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    7打差逆転負けで放心状態 失意の中で迎えた29回目の誕生日【名勝負ものがたり】

    歳月が流れても、語り継がれる戦いがある。役者や舞台、筋書きはもちろんのこと、芝や空の色、風の音に至るまで鮮やかな記憶。かたずをのんで見守る人々の息づかいや、その後の喝采まで含めた名勝負の数々の舞台裏が、関わった人の証言で、よみがえる。

    配信日時:2021年9月21日 23時00分

    • JGTO
    前年にはワールドカップにも出場 飛ぶ鳥を落とす勢いだったが…(撮影:GettyImages)
    前年にはワールドカップにも出場 飛ぶ鳥を落とす勢いだったが…(撮影:GettyImages)
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    鈴木亨の大きな悔しさは、1995年日本プロゴルフ選手権にある。36ホールを終えて7打差単独首位に立ちながら、佐々木久行に大逆転では敗れたあの日…。シニアツアーで活躍する今も忘れられない“大魚を逃した"記憶とは…。

    「あまりにも2位との差が開きすぎて、どうやってプレーしたらいいかわからなくなっちゃったんです」。26年前の“敗因"を、鈴木が振り返る。

    93年ジュンクラシックで初優勝を飾り、94年日経カップで2勝目。95年もここまでに7試合でプレーしてトップ10が3回と調子は悪くない。前週のフジサンケイクラシックでも優勝争いのすえの6位。だが、乗り込んだ夏泊ゴルフリンクスには圧倒された。「初めてのコースですごいリンクス。風も強いし、どうなるのだろう」というのがファーストインプレッション。しかし、ふたを開けてみれば、初日から2イーグル、4バーディ、1ボギーの7アンダー65という最高のスタートだった。

    2日目も1イーグル、6バーディ、1ボギーで連日の65。トータル14アンダーで2位の高見和宏、伊澤利光に7打差単独首位という独走態勢だった。「すごいいいプレーができちゃったんです。調子はいいけど、若気の至り、というかなんというか、自分に確たるものがあったわけではなかった」。この大差が、逆に鈴木には災いした。

    「7打差もあれば『勝って当たり前』という空気になる。でも、本当にどうやってプレーすればわからなくなっちゃったんです」。当時の日本プロは、決勝ラウンドに入ると2サムでのプレーになり、最終組のスタート時間は12時前後。前日のホールアウトからの時間がひたすら長く感じられたという。「プレーに入ってしまえば何とかなるけど、スタートするまでが落ち着かない。そんな感じでした」と、3日目になって大ブレーキがかかる。

    バーディを1つも奪えず、ボギーが2つ。通算12アンダーにスコアを落とし、この日68で回った高見に1打差と迫られた。さらに1打遅れて水巻善典がおり、状況は前日と全く変わっていた。

    「プレー内容をほとんど覚えていないんです。なんかフワフワした感じ、というか、何から何まで全部の歯車が狂った感じと言えばいいですかね」という最終日。鈴木は9番ダブルボギーなど、前半で3つスコアを落とす。通算9アンダー。

    10番、11番の連続バーディで一度、息を吹き返したかに見えたが、この間に一気に優勝戦線に浮上したのが、前日まで7アンダー4位タイだった佐々木久行だ。

    フロントナインで2つのバーディを奪った佐々木は、10番パー5でイーグル奪取。11番もバーディとして通算12アンダーまでスコアを伸ばす。15番ではセカンドショットをカップに放り込むイーグルを奪い、16,17番も連続バーディとした。バックナインだけで「29」の猛攻で9つスコアを伸ばして通算16アンダーで大逆転優勝を飾った。

    佐々木の猛攻になす術もなく、鈴木は12番以降はスコアカード通りのゴルフ。「あとから録画で見ても、やっぱり自分のゴルフは思い出せない。佐々木さんの(15番のセカンド)ショットが入った映像は忘れられないけど」と、自分が自分でなかったような1日を過ごしたことを打ち明けた。

    大逆転を食らったすえに、高見にも及ばず3位で終わった日本プロ。2日目を終えて7打差首位にいただけにショックは大きかった。「終わった瞬間はもう、放心状態でしたね。このままじゃ眠れないから、といってミズノの担当の方と街に飲みに行ったのを覚えています」。これが正直な心境だった。

    実は、日大ゴルフ部の後輩でもある京子夫人が、最終日には岐阜から応援に駆け付けていた。周囲に「応援に行け」と言われてのことだったが、実は夫の性格をよく知る夫人は「勝てる気がしなかった」と、のちに打ち明けているという。「今もその話がうちでは出ますけど、実は僕、性格が弱いんですよ。それを妻に支えられてやってきてるところがあって。あの後は2〜3試合敗者の気分を引きずっていました」。鈴木にとって、それほど大きな敗北だった。

    学生時代に日本アマで優勝している鈴木だが、その後、シニアの今日に至るまで“日本"タイトルとは縁がない。「勝つチャンスというのはそれほど巡ってこない。勝てる時に勝っとかないと…。勝利数とは別にやはり“メジャー"で勝つ人は何か違うんじゃないか、って思っちゃいますよね」。手が届きそうだった“日本"タイトルを逃した1995年5月。最終日からちょうど2週間目の29歳の誕生日は失意の中で迎えることになった。

    これが響いて、1995年は1勝もできずに終わった鈴木だが、翌96年から6勝を重ねて通算8勝。息の長いプレーヤーとなったのも、この敗北が糧になったのは間違いないはずだ。(文・小川淳子)
    鈴木亨の大きな悔しさは、1995年日本プロゴルフ選手権にある。36ホールを終えて7打差単独首位に立ちながら、佐々木久行に大逆転では敗れたあの日…。シニアツアーで活躍する今も忘れられない“大魚を逃した"記憶とは…。

    「あまりにも2位との差が開きすぎて、どうやってプレーしたらいいかわからなくなっちゃったんです」。26年前の“敗因"を、鈴木が振り返る。

    93年ジュンクラシックで初優勝を飾り、94年日経カップで2勝目。95年もここまでに7試合でプレーしてトップ10が3回と調子は悪くない。前週のフジサンケイクラシックでも優勝争いのすえの6位。だが、乗り込んだ夏泊ゴルフリンクスには圧倒された。「初めてのコースですごいリンクス。風も強いし、どうなるのだろう」というのがファーストインプレッション。しかし、ふたを開けてみれば、初日から2イーグル、4バーディ、1ボギーの7アンダー65という最高のスタートだった。

    2日目も1イーグル、6バーディ、1ボギーで連日の65。トータル14アンダーで2位の高見和宏、伊澤利光に7打差単独首位という独走態勢だった。「すごいいいプレーができちゃったんです。調子はいいけど、若気の至り、というかなんというか、自分に確たるものがあったわけではなかった」。この大差が、逆に鈴木には災いした。

    「7打差もあれば『勝って当たり前』という空気になる。でも、本当にどうやってプレーすればわからなくなっちゃったんです」。当時の日本プロは、決勝ラウンドに入ると2サムでのプレーになり、最終組のスタート時間は12時前後。前日のホールアウトからの時間がひたすら長く感じられたという。「プレーに入ってしまえば何とかなるけど、スタートするまでが落ち着かない。そんな感じでした」と、3日目になって大ブレーキがかかる。

    バーディを1つも奪えず、ボギーが2つ。通算12アンダーにスコアを落とし、この日68で回った高見に1打差と迫られた。さらに1打遅れて水巻善典がおり、状況は前日と全く変わっていた。

    「プレー内容をほとんど覚えていないんです。なんかフワフワした感じ、というか、何から何まで全部の歯車が狂った感じと言えばいいですかね」という最終日。鈴木は9番ダブルボギーなど、前半で3つスコアを落とす。通算9アンダー。

    10番、11番の連続バーディで一度、息を吹き返したかに見えたが、この間に一気に優勝戦線に浮上したのが、前日まで7アンダー4位タイだった佐々木久行だ。

    フロントナインで2つのバーディを奪った佐々木は、10番パー5でイーグル奪取。11番もバーディとして通算12アンダーまでスコアを伸ばす。15番ではセカンドショットをカップに放り込むイーグルを奪い、16,17番も連続バーディとした。バックナインだけで「29」の猛攻で9つスコアを伸ばして通算16アンダーで大逆転優勝を飾った。

    佐々木の猛攻になす術もなく、鈴木は12番以降はスコアカード通りのゴルフ。「あとから録画で見ても、やっぱり自分のゴルフは思い出せない。佐々木さんの(15番のセカンド)ショットが入った映像は忘れられないけど」と、自分が自分でなかったような1日を過ごしたことを打ち明けた。

    大逆転を食らったすえに、高見にも及ばず3位で終わった日本プロ。2日目を終えて7打差首位にいただけにショックは大きかった。「終わった瞬間はもう、放心状態でしたね。このままじゃ眠れないから、といってミズノの担当の方と街に飲みに行ったのを覚えています」。これが正直な心境だった。

    実は、日大ゴルフ部の後輩でもある京子夫人が、最終日には岐阜から応援に駆け付けていた。周囲に「応援に行け」と言われてのことだったが、実は夫の性格をよく知る夫人は「勝てる気がしなかった」と、のちに打ち明けているという。「今もその話がうちでは出ますけど、実は僕、性格が弱いんですよ。それを妻に支えられてやってきてるところがあって。あの後は2〜3試合敗者の気分を引きずっていました」。鈴木にとって、それほど大きな敗北だった。

    学生時代に日本アマで優勝している鈴木だが、その後、シニアの今日に至るまで“日本"タイトルとは縁がない。「勝つチャンスというのはそれほど巡ってこない。勝てる時に勝っとかないと…。勝利数とは別にやはり“メジャー"で勝つ人は何か違うんじゃないか、って思っちゃいますよね」。手が届きそうだった“日本"タイトルを逃した1995年5月。最終日からちょうど2週間目の29歳の誕生日は失意の中で迎えることになった。

    これが響いて、1995年は1勝もできずに終わった鈴木だが、翌96年から6勝を重ねて通算8勝。息の長いプレーヤーとなったのも、この敗北が糧になったのは間違いないはずだ。(文・小川淳子)
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