会社ということになる。
集団提訴が開始されたのは、2017年5月26日。まずジャックス、オリコ、ビジネスパートナーを相手取り訴訟を起こすと、3日後の29日にクレディセゾン、東京センチュリーを提訴。さらに2カ月余り経って三井住友トラストーパナソニックファイナンス(のちに和解)、10月18日にセディナを提訴していった。以降も順次提訴し、2018年11月13日までに信販・リース7社に対して被害者625名の提訴が完了した。
提訴と並行して、被害者の会は弁護団と相談しながら株式会社ゴルフスタジアムへの破産申し立てを行い、2019年3月26日の最終回まで5回に渡る債権者集会で堀新社長らを追及。国会議員への働きかけも行っている。
各信販会社やリース事業協会に抗議を行ったほか、経産省、クレジット協会に出かけて、署名を届けてもいる。しかし新型コロナウイルスの感染拡大とともに、ただでさえ時間のかかる日本の法廷闘争にブレーキがかかる。それでも昨年後半から証人尋問が各訴訟で行われるようになり、信販会社のずさんな与信作業がどんどん明らかになってもいたが、今年始まったジャックスの判決は被害者の会側が3回連続して全面敗訴。しかしすべての訴訟で多数の被害者が高裁への控訴を決めた。
■被害者の抗議活動は続いている
そんな状況下、被害者の会の一部会員は仲間を頼らず、たった一人での抗議行動に出ている。それは冒頭で紹介した原子さんに限らない。香川で同じように抗議行動を行っているUさんはこう語る。
「週2回のペースで、SMBCファイナンスサービス(旧セディナ)の営業所の前に立っています。自分ひとりの力じゃどうにもならないことも分かっていますが、この活動をマスコミの皆さんに取り上げていただき、大きな波を起こしたい」。
だが地元マスコミも当初は興味を示して取材に来たものの、反応は鈍いという。「最初はNHKも取材に来てくれたんですけど『東京で裁判をやっている事件は扱えません』と言われてしまって…。となりに市役所があるんで、そこに来る市民の皆さんは注目してくれるんですが」。
Uさんによれば、原子さんのほかにも、全国で孤高の戦いを継続している被害者はいるという。「宮崎の方からは電話をいただき、抗議行動の仕方などをお話ししました」。単なる情報交換ではなく、日々の厳しい戦いをお互いに励ましあい、次の行動へのエネルギーに変えていることが伝わってきた。
すでにジャックス関連の一審判決は、被害者側の全面敗訴が3回連続しており、すぐに高裁への控訴手続きに入っている。Uさんの場合は事件発覚直前の2月末に重松という営業マンから電話があり、実質無料のHP制作を持ち掛けられた。その後「契約書に勝手に記入され、わずか1週間後にはSMBCファイナンスサービスからの請求書が届いた」という。
SMBCファイナンスサービスの一審判決は9月30日に出され、Uさんを含む16人に残債の3割カットの判決が出たが「偽造行為などの認定がされておらず、判決に100%納得することはできない。控訴して最後まで戦います」とUさんは、不退転の決意をきっぱりと語っている。
もちろんGSの詐欺的手法は言語道断だが、与信を通した信販会社・リース会社の責任も問われる流れが生まれてきた。今後も判決が出る事件が続くが、司法の判断が待たれる。(取材・構成/日本ゴルフジャーナリスト協会会長・小川朗)
「みんなの名コースガイド」うまくなってこんなコースを回りたい
大都会・新宿の朝。駅から吐き出されたビジネスパーソンが足早に職場を目指し、オフィスビルへと吸い込まれていく。かつてはツアープロとして戦い、今はレッスンを本業とする原子由美子は、開業間際の午前9時半すぎ、新宿区内にあるオフィスビルの真正面に立った。
そのビルには、原子が今、法廷闘争を繰り広げているリース会社・ビジネスパートナーが入居している。ビジネスパートナーは大阪高裁で「三割敗訴」の判決を受けたばかり。
■被害者1000人以上の巨額詐欺事件
この事件を簡単に振り返っておこう。ゴルフ界に衝撃が走ったのは、2017年の春だった。被害総額40億円超、被害者1000人以上という巨額詐欺事件の全貌が明らかになったからだ。
GSの営業担当者がレッスンプロや工房、練習場にHP作成を持ちかけ、クレジットやリース料の支払いは、毎月同額の広告料を送金することで実質無料になるとの条件を提示。与信の際に虚偽の申告をさせ、信販会社やリース会社と契約させたが、広告料の送金が2017年2月下旬にストップ。レッスンプロたちにはローンやリース料の支払いだけが重くのしかかった。
この件を「ホームページを『土地と建物』、広告収入を『賃料』とすれば、シェアハウス『かぼちゃの馬車』の『サブリース』と酷似している」と指摘する声は多い。「かぼちゃの馬車」におけるスルガ銀行の役割を演じたのが、大手信販会社やリース会社ということになる。
集団提訴が開始されたのは、2017年5月26日。まずジャックス、オリコ、ビジネスパートナーを相手取り訴訟を起こすと、3日後の29日にクレディセゾン、東京センチュリーを提訴。さらに2カ月余り経って三井住友トラストーパナソニックファイナンス(のちに和解)、10月18日にセディナを提訴していった。以降も順次提訴し、2018年11月13日までに信販・リース7社に対して被害者625名の提訴が完了した。
提訴と並行して、被害者の会は弁護団と相談しながら株式会社ゴルフスタジアムへの破産申し立てを行い、2019年3月26日の最終回まで5回に渡る債権者集会で堀新社長らを追及。国会議員への働きかけも行っている。
各信販会社やリース事業協会に抗議を行ったほか、経産省、クレジット協会に出かけて、署名を届けてもいる。しかし新型コロナウイルスの感染拡大とともに、ただでさえ時間のかかる日本の法廷闘争にブレーキがかかる。それでも昨年後半から証人尋問が各訴訟で行われるようになり、信販会社のずさんな与信作業がどんどん明らかになってもいたが、今年始まったジャックスの判決は被害者の会側が3回連続して全面敗訴。しかしすべての訴訟で多数の被害者が高裁への控訴を決めた。
■被害者の抗議活動は続いている
そんな状況下、被害者の会の一部会員は仲間を頼らず、たった一人での抗議行動に出ている。それは冒頭で紹介した原子さんに限らない。香川で同じように抗議行動を行っているUさんはこう語る。
「週2回のペースで、SMBCファイナンスサービス(旧セディナ)の営業所の前に立っています。自分ひとりの力じゃどうにもならないことも分かっていますが、この活動をマスコミの皆さんに取り上げていただき、大きな波を起こしたい」。
だが地元マスコミも当初は興味を示して取材に来たものの、反応は鈍いという。「最初はNHKも取材に来てくれたんですけど『東京で裁判をやっている事件は扱えません』と言われてしまって…。となりに市役所があるんで、そこに来る市民の皆さんは注目してくれるんですが」。
Uさんによれば、原子さんのほかにも、全国で孤高の戦いを継続している被害者はいるという。「宮崎の方からは電話をいただき、抗議行動の仕方などをお話ししました」。単なる情報交換ではなく、日々の厳しい戦いをお互いに励ましあい、次の行動へのエネルギーに変えていることが伝わってきた。
すでにジャックス関連の一審判決は、被害者側の全面敗訴が3回連続しており、すぐに高裁への控訴手続きに入っている。Uさんの場合は事件発覚直前の2月末に重松という営業マンから電話があり、実質無料のHP制作を持ち掛けられた。その後「契約書に勝手に記入され、わずか1週間後にはSMBCファイナンスサービスからの請求書が届いた」という。
SMBCファイナンスサービスの一審判決は9月30日に出され、Uさんを含む16人に残債の3割カットの判決が出たが「偽造行為などの認定がされておらず、判決に100%納得することはできない。控訴して最後まで戦います」とUさんは、不退転の決意をきっぱりと語っている。
もちろんGSの詐欺的手法は言語道断だが、与信を通した信販会社・リース会社の責任も問われる流れが生まれてきた。今後も判決が出る事件が続くが、司法の判断が待たれる。(取材・構成/日本ゴルフジャーナリスト協会会長・小川朗)
連載
ゴルフの「今」を知る