日本ツアーとアジアンツアーの共同主管大会、「アジアパシフィック ダイヤモンドカップ」は、初日から選手の苦悶の表情が目立った。大会の舞台は千葉県にある名門の総武カントリクラブ総武コース。これまでも公式戦などを開催。林間コースの最高峰といってもいいコースの仕上がりは素晴らしかった。
パーで上がってこの雄叫び!【写真】
アジアのトップ選手と日本のトップ選手が真っ向からぶつかり、白熱の展開が見られると思っていたが、いきなり様子が一変。「コースセッティングが難しい」とは多くの選手が練習日に話していたが、予選ラウンドになるとその難しさが一気にキバをむいた。
例えば9番。370ヤード台の短いパー4だが、フェアウェイからウェッジで打ったボールが止まらない。ラフから花道を転がし上げようとしても、グリーンを縦断し奥のバンカーへ。そこから下りのバンカーショットは寄るはずもなく、ダブルボギーが連発。そんなホールが9番だけではなかった。
「このフェアウェイ幅なら、もっとグリーンが止まるようにしないと…。全員同じ条件なのはわかっていますが、フェアウェイの真ん中から打って、手前のピン位置だとまったく寄らない。カーンと跳ねて奥のカラーギリギリに止まるのを見たら、プロのスゴさも伝わらない」とは、あるシード選手の話。ウェッジで打っても、バックスピンどころか跳ねて前に行って止まらない。そんな状況だからこそ、多くの選手が苦言を呈した。
コースが持つ難しさと、コースセッティングの難しさは別物だ。今回はコースのレイアウトがそもそも難しい上に、セットアップ(仕上げ)も最高に難しかった。ティショットでドライバーを握れば、フェアウェイのランディングエリア(落下地点)に止まる気がしない。「フェアウェイも硬いから、ラフまでいってしまう。いいショットが報われない」とは、アジアンツアーを主戦場にするある選手の言葉だ。
「アジアのコースはここまで整備が行き届いていない。日本のコースは本当にキレイだが、今回は難しいというより、どうやればいいのかわからない。コースは素晴らしいのに、苦しめるコースセットアップだった。」とは前出のアジアンツアーメンバー。最終的にアンダーパーがわずか5人。いかに選手を苦しめるセッティングだったかがわかる。
「コースの持つ素晴らしいポテンシャルを生かしてほしい。これでは、プロが下手に見えてしまう」とあるベテラン選手がこぼした言葉は言い訳でも何でもない。今季から欧州ツアーのメンバーとして活躍する川村昌弘は、「自分は叩いてしまって予選落ちしたけど」と前置きした上で、「テレビで見た人は、ピンに寄らないシーンを見て『これでは日本の選手が世界では通用しない』と思ってしまうかもしれないし、マイナス面が際立ってしまいます。最終ホールもラフに行ったら、セカンドは手前のバンカーか奥のラフにいって、ボギーで優勝争いが決まりそうです」と、スリリングな展開が生まれないことを例に挙げた。
最終日の最終ホール、優勝した浅地洋佑はまさにこの例で、ティショットをラフに打ち込み、そこからのセカンドは止まらずに奥のバンカーへ。ところが小技がさえ渡っていた浅地は2メートルに寄せて、パーセーブで初優勝をもぎ取ったが、川村のいうように、優勝争いの選手全員がボギーで、先に上がった選手に優勝が舞い込むなんていう結末も十分にあり得た。
それはそれでスリリングといえるかもしれないが、川村が臨むような「全ホールとはいいませんが、攻めさせる、スーパーショットを生み出すセッティングがあってもいい」という点では、今回のコースセッティングはかなり過酷であり、厳しさ満点の戦いだったといえる。「もちろん条件は一緒なので、これを攻略してパットが入った人が勝ちます」としたが、男子プロの技術、パワーを存分に見せる舞台だったのだろうか。
「難しさの質が海外とは違う」と遠慮しながらも本心を語ってくれたのは藤田寛之。かねてから、日本のコースの世界基準化を望むひとりだが、今回はあまりにもアンフェアなセッティングに、口を開いた。「選手も進化していますが、コースセッティングという点ではかなり遅れを取っていますし、変革期にきています」と、未来への変化を望む。
「これだけフェアウェイを狭くするのであれば、グリーンはある程度止まるようにしないといけない。正確性を求めることが大前提になってしまう」と藤田。「全米オープンでさえ変わってきて、フェアウェイ幅は広くなっています。よほど曲げればペナルティはありますが、攻めさせるセッティングをつくっています。フェアなセッティングにすることが選手の良さを引き立てると思います」。
飛距離が伸びているなか、コースセッティングも変えていくべきだと藤田はいう。「JGTOは変わってきていますが、それでも足りないと思います。例えば、コースセッティングを考えるとき、協会、選手、コース、コースといってもグリーンキーパーやコースを知り尽くしているクラブチャンピオンとかメンバーさん、そういういろんな人を交えてやっていけば、もっと良くなると思うんです」と、まだまだ最高の場をつくり上げる余地は残っていると力説する。
「とんでもないパー4があったりしてもいいんです。でも、とんでもないホールが理不尽な難しさであってはいけないんです」というのが藤田の言葉。15番ホールは500ヤードを超えるパー4。“とんでもなく”難しいパー4だったホールは、初日はアゲンストの風でバーディはゼロ。「セカンドで3番ウッドを持っても届かない…。完璧なショットを2回打てばバーディが獲れるようにするべきですよね」とは川村の見方だ。
フェアウェイを狭くしてグリーンを硬くすればスコアは出ない。そういう発想を変えていかなければ、選手の成長もない。海外メジャーやWGC出場経験が豊富な藤田だからこそ、今回のセッティングには疑問を感じる部分が多くあった。「フェアウェイ幅が30ヤードあったっていいんです。その代わり、グリーン回りにハザードをつくったり、別の面で難しさを表現できるようにすればいい」。
現地時間の16日に開幕する「全米プロゴルフ選手権」は7400ヤードを超える距離ながらパー70。狭いフェアウェイに加え砲台グリーンが多く、ハザードも効いている。世界最高峰を誇る難易度のコースを選手がどのように攻略するのか。攻めさせる設定で、ミスをすれば代償を払う。そんな世界基準のコースセッティングとトップ選手の攻略法を参考にすれば、世界基準の選手をつくり出すとしている日本ツアーの今後の方向性も見えてくる。(文・高桑均)
パーで上がってこの雄叫び!【写真】
アジアのトップ選手と日本のトップ選手が真っ向からぶつかり、白熱の展開が見られると思っていたが、いきなり様子が一変。「コースセッティングが難しい」とは多くの選手が練習日に話していたが、予選ラウンドになるとその難しさが一気にキバをむいた。
例えば9番。370ヤード台の短いパー4だが、フェアウェイからウェッジで打ったボールが止まらない。ラフから花道を転がし上げようとしても、グリーンを縦断し奥のバンカーへ。そこから下りのバンカーショットは寄るはずもなく、ダブルボギーが連発。そんなホールが9番だけではなかった。
「このフェアウェイ幅なら、もっとグリーンが止まるようにしないと…。全員同じ条件なのはわかっていますが、フェアウェイの真ん中から打って、手前のピン位置だとまったく寄らない。カーンと跳ねて奥のカラーギリギリに止まるのを見たら、プロのスゴさも伝わらない」とは、あるシード選手の話。ウェッジで打っても、バックスピンどころか跳ねて前に行って止まらない。そんな状況だからこそ、多くの選手が苦言を呈した。
コースが持つ難しさと、コースセッティングの難しさは別物だ。今回はコースのレイアウトがそもそも難しい上に、セットアップ(仕上げ)も最高に難しかった。ティショットでドライバーを握れば、フェアウェイのランディングエリア(落下地点)に止まる気がしない。「フェアウェイも硬いから、ラフまでいってしまう。いいショットが報われない」とは、アジアンツアーを主戦場にするある選手の言葉だ。
「アジアのコースはここまで整備が行き届いていない。日本のコースは本当にキレイだが、今回は難しいというより、どうやればいいのかわからない。コースは素晴らしいのに、苦しめるコースセットアップだった。」とは前出のアジアンツアーメンバー。最終的にアンダーパーがわずか5人。いかに選手を苦しめるセッティングだったかがわかる。
「コースの持つ素晴らしいポテンシャルを生かしてほしい。これでは、プロが下手に見えてしまう」とあるベテラン選手がこぼした言葉は言い訳でも何でもない。今季から欧州ツアーのメンバーとして活躍する川村昌弘は、「自分は叩いてしまって予選落ちしたけど」と前置きした上で、「テレビで見た人は、ピンに寄らないシーンを見て『これでは日本の選手が世界では通用しない』と思ってしまうかもしれないし、マイナス面が際立ってしまいます。最終ホールもラフに行ったら、セカンドは手前のバンカーか奥のラフにいって、ボギーで優勝争いが決まりそうです」と、スリリングな展開が生まれないことを例に挙げた。
最終日の最終ホール、優勝した浅地洋佑はまさにこの例で、ティショットをラフに打ち込み、そこからのセカンドは止まらずに奥のバンカーへ。ところが小技がさえ渡っていた浅地は2メートルに寄せて、パーセーブで初優勝をもぎ取ったが、川村のいうように、優勝争いの選手全員がボギーで、先に上がった選手に優勝が舞い込むなんていう結末も十分にあり得た。
それはそれでスリリングといえるかもしれないが、川村が臨むような「全ホールとはいいませんが、攻めさせる、スーパーショットを生み出すセッティングがあってもいい」という点では、今回のコースセッティングはかなり過酷であり、厳しさ満点の戦いだったといえる。「もちろん条件は一緒なので、これを攻略してパットが入った人が勝ちます」としたが、男子プロの技術、パワーを存分に見せる舞台だったのだろうか。
「難しさの質が海外とは違う」と遠慮しながらも本心を語ってくれたのは藤田寛之。かねてから、日本のコースの世界基準化を望むひとりだが、今回はあまりにもアンフェアなセッティングに、口を開いた。「選手も進化していますが、コースセッティングという点ではかなり遅れを取っていますし、変革期にきています」と、未来への変化を望む。
「これだけフェアウェイを狭くするのであれば、グリーンはある程度止まるようにしないといけない。正確性を求めることが大前提になってしまう」と藤田。「全米オープンでさえ変わってきて、フェアウェイ幅は広くなっています。よほど曲げればペナルティはありますが、攻めさせるセッティングをつくっています。フェアなセッティングにすることが選手の良さを引き立てると思います」。
飛距離が伸びているなか、コースセッティングも変えていくべきだと藤田はいう。「JGTOは変わってきていますが、それでも足りないと思います。例えば、コースセッティングを考えるとき、協会、選手、コース、コースといってもグリーンキーパーやコースを知り尽くしているクラブチャンピオンとかメンバーさん、そういういろんな人を交えてやっていけば、もっと良くなると思うんです」と、まだまだ最高の場をつくり上げる余地は残っていると力説する。
「とんでもないパー4があったりしてもいいんです。でも、とんでもないホールが理不尽な難しさであってはいけないんです」というのが藤田の言葉。15番ホールは500ヤードを超えるパー4。“とんでもなく”難しいパー4だったホールは、初日はアゲンストの風でバーディはゼロ。「セカンドで3番ウッドを持っても届かない…。完璧なショットを2回打てばバーディが獲れるようにするべきですよね」とは川村の見方だ。
フェアウェイを狭くしてグリーンを硬くすればスコアは出ない。そういう発想を変えていかなければ、選手の成長もない。海外メジャーやWGC出場経験が豊富な藤田だからこそ、今回のセッティングには疑問を感じる部分が多くあった。「フェアウェイ幅が30ヤードあったっていいんです。その代わり、グリーン回りにハザードをつくったり、別の面で難しさを表現できるようにすればいい」。
現地時間の16日に開幕する「全米プロゴルフ選手権」は7400ヤードを超える距離ながらパー70。狭いフェアウェイに加え砲台グリーンが多く、ハザードも効いている。世界最高峰を誇る難易度のコースを選手がどのように攻略するのか。攻めさせる設定で、ミスをすれば代償を払う。そんな世界基準のコースセッティングとトップ選手の攻略法を参考にすれば、世界基準の選手をつくり出すとしている日本ツアーの今後の方向性も見えてくる。(文・高桑均)