おやじゴルフニュース「名門コースと名コースの違いって何だろう」
ゴルフはそこそこそのキャリアを積んでいくと、マンネリや金欠、はたまた体の痛みなどさまざまな問題を抱えながら続けてゆくこととなります。そのとき感じているのは、ゴルフ道を極めようとガムシャラに目指していた目標を失う虚無感。ここらでひと息入れてみませんか。コラムニスト木村和久が、エンジョイゴルフの本質と核心、そしてこれからどうやってゴルフ生活を楽しんでいけばいいのかを提案し、マンガ家・とがしやすたかのイラストと共に旬なゴルフ情報をお届けします。
配信日時:2023年6月6日 03時00分
今はネット予約全盛で、平日ならほとんどのコースが予約できます。ではその予約をするとき、何を気にしますか? まず一番大事なのは予算ですよね。仲間内でこれぐらいの料金内で収めるという暗黙の了解事項があります。さらに遠隔地は安くなるけど移動が疲れる、距離と料金は反比例しがちですから、ほどほどの料金で、ほどほどの場所にあるコースを予約するのがベストです。
ほか乗用カートやナビは使えるか? ジャケット着用か? コースが混んでいるか? 飯はまずくないかなどを、ホームページやネットの口コミなどで調べて予約するのが一般的です。
■かつては誰が設計したコースなのかを調べたものだ
そんなこんなで予約成立。めでたしとなったのですが、何かもの凄く大事なことを忘れていませんか? 多分それを気にするのは相当なゴルフ好きですが、でも昔は誰しもが気にしていたことです。それはいったい何でしょう?
答えはコースの設計です。今から20年ぐらい前までは、自分で予約したり、あるいはお呼ばれしたときは、誰が設計して経営母体はどこなんだと調べたものです。今はそういう文化がほとんど消滅してしまったのか? ネット予約サイトのホームページに設計者の名前が書いてあることが少ないです。
これをどう理解したらいいのでしょうか。それだけゴルフの裾野が広がって、誰がどういう理念で作ったかというより、綺麗な緑の芝生でカッコーンと打ってりゃ気持ちいい。そっちに目が向ってしまうのでしょう。
ゴルフをレジャーや散歩ととらえるか、伝統あるスポーツ、文化、社交としてとらえるとでは、だいぶ認識が違ってきます。今回は今一度、ゴルフを文化としてとらえ、設計の妙とは何かを考えたいと思います。そこでまず最初に考えたいのが「名門コース」と「名コース」の違いです。
名門とは由緒あるという意味です。つまり経済界の重鎮たちが真の社交場を目指して名門倶楽部を立ち上げ、社会的地位のあるジェントルマンが厳しい入会審査をクリアしてメンバーになっています。
コースは有名設計家に依頼したチャンピオンコース、それが名門コースです。つまり名門倶楽部はメンバーが一流で、かつコースも一流ということです。
一方名コースは昔は名門コースだったが、事情があってパブリックになったとか、もともとパブリックで運営しているが、設計者が一流とかね。それを名コースといいます。
通常は名門倶楽部でかつ名コースというのがほとんどですが、残り1割ほどは誰でもラウンド出来る名コースとなっています。具体的な例では西武系の軽井沢72ゴルフコースの西コースが、ロバート・トレント・ジョーンズシニアで、南・北・東コースがロバート・トレント・ジョーンズJrの設計です。
毎年「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」(北コース)を開催し、世界アマチュアゴルフチーム選手権(2014年、東コース)も行われました。
西武系はほかにも名コースが結構あって大原・御宿ゴルフコース(千葉県)が、井上誠一晩年の傑作と言われています。17番ミドルホールのドッグレッグには、進行方向に白い10個のバンカーが点在しています。けど通り過ぎて後ろを振り向くと、そのバンカーが消えている。実はバンカーの設計角度の妙なのですが、白いバンカーを波や白い鳥に例え、人生のはかなさを表現しているとか……。もはや旅人や詩人の境地ですよ、井上誠一は!
いずれもパブリックなので、気軽に行ってみてください。たまには名設計家のコースを堪能してみるのも面白いですよ。
■名匠・井上誠一設計コースの特徴は?
それでは名設計家のコースはいったい何が違うのか? 過去に鶴舞CCのメンバーだったのが縁で名匠・井上誠一をいろいろ調べたことがあります。自分なりに理解したことを書いてみます。
井上誠一は非常に緻密な設計をする人でスポンサーにも恵まれ、理想のゴルフ場を数多く作っています。では理想のゴルフ場とは何か? それはまず敷地です。広い敷地に200ヤード以上のドライビングレンジ、バンカー付きのアプローチ場、そしてパター練習場が備わっています。例外もありますけど、概ねそんな感じです。
そしてコースのフェアウェイは広く、狙いどころは明確に設計してあり、手抜きはまったくないです。井上誠一のコースは狭いという人もいますが、それは50年以上経過して、樹木が生い茂り狭くなっているのです。鶴舞CCも20年前はコースレート72程だったのにいつの間にかコースレート73を越えてますからね。
井上誠一は完全主義者で、18ホールには最低この広さが必要という絵を描いており、用地がない場合は設計を断るか、あるいは9ホールにすればとアドバイスしていたとか。
コースの特徴は、グリーン手前のたった1本の木が邪魔とかね。美的センスはなかなかのものです。しかもバンカーの造形が美しく、グリーン手前を二重バンカー(縦にふたつ配置)にして、長い距離のバンカーショットをわざと打たせる設計が嫌らしいです。
マウンドは女性的でふっくらしていると言われています。グリーンはほとんど砲台グリーンで、しかも受けていてオーバーは即死。2グリーンの間もしっかり谷になってて、寄せづらいのが特徴です。
ほかになかなか気づかない部分では、水はけのよさも井上誠一の特徴です。つまり雨が降っても、グリーンの吸水性が高く、べしょべしょにはなりにくいのです。
ラウンドして驚くのは、逆光になるレイアウトはないということ。これは札幌ゴルフ倶楽部(1958年開場)以降、井上誠一はクラブハウスを北に配置して、逆光のレイアウトを極力避けたと言われています。そういえば鶴舞CCに10年ほどいましたが、一度も逆光でラウンドしたことがないですね。その前にいた某ゴルフ場は、逆光があってときどき困りましたけどね。
そうはいっても井上誠一が設計した、TYカントリーの名物18番ホールは、テレビ中継を見るにつけても、いつも西日があたって逆光じゃないか。そう指摘する方もいます。実はあのコース、後でインとアウトを入れ替えているんですね。だから井上誠一の設計当時は、1番から回れば逆光に遭遇しないことになってる。そういう説もあります。
とまあ名コースはある程度、下調べをして知識を得てからラウンドするのが楽しいのです。名門コースは敷居が高く、窮屈で料金も高い。何しろジャケットを着なきゃならない部分もあります。けど年に2~3回は、名コース、名門コースをラウンドして、自らのゴルフ力を高めるのもありです。
ただせっかく名門に行ったのに、歩きラウンドでナビもなしだし、キャディさんの説明が分りづらいこともあります。一方キャディさんがいると、グリーンのピッチマークの処理や、ディボット跡の目土処理をやってくれることが多く、助かることもあります。
■名門はステーキディナーみたいなもの?
ゴルフというのは、コースというハードがあって、それに対しての人間の振る舞いのソフトがあると思います。名門コースはそのソフト面を試されるのです。ルール&マナーにはじまり、服装、挨拶といった社交性&協調性があるかを問われます。名門クラブで腕前は二の次で、エクスクルーシブな世界で、どれだけの人格者であるかが求められます。名門コースのメンバーは、簡単にいえば社会の縮図ごっこを楽しんでいるのです。それはそれで、あくなき向上心がある方はお好きにどうぞ。
過去に傍若無人ぶりを披露して、倶楽部を除名になった芸能人は結構います。社会で成功したからといって、そのまま倶楽部で威張れるかというと、むしろ逆です。周りは成功者ばかりですから、ワガママに振る舞っていると、たしなめられるのです。
こちらは2度ほど、準名門クラスのメンバーで、マウントゲームを沢山見て来ており、卒業させていただきます。今はカジュアルなホームコースに通い、お呼ばれのコンペに参加しています。たまにつきあいで名門コースに行きますが、以前より大分減ったかな。名門はステーキディナーみたいなもの。頻繁に訪ねるのは経済的&精神的にヘビーです。たまにでよろしいのです。
60歳も過ぎ生涯1000ラウンドを越えているので、今はどんなコースでもいいから、気軽にラウンドを楽しみたい。そんな気分です。
■プロフィール■
木村和久
きむら・かずひさ/1959年生まれ、宮城県出身。世の中のトレンドを追求し、ゴルフや恋愛に関するコラムを多数執筆するほか、マンガ原作も手がける。隔週刊ゴルフ誌「ALBA」ほか、連載多数。
とがしやすたか
1959年生まれ。東京都出身。「青春くん」などで知られる4コマ漫画家。ゴルフ好きが高じて雑誌でラウンドレポートなども展開。
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