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    師匠・ジャンボのゲキと東へのライバル心で開幕戦大逆転V【名勝負ものがたり】

    歳月が流れても、語り継がれる戦いがある。役者や舞台、筋書きはもちろんのこと、芝や空の色、風の音に至るまでの鮮やかな記憶。かたずを飲んで見守る人の息づかいや、その後の喝采まで含めた名勝負の舞台裏が、関わった人の証言で、よみがえる。

    配信日時:2021年4月1日 23時00分

    • JGTO
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    第6回は金子柱憲が逆転優勝を果たした1996年のシーズン開幕戦、東建コーポレーションカップ。翌年のマスターズ出場への足掛かりをつかんだ戦いの裏にあった、師匠と仲間の影響とは―。

    「よーし、ここから4連続バーディなら、まだチューケンに追いつけるんだ!」

    祁答院ゴルフ倶楽部の15番ティで、ジャンボ尾崎がギャラリーに聞こえるように、こう叫んだ。

    ジャンボから「チューケン」と名指しされたのは、同じ組で回っていた金子柱憲。師と仰ぐジャンボとの直接対決となったこの日、そこまで6バーディ、ボギーなしの猛チャージを演じていた。首位につけられていた4打差を一気に詰め、首位を走るブラント・ジョーブに並びかけていた。

    1996年3月10日。鹿児島の空は、抜けるように青かった。球春の到来を告げるシーズン開幕戦の最終日。その年最初のチャンピオンを決める戦いが、まさにクライマックスへとさし掛かっていた。

    大きな声で放たれた、ジャンボのひとことを、金子はどう受け止めていたのか。「ああ、これからもうひと踏ん張りなんだ、と奮い立ちましたね。相手はジャンボですからね。本当に4つのバーディを取りそうな感じじゃないですか。まだまだ、これからだ、と頑張りました」。

    金子は10番からの3連続バーディもあり、絶好調なのは間違いなかった。それは開幕前までのシーズンオフ、自らに課した猛練習の賜物でもあった。

    「前の年、東(聡)が賞金ランク2位になってマスターズの招待状も来た。『ああ、東もマスターズに行っちゃうんだ、それに比べて俺は何やってるんだ』と…。東はこの時、本当にきれいなドローボールを打っていた。『俺もこのままじゃいけない』とオフは毎日練習を終わってから200回の素振りを連日やった」。

    金子にとって、東は特別な存在だった。日大の同級生で、プロ合格も同期。ジャンボ軍団の門を叩き、ジャンボ邸でともに合宿をしながら腕を磨いた、いわば永遠のライバル。その東が前年、金子もうらやむ美しい球筋の安定したショットを武器に、大きくジャンプアップしてジャンボに次ぐ賞金ランク2位に食い込んだ。

    14歳でゴルフを始め、17歳の高校生ながらジャンボと回った日本オープンで見事ローアマに。日大時代は関東学生で3連覇を果たし、4年時の82年には陳志忠ら強豪プロも出場していた韓国オープンを制覇。天才とも呼ばれ、172センチとさほど大きくないものの飛距離には定評のあった金子だが、ここに来て生まれた東との大きな差を、痛切に感じていた。

    「自分も持ち球はドローボールなんだけど、へたくそだから、嫌なホールに来ると、合わせてスライスを打っちゃうことが多かった。でも東は、いつもきれいなドローを打っていた」。

    このままではいけない。オフには奮起すべき材料がそろいすぎていた。そこで金子は必死にトレーニングをこなし、この開幕戦に臨んでいたのだ。

    その努力がいきなり実を結ぼうとしていた。だが上がり4ホールを残し、まだまだ予断を許さないのも確かだった。このタイミングでジャンボが檄をとばしてくれたことで、金子は再び気を引き締めることができたわけだ。

    集中してプレーを続けた上がり4ホールは15番パー、16番バーディ、17番ボギーのあと、最終ホールのパー5は第2打を2番アイアンでグリーンのカラーまで運ぶ。ここからのアプローチを1メートルにつけて1パットのバーディ。後続のジョーンズに2打差をつけてホールアウトした。

    一緒に回っていたジャンボはチャージ宣言もむなしく最終ホールもダブルボギー。最終日は75を叩きトータル3アンダーの19位に終わった。

    優勝の2文字が目前にぶら下がっている状態で、アテストを終えた金子に、ジャンボはスコア提出所でこんな一言を投げかける。

    「ジョーブは…。あいつイーグル取ってくるぞ」。さらにジャンボは被せるようにこう言った。「ほら、このイーグルパット、絶対決めるぞ」。

    それを聞いていた金子も、ジョーブが最終ホールで第2打をグリーンのカラーまで運んできたのを見てプレーオフの覚悟を決める。だがジョーブのイーグルパットは惜しくも外れた。この瞬間、ジャンボは「入れるわけねえだろ!」と笑いながら金子を祝福してくれたという。

    もし、金子が優勝を確信して集中力を切ってしまっていたら、果たしてどうなっていたか。

    ジョーブがイーグルを獲ってプレーオフに持ち込まれた場合、金子が再びいい精神状態で臨めていたかどうかは疑問が残る。それだけに金子はこうした発言も、師匠のきめ細かな気配りだったと受け取っている。

    「ジャンボはその後のパーティーにも最後まで残ってくれて、スピーチまでしてくれました。『ま、オレにとっては、今のところオープン戦の感じだけどね』とか冗談を言ってましたが、ホントにその後はすごかった。中日クラウンズ、日本プロ、三菱ギャラン、JCBクラシック 仙台、KBCオーガスタ、ジュンクラシック、ダンロップフェニックス、日本シリーズと8勝して賞金王。僕も夏ぐらいまで賞金トップにいたけど、あっという間に抜かれちゃった。最終的には1億近く離された」

    それでも金子はこの優勝のあとキリンオープン、ミズノオープンと3勝を挙げ、前年の東と同様賞金ランク2位。見事、翌年のマスターズにも招待された。師匠の檄とライバルの活躍。それが金子に開幕戦Vに始まる、生涯最高のシーズンをもたらした。(文・小川朗)
    第6回は金子柱憲が逆転優勝を果たした1996年のシーズン開幕戦、東建コーポレーションカップ。翌年のマスターズ出場への足掛かりをつかんだ戦いの裏にあった、師匠と仲間の影響とは―。

    「よーし、ここから4連続バーディなら、まだチューケンに追いつけるんだ!」

    祁答院ゴルフ倶楽部の15番ティで、ジャンボ尾崎がギャラリーに聞こえるように、こう叫んだ。

    ジャンボから「チューケン」と名指しされたのは、同じ組で回っていた金子柱憲。師と仰ぐジャンボとの直接対決となったこの日、そこまで6バーディ、ボギーなしの猛チャージを演じていた。首位につけられていた4打差を一気に詰め、首位を走るブラント・ジョーブに並びかけていた。

    1996年3月10日。鹿児島の空は、抜けるように青かった。球春の到来を告げるシーズン開幕戦の最終日。その年最初のチャンピオンを決める戦いが、まさにクライマックスへとさし掛かっていた。

    大きな声で放たれた、ジャンボのひとことを、金子はどう受け止めていたのか。「ああ、これからもうひと踏ん張りなんだ、と奮い立ちましたね。相手はジャンボですからね。本当に4つのバーディを取りそうな感じじゃないですか。まだまだ、これからだ、と頑張りました」。

    金子は10番からの3連続バーディもあり、絶好調なのは間違いなかった。それは開幕前までのシーズンオフ、自らに課した猛練習の賜物でもあった。

    「前の年、東(聡)が賞金ランク2位になってマスターズの招待状も来た。『ああ、東もマスターズに行っちゃうんだ、それに比べて俺は何やってるんだ』と…。東はこの時、本当にきれいなドローボールを打っていた。『俺もこのままじゃいけない』とオフは毎日練習を終わってから200回の素振りを連日やった」。

    金子にとって、東は特別な存在だった。日大の同級生で、プロ合格も同期。ジャンボ軍団の門を叩き、ジャンボ邸でともに合宿をしながら腕を磨いた、いわば永遠のライバル。その東が前年、金子もうらやむ美しい球筋の安定したショットを武器に、大きくジャンプアップしてジャンボに次ぐ賞金ランク2位に食い込んだ。

    14歳でゴルフを始め、17歳の高校生ながらジャンボと回った日本オープンで見事ローアマに。日大時代は関東学生で3連覇を果たし、4年時の82年には陳志忠ら強豪プロも出場していた韓国オープンを制覇。天才とも呼ばれ、172センチとさほど大きくないものの飛距離には定評のあった金子だが、ここに来て生まれた東との大きな差を、痛切に感じていた。

    「自分も持ち球はドローボールなんだけど、へたくそだから、嫌なホールに来ると、合わせてスライスを打っちゃうことが多かった。でも東は、いつもきれいなドローを打っていた」。

    このままではいけない。オフには奮起すべき材料がそろいすぎていた。そこで金子は必死にトレーニングをこなし、この開幕戦に臨んでいたのだ。

    その努力がいきなり実を結ぼうとしていた。だが上がり4ホールを残し、まだまだ予断を許さないのも確かだった。このタイミングでジャンボが檄をとばしてくれたことで、金子は再び気を引き締めることができたわけだ。

    集中してプレーを続けた上がり4ホールは15番パー、16番バーディ、17番ボギーのあと、最終ホールのパー5は第2打を2番アイアンでグリーンのカラーまで運ぶ。ここからのアプローチを1メートルにつけて1パットのバーディ。後続のジョーンズに2打差をつけてホールアウトした。

    一緒に回っていたジャンボはチャージ宣言もむなしく最終ホールもダブルボギー。最終日は75を叩きトータル3アンダーの19位に終わった。

    優勝の2文字が目前にぶら下がっている状態で、アテストを終えた金子に、ジャンボはスコア提出所でこんな一言を投げかける。

    「ジョーブは…。あいつイーグル取ってくるぞ」。さらにジャンボは被せるようにこう言った。「ほら、このイーグルパット、絶対決めるぞ」。

    それを聞いていた金子も、ジョーブが最終ホールで第2打をグリーンのカラーまで運んできたのを見てプレーオフの覚悟を決める。だがジョーブのイーグルパットは惜しくも外れた。この瞬間、ジャンボは「入れるわけねえだろ!」と笑いながら金子を祝福してくれたという。

    もし、金子が優勝を確信して集中力を切ってしまっていたら、果たしてどうなっていたか。

    ジョーブがイーグルを獲ってプレーオフに持ち込まれた場合、金子が再びいい精神状態で臨めていたかどうかは疑問が残る。それだけに金子はこうした発言も、師匠のきめ細かな気配りだったと受け取っている。

    「ジャンボはその後のパーティーにも最後まで残ってくれて、スピーチまでしてくれました。『ま、オレにとっては、今のところオープン戦の感じだけどね』とか冗談を言ってましたが、ホントにその後はすごかった。中日クラウンズ、日本プロ、三菱ギャラン、JCBクラシック 仙台、KBCオーガスタ、ジュンクラシック、ダンロップフェニックス、日本シリーズと8勝して賞金王。僕も夏ぐらいまで賞金トップにいたけど、あっという間に抜かれちゃった。最終的には1億近く離された」

    それでも金子はこの優勝のあとキリンオープン、ミズノオープンと3勝を挙げ、前年の東と同様賞金ランク2位。見事、翌年のマスターズにも招待された。師匠の檄とライバルの活躍。それが金子に開幕戦Vに始まる、生涯最高のシーズンをもたらした。(文・小川朗)
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